元Sランク冒険者、弟子を取る〜引退後の生活は、おしかけ弟子のせいで滅茶苦茶です〜 作:サラダよりは肉が好き
「はぁ……はぁ……」
「もう、少し……!」
師匠と金色のオーガが消えてから、私たちは勢いを取り戻したオーガを倒すべく奮闘していました。
ミランダ様がブラッドオーガを抑えてくれているおかげで、なんとかオーガの相手に集中できています。
全力の戦闘を始めてから、1時間は経過しています。師匠との特訓が無かったら、とっくに死んでいたかもしれません。
私とサリーナちゃんの冒険者ランクはD。オーガはC。数もあちらが上です。格上との戦闘は決して楽なものではなく、それ故に体力の消耗も激しいものでした。
ですが、この戦いもあと少しで終わります。残りのオーガは、10体!
「サリーナちゃん!」
「えぇ、ミャゲル!」
この戦闘の中で、サリーナちゃんともコンビネーションが取れてきました。
「行くわよ……ファイアボール!」
サリーナちゃんが、ファイアボールでオーガの視界を奪います。動きが鈍っている間に!
「魔力を武器に……!やぁあああああ!」
「ゴガア!?」
師匠に教えてもらった、魔力を武器に纏わせて強化する技でオーガの首を斬ります。これで、あと9体!
「もうひと踏ん張りだお前ら!畳みかけろ!」
「うおおおおお!!!」
他の冒険者さんたちも、オーガに応戦しています。この様子なら、何とかなりそうです。
……気がかりなのは、師匠のことです。負けることはないと思います。元Sランクの実力は健在でしたし、なにより師匠を信じていますから。
でも、それでもあの強そうな魔物に1人で立ち向かうなんて……心配するな、という方が無茶です。
「グルアアアア!!!」
「これで、最後ッ!ファイアボールッ!」
最後の1匹がサリーナちゃんの手によって倒され、何とか、ミランダ様や私、サリーナちゃんや冒険者さんたちが奮闘したおかげでオーガたちは全て倒すことができました。
数では圧倒的に不利でしたが、やはりミランダ様が居たことが大きかったと思います。
「おわ……った」
「勝ったぞ……俺達、勝ったんだ!」
「“魔法妃”万歳!おかげで何とかなったぞ!」
みんなが思い思いに歓声を上げます。ですが、私はサリーナちゃんと一緒にミランダ様のところへと行きます。
金色のオーガと師匠が消えた時、魔法陣が見えました。きっとミランダ様が何かをしたのでしょう。
「ミランダ先生!あの魔法は一体……!」
「ミランダ様!師匠は……!」
「落ち着けお前たち。……テツロウは、レジェンダリーオーガ……あの金色のオーガと一緒に人気のないところに飛ばした。テツロウがそう望んだからのう」
「……師匠が?」
人と関わることを、口では嫌っていた師匠が……やっぱり、師匠は私が憧れていた時のままです。普段はあんな感じでものぐさだけど、本当に困っている人が居る時は見逃せない。
「あやつなら死ぬことはないじゃろう。少し様子を見て見るか……む、決着はついていたようじゃな。なら少し巻き戻してと……」
ミランダ様が、指をパチンと鳴らします。すると、鏡のようなものが現れました。
鏡には……師匠があの金色のオーガと戦っているところが映し出されています。
「よいかサリーナ。そして特にミャゲルよ。これが……Sランクの戦闘じゃ」
……そこで見たのは、師匠の戦う姿でした。正直、何をしていたか全てを目で追えたわけじゃありません。理解ができたかも怪しいです。
次元が違いすぎる。これが、私の師匠……拳王テツロウ様の真の実力……!
「……強い」
「……えぇ、本当に」
「テツロウめ、少し鈍ったか?……まぁよい。この様子なら弱くなっているということはなさそうじゃな」
これで鈍っているんですか……!?……私が目指す道は、険しく果てがないものになりそうです……。
「さて、そろそろオーガの死体を処理せねばな。テツロウは……まぁそのうち帰ってくるじゃろ」
「「はい!」」
……今回、オーガには対抗できたけど、ブラッドオーガはともかくとして、あの金色のオーガとはまともに戦うことすらできなさそうでした。
正直、悔しいです。……強くなりたい。師匠たちのように。そうすれば、あの日の師匠のように誰かを救えるかもしれないから!
