元Sランク冒険者、弟子を取る〜引退後の生活は、おしかけ弟子のせいで滅茶苦茶です〜   作:サラダよりは肉が好き

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過去話です。



第19話 元Sランク冒険者の弟子と、あの日起こった出来事。

 3年前。マスターアーツはSランク冒険者のみで構成されたパーティーとして名を馳せていたのは知ってる?

 剣神タカミチ、魔法妃ミランダ、拳王テツロウ、聖女サクラコ、正義賊ラーズ、奇術星タビト、竜帝ジャウバ。

 マスターアーツは、その半分以上が転移者で構成されていたんだ。タカミチ、テツロウ、サクラコ、そしてボク。

 転移者は、こことは別の世界から転移してきた人々のことで、身体能力や魔力がこの世界の人々に比べて高い傾向にある。

 ボクらがSランク冒険者になることが出来たのも、それが大きい。右も左もわからないこの世界で、冒険者を選択するのは必然的なことだったのかもしれない。

 色んなことがあって、色んな出会いがあって、別れもあって。そうしてボクたちは強くなって、マスターアーツを結成した。

 いつの間にか、Sランク冒険者になって……もうボクたちに敵はいないと思い込んでいた。

 そんなある日……パーティーのリーダーだったタカミチが依頼を持ってきたんだ。

 新しく発見されたダンジョンの攻略、という内容だった。

 ダンジョンは、新しいもの程攻略が容易な傾向があるから、それこそSランク冒険者が受け持つ依頼じゃない……と思っていたんだけど、どうやら既に何組か冒険者パーティーが攻略に失敗しているらしい。

 丁度依頼も無かったボク達は、その依頼を受けることにした。

 そうして、準備してダンジョンへ行ったボク達を待ち構えていたのは……強力な魔物たちだ。Bランクの魔物や、Aランクの魔物も蔓延っていて、確かに並みの冒険者パーティーじゃ太刀打ちは難しい。

 でも、ボク達はSランク冒険者だ。誰も欠けることなく、なんなら余裕をもって攻略できていた。

 そしてダンジョンの最奥へ辿りつき……ダンジョンボスと呼ばれるコアの守護者と邂逅したボク達は……後悔することになる。

 その魔物は、人型で、黒い靄のようなものを纏っていて……詳しい姿はわからなかった。力も、技も、魔力も、何も感じられなかったのに、攻撃は当たらない。魔法は通じない……悪夢のようだったよ。

 タカミチの、時空さえも両断すると言われた斬撃も。

 ミランダの、魔法使いの極致と言われた魔法も。

 テツロウの、全てを叩き伏せると言われた拳も。

 サクラコの、邪悪なるものを鎮める神聖魔法も。

 ラーズの、魔法と斬撃を駆使した妙技の数々も。

 ジャウバの、竜の血を引く圧倒的な力も。

 ボクの、古の魔道具を使った攻撃も。

 何もかも、通じなかった。解析だってした。何が効くのか、弱点は?どうすれば倒せるのか?それすらも嘲笑うかのように、何も、何も通じない。

 ただ、時折除く赤い瞳がどうしようもなく恐怖を駆り立てて……一方的に、攻撃を食らった。

 黒い靄を吸い込むだけで、どれだけ自身を強化していても、内臓が侵食されているような痛みが襲う。

 Sランク冒険者が、どれだけの対策をしていても、無意味だった。

  とうとう、全員が瀕死になったとき、立っていたのは……テツロウだけだったよ。

  テツロウだけは、倒れた皆の前に立って、拳を構えていた。

 

「……仲間にだけは……手を……出させねぇ……!」

 

 ……あぁ、今でも覚えている。ぶっきらぼうで、誤解を招く発言だって多かったけど……彼は誰よりも仲間想いだった。

 ……でも、心が限界だった者もいた。

 魔道具の中にはね、空間転移をするものがある。緊急脱出用として、1度きりしか使えない大規模空間魔法を封じ込めた魔道具……マスターアーツが結成された時から、万が一の保険として持っていたソレは、誰よりも危険探知に優れた斥候である……ラーズが持っていた。

 ラーズはソレを起動したんだ。それ自体は賢明な判断だったと思う。……でも、それは……テツロウが、黒い靄に捕まっていて、魔道具の効果範囲外に、居た時、だったんだ。

 …………ごめん。続けるよ。

 その後、ボク達は拠点に空間転移した。使えるものを使って回復して、すぐにテツロウを助けるために向かった。無事でいることだけを願って。

 でも、ボク達が再び訪れた時……ダンジョンは黒い靄に包まれて、入ることができなかった。あの時と同じだった。どんな攻撃をしても、その靄は晴れることもなく、物理的にも魔法的にも干渉を許さなかった。

