元Sランク冒険者、弟子を取る〜引退後の生活は、おしかけ弟子のせいで滅茶苦茶です〜   作:サラダよりは肉が好き

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化け物同士の激突。


第11話 元Sランク冒険者VS“金色鬼”レジェンダリーオーガ

 足が、震える。

 

「ォオオオオ……」

 

 見ただけで、理解しました。……あの金色のオーガは、格が違います。戦えば死ぬ。それが肌で感じられます。

 私たちよりもランクが高い冒険者が赤子のように吹き飛ばされていきます。

 ……怖い。死の恐怖がすぐそこまで迫っている。かつて、オークに殺されかけた時のことを思い出して、身体が動かなくなりそうです……。

 それでも、私は止まれない。こんな時、師匠なら止まらない!

 

「……けど、このままじゃ」

 

「そう……ねっ!」

 

 サリーナちゃんが、ファイアボールやストームを活かしてオーガを吹き飛ばしていきます。

 ……ですが、オーガたち怯むことなく迫ってきます。

 

「ゴガアアアアアア!!!」

 

 あの金色のオーガが現れてからです。恐れも何もかも捨てて、私たちを殺そうしてくるのです。

 ……こちらで言う、ミランダ様が、あの金色のオーガなのでしょうか。

 

「……ォォオ」

 

 ……金色のオーガが、こちらを見ます。

 ……例え、なにも出来なくたって。それでも、それでも!

 

「……来い!私が!」

 

「私たちが、相手よ……!」

 

 心は、屈しない!

 

「一旦引っ込め」

 

 ……黒い何かが、視界の端をかすめていきます。目に自信がある私でも反応できない速度です。

 その黒い何かは、黒いローブを羽織った男性でした。そして、私は彼が誰だかを知っています。

 

「師匠……!」

 

「じゃ、オーガとブラッドオーガは任せたぞ」

 

 金色のオーガの前に立つと……師匠とオーガの足元に、魔法陣が展開されました。……あれは一体?

 

「アレは……先生の転送魔法陣!」

 

「じゃあな。適当にやっといてくれ」

 

 魔法陣が光り輝いたかと思うと、師匠と金色のオーガは、消えていきました。

 

「金色のオーガは消し去った!今のうちに畳みかけよ!」

 

「「「うおおおおお!!!」」」

 

 冒険者さんたちの士気が戻っていきました。

 ……そして、私の士気も。

 

「師匠が、初めて私に任せるって言ってくれたんです」

 

 ……今なら、なんだってできる。

 

「良くわからないけど……先生が言うなら間違いないわね!」

 

 そして、ひとりじゃない!

 師匠、こちらはお任せ下さい!

 

 

 オーガたちと戦闘を繰り広げていた平原から、北東10キロ地点。なにもない盆地に、突如として魔法陣が展開された。

 

「何が、事情があって〜だよミランダのやつ……全然魔力残ってるじゃねぇか」

 

「ォオオ……?」

 

 そこから現れたのは、黒いローブを纏った男、元Sランク冒険者のテツロウ。

 そして、Sランク魔物“金色鬼”レジェンダリーオーガだ。

 レジェンダリーオーガは、不思議そうに周囲を見渡した。先程まで居た“有象無象”共がいない。景色も見慣れないものに変化している。

 眼の前にいるのは、黒い布を纏った何か。

 

「あー……面倒だなぁ……まぁ、たまにちゃんと戦わないと勘も鈍るし割り切るか。別にアイツらのためではないな。うん」

 

 何かブツブツと言っているソレは、布を投げ捨てる。

 

「……ォォオオ。オォォオオオ……!」

 

