エロRPG世界のED男とドスケベボディ女勇者 作:社畜だったきなこ餅
「そしてよくぞ来てくれました狩人様、いえ……イレギュラー、それとも観測者とでも言うべきでしょうか?」
世界の主神である唯一神を奉る神殿の最奥の空間。
その空間には、聖女と呼ばれる乙女と魔王を倒す使命を帯びた勇者、そしてこの場に聊か不釣り合いに見えるフードを目深く被った狩人の青年が立っていた。
聖女は歌う様に囁くように、聞くものを魅了する声音を持って狩人の青年へ問いかける。
自身と同じ世界の理を知る側の人間として。
一方で声をかけられた青年は聖女の問い掛けに応じる事をせず、共にこの空間へ足を踏み入れた勇者にここから逃げるよう声をかけようとそちらへ視線を向ける。
しかし、青年の思惑とは裏腹に勇者の少女はまるで彫刻のように固まっていた。
「慌てなくても大丈夫ですよ、今動けるのは私と貴方だけですから」
「これも、神の御力の賜物ってやつか?」
「流石観測者ですね、すぐに気付かれましたか」
聖女……否、神の端末の言葉に狩人は人知を超えた力を以て自分達以外の時間が停止している事を理解する。
それと共に狩人は腹を括り、状況を打破するために思考を巡らせようとするも……この場において有効な手立てが何も思い浮かばず舌打ちをした。
「しかし観測者であればあるほど理解できません、この世界は愛欲に満ちた世界ですのに。何故男性機能が……?」
「愛欲、愛欲ねぇ……言い得て妙だ」
端末の姿を通して語られる神の言葉に、狩人はフードの奥に見える光を喪った瞳を見開き……一拍置いて笑いを堪えきれないのか肩を揺らし、くつくつと笑い始める。
その様子はまるで抑えきれない攻撃性を笑顔として発露する、獰猛な肉食獣が如き空気を纏っていた。
(ああそうだ、あの糞ハゲ村長だって愛情も欲望もあったろうよ)
狩人は思い出すのも忌々しい、自分自身の立場を盾に恋人だった幼馴染に関係を迫り弄んだ前村長を思い出す。
かつて狩人が愛し将来を誓い合っていた少女は、片田舎にいるのが場違いであるほど愛らしくて美しく心優しい乙女だった。
しかしその美貌と優しい心の少女を、村の年若い乙女や人妻に対して欲望のまま手を出していた前村長がむざむざ見過ごすわけも無かった。
狩人の恋人の少女は言い寄られても尚村長の要求を拒否し続けていたが、その事に対し腹を立てて業を煮やした村長は強硬手段に出る。
抵抗を続ける恋人に対し、狩人の村内での立場を引き合いに出した上媚薬まで用いた。
その結果狩人の恋人は、他者の判別が曖昧になる状態まで弄び尽くされ偽りの愛を村長へ囁くほどに心を壊されてしまった。
狩人は自身の憎悪と私怨で他人を害したこと、ソレも山奥に引きずり込み両足の健を切って生きたまま野生動物に貪り食わせるという残酷な手法を取った事を何一つ後悔していない。
しかし、殺害を決行した前村長の最後の言葉が命乞いでも謝罪の言葉でもなく……村長の一人息子の命だけは助けてほしいという懇願、それが鋭い鏃となって狩人の心を苛んでいた。
人の心がない欲望に支配されただけの人間であっても、愛を示す事が出来るというある意味において当然の事象。
だが頑なに凝り固まった狩人の心はその事実を認められなかったのだ。
「そう……なるほど、貴方は愛を奪われ裏切られ。それでも目の前で愛を示されて道を見失ったのですね」
「……神様と言えど矮小な人間の心の中を見透かすのはマナー違反だと思うのですがねえ?」
「そうもいきません、私にとっては貴方もまた愛すべき子であり……加護を授けている勇者が愛を寄せる人なのですから」
狩人は端末を通して語られる神の言葉に苛立ちを隠そうとせず、フードを乱暴に下ろして正面から聖女の皮を被った神を睨みつける。
皮肉な事に普段碌に動かない狩人の表情は今、隠しきれないほどの憎悪と嫌悪に満ち歪み切っていた。
しかし端末は狩人の憎悪と嫌悪を一身に受けても揺るぐ様子はなく、むしろ癇癪を起した幼子を見詰めるかのような慈愛の笑みまで浮かべていた。
「そうかい、んで、神様とやらは俺に何をお望みで?」
「貴方の男性機能を私の力で治します、後は勇者と交わり合い愛し合ってほしいのです」
「ほーう、なるほどねぇ、なるほどねぇ」
超然とした笑みを浮かべたまま告げられる言葉に対し、狩人は予想していたのかそれほど衝撃を受けた様子はなく。
ただ心の底から愉快そうに、喉を鳴らして笑い続ける。
ただただ無心に、笑い続けやがてその笑みは哄笑と変わり静寂に満ちた筈の空間を満たすほどの哄笑へと変わった。
何故そんなにもおかしいのか理解できない端末が困惑したかのように、笑みを浮かべたまま首を傾げる中唐突にぴたりと狩人は哄笑を止めてゆっくりと口を開く。
「今ハッキリとわかったよ」
狩人は深淵の虚無のような瞳を端末へ向けるとゆっくりと歩み寄る。
「アンタにとって愛は性行為の為の手段であり目的でしかない」
「愛とは性愛であり体の交合であり、子を為す為のモノですよ?」
「そうだ、アンタにとって愛はソレだけの存在でしかない」