 何日も、何日も試みたけど結局ダメ……だったんだけど、ある日……入り口を阻んでいた靄が晴れた。

 直後……テツロウは、自力でダンジョンの入り口から出て来たんだ。血まみれで、死にかけた状態で……そのまま意識を手放していた。

 直ぐに連れ帰って、治療した。……そして、数時間もしないうちに、テツロウは目覚めた。

 

「……なぁ、どうして……俺を置いていったんだ」

 

 ……最初は、誰も答えることが出来なかった。

 誰もが、心を疲弊していた。自分たちが敵わない敵が居た事実も、テツロウを置いて撤退したという事実も。

 

「……なぁ、何とか言えよ……おい」

 

「……か」

 

 ……最初に口を開いたのは、ラーズだった。緊急脱出用の魔道具を持たされていた彼女は、

 

「……仕方ない、じゃないか」

 

「……仕方ない、だと?」

 

 思わず、テツロウは声を荒げようとしていたけど、ラーズが遮るように叫んだ。……限界だったんだろう。

 

「……だって、発動しなかったんだ。何回も、何回も発動しようとしていたんだ。でも……でも……発動しなかった。あの時、あの時だけだったんだよ……!皆が死にかけていたあの時だけ、なぜか魔道具がようやく発動して……!」

 

「……俺が効果範囲に来るまでは、待ってくれなかったんだな」

 

「……おい、テツロウ。その言い方は」

 

 タカミチが、テツロウを窘めるように話しかけたけど……あの時は、きっと誰が何を言ってもダメだったと思う。

 

「お前らは良いよな……何も、何も知らないんだ……なぁ、あの黒い靄に取り込まれるとどうなるかわかるか?何も、何もないんだよ。視覚も嗅覚も触覚もなにもかも消え去って、ただ何も感じられない闇の中で、何もされないまま、何をされてもわからない状態で、ずっとそのまま……!狂いそうだった。壊れそうだったよ。……お前達の存在だけが、支えだったのに……」

 

「……すまんの。救援には行ったのじゃが、入口を黒い靄に塞がれ……辿り着くことができなんだ」

 

「ミランダ……いいよ、別に。…………わかってるんだ。あぁそうだ。ラーズの言うとおり、仕方ないことなんだろうよ!」

 

 拳を握り締める姿は、痛々しかった。……でも、何も言うことはできなくて。

 

「……そりゃ、そうか。なぁラーズ……気持ち、わかるぜ……目の前で、恋人が……サクラコが死にかけてたら、そりゃなりふり構わず優先するよな……!」

 

「ッ!」

 

「やめろテツロウ!そういう話じゃ」

 

「うるせぇ黙ってろタカミチ!!!」 

 

「黙るのはお前だテツロウ!!!……誰を責めても、仕方ないだろうが……!!!」

 

「……ごめ、なさ……」

 

「サクラコは悪くない!……悪くない。悪いのは、魔道具を起動した私だよ……」

 

 ……まるで子供の喧嘩のようだったよ。

 ボクは、そこで何も言うことができなかった。テツロウを庇うこともね。

 ……やがて、ジャウバが口を開いた。静観していたけど、見ていられなかったんだろう。

 

「……呆れるな。人類の頂点のも言えるSランク冒険者が揃ってこのザマとは」

 

「なんだとジャウバテメェ……!」

 

「良く聞けテツロウ。戦場は、常に死と隣り合わせ……どんな状況だろうと起こりうる。生き残るための取捨選択も、また然り」

 

「だから、水に流せってのかよ……!見捨てられたことをよ……!」

 

「この先もパーティーを組み続けるなら、そうだ。ラーズは、生き残るために正しい判断をした。……冷静に考えろ。冒険者とは、常にその可能性を秘めていることを……お前達は、とっくにわかっていたのではなかったのか?……それとも、生きていた人生の中で考える機会が無かったのか?」

 

 ……図星だったよ。修羅場は沢山超えて来たつもりだ。右も左もわからない世界で、死にかけたことも少なくない。それでも皆で支え合い、最後には大団円を掴んで来た……なまじ強いから、“そんな経験しか”得ることがなかった。

 “命の取捨選択する”。……残酷なこの世界で、戦いに身を置くことを選択した戦士であるジャウバの言葉は、全員に深く突き刺さった。

 きっと、心の中ではわかっていたんだ。そんな場面がきっとくるって。でも……見ないフリをし続けていた。全てを救える力がある……そう思い込んでいたんだ。

 それが今回、できなかった。

 

