元Sランク冒険者、弟子を取る〜引退後の生活は、おしかけ弟子のせいで滅茶苦茶です〜   作:サラダよりは肉が好き

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第18話 元Sランク冒険者の弟子と、真実の入り口。

「……いなくなっちゃった」

 

 焼き魚をゴクンと飲みながら、私は呆然としていました。

 師匠が唐突な行動に出るのは今に始まったことじゃありません。今回の場合は、原因だってハッキリしています。

 今さっき入店してきた、師匠と同じ黒いローブを纏った人。そういえば、いつの日だったか師匠が言っていた気がします。黒いローブは魔法妃ミランダ様が作った魔道具で、同じデザインのモノはマスターアーツのメンバーしか持っていないと。

 つまり、今そこに座っている人は、マスターアーツの誰かということになります。

 師匠がマスターアーツのメンバーと何かあったことはしっていますが……正直、気になります。一体誰なんでしょう?

 当然と言えばそうなんですが、師匠はあまり昔の話をしません。師匠にとって触れられたくない部分ですから。

 

「……お嬢さん、ボクに何か用かい?」

 

「えっ!?」

 

 ……今、私は黒いローブの人から“目線を外していなかった”はず。それなのに……いつの間にか、この人は私の向かいに座っていました。本当に前触れもなく、それが自然であるかのように。

 

「……あの」

 

「あぁ、すまない。こちらをじっと見ていたし……ボクと同じローブを羽織った人と一緒に居ただろう?気になってしまってね」

 

「……!」

 

 男の人とも、女の人とも取れる中性的で、それでいて引き込まれる美しい声。そして、少しだけ、ローブのフードを取って顔を私に見せてくれました。

 

「あ、あなたは……!」

 

「シーッ……うん、どうやら察しているみたいだね」

 

 ……この人は、“奇術星(トリックスター)”という異名を轟かせる、Sランク冒険者の中でも魔道具の扱いに長けた天才。

 その容姿と特技の手品から、圧倒的な知名度を誇るマスターアーツのメンバー。

 

「ボクはタビト。元マスターアーツのタビトさ……よろしくね?」

 

 右手を伸ばし、一瞬でバラの花を出現させながら、彼(彼女?)は微笑を浮かべました。

 

☆ 

 

「突然ついてきてもらって悪かったね」

 

「いえ……師匠はどこかに行ってしまいましたし…」

 

 タビト様の提案で、私とタビト様は教会へと場所を移しました。タビト様の知り合いの方が運営なさっているそうで、話を聞かれる心配がないんだそうです。

 

「……さて、君は」

 

「あ!ミャゲルです!Dランク冒険者をしてます!」

 

「ミャゲルちゃん。……単刀直入に聞くけど、君と一緒に居た人は誰なのかな?」

 

 ……正直に言うかは、悩みます。テツロウ様は、マスターアーツの方々とは関わりを持ちたくない筈です。

 ミランダ様とは、なんだかんだ仲が良さそうでしたが……今回もそうなるとは限りません。

 ……ですが、この人は、きっとマスターアーツが解散した理由を知っています。

 余計なお世話かもしれない。それとも、ただの私の好奇心かもしれない。

 それでも、私は知りたい。めんどくさがりで、いじわるも沢山言うけど……師匠は、テツロウ様は本当は優しい方。少しでも、力になれるきっかけが掴めるなら……。

 

「……私と一緒に居たのは、師匠……“拳王”テツロウ様です」

 

「……テツ、ロウ?今君は、テツロウと言ったのか?」

 

 ……タビト様は、目を丸くした後、沈黙しました。顔色は青く、そして……涙を浮かべています。

 

「……それはそうか。じゃなきゃ逃げたりしないか……はは……なんてことだ」

 

「……タビト様?」

 

「……君は、テツロウの弟子と言っていたね?」

 

「……はい」

 

「じゃあ、ボク達のことは……その、聞いているのかな?」

 

「詳しくは、何も。……ですが師匠は、人との関わりをあまり持とうとしません」

 

「……そう、か」

 

 タビト様は、しばらく俯いて……椅子へ座り込みます。……そんなタビト様の様子からは、怒りなどは感じられず……ただ、哀しんでいるように見えました。

 

「……タビト様。私は8年前……マスターアーツの方々に、テツロウ様に命を救われたことがあります」

 

「……!」

 

「解散の話を聞いた時、何かの間違いだと思っていました。……だって、私と父の命を救い、護衛してくれた皆さんの姿は……とても仲睦まじく見えたんです」

 

「……8年前、護衛……まさか、君はあの時の猫の獣人……」

 

「はい。……そして、今はテツロウ様の弟子です。……タビト様。どうか教えていただけませんか?……師匠は、どうして人との関わりを避けるようになってしまったのか……そして、マスターアーツはどうして解散したのか」

 

 ……タビト様は、私の顔を見つめます。中性的でありながら、美しいその顔立ちは……哀しみと、迷いと、後悔が現れたような、複雑な表情に見えました。

 Sランク冒険者。一般的には、英雄とも化け物とも揶揄される、雲の上の存在。……そんな人でも、何かに悩み、憂うような、私達と変わらない一面がある。テツロウ様を見て、それは強く感じるようになりました。

 ……それならば、きっと私ができることがあるんじゃないかって、自惚れながらにも思うんです。

 

「……強いね。覚悟を持っている目だ。ボクとは違う」

 

「……そんな、私なんてまだまだです」

 

「ううん。きっと君は“生まれた時から”この世界で、色んな苦労や理不尽を経験して、それでも前を向いて生きようとしている」

 

「それは、タビト様も同じことではないんですか?」

 

「……あぁ、そうだ。“そうだと思っていたんだ”。……でも、何もかもが甘かった。数年この世界で生きておきながら、強さだけ身について……覚悟が足りていなかったのさ」

 

 ……数年、つまりタビト様は、転移者ということでしょうか?

 

「……わかった。話すよ。テツロウの近くに居る君は、きっと知っておくべきだ。……3年前、現在も攻略されていないダンジョン“マグナアビス”で何が起こったのかを」

 

「……お願いします」

 

 師匠。ごめんなさい。きっと詮索するのは良いことではありません。もしかしたら、弟子失格かもしれません。……それでも、私は知りたいです。

 私を諦めさせるためと言いながらも、見殺しには絶対せず、ちゃんと強くなるための修行をつけてくれるあなたが……時々見せる悲しそうな顔。それを見る度に、不甲斐なさと寂しさに襲われるんです。

 過去に、命を救われました。師匠を尋ねて山へ行って、また助けられて。今は修行を含めてまるっきりお世話になっています。

 師匠は素直じゃないけど優しいから、きっと話してくれないと思います。でも、だからこそ、私はあなたの深い部分に、少しでも近づきたいんです。

 

「……結論を先に言うと、マスターアーツは……“テツロウを見捨ててダンジョンから撤退した”んだよ」

 

 ……覚悟していたはずなのに、その言葉の衝撃に、思わず目を見開いてしまいました。

 そして、これからタビト様が語るのは……英雄とは程遠い、まるで少年少女たちが幼い頃に済ませるような、葛藤とすれ違いの物語だったのです。

 




次回、テツロウの過去編。
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