 現れたのは、男だ。レジェンダリーオーガから見れば小柄なソレは……あまりも、強い気配を放っていた。

 鍛え上げられた肉体、絶対的強者である自身……レジェンダリーオーガを眼の前にして怯えを感じさせない振る舞い。

 レジェンダリーオーガは歓喜した。“創られてから2週間”。生まれながらにして強者であり、同族の有象無象はおろか、他種族でも相手にならなかった。

 それがどうだ!眼の前のソレはまるで自分に興味がないかのようだ!初めての経験だった。ソレならば、いや、コイツならば自分を楽しませてくれるかもしれない。

 

「つーかさ、あっちから飛んできたよなお前。……まさか俺の家に手とか出してないよな?1ヶ月くらい前のブラッドオーガも、なんか俺のとこ来たし……」

 

 テツロウの質問に答えることなく、レジェンダリーオーガは嗤う。口角を上げ、親しい友人に挨拶をしたかのように。

 

「ォォオオオ!」

 

 次の瞬間、レジェンダリーオーガの姿が消える。正確には、消えたのではない。超高速で移動し、テツロウに殴りかかったのだ。

 既に拳は、テツロウの眼前に迫る。

 しかし、それは直撃することはない。

 

「……流石に喰らいたくはないな」

 

 テツロウは、拳を右腕で掃うように受け流した。行き場を失った拳は凄まじい拳圧で暴風を生み出す。

 轟ッ!と凄まじい音と共に、周囲に落ちている小石や木の枝は吹き飛んだ。直撃すればひとたまりもないだろう。

 

「ォォ、オオオオオオ!!!」

 

 レジェンダリーオーガは再び歓喜した。自分の目に狂いはなかった。コイツは、自分が欲してやまない最高の“おもちゃ”だ!

 テツロウも理解した。舐めてかかれる相手ではない。Sランクに恥じぬ力をレジェンダリーオーガは持っている。

 

「……まぁこいつに聞いても無駄か」

 

「ォォォォオオオオオオ!」

 

 挨拶が終わり、戦闘が始まった。

 レジェンダリーオーガは、その拳を、蹴りを、全力でテツロウに振るう。

 1つ振るう度に大気が震え、1つ受け流す度に地面が割れる。

 誰かが言った。Sランク魔物は“災害”だと。この戦闘を見れば、誰もが理解するだろう。

 轟音が鳴り続ける。これが1人と1匹が戦闘をしていることが原因だと、誰が思うだろうか。冒険者であっても、ここまでの戦闘に遭遇する機会はない。

 

「……」

 

「ォォォォォオオオオオオオ!!!」

 

 戦闘は続く。レジェンダリーオーガが放つ攻撃を、テツロウは受け流し続けた。

 レジェンダリーオーガは身体能力に優れた魔物だ。そしてその身体能力は、膨大な魔力によって底上げされる。

 レジェンダリーオーガにまともな魔法は使えない。使えるのは、身体能力強化の魔法のみ。

 故に強力。技術もなにもあったものではなく、力で圧倒する。それができれば世話がないという理想形。故に、レジェンド。

 レジェンダリーオーガは歓喜した。生まれて初めて振るう全力は、爽快だ。気持ちが良い!

 この快感を永遠に味わっていたい!だから壊れてくれるな!先程見た脆弱な人間どものように、雑魚にすら苦戦する弱者ではないだろう!?

 もっと、もっと自分にこの快感を感じさせてくれ!

 戦場は、既にその余波で荒れ果てていた。地面はひび割れ、削れていない箇所を探すほうが難しい。

 ……テツロウは、受け流し続ける。受け流すということは、ダメージをゼロにすることではない。少しずつ、腕に蓄積されていく。

 

「ォォォォオオオオオオ!」

 

 レジェンダリーオーガは止まらない。その圧倒的な暴力を振るい続ける。その口は、歓喜によって口角が上がりっぱなしだ。

 そして、渾身の拳がテツロウの顔面に叩き込まれようとした、その時。

 ゴッ!と鈍い音が響いた。そして、突如、レジェンダリーオーガを襲う、“自身の顔面への痛み”!