「……あぁ、わかったよ。よーくわかった。……結局足りてないのは俺の覚悟だって話だな?見捨てられようと仕方ないと割り切って、いつもみたいにバカみたいに笑えばよかったって、そういうことだな?出来るわけねぇだろうが……!」

 

 フラフラの身体で立ち上がり、ラーズへの元へと歩きだす。

 

「……1つ聞かせろ。お前は判断を間違ったと、本当に思ってるのか?」

 

「…………思ってない」

 

「……そうかよ」

 

 そのまま、テツロウは拠点の出口へと歩き出した。……止めるべきなのに、誰も止めようとはしなかったが……ラーズが、声をかけたんだ。

 

「……テツロウ!」

 

「……」

 

「私は大切なものを護ると誓った……!どんな犠牲を払ってでもな……!」

 

「……そうかよ、じゃあ俺は、お前に……パーティーにとって、大切なものじゃなかったってことだな」

 

「違う!……が、今のお前に何を言っても無駄だろうな。…………すまなかった」

 

 テツロウは、何も答えずに姿を消した。

 その後、テツロウが冒険者の資格を放棄したと知らされた。

 ……タカミチは、この一件をきっかけに「自分は、人としての成長を怠ってた」と言って、パーティーを解散した。誰も異論は唱えなかったよ。

 ダンジョンは、マグナアビスと名付けられ……今も攻略はされていない。ボク達が得た情報と、テツロウが引退前に残した報告書を元に、タカミチが先導して攻略するために動いている。

 

 

 

「……」

 

 ……全てを聞いた私は、何と言っていいかわからなくなりました。

 ダンジョンに乗り込み、命を賭してまで信じた仲間を守り抜こうとしたテツロウ様。お覚悟は、きっとあったはず。

 ダンジョンボスに取り込まれ、闇の中で、一体どれほどの孤独に襲われたのでしょうか。

 転移者であるテツロウ様は、きっと仲間が本当に大事で、共に敵を打ち破る算段を、最後まで考えていたのかもしれません。

 だからこそ、裏切られたと1度思ってしまってからは、考えを止めることができなかったのでしょうか?

 きっと、マスターアーツの皆様は思い合っていたはずです。……価値観の違いと、想いが正しく伝わらないすれ違いと。状況と合わさって、最悪の結果になってしまっただけ。

 ……今まで過ごして来た師匠からは、悲壮感は感じられませんでした。師匠も、きっとわかってはいるのです。ただ、自分がきっかけでマスターアーツを解散させてしまったという負い目が、心の中にあるのだと思います。

 

「……これが真相だよ。マグナアビスの存在は別として、くだらないだろう?」

 

「……いえ。むしろ少しだけ安心しました」

 

「……?」

 

「……Sランク冒険者も、普通の人と同じように悩むんだなって」

 

「ははは、それは……そうかもね」

 

 タビト様は、すごく後悔しているのだと思います。何かを思っていても、言葉にすることが出来ずに、静観してしまったという後悔を。

 

「……師匠と、お話してみませんか?」

 

「……」

 

「……今の師匠は、なんというか……落ち着いていて、あまり人と関わろうとはしないんですけど、ポーズだけっていうか……きっと邪険にはしないと思うんです」

 

「…………」

 

「もちろん私も一緒に居ます!……だけど、勿体ないですよ。……タビト様は、テツロウ様を大切に想ってくださっているんですよね?」

 

「それは……」

 

「じゃなかったら、そんな哀しそうな顔をしないと思ってます!……なら、ちゃんと伝えるべきだと思います。私はただの弟子ですけど……でも、テツロウ様にとって、やっぱり今でも、マスターアーツは大切な居場所だったと思うから……」

 

「…………」

 

 タビト様は、何も答えずに黙っていました。……ですが、やがて口を開き

 

「……わかった。…………けど、怖いから、一緒に来てくれると嬉しい、かな」

 

「もちろんです!大丈夫ですよ!今の師匠はなんだかんだ人を見捨てられないお人よし」

 

 と、いいかけたところで、教会の扉がバァン!と開きました。……そこに居たのは

 

「お師様こっちですぅ~!」

 

「だからお前の師匠じゃねぇって!」

 

「う、嘘です!そんなローブ着てるのはお師様くらいしか……ほえ?タビトお師様が居る……」

 

 ……師匠と、師匠の腕を強引に引っ張っている謎の女性でした。

 テツロウ師匠の登場で、タビト様は固まってしまうし、そもそも女性が誰なのかもわからないし、師匠もハテナを浮かべたような顔をしているし……!

 

「え、えーっと……まず座りませんか?」

 

 私ができたのは、このくらいのことしかありませんでした。……収拾、つくのかなぁ……?

 




過去話とか葛藤とか、難しい……( ˘ω˘ )
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