元Sランク冒険者、弟子を取る〜引退後の生活は、おしかけ弟子のせいで滅茶苦茶です〜   作:サラダよりは肉が好き

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愉快な日々が続きます。


第4話 元Sランク冒険者と、修行の日々。

 「じゃあ今日はの修行は、四つ手モンキーを20匹狩るまで帰れまテン。ってことで頑張れよー」

 

「群れの中に放り投げないでくださいよ師匠の鬼ィー!!!」

 

 仕方なく、本当に仕方なく、ミャゲルを弟子と認めてから1週間が過ぎた。図らずも、それまでの修行で体力や筋力、敏捷性など基礎的なものは向上していたので実践へ移る。

 四つ手モンキーはDランク魔物だ。名前の通り、チンパンジーの腕を4本にした姿を想像してもらえれば間違いはない。

 チンパンジーと言えど侮ることなかれ。そもそもチンパンジーは握力が200キロ以上ある化け物である。森や山で生きる彼らはその機動力も高い。そんな生物の手が四本あるのだ。脅威でしかない。

 この世界の人間……とりわけ冒険者の大半は、魔力を使って身体能力を強化する術を身に着けている。強化魔法と言われる魔法の初歩だ。身体能力は俺が元居た世界の……わかりやすくいえば、現代人のソレよりも高い。

 まぁ渡り合えなくはないだろうが……四つ手モンキーは群れで行動するからな。実際の危険度はC+ってところか。

 

「……っ!」

 

「ウキャアアアアア!!!」

 

 次々と襲い掛かるモンキーたちの攻撃を、ミャゲルは冷静に躱していく。突然放り投げられても切り替えて、すぐにモンキーの観察に移っていた。やはり1年経たずにDランクに昇格するような奴は違うな。まぁ放り投げたのは俺なんだけど。

 ミャゲルはやがて、岩壁へたどり着いた。モンキーたちもそれを追いかける。

 岩壁に背を預けるミャゲル。一見追い詰められたように見えるが、それは違う。

 あぁやって襲い掛かってくる数を制限している。森のなかで戦って、360度囲まれるよりはずっと良い。

 

「やあっ!」

 

「ウキャアアアアア!?」

 

 襲い掛かってくるモンキーの攻撃を予測し、動き出しを潰すように接近。首をダガーで切り裂く。

 ミャゲルは観察眼と敏捷性に優れている。逃げながらもモンキーの動きの癖を観察していたのだ。その上で、猫の獣人独特のしなやかながらも鋭い敏捷性。それらを活用するバトルセンスもある。

 1匹、また1匹と仕留めていく。流石に無傷とはいかないが、この調子なら問題無いだろう。

 しかし、モンキーたちもやられるだけではない。残り5匹になったところで、

 

「ウキョアアアア!!!!!」

 

 一斉に飛び掛かる。しかし、ミャゲルはこれにも見事に対応してみせた。モンキーたちが飛び掛かる瞬間、低い体勢でモンキーたちの下をくぐり抜けたのだ。

 モンキーたちとミャゲルの立ち位置が逆になる。モンキーたちが一か所に集まったところで、

 

「“フライングエッジ!”」

 

 魔力をダガーに込めて、大きい斬撃を飛ばした。それにより、モンキーたちの首が纏めて切り裂かれ、絶命。思ったよりも早く終わったな。

 フライングエッジの原理は某格闘ゲームの波〇拳と似たようなものである。魔法使いよりは魔力の燃費が悪いが、それでも近接職には貴重な魔力を使った攻撃手段だ。

 技名を叫ぶのはお約束……ではなく、声を出すことによって一連の動きを結び付けることが目的である。何回も繰り返して行くうちに技名を言うこともなくなるだろう。

 ちなみにあの攻撃手段は俺が教えた。魔力を自分だけではなく武器や衣服に纏わせるところから始まり、最終的には攻撃と共に魔力を飛ばす。魔力が底を尽きるまで何度も繰り返させてようやく習得したのだ。

 魔力が枯渇すると死ぬほどしんどくなるのだが、この山には薬草などの健康に良いものが自生している。魔力が回復する薬草を煎じたポーションを飲ませながら、何度も何度も頑張らせた。ちなみにポーションは滅茶苦茶苦い。青汁を何倍にも濃縮した感じである。