狩人は見下ろす形になった、聖女の形をした端末の細い首を両手で掴み締め始める。
「アンタにとって、これも愛か?」
「ええ、そう言う性行為を楽しむ子や魔物も多いですから」
「……そうか」
首を絞められるという異常な状況でありながらも、
後一歩で端末の細い首をへし折れる、といったところで狩人は端末の首から両手を放す。
「?もう満足したのですか?」
「……あんたは、本当にソレしか知らないんだな」
狩人は今も苛立ちや嫌悪を帯びつつも、それ以上の憐憫が籠った声を漏らす。
青年は理解してしまった、目の前にいる存在が文字通りの性愛の神であり……それ以外を何も知りえない事に。
「アンタは愛故に肯定する事しか知らない、愛が子を為す行為に繋がるから子を為す行為は愛があるからやるものだって思っている」
「だってその通りでしょう? 愛があるから人も魔物も地に満ちるのですから」
「違う、違うんだ」
余りにも幼稚すぎる、情緒が幼すぎる女神の姿に狩人はただ遣る瀬無さそうに首を横に振る。
心が読めて万物を見通せるが、同時に幼稚すぎる情緒が故に女神は残酷なまでに公平であり不公平であった。
「何故貴方は私を哀れむのですか?」
そして端末の向こうにいる女神は、先ほどまで憎悪と嫌悪を向けていた狩人が何故神たる自分を哀れんでいるのか理解できない。
しかし、苛立ちも怒りも感じることは無い、何故なら彼女は愛の女神なのだから。
「なぁアンタ、友達と呼べるものはいるか? 勇者の旅路を演出する魔王は友人か?」
「いいえ……いませんね、魔王もあくまで協力者と言う関係です」
「そうか。ならばアンタに寄り添う存在はいたか?」
「それもいませんね」
この世界の創世神話までは網羅していない狩人は、確認事項として端末へ問い掛ければ女神の端末は首を横に振る。
狩人はこの世界に対して特に愛着も無ければ未練も無かった、しかし同時に。
狩人は軽く視線を動かした先にいる呆け顔のまま固まっている勇者を見る。
救いようがない女神と魔王のマッチポンプに巻き込まれるという過酷な運命であり、その美貌と体付きから苦労してきたのは間違いないのに。
それでも善性を喪わず勇者として邁進し続けている少女を見捨てるという選択が取れるほど薄情者でもなかった。
「アンタの提案に乗ってやる、しかし三つほど条件がある」
「何故ですか?私の力を使えばそのような事必要ありませんのに」
「もしそんなことをしたら俺の愛は永遠に勇者に向くことは無いぞ」
嘆息と共に腹を括った狩人は女神の嘆願に条件を持ち掛ける。
持ちかけられた内容に女神は僅かに不満そうな反応を見せるが、狩人がすかさず放った言葉に小さく良いでしょうと呟いて頷いた。
その反応を確認してから狩人は口を開く。
「一つ目、勇者様とそう言う関係に進むのは魔王を討伐してから。二つ目は人の営みや常道を学べ」
「なるほど、ええ承知しました。三つ目は?」
「三つ目だが……」
狩人が切り出した言葉に女神の端末は、想定外だと言わんばかりの反応を示すが最終的にその提案を承知した。
静謐な空気が満ちた神殿の最奥、勇者の少女は同行者である狩人にとても意味深な事を告げた聖女に対して不思議そうな顔を向ける。
「あのー聖女さん、イレギュラーとか観測者とか……どう言う事です?」
「あら? うふふ、ごめんなさい。前に読んだ御本に乗っていた単語だからつい意味深に言ってしまいたくなりました」
勇者の言葉に聖女はあらあらうふふ、と下手くそが誤魔化すような物言いで言葉を返す。
そんな内容で誤魔化せるのは子供か世間知らずくらいだろうが、残念な事に勇者は見事なまでに誤魔化された。
何故なら、続いてとんでもない予想外の言葉が聖女から飛び出したのだ。
「今回の魔王討伐の旅路、微力ながら御力添えさせてください」
「え?それって……聖女さんも仲間になる感じって事ですか?」
「ええ、治療や魔法はお任せください」
聖女の言葉に勇者は頼もしい仲間が増えたと大はしゃぎで喜び、聖女の手を取って握手のつもりか勢いよく上下にぶんぶんと振っている。
一方で狩人は本当にこれでよかったのかと言わんばかりに頭を抱えているが、なるようにしかならんと腹を括った感じの微妙な表情を浮かべていた。
「それに、狩人様にも色々教えてもらいたいですから」
「え゛?」
意味深に頬を赤らめ俯く聖女の様子に勇者は固まり、油が切れた人形のようなさび付いた動きで顔を狩人へ向ける。
狩人はそっと、気まずそうに目を背けた。
その後色々質問攻めやら何やらがあったが最終的に聖女が仲間になる事が決定。
なお、宿屋で不貞寝していた忍者が後でその事を聞かされた際は白目を剥いて二度寝に入ったそうな。
歪極まりない世界で結成された歪極まりない勇者パーティ。
しかしある意味において、ここからが本当の旅の始まりなのかもしれない。
本話を持ちまして、尻切れトンボかもしれませんがこの物語は幕引きとなります。
大体描きたいことは書き切ったので作者は大満足です。
(追記)
なんか展開浮かんだのでほんのもうちょっと続くんじゃよ。
でも流石に毎日更新はきついんじゃよ。