元Sランク冒険者、弟子を取る〜引退後の生活は、おしかけ弟子のせいで滅茶苦茶です〜   作:サラダよりは肉が好き

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重苦しい感じの話は今回で終わりです。


第3話 元Sランク冒険者と、ミャゲルの過去

 行商人は、街から街へと移動して商売をする職業です。その日も、私と父は大きな街へと向かっていました。

 護衛にはCランク冒険者のパーティーを雇っていて、もし不足な事態が起こっても対処できる……はず、でした。

 夜も深まり、野営の途中……何か大きなものが地面に叩きつけられたようなズドン、という音で、私は目を覚ましました。それは父も同じだったようで、2人で野営のために張っていたテントの外を見ると……

 

「ブモオオオオオオ!!!!!」

 

 ……槍や剣と言った凶器を持った、数十体のオークの群れが、野営地を囲んでいました。護衛に連れて来た冒険者達は、Dランクのオークと言えど多勢に無勢だったのか既に死んでいて。

 今だからこそわかりますが、上位種でCランクのオークメイジやBランクのオークジェネラルとかも居た気がします。そんな中、Cランクの冒険者パーティーが生き残ることはまずありえません。

 

「ひっ……」

 

 恐怖で、声も出ませんでした。殺された死体、というのも初めて見たということもありましたし、何より、魔物に囲まれている状況が絶望的すぎて“あ、私死ぬんだ”って思っていました。

 父は私を抱きしめて、私を護ろうとしてくれましたが……そんなのは気休めにしかなりません。

 オークがこちらに近づいてきて、テントを無理やり剥がし……私達を殺そうと剣を振り下ろそうとしている姿が見えました。私は怖くて目をつぶることしかできず、その時を待ちます。

 ……しかし、剣が振り下ろされることはありません。目を開けた時、そこに居たのは、

 

「間に合って……はねぇか。悪い」

 

 軽装に身を包み、この有事にも拘らず武器を携帯している様子もない。黒髪の男性。

 オークは既に倒されていて、その男性は私に背を向けて“拳を”構えていました。

 

「すぐに終わらせる……!」

 

 その男性はオーク達の群れへと飛び込んで行きました。武器を持っていないのに、拳や蹴りを放つだけでオーク達が吹き飛んでいきます。

 よく見ると、他にも数人戦っているようで……剣を振るっていたり、魔法で戦っていたりしていました。

 ですが、私の目はどうしても武器を持たない男性に奪われます。あの人だけが、私に近づくオークを優先して倒していたから。

 そんなに時間が経たないうちにオーク達は全滅しました。

 助けてくれた冒険者達にそのまま護衛をしてもらえることになって……幼かった私は、武器無しの男性に純粋な疑問を問いかけます。

 

「どうしておにいちゃんはぶきをつかわないの?」

 

「ん?そうだなぁ……色々理由はあるけど、己の肉体を武器にして戦うことに憧れがあるし、かっこいいだろ?」

 

 そうやって笑う彼の姿を、今でもずっと覚えています。私を救ってくれた、武器を持たない冒険者。まるで英雄譚に出て来る英雄のようなその人の名前は、

 

「俺はテツロウ。マスターアーツのテツロウだ!街までよろしくな!」

 

 

「……それ以来、私の夢は“彼のように強い冒険者になること”になりました。そして、こうしてここに居るんです。師匠……いいえ、テツロウ様」

 

 ミャゲルと向かい合うようにして座り、話を聞いた。

 ……だいぶ昔に、そんなようなことがあった気がする。8年前。俺がまだBランクくらいだった頃だ。冒険者パーティー“マスターアーツ”を結成して間もない頃、ダンジョンがある街へ移動している最中に行商人とその娘を助けたことがあった。

 オークの群れに囲まれていたところに遭遇して、助けに入ったんだっけか。上位種も混じっていたが、元々Bランク以上の強さを持ち合わせていたマスターアーツの敵ではなかった。

 その後、モノのついでで護衛して別れたんだったな。行商人の娘が妙に俺に懐いていたっけ。

 ……まさか、ミャゲルのことだとは思っていなかったが。

 

「だから、こうしてここに居られるだけで本当は夢のようなんです。……テツロウ様の悪いい噂は知ってます。でも、私を助けてくれたときの、あの時の優しいテツロウ様が悪い人だなんて思えません!」

 

 ……あぁ、やめろ。そんな真っすぐな目で俺を見つめないでくれ。俺はそんな大層な人間んじゃない。他人から裏切られるのが怖いだけの臆病者なんだ。

 だけど……どうしてだろう。どうして胸の奥が少しだけ熱いんだ?

