元Sランク冒険者、弟子を取る〜引退後の生活は、おしかけ弟子のせいで滅茶苦茶です〜 作:サラダよりは肉が好き
どうも!元Sランク冒険者、拳王テツロウ様の一番弟子、ミャゲルです!
色々ひと段落して山へ戻った私たちを出迎えてくれたのは……家や畑があった場所にできていた、クレーターでした。
「……」
「思ったより、ショックを受けておるの……」
「あは、あはは……」
「……これが、あのレジェンダリーオーガを殴り飛ばした元Sランクなのよね。はぁ……」
結局、町に戻って宿を取りました。……残念ですが、サリーナちゃんとミランダ様は王都へ用事があるそうなので、お別れすることになってしまいます。
「……ミャゲル。あなたとパーティーを組めないことは残念だけど……お互い、目標のために頑張りましょう」
「はい!サリーナちゃんもお気をつけて!」
「……その」
サリーナちゃんが、もじもじしながらこちらを見ます。……一体なんでしょう?
「その、ちゃんっていうのはやめてくれない?……呼び捨てでいいし、あまり堅苦しく無くていいから……」
「……!はい!じゃない……うん!サリーナ!」
「……うん、またね!ミャゲル!」
サリーナちゃん……いえ、サリーナとはちょっとひと悶着ありましたけど、こうしてお友達になれて嬉しいです!
「……アンタもね、テツロウ。腐ってないで、ちゃんとミャゲルを強くしなさいよ」
「……うるせぇよ」
「もう!……何があったかは知らないけど、今回の件で少し見直したわ。しっかりしなさいよ」
サリーナも、師匠に思うことがあったみたいですけど……なんとか、見直してくれたのかも?
「テツロウよ。また会おうぞ……できれば、今度はもう少し社会復帰しておくのじゃぞ」
「……人をニートか何かみたいに言うな」
「似たようなもんじゃろ……息災でな」
2人は、こうして去っていきました。またどこかで会えると嬉しいなぁ……。
その日から3日……師匠はまだ落ち込んでいます。
師匠は、3年前にあの山と周囲の土地を大金はたいて買ったそうです。家も畑も、何もかも手作りしていた師匠のショックは、それはもうすごいもので……。
「はぁ……」
「師匠……」
この3日間、ずっとこの状態が続いています。……それでいて、修行は手を抜いてくれないのですが!
「……はぁ」
師匠がこんなに落ち込んでいるところは、初めて見ました。だいたいいつも無気力な返事をするか、時々荒っぽい言葉遣いや振る舞いを見せている師匠が……こんなことになってしまうなんて、よっぽど愛着があったんですね……!
「……仕方ない。行ってくるか」
ふと、師匠が立ち上がります。……一体何をしようというんでしょう?
「師匠、どちらへ……」
「……ここら辺を治める領主のトコ」
「ふぇ?」
領主って、あの領主ですよね?土地を管理している……。
「……あの山。もう魔物とか近づかなくなっちまったしな。狩猟もできないし……住んでもしかたないし、引き払うための手続きをしに行くんだよ」
「でもあの土地って買ったって言ってましたよね?」
「買ったけど、税金とかは納めないといけないしな……使えなくなっちまった土地の税金払ったってしかたないだろ……」
あ、確かに。土地を借りている分の税金はかかりませんが、所有してる分の税金は別なんですね……。
「では、お供します!」
「どうしてお前が……」
「正直、今の状態の師匠をそのまま偉い人に会わせるのが怖いです!」
「……好きにしろ」
というわけで、領主様のところへ行くことになりそうです!……あれ?でも師匠って正体を隠していましたよね?大丈夫なんでしょうか……。
☆
「ふわぁ……大きいですねぇ……」
「そりゃそうだろ。領主の屋敷だぞ……」
というわけで、領主様のお屋敷にやって来ました!とんでもない大きさです……!
師匠は、そのままお屋敷に入って行こうとしますが……
「待て!何者だ?領主様の許可は?」
ですよね……!なんの許可も無い状態で会うことはできませんよね……!
「許可……それでマイホームが帰ってくるのか……?」
「マイホーム……?何を言っている?ともかく、許可がないなら帰った帰った!」
やっぱりこうなった!もー!
「あ、あの!この方……テツロ……ん゛ん゛!ウロウさんが所有する山の件についてのお話のため、領主様にお会いしたく……!」
「土地の関連なら役所に行けば良いだろう。直接会ってまで話す要件じゃない!帰った帰った!」
良く考えればそうです!?師匠、それほどまでに家とか無くなったショックで……!
「その者は問題ない。通せ」
衛兵さんとやり取りをしていると、屋敷の方から立派な服装をした男の人が出てきます。金髪は整えられ、とても清潔感がある方です……まさか!
