元Sランク冒険者、弟子を取る〜引退後の生活は、おしかけ弟子のせいで滅茶苦茶です〜   作:サラダよりは肉が好き

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第2話 元Sランク冒険者、弟子を取る。

「……わかった、お前を弟子にとろう」

 

「本当ですか!?ありがとうございます!!!」

 

 ありがとうもクソもあるかボケが。

 ……こいつが行き倒れてから1週間が過ぎた。その間、ミャゲルは帰る素振りを見せずにひたすら俺につきまとった。

 畑を手入れしているときも、山を見回っているときも、料理しているときも、風呂に入っているときも、弟子弟子弟子弟子……。頭がおかしくなりそうだ。

 ぶっ殺してやろうと思ったことも1度や2度ではないが、嬉々として畑仕事をしているこいつを見るとそんな気にもなれなかった。流石に良心が痛む。

 そこで、俺は考えたわけだ。地獄のようなキツイ修行をつけて、自分自身の意思で諦めて帰ってもらおうと。

 この山なら、俺が冒険者Bランクだった頃に俺の師匠につけてもらった修行メニューが割と使えそうだ。

 ミャゲルはDランク。まぁランクが強さの指標の全てではないことは確かだが、流石に耐えきれずに逃げ出すだろう。

 さて、まずは手始めに走り込みでもしてもらおうかな。

 

「じゃあ修行を始めます。この腰布を巻いて」

 

「わかりました!……余った布の先に生肉がついているんですが、これは?」

 

「じゃあこの状態で山を走り回ってしてもらいます。日が暮れるまで」

 

「師匠?生肉の意図が説明されてないんですけど……このまま移動したら、魔物とかが追って来たりしそうなんですけど……」

 

「ほーらいってこーい」

 

「雑に私を放り投げないでくださああああああい!?!?!」

 

 ミャゲルをそのまま茂みへ投げ込む。すると数十秒もせずに……

 

「わああああああ!?グリーンウルフに四つ手モンキーがぁ!?」 

 

 そんな声が聞こえ、徐々に遠ざかっていった。

 魔物たちはそれぞれ、森や山に生息するDランクの魔物である。合計で数十匹は居たからまともに戦えば勝ち目はないだろうが、この1週間観察したからわかる。ミャゲルは獣人というだけあって俊敏だ。落ちついて対処すれば逃げ切ることはできるだろう。飯も食べてるし死ぬことはないさ。多分。

 Bランクのグレイトベアーだけが気がかりだが、ねぐらに入りこまない限りは対峙することもないだろう。普段は温厚な魔物だからな。

 まぁ、死んだらそれまでだし、欲を言うならこのまま山を降りて帰ってくれれば万々歳だ。

 冒険者時代。俺は師匠に似たような訓練を施されたことがある。あれはなかなかにしんどかった。

 

「さて、グレイトベアーの角煮の様子でも見にいくか……」

 

 

「ぜぇ、ぜぇ……し、師匠……終わり、ました……!」

 

「……まじかよ。絶対逃げ出すと思ったのに」

 

「師匠!?」

 

 日が暮れる頃、なんとニャゲルは生還した。あちこちボロボロではあるが、五体満足である。思ったよりもこの少女はガッツがあるらしい。

 昔あの修行をつけられたとき、俺は泣いて師匠を罵ったものだ。次の日の訓練を倍にされたけど。まじで許せねぇあのジジイ。

 

「逃げ出しませんよ……私の憧れに修行をつけてもらってるんですから……!」

 

「憧れってお前……悪名高い俺に憧れるとか趣味悪いぞ」

 

「私は、世間で言われていることなんて信じてません!」

 

「えぇ……」

 

 素直に嫌ってくれるのが一番楽なのだが、そうもいかないらしい。一体何がこいつを突き動かしてるんだろうか。

 

「師匠!次の修行はなんですか!私、なんでも、しま、す……」

 

 そのまま地面に倒れ込み、寝息を立て始めるミャゲル。流石にこの状態で次の修行をさせるほど、俺も鬼ではない。

 仕方ないのでベッドへと運んでやる。寝顔は本当にガキそのものだ。こんな少女が、俺に憧れねぇ……。

 一応Sランク冒険者として活躍していた時期もある。その時は、まぁそれなりに調子に乗っていた。その時のファンか何かだろうか。

 拳王なんて小っ恥ずかしい二つ名で呼ばれていたが、実際は武器を扱う才能がなさすぎて、選択肢が殴る蹴るしか無かったことが始まりだったりする。そっち方面の才能はあったらしくて助かったけどな。

 

「……まぁ、そのうち耐えきれなくなって逃げ出すだろ」

 

 今何を言っていようが、どうせ俺の前から居なくなる。“前の世界の連中や、かつての冒険者仲間がそうだったように”。

 どうせやることがある訳でもない。こいつが逃げ出すまで地獄の修行を続けよう。

 

 

 それからと言うもの……

 

「今日の修行は筋トレです」

 

「師匠?目の前に置いてある、両端に円形の金属がついている棒は一体……」

 

「バーベル……って言ってもわかんねぇか。これを両肩で担いで屈伸(スクワット)するんだよ。限界まで」

 

「師匠師匠?どう見ても私の体重の何倍の重さがある気がするんですけど……」

 

「魔力で体を常に強化し続ければなんとかなるなる」

 