 ミャゲルは四つ手モンキーの狩猟証明部位である爪を全て切り取り、死体を一か所に纏めて処理した後に俺の元へと走ってくる。猫だからか平気で木の上とかを飛び移ってくるんだよな。どこに居ても割とすぐに追いついてくる。

 

「師匠ッ!毎回思うんですけど唐突に放り投げるのやめてもらえませんか!?心臓がいくつあっても足りません!」

 

「……?」

 

「その“俺なにかやっちゃいました?”みたいなすまし顔もやめてくださいよ!もー!」

 

 仕方なく弟子として認めてやってから、ミャゲルの態度がだいぶ砕け始めた。平気で俺に意見するし、強気で来ることが多い。まぁ無視して修行に放り込むのだが。

 

「大体!いつも限界ギリギリから一歩向こう側まで私を追い詰めるじゃないですか!どうして自分が生きてるのか不思議で仕方ありませんっ!」

 

「じゃないと修行にならないだろうが。別に逃げ出したいならいつでも構わんぞ。お土産もつけるし」

 

「逃げません!でもお土産は下さい!」

 

 これである。文句は増えたが、逃げるという選択肢が無いらしい。厄介極まりない。段々図々しくなてきてるなコイツ……。

 

「それだけ元気ならまだ続けられるな。じゃあ今度はグリーンウルフの群れにぶん投げてやろう」

 

「間髪入れずにそれは流石に鬼すぎますああああああああ!?」

 

 最近は大体こんな日が続いている。ミャゲルが思ったよりも奮闘するから、どうにも修行にも熱が入りがちだ。

 

「師匠の鬼ィ!悪魔ァ!!人でなしいいいいいい!!!」

 

 やっぱり見殺しにしてやろうかな……。

 

 

「師匠、お休みを下さい!」

 

「お?とうとう逃げ出す?逃げ出しちゃ「違います!」あぁそう……」

 

 ある日の夕食時、ミャゲルが休みをくれと言い出した。自分から言い出すことがなかったので珍しいことだ。

 

「実は、そろそろ依頼をこなさないと冒険者登録が切れてしまいそうなんです!」

 

「あぁ……そういやそんなのもあったな……」

 

 Dランク以下には、依頼達成ノルマが課せられている。一定期間に一定量の依頼をこなさないと資格がはく奪されるのだ。具体的には3か月に10件くらい達成する必要がある。

 ミャゲルがこの山に来てから1か月と半月。そろそろ依頼を達成しないと不味い時期だ。

 

「ついでに大量に依頼をこなして、修行の時間を確保します!」

 

 ムフー!と鼻息を荒くして張り切るミャゲルを眺めながら、俺は倉庫に魔物の素材がそれなり溜まっていたことを思い出した。ブラッドオーガの角やら、ミャゲルが修行で狩った四つ手モンキーの爪、グリーンウルフの牙などなどだ。

 これらを換金するにはもちろん山を下りて町へ行く必要がある。そして、人数が増えたからか調味料の減りも加速してるな……。

 

「……いいだろう、休みをやろう。俺も行く」

 

「師匠も!?やったー!」

 

「素材の換金もあるし、そろそろ買い出しも必要だからな。町にいる間、特に行動は制限しないから好きに動け。俺は適当なタイミングで帰るから」

 

「はい!速攻でノルマを達成して、すぐに戻って来ますね!」

 

「戻ってこなくていいぞ」

 

 耳をピコピコと動かし、尻尾がゆらゆらと動いて嬉しそうな様子だ。なんだかんだ修行はきつかったのだろう。一時的とはいえ、解放される喜びは相当なものらしい。気持ちは痛いほどわかる。

 

「修行の成果を依頼で試せますね……!やるぞー!おー!」

 

 そういうモチベーションがあるらしい。……この1か月と少し。最近の実践以外は基礎トレしかやらせていない気もするが、それなりにマシにはなっただろう。

 

 ……しかし、この時俺はミャゲル以上の面倒事が起こるなんて、思ってもいなかったのだ。

 




師匠とは滅茶苦茶なもの……。
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