 あの日以来、俺に向けられるのは侮蔑や、嘲り。そんなものばっかりだったように思う。実際は違ったのかもしれないが、それでも俺の心は削れて、削れて、削れて。

 冒険者になんてなるんじゃなかった。そもそもこんな道を選ばなければ、こんな目に遭うこともなかったと思うようになった。

 もう、裏切られたくないと思っているのに、他人なんてこりごりだと思うのに。

 ……俺でも救えた奴がいるって事実が、何故だか俺を救ってくれる気がした。冒険者をやっていた意味があったんじゃないかと思えてしまう。

 この世界に来て、冒険者になって、がむしゃらに鍛えて、強くなった気がしていた。

 最初は薬草採取でもビクビクしていたのに、魔物が退治できるようになって、ランクが上がって、いつのまにか賞賛にも慣れて初心なんて忘れてしまっていたのだろう。

 忘れていたはずなのに……思い出して、今さら少しだけ実感する。

 ……俺が冒険者として生きた人生は、ただ裏切られるだけのものじゃなかったんだ。

 ミャゲルが俺に向ける、混じりっ気のない本気の視線は、いつのまにか何故だか不快じゃなくなっていた。

 ……どうして俺はすぐにこいつを追い出さなかった。その気になれば簀巻きにでもなんでもして捨てていれば良かったじゃないか。

 それなのに、キツイ修行をつける?笑わせてくれる。……俺は、心のどこかでこの1か月を楽しんでいた。

 こいつを追い出そうと色々考えているうちに、絆されてしまっていたのだ。……不覚だな。

 

「テツロウ様……?俯いてどうなされたのですか?」

 

 ……これは気の迷いだ。今まで通り、変わらない。キツイ修行をつけて、さっさと俺を見限ってもらって、逃げ出してもらおう。

 そもそも得物が違う。ミャゲルはダガーを使っているのだ。教えられることだって、きっと少ない。

 

「……なんでもねーよ。今日の修行は休みだ。畑仕事したら適当に過ごせ」

 

「やった……!で、ではなく!わかりました!」

 

「言っとくが、明日は今までよりキツイからな。……わかったらとっとと行け。“バカ弟子”」

 

「はい!……え?」

 

 ミャゲルが間抜けな顔をしてこちらを見る。……ったく、所詮は成人したてのガキだな。

 俺は自室へと行き、ベッドへ倒れ込む。今までと、何も変わらない。アイツを追い出すために修行をつける。それだけ、本当に、それだけだ。

 

 

 “拳王”テツロウが、冒険者を引退して山籠もりしている。

 その噂は、冒険者の間で都市伝説として語られていました。

 念願の冒険者になった私ことミャゲルは、テツロウ様が冒険者を引退していたことを前から知っていたのです。

 “マスターアーツ解散”。3年前、全員がSランク冒険者で構成されたパーティーが解散したというニュースは、瞬く間に世界に広まりました。

 原因は、“ダンジョンで足を引っ張った拳王テツロウが、仲間に暴行したこと”と言われています。

 ダンジョン攻略の際、足を引っ張って別の仲間を犠牲にしかけたテツロウ様が、他のパーティーメンバーに責められ、暴行に及んだ。

 そのことをきっかけにテツロウ様はパーティーを抜け、その後リーダーである“剣神タカミチ”の判断でパーティーは解散したそうです。

 もちろん私はそんなこと信じていません。ですが、世間一般のテツロウ様のイメージはこれで固まってしまっています。

 冒険者になった私は、行商人である父の手も借りながらテツロウ様について調べました。わずかな痕跡を辿り、色んな人に話を聞いて……たどり着いたのが、この山。

 謎の男が大金をはたいて、ド田舎の山を買った。その男は、1人旅なのに武器も持っていないにも関わらず1人で山に入っていき、時々町に降りて買い物をして帰っていく。

 そんな話にたどり着いた時、ピンときました。武器も持たずにそんなことができるのは、テツロウ様しかないと。

 興奮冷めやらぬ状態で山に入り、頂上付近にたどり着くころには行き倒れてしまったのは不覚です。冒険者として恥ずかしいことをしてしまいました。

 ですが、そのかいあってかテツロウ様に会うことが出来ました!

 記憶の中よりも、少し年をとっていて……なんだか、暗い雰囲気を纏ってこそいましたが、間違いなくテツロウ様です。

 テツロウ様は、8年前とは変わっていました。私の記憶の中のテツロウ様は、仲間達と笑いながら会話をし、言葉遣いはもう少し荒々しい感じだった気がします。

 今は無気力に声を発することが多いです。あ、でも……ヒートアップすると昔のような口調に戻っています。私と言い合いをしてる時とか。

 弟子入りは正直強引だったな、と私も思います。でも、私だってここまできて引き下がれません。

 話を聞かない奴と言われようとも、強引であっても、私は憧れの人の傍で強く……肩を並べられるようになりたいんです!それに、暗い無気力な状態のテツロウ様を1人にはしておきたくありませんでした。

 結果的に、テツロウ様に修行をつけてもらえることになりました!……なったのですが、どれもこれも一筋縄ではいかないものばかりです……辛い。

 私を追い出すためにやっているみたいですが、そうはいきません!こうなったら弟子として、死ぬまでしがみついてやりますとも!

 それに、テツロウ様は優しいところもあります。私に帰れといいつつも、美味しいごはんを毎日つくってくれるし、お風呂も沸かしてくれますし、ベッドはいつもふかふかです。それがなければとっくに私はくたばっていたかもしれません……。

 厳しくてぶっきらぼうなところはあるけど、根本的には良い人。それが今のテツロウ様……いえ、師匠です!

 正式に?弟子と認めてもらえたみたいだし?これからもっと頑張ります!おー!




弟子の行く末は、果たして……。
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