元Sランク冒険者、弟子を取る〜引退後の生活は、おしかけ弟子のせいで滅茶苦茶です〜   作:サラダよりは肉が好き

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これが予約投稿による毎日投稿の力ァ!


第5話 元Sランク冒険者と、魔法妃ミランダ。

 次の日、売却する素材をバックに詰め込んでミャゲルと共に山を下りた。 

 山から街まではおおよそ徒歩で半日かかるが、俺ならば大幅な短縮が可能だ。

 まぁ魔力で強化した肉体で駆け抜けるだけなのだが。馬とかの動物を使うよりも、自分で走ったほうが早い。

 

「師匠ォ!腕が!腕の筋肉がもう限界ですううううう!!!」

 

 もちろんミャゲルにその速度を求めるのは酷なので、修行がてら俺に必死にしがみついてもらっている。

 途中何度かミャゲルが、揺れに耐えかねて車酔いのような状態になった時は流石に焦った。頭の上でリバースはされたくない。

 仕方ないので何回か休憩を挟んで、おおよそ2時間くらいで町の付近へ到着した。

 町に入る前に、俺は特殊な外套を身に纏った。認識阻害の魔法がかけられたものだ。これでも元Sランク冒険者。自意識過剰かもしれないが、あまり目立ちたくはない。

 

「では師匠。私は冒険者ギルドへ行ってきます!」

 

「じゃあ素材も換金してきてくれ。俺はあまり冒険者ギルドへ行きたくない」

 

「わかりました!……師匠?ブラッドオーガの素材は、流石にDランクの私が売るには目立つんですけど……」

 

「貰ったとか言っとけ。じゃあ俺は買い出ししたあと帰るから」

 

「師匠!?ちょっと待っ……!もういないし!?」

 

 仮にこれで金を持ち逃げされたところで困ることでもないし、あとはミャゲルに任せよう。それに、久しぶりのひとり行動だ、満喫してやろうじゃないか。

 ということで早速商店街へ。調味料の調達が主な目的だ。

 

「……醤油はあるか?」

 

「おうらっしゃい……黒ローブのあんちゃんか。久しぶりだなぁ。ご贔屓にどうも」

 

 町では、俺は黒ローブの料理人ということになっている。山に籠って料理研究をしている物好き料理人「ウロウ」。それがこの町での俺の名前だ。

 

「しかし、毎回毎回醬油なんて高級調味料を買っていきやがって……どこからそんな金が出てるんだか」

 

「詮索はするな。……それに、それを言うならこちらの台詞だぞ。毎回良く仕入れられるな」

 

「売るアテがあるなら無理やりでも仕入れるさ。おっと、詮索は無しだぜ?」

 

 ここの店主とも3年くらい……俺が山を買って移り住んだ頃からの付き合いだ。こういう軽いやり取りは嫌いじゃない。店と顧客くらいの関係が、俺には丁度良い。

 

「他に必要なものはあるかい?」

 

「塩に砂糖。後はコショウと油もくれ」

 

「あいよ。あんちゃんが来ると売り上げが馬鹿みたいに上がるから助かるぜ」

 

 色々と買い込み、料金を払ってその場を後にする。調味料類は高級品だ。高いというだけではなく、在庫が無い時も多い。買える時に買っておかないとな。

 その他にも必要なものを買い込み、夕方になったので酒場でひと休みすることにした。これだけ買いこめば、しばらく山に引きこもれるだろう。

 ミャゲルの修行も、そろそろ次の段階に移行しても良い頃だ。……いやいや、なんで修行のことを考えている。別に真面目に修行をやる必要はないんだ。いずれ辛さに耐え切れずに逃げ出すだろうしな!はっはっは!

 

「……ビール、うめぇ」

 

 一人で飲む酒は格別に美味い。注文した唐揚げとビールの相性は最高だ。転移前は未成年だったから、酒の何が良いのか全く理解していなかった。いざ飲酒をしてみると、これほど幸せなことはない。

 唐揚げの塩味を、ビールで流し込む。これだけのことで大体のことはどうでも良くなってしまう。それほどに心が満たされていく。

 嬉しい時、悲しい時、なんでもない時も、酒は平等に酔いを与えてくれる。

 

「……もし、そこの御仁」

 

 炭酸が喉を通る瞬間、爽快感が口の中に広がる。さっぱりした口の中にまた唐揚げを放り込み、頬張る。これの繰り返しに勝るものはあるだろうか?いやない。

 

「そこの、黒いローブの御仁」

 

 しかし飲みすぎは禁物だ。これから山へ走って帰らないといけないからな。料金をテーブルに置いて、さっさと退散するとしよう。そうしよう。

 

「そこの逃げ出そうとするイかした黒いローブの阿呆!待たんかバカタレが!!」

 