「それって魔力切れと体力切れ同時に起こるんじゃ……い、いえ!これも強くなるためです!うおおおおおおおおお!!!」

 

 みたいな事をしたり、

 

「師匠?今日は修行無しって聞いたんですけど……どうして両腕と両足に金属の重しを……」

 

「修行は無しだが、畑作業してもらうからな。働かざる者食うべからずだ」

 

「私は重しの理由を聞いてるんですけど……!」

 

「じゃあ俺は山を見回ってくるからよろしく」

 

「し、師匠ー!?」

 

 的なことをやらせたり、

 

「最近暑いし川で泳ぐか」

 

「師匠……実は、私泳げなくて……」

 

「そうか、じゃあこうするしかないな」

 

「し、師匠?どうして長い腰布で私の腰と師匠の腰を繋ぐんですか?」

 

「はいぼちゃーん」

 

「ちょっ!?師匠が飛び込んだら私も引っ張られあぁぁぁ!?」

 

 荒療治で泳ぎを習得させたりした。

 だいぶ向こうの言い分を無視した気がするが、そもそも追い出すためにやってることだし、アイツも人の話をあまり聞かないのでイーブンである。ざまぁ。

 そんな感じの日々を過ごしていた。ここまでやれば流石に懲りて逃げ出すだろう。

 俺も冒険者時代、師匠から何度逃げようとしたかわかったものではない。その度に捕まって引き戻されたわけだが。あのジジイ……!

 その点、俺はキチンと逃げるチャンスを与えている。というより逃げて欲しいから修行をしている。なんて優しい師匠なんだ……いや師匠じゃないけどね?

 なんて呑気に考えていたわけだが、

 

「し、師匠……今日の修行は、なんでしょうか……!」

 

「えぇ……」

 

 1か月。このミャゲルが行き倒れてから1か月だ。なぜか逃げ出さないでここにいるんだなこれが。ドMか?ドMなのか?

 常人ならとっくにおかしくなるレベルの修行をこなしてしまっている。ただ単に俺への憧れでここまで出来るものだろうか。

 連日の修行で既に身体もボロボロのはずなのに、真っすぐな目で俺を見つめ、次の修行を求めて来る。

 

「……あのさ、どうしてそこまで頑張れるわけ?」

 

「え?……それは、強くなりたいから……」

 

「普通はそこまで頑張れない。もう察しているだろうが、俺はお前を真剣に鍛える気は無い。今までの馬鹿キツイ修行も本来、俺がBランク時代にやっていたものだ。現段階のお前がやることじゃない」

 

「……」

 

「伸び悩んでると言ってたが、Dランクまでの昇格速度を考えれば、依頼に出ていればそのうち解決する」

 

「……」

 

「というかさ、俺は人と関わりたくないからこの山に居るんだ。さっさと出て行ってくれないか。ハッキリ言って、邪魔だよ、お前」

 

 ……ここまで言えば、流石に堪えるだろう。俺に失望して、早くいなくなって欲しい。

 人は、どこまでも自分とその大切なものが可愛い生き物だ。

 だからこそ、“マスターアーツ”は解散した。俺は、あのパーティーにとって大切なものじゃなかったんだ。それで取り乱した俺も俺だが……。

 

『私は大切なものを護ると誓った……!どんな犠牲を払ってでもな……!』

 

 かつてのパーティーメンバーが言った言葉が、頭を過る。……嫌なことを思い出しちまった。そいつとの喧嘩が原因で俺はパーティーを抜けた。

 そうしてパーティーを抜けた俺を待っていたのは、非難罵倒の雨あられだ。元々素行があんまり良くなかったのも後押ししてか、冒険者としての信頼は地に落ち、英雄と称えられてた俺は“力を持った化け物”に早変わりだ。

 だからさっさと、強引に冒険者を辞めた。生きる以上、最低限他人との関りは必要だが……それ以上は、深く関わるとロクなことにならない。

 1度だけなら立ち直れたかもしれない……だが、こういうのは俺は2度目だった。

 転移前も、俺は似たような目に遭っている。友人をいじめから庇って、いじめの標的が俺に移った。いじめられていた友人は俺がいじめられていると知るやいなや、手のひらを返して俺へのいじめに加担した。

 学校や家族に相談したが、最終的に俺は厄介者扱いだ。学校は事を荒立てなくないが故に大した対策もしてくれない。

 家族は、最初は俺に優しかったが……俺が不登校になってしまったことをきっかけに関わろうとしてこなかった。ごく潰しにでも見られたのだろう。

 誰かを信じても、簡単なきっかけで裏切られてしまう。なら最初から、深い関係を築かなければ良い。弟子なんて持っての他だ。

 情けない話、俺はもう他人に裏切られたくない。誰も俺の近くに置いておきたくない。

 あんな苦しみは……3度も、味わいたくない。

 

「……やっぱり、何かあったんですね」

 

「何もねぇよ。邪魔だから消えろ」

 

「……8年前のことです」

 

「昔話なんざ聞いてねぇよ、さっさと消えろ」

 

「今から!8年前の!!ことですッ!!!」

 

 っ、こいつが話を聞かないのは今に始まったことじゃないが……なんだ?どうしてそんなに感情を込めて叫んだ?

 

「……私は、行商人の娘です。その日も父に連れられて、馬車で移動していました――――」

 




爆速で明らかになる過去。
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