☆
オーガたちは討伐され、レジェンダリーオーガは俺が倒した……が、手柄はミランダにくれてやった。
俺は冒険者は引退しているし、もちろん目立ちたくなかったからだ。ひとまず、俺の平穏な生活は護られたと言っていいだろう。
ひと段落したし、これでミランダやサリーナともおさらばだな!あいつら王都に行くとか言ってたし。
……と、思っていたのだが。レジェンダリーオーガの話をすると、ミランダが難しい顔をして、詳しく聞かせろと言ってきやがった。
構わず帰ろうとしたのだが、サリーナと共に帰り道についてきたのでもうどうしようもなく、仕方なく今は一緒に山道を歩いている。
気になることもあったので、丁度良いといえば丁度良いが……。
「そういえばお前、魔力がAランク上位くらいしかないって言ってたな。なんでだ?」
「詳しくは話せぬ。簡単に言えば、儂は今とある魔法を行使していての。そっちを保つために魔力のほとんどを割いておるのじゃ」
「お前の魔力のほとんど……?一体どんなバカ魔法使ってんだよ」
「詳しく言えないって言ってるでしょ、これだからテツロウは……」
「呼び捨てかよ……」
「サリーナちゃんずるいです!私だって呼び捨てで呼んだことないのに!」
「それなんのステータスにもならないけどな……」
……こうしてミランダと歩いていると思い出す。マスターアーツに所属していた、こんな感じで喧嘩しながら旅をしていたな。
「話は変わるが、テツロウ。あのレジェンダリーオーガは“生まれたて”だという話は確かか?」
「間違いねぇよ、普通のレジェンダリーオーガより弱かったし」
「はい!生まれたてってなんですか!」
「アタシも聞いたことないわね……」
あまり知られていない単語だし、知らなくても無理はない。
「魔物は儂たち人族と同じように、子を産み繁殖する。その中で稀に強い個体が生まれることがある。ここまでは良いかの?」
「はい!変異種や上位種とかがそうですよね?」
「然り。……じゃが、たまに“魔物の魔力が同種の魔物を生み出す”ことがあるんじゃ」
「一気にわからなくなってきました……!」
「あー……アレだ。魔力を粘土として考えてみろ。オーガたちが持つ魔力……粘土がちょっとずつ集まって、オーガと同じ姿を形成することがある。こうして誕生した魔物を、“生まれたて”と呼ぶんだ」
「……成程、ダンジョンにいる魔物が生まれるのと似た理屈ってことかしら?」
「その通りじゃ」
ダンジョンは、ダンジョン自身が持つ魔力を媒介として魔物が生まれる。これが稀に、ダンジョン外で起こることがあるのだ。
「生まれたての個体は、他の個体よりも強くなる傾向にある。一説では、“種族が無意識に想像する最強の姿”になると言われてるな」
「だからSランク魔物、レジェンダリーオーガになったってことですか……」
「でも、アンタ今さっき“弱い”って言ってたじゃない」
「生まれたては強い力を持つが、“経験”が皆無だ。お前たちだって、経験を積んで強くなるだろ?あのレジェンダリーオーガは、いわば力を持っただけの子供にすぎなかったってことだ。……俺が昔戦ったレジェンダリーオーガは、あんなものじゃなかった」
それに、戦闘中奴はずっと楽しそうに嗤っていた。今まで全力を出したことが無いって面だ。戦い方も力任せすぎたしな。
「ギルドへは?」
「儂の方から報告しよう。……それに、儂らと全く関係がないって案件じゃなさそうじゃ」
「そうですね……先生。王都へ報告書を送りましょう」
そういえば、こいつら王都へ行くって言ってたな。
「サリーナちゃん王都行くんですか?」
「えぇ……近頃、本来その魔物生息している筈のない場所に出現する事象が相次いでいるの。それについての調査を、師匠は依頼されてるのよ」
雪山にラクダが居るようなもんか。……考えてみれば、オーガもこの付近では見かけない魔物だ。……まぁ俺の知ったことではないけどな。聞いちゃったけど。
そんなことより、俺には気になることがある……そろそろ家が見えて来る頃だ!
「師匠!?ちょっと待ってくださいよ……!」
……あぁ!あああああああ!
「なんて……こった……」
「急にどうしたんです……か」
「……これは、なんといったらよいのやら」
「うわぁ……これは酷いわね……」
……嫌な予感はしていたんだ。1か月前、ブラッドオーガがやって来てたこともそうだし、俺の家の方向からオーガが進行してきたのも、レジェンダリーオーガが飛んできたのもそうだった。
俺の目の前に広がっていたのは、まるで暴風にさらされたかのように倒壊した家!畑!
……とかならまだやり直せたんだ!それなのに……!
どうして!クレーターしか残ってないんだよぉぉぉぉ!
いやわかるよ?多分レジェンダリーオーガが着地なり殴るなりなんかやったんだろうさ!
でも、それでも……
「……し、師匠!」
「……家、どこにもないわねー」
「ここに来るまでに、散々居住するまでの苦労を語っておったしの……ドンマイじゃ、テツロウ」
「あんまりだろこんなのぉぉぉぉぉおおおおお!!!」
元S級冒険者の俺。家、失いました……チクショウ!!!!
上手く行かないように、世の中は出来ているのだ。