 気がつけば、レジェンダリーオーガの視界には、橙色に染まった空があった。

 

「……大体わかった。お前、“生まれたて”だな?」

 

「ォォォォ?オォォォォ……!」

 

 何が起こったのか?それは至極単純。テツロウの顔面に拳が直撃する前に、テツロウが“レジェンダリーオーガが反応できない速度で”、レジェンダリーオーガの顔面に拳でカウンターを喰らわせた。結果、レジェンダリーオーガは吹き飛ばされ仰向けに倒れたというわけだ。

 

「おかしいとは思ったんだよ。俺が知ってるレジェンダリーオーガは、もっと強いしな」

 

「ォォォォオオオ……」

 

「しばらく攻撃を受けて確信した。……どうして生まれたてがここに居るのかとか、まぁ色々気になることはあるんだが」

 

 レジェンダリーオーガは立ち上がり、すぐにテツロウに飛びかかる。常人ならば、反応すらできないその速度に、

 

「遅ぇよ」

 

「ォォオオオオオオオ!?」

 

 テツロウは難なく対応する。金属以上の硬さを持つレジェンダリーオーガの腹に、拳が突き刺さっていた。

 

「お前に暴れられるのも面倒だ。……終わらせるぞ」

 

「ォオオオ!?」

 

 誰かが言った。Sランク魔物は災害であると。

 そして、Sランク冒険者は、それを叩き伏せる“化物”であると。

 腹の底から響くような鈍い音が、戦場に響き続ける。

 テツロウの拳が、蹴りが、レジェンダリーオーガに突き刺さり続けた。

 

「立場逆転だなぁ!」

 

「ォオオオ!?オオオォォォ!!!!!」

 

 レジェンダリーオーガも、無抵抗ではない。自分は殴りたいのだ。殴らせたいわけではない!そう思い、拳を再びテツロウに振るうも……動き出す前に、テツロウの拳が既に突き刺さっている。

 テツロウは、レジェンダリーオーガの動きを完璧に予測していた。相手が行動を起こす前に潰す。

 テツロウの弟子、ミャゲルは優れた観察眼を使い相手の癖を読み取り戦うが、テツロウのソレは次元が違う。

 圧倒的な戦闘経験に裏打ちされた戦闘の勘。そして、たゆまぬ鍛錬で身につけた身体能力と、技術。

 奇しくも、テツロウとミャゲルは似たタイプであり、師弟の相性は悪くない。

 

「ォオオオ!?オオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 レジェンダリーオーガは、初めての感覚に襲われる。もう殴られたくない、痛い思いはしたくない。逃げたい。その感覚、感情の名は――――――恐怖。

 どこに攻撃を受けている?レジェンダリーオーガは強者であるが故に、それを正確に感じ取ってしまう。

 

 腹、右胸、左脚、右肩、頭、右頬、左腕、右脚、頭左頬腹左胸右肩右胸右脚左脚首脇腹右胸左胸腹――――――!

 

「――――――あばよ」

 

「ッ!ォォオオオオオオオオ!!!!!」

 

 その言葉の意味は、レジェンダリーオーガには理解できなかった。眼の前のコイツを、ぶち殺してやる!恐怖が麻痺し、怒りで支配された状態で放たれるは、レジェンダリーオーガ、今日一番の渾身の一撃。

 しかし、それが届くことはない。

 戦場に、轟ッ!と、拳が大気を震わせる音が響く。同時に、殴打よる鈍い音と、グシャっとなにかが潰れる音が混じる。

 

「……お前は強かったよ。だが――――――相手が悪かったな」 

 

 レジェンダリーオーガの頭が、テツロウの拳によって文字通り吹き飛ばされていた。

 数年前のマスターアーツ全盛期、冒険者たちの間で噂されていた。Sランク冒険者で最強は誰か?

 そして1つの説が浮上する。対戦相手を、人か人型の魔物に限るならば!

 最強は恐らく、拳王テツロウであると!

 




今宵は、拳の王の勝ち。
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