元Sランク冒険者、弟子を取る〜引退後の生活は、おしかけ弟子のせいで滅茶苦茶です〜   作:サラダよりは肉が好き

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更新っ!書き溜め、やりたくてもやれない日々が続いております。


第20話 元Sランク冒険者と、ただの子供。

 数時間前————

 

 

 さて……黒いローブに反応して思わず逃げ出してきちまったが……。一体アイツは誰だったんだ?

 認識阻害のローブは、ローブを外すか、自分から正体を開示しない限りは正体が露見することはない。数年前の、魔力が制限されていない頃のミランダが作った魔道具だ。Sランクだろうが誰だろうが効果は絶大なんだよな。

 とはいえ。とんでもない速度で街中を駆け抜けた黒いローブの何か、という情報は広がりかねないんだよな。姿を隠すにしてもどうしたもんか……。

 なんて考えてるうちに、港まで来てしまった。時刻はおおよそ昼過ぎってところだ。

 この時間になると、騒がしかった街も少しは落ち着くというもの。賑やかなことには変わりないが、街に入った直後のような洗礼は受けなさそうだ。

 

「若いの。少しいいかぇ?」

 

「……あ?」

 

 ローブの袖を引っ張られたので、そちらを向く。そこには、身長が140cmにも満たなそうな小さな婆さんが俺を見上げていた。

 

「……んだよ婆さん。俺は今忙しいんだよ」

 

「嘘を言うもんじゃなぃ。ポケーっと街を眺めておったぇ」

 

「見てたのかよ……で、何の用だよ」

 

「……なんじゃったかぇ?」

 

「俺が知るか!」

 

 変なのに絡まれちまった……。

 ……そうだ、ここの領主のトコ行かないとな。金は無いが、まず土地があるかどうかを確かめないと何も始まらない。

 

「ったく……じゃあな婆さん」

 

「なんじゃったかぇ~……」

 

「ちょっ!?背中に張り付くな……!」

 

「送ってちょ?」

 

「どこにだよ!?あぁもう……!」

 

 ミャゲルと出会ってから、俺の話を聞かない奴らが増えたような気がするな……。……修行の量を増やしてやる。

 仕方ないので、婆さんを背中に張り付けたまま移動する。……が、そもそもここの領主がどこにいるか知らねぇな。

 

「おい婆さん、領主の屋敷知らないか?用があるんだが……」

 

「知っとるぇ。そこの角を曲がって右~」

 

「地味に助かる副産物だな……おう、それで次は?」

 

「次に左~」

 

「おう」

 

「あそこにデカい屋敷が見えるぇ?」

 

「あるなぁ……偉そうな奴が住んでそうなデカめの屋敷が……そこまで行けば良いのか?」

 

「うむ」

 

 ボケてるのかと思ったが、迷いのない道案内だな……。

 

「着いたぞ。ここが領主の家か?」

 

「ここがワシの家だぇ~」

 

「アンタの家かよッ!!!」

 

 このババア……!ボケ老人の振りして俺をタクシー代わりに使いやがった……!

 結局着いちまったじゃねぇか……!

 ……いや、待てよ?

 

「……なぁ、婆さん。もしかしてアンタ「おばあ様何処ですかぁ~!?」」

 

 ……扉が突然開き、そこからピンク色の髪をした女が現れた。特に尖った耳もケモ耳も見当たらないから、特殊な事情じゃない限りはヒューマンか……?

 

「あ、おばあ様~!どこに行ってたんですか~?」

 

「散歩だぇ~」

 

「せめて一言かけてくださいよ~……」

 

 婆さんが人の背中にしがみついているのに、俺を無視して話を進めるなよ……。

 

「……あー、ここが領主の家で合ってるか?」

 

「あ、すみませんワタシったら……はい、この周辺を治める領主様、ラソラ様のお屋敷で……」

 

 ……ピンク髪が、今度は俺を見て固まった。黒いローブを羽織っているから、俺が元Sランク冒険者だとはわからないハズだが。

 

「……し」

 

「し?」

 

「お師様~!戻られたんですね~!」

 

 ……は?

 

「だからおばあ様と一緒に……!納得しました!なら早速行きましょう~!」

 

 俺をどこかに誘導しようとしているのか、急に俺の手を引き始めた。

 というか、

 

「……お師様ってなんだよ。俺はお前の師匠じゃないぞ」

 

「またまた~。その黒いローブは、自分以外だと前の仲間しか持ってないってお師様が言ってたんじゃないですか~」

 

「丁度良いから教会へ行くぇ~」

 

「婆さん張り付いたままじゃねぇか……!俺よか先にこっちを優先しろよ!」

 

「おばあ様は気に入った場所があると中々離れなくて……」

 

「動物か何かか!?」

 

「行きましょう~!」

 

「だから待てって……あぁもう!」 

 

 誰も話聞きやがらねぇ……チクショウ!