「領主様!?しょ、承知しました!」
「……やっと出て来たか、遅いぞ」
「これでも忙しい身なのだがね……行くぞ。そちらのお嬢さんも」
「は、はい!」
もしかして、領主様とお知り合いなのでしょうか……!
そうして立派な客間に通され、領主様と向かい合うように座ります。
「お前が来るのは税金を納める時以来だなウロウ。……いや、テツロウと呼ぼうか?」
「え!?領主様は師匠の正体をご存知なのですか!?」
「まぁな。ある時、魔物に襲われているところを助けてもらったことがある」
「……え?でも師匠のローブって認識阻害の魔法がかかってる筈じゃ?」
「それが、爆発の魔法を使うオークメイジにローブを吹き飛ばされていたのだ!間抜けよな!はっはっは!」
「うるせぇ!」
し、師匠……。意外とツメが甘いのか何なのか……ちょっとお茶目というか……。
「一体何用だ?納税の時期はまだ先だが……」
「…………」
「そ、それが………」
☆
「はっはっはっは!!!住居が吹き飛んだ!?愉快だなテツロウ!」
「……だから来たくなかったんだ」
「え、えーと……笑いごとではないというか……」
一通り事情を話すと、領主様は大爆笑してしまいました……。
……にしても、この方は不思議です。師匠の……拳王テツロウの評判は決して良いとは言えません。ですが、この方はまるで師匠を友人のように接しています。
「不思議か?テツロウとこうして話していることが」
「え!?」
「俺を病原菌みたいに言うなよ……まぁ間違ってはいないか」
「考えてもみろ少女よ。……こんなマヌケで、お人好しな奴が噂通りの奴なわけはないだろう?」
「おい、さっきから誰がマヌケだ誰が」
「友人だから許しているが、領主相手に最低限の敬語すら使えない奴が何を言うか」
「お前が良いって言ったから良いだろうが。……それに、友人じゃない。契約関係だ。土地関連とかのな」
「わかったわかった……」
……この人は、ちゃんと人の本質を見て下さる方です。そういえば、この町の人々はとても楽しそうに暮らしています。とても素晴らしいお方なのですね……!
「しかし、そうか……一時的だとは思うが、生態系が変わってしまう程か……オーガの件は聞いている。……感謝するぞ、テツロウとその弟子よ」
「……!はい!」
「俺はなにもしてないからな……ったく」
「さて、土地の権利を手放すことは承知した。この状況なら仕方ないだろう……だが、別の土地は提供できない」
「え!?どうしてですか!?」
「単純に土地が無い。テツロウの願いは、ひっそりと暮らすことなのだろう?私の領内で、該当する土地はあの山くらいなのだ」
「……そうか」
師匠の顔が、寂しそうに見えました。……3年。師匠は、ここに来て3年と言っていました。……人と関わることをしたくない師匠にとって、あの家は安住の地だったのかもしれません。
「その代わり、と言っては何だが」
と、領主様が紙を取り出して何かを書き始めました。
「それは……?」
「紹介状だ。ここから遙か東に、ダコテという港町がある。その周辺を管轄する領主とは知り合いでな。この書状を見せれば、ある程度取り計らってくれるだろう。確か、前に管理に困る土地があると言っていたしな。機会があれば行ってみるといい」
「そんな……良いんですか?」
「勿論、この町にとどまってくれるならそれが一番良いが……」
「宿暮らしは落ち着かないんだ。準備が出来たらこの町を出て行くさ」
「……寂しくなるな」
……師匠はさっきああ言ってましたけど、この2人の間には間違いなく絆があった筈です。なんだかんだ、師匠は優しい人ですから……。
「君が納めてくれる大量の税金が無くて懐が寂しくなるな!はっはっは!」
「うるせぇ!……ったく、行くぞミャゲル」
「あ、はい!ありがとうございました!」
……きっと領主様は、テツロウ様が気負わないように、最後にああ言ったのだと思います。
「……師匠!ダコテの町に行くんですね!」
「あぁ。さっさと行くぞ……あ、逃げ出しても良いからな?」
「逃げませんよ!……私の憧れは、いつだって師匠ですから!」
師匠は、この言葉には何も返しませんでした。ですが、少しだけ、ほんの少しだけ笑ってくれたような……そんな気がしたんです。
「じゃあ修行再開だな」
「師匠?両手両足の重りがいつもの1.5倍くらいあるんですけど……?」
「今日からそれで過ごせよ。じゃあ俺は旅支度してくるから」
「ちょっと!?師匠!ししょーーーっ!!!」
私の弟子ライフは……どうやら師匠のせいで滅茶苦茶なものになりそうです……!
旅の先で、新天地を見つけられるのか……?