 

 

現在———

 

 

「ははぁ……この人はお師様の昔の同僚さんだったんですねぇ~」

 

「まぁ、うん……そう、だね……」

 

「師匠、背中に張り付いていらっしゃるおばあちゃんは一体……」

 

「ラソラちゃんで良いぇ」

 

 ……ひとまず、ミャゲルの勧めで腰を落ち着けたは良いが状況がカオスすぎる。

 ババアは俺の背中に張り付いたままだし、久しぶりに見たタビトは俯いて凹んでるし、ポワポワピンク髪はタビトをお師様と呼んでるし、ミャゲルはいつも通りだし。

 

「うーん……自己紹介からしませんか?色々整理したいです!」

 

「それもそうですね~」

 

 ミャゲルに真っ先に同調したのは、ポワポワピンク髪だった。身長はミャゲルより少し高いくらい。見た目の身体つきは普通だが、

 

「ワタシ、スーザンって言います~。お師様……タビト様の弟子で、冒険者してます~。ランクはCです~」

 

「Cランク……!先輩ですね!私はミャゲルです!テツロウ様の弟子をやらせてもらってます!」

 

 なるほど、タビトのねぇ……。というかミランダもそうだが、弟子を取ることが流行ってるのだろうか。俺の場合は半ば不可抗力な感じだったが……。

 

「ラソラちゃんだぇ~」

 

「知ってるわ。寧ろそれ以外の情報が無いんだよ、何者だ婆さん」

 

「おばあ様は、この周辺を治める領主様なんです~」

 

「ええっ!?」

 

 何となく察してたけどやっぱそうか……。

 

「つーか降りろ。てか疲れねぇのかよ」

 

「平気だぇ~。元Aランク冒険者じゃしの~」

 

 妙にがっしりしがみついてるなと思ってたら……

 

「アンタには後で用がある……で、だ」

 

 ……あんまり触れたくないが、一応、会ってしまった以上は無視ってわけにもいかないよな。

 

「……あー……久しぶりだな、タビト」

 

「……うん」

 

 ……気まずい。……俺が騒ぎ立てたせいで雰囲気を最悪にした挙句、そのあとマスターアーツは解散した。

 それから、3年。頭を冷やすには長すぎるくらいの時間の中、山籠もりをしながら色々考えた。

 ……あの頃の俺は、マスターアーツって場所が全てだった。訳もわからないまま異世界に転移して、必死で鍛えて、同じ境遇の奴とか、気が合った奴で結成したマスターアーツ。

 唯一無二の絆があると思っていた。……いや、俺がそう思いたかった。転移前の世界で、人の繋がりが脆いことを実感してしまったから。今度こそ、と。

 だからこそ、ラーズが魔道具を起動した時は正直ショックだった。……深い闇に飲まれている間、孤独がずっと俺を支配していて……なぜだか知らないが、闇から解放されて皆の顔見た時に感じたのは、皆が無事だったという安堵よりも先に、怒りだった。

 どうして俺が魔道具の効果範囲に行くまで待ってくれなかったのか、逃げたならどうして助けに来てくれなかったのか、とか。信じていたものに裏切られた感じがずっと強くて、わめきちらして、拗らせて、逃げた。

 ……今思えば、幼稚な部分もあったなと思う。ジャウバの言う通り、覚悟が足りてなかった。

 冒険者は死と隣り合わせ……絶対の保証なんてどこにもない。それが命でも、絆でも。盲目的に信じすぎてはいけない。

 仲間は信頼して背中を預けられる存在だが、戦っていれば天秤にかけなければいけない時は必ず来る。

 どうしようもない状況になったとき、切り捨てられる覚悟、そして……切り捨てられる覚悟。

 この世界は、言うまでもないが日本とは比べ物にならないくらいに危険で溢れている。そんな世界で、戦うことを選んだのならば……そういうシビアなものについて、しっかり話あっておくべきだった。心が幼いまま、力だけを身につけてしまった。……だからこそ、本当の危機に直面すると、あぁいう風にパーティーが瓦解してしまうんだろうな。

 正直、今も割り切れてるかと言われれば怪しい。色々考えた結果、俺が出した結論は“人となるべく関わらずに、自分だけの世界で生きて行くことが一番楽”というものだからな。

 思い出すだけでモヤつくし、当時の仲間にはできれば会いたくもないし、根本的な考えは何も変わっちゃいない。

 ……それでも、まぁ、なんだ。タビトとは仲悪い訳じゃないし、それなりに長い付き合いだった。

 

「……その、テツロウ」

 

「……気にしてないと言えば、嘘になる」

 

「ッ!」

 

 ……泣きそうな顔で、見つめられちゃバツが悪い。あのことは、俺にも非があったんだ。タビトが悪いわけじゃない。

 

「でも、あー……なんだ。別にその……お前のことは、嫌いじゃねぇよ」 

 

「……ぇ」

 

 ……色々言いたいハズなんだけどな。……こう、今更色々言う気になれない。あんなことがあっても、長い間冒険者パーティーとしてやってきてたんだ。完全に嫌いになれるわけがない。

 

「……め……ん。ごめん……。ごめんなさい……!ボク、あの時何も言えなかった……!パーティーの一員なのに、何も言えなくて……っ!」

「あぁもう……泣くなって……」

 

「ごめん、テツロウ……!ごめんなさい……!」

 

「…………俺だってそうだっての。ごめんな」

 

 ……それから、タビトが泣き止むまでの数分間。誰も何も言うことはしなかった。その間そこに居たのは、元Sランク冒険者と冒険者ではなく……きっと、ただの子供だ。

 

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