「痛だッ!?」

 

 逃げ出そうとした所を、杖で殴られて阻止されてしまった。

 ……この俺が物理攻撃で痛みを感じた。俺を殴った女は、“俺と同じ”黒いローブを羽織っている。蠱惑的なその声と、ローブの下から主張する胸の双丘からは妖艶な雰囲気が隠しきれていない。

 何より、ユグドラシルという木を使って作られたその杖はこの世に2つとない。所持しているのは、この世でただ1人。

 

「む……?お主、まさか、テツロウか?」

 

「人違いです」

 

「待たんか!!」

 

「痛ったぁ!?」

 

 全力で逃げようとした瞬間に、再び杖で殴られて引き留められてしまった。

 ……この女の正体は、俺が元所属していた冒険者パーティー“マスターアーツ”のメンバー。あらゆる属性の魔法を操るその姿から、“魔法妃”と呼ばれたSランク冒険者の魔法使い。

 

「このミランダの顔、忘れたとは言うまい?テツロウよ」

 

 “魔法妃ミランダ”……世界でも指折りの冒険者の1人だった。

 

 

 結局ミランダと同じテーブルについて、新しくビールと唐揚げを注文することになった。しかも俺のおごりだ。クソッタレにも程がある。

 

「つーか、軽々しく俺の名前を呼ぶな。目立ちたくないんだよ」

 

「何、防音魔法と幻覚魔法をかけてあるでな。傍目からは儂らが何を話しているか聞こえぬし、男二人が酒を飲んで雑談している程度にしか見えぬよ」

 

「相変わらず器用なこって……」

 

 俺はとある出来事がきっかけでパーティーを抜け、冒険者を引退した。正直、パーティーメンバーの顔は好んで見たいものじゃないが……ミランダのことは、まだマシに思っている。

 ミランダは仲間ではあるが、俺達の相談役のような立ち位置だった。転移者が半分以上の割合を占めていたマスターアーツの中で、ミランダは正真正銘現地人なのだ。

 エルフということもあり長生きで知識も豊富だったし……解散の出来事になった“あの出来事”にこいつは関わっていない。バツが悪いから会いたくないのは間違いないのだが。

 

「一体なんの用でこんな辺鄙な町まで来たんだよ。“魔法妃”様が来るような場所じゃねぇだろ」

 

「別に大したことはない。ちと弟子を取ってな。その修業の旅の途中に立ち寄っただけのことじゃ」

 

 弟子をとった?……まぁ、ミランダならありうるか?長生きしているせいか、退屈を紛らわせてくれる娯楽には目がないしな。

 まぁそれを加味しても、よく弟子なんてとったものである。魔法妃と呼ばれるほどの魔法使いだ。マスターアーツにいた頃も、弟子入り志願者は山のように押しかけていた。しかしミランダは、

 

『面倒だからパスじゃ』

 

 といって、一切弟子を取らなかったのだ。広い意味で言えば、マスターアーツのメンバーが弟子とも言えなくはないんだが。彼女からは皆が魔法を教わった。

 俺もその一人だ。ミランダから結界魔法を教えてもらった。

 

『ただでさえ軽装姿で敵に突っ込んで行くのじゃ。防御面くらい帳尻合わせんか』

 

 などと言われて無理やり教えられたのだが、今となっては重宝している。山に張ってる結界とか。

 

「というか、どうしてと聞きたいのはこちらの方じゃ。世間では死亡説まで出る始末なお前さんが、こんな辺鄙なところで何をしておる。しかも儂が作った認識阻害のローブを身に着けてのう」

 

「え、俺死んだことになってんの?なら好都合だな。隠居してんだよ。自由気ままに暮らしてるんだ。わかったらとっとと居なくなれ。シッシッ」

 

 ミランダ個人に恨みはないが、こいつを通じて他の奴ら……マスターアーツの奴らに出くわしたくない。間違いなく面倒なことになる。

 

「あくまで世間一般で死亡“説”が出てるというだけの話じゃ。それに言われんでもここへは長居はせんよ。明日には発つわい。王都に呼び出されておるでな」

 

「王都だぁ?一体何が……いや、言わなくていい。聞いたら厄介事に巻き込まれるのが目に見えてるからな」

 

「もう冒険者じゃないお前さんに話しはせん。……じゃが、残念じゃのテツロウ。お前さんがいれば心強かったのじゃが……」

 

「……そうかよ」

 

 ……かつての仲間に、こういう風に言われるのは悪い気分じゃない。ミランダは、人をからかう癖はあるがなんだかんだ俺達のことを気にかけてくれていた。転移者が珍しいから、という理由からかもしれないがな。

 それでも、彼女から教わったことが糧になっているのは確かだ。

 

「残念じゃ……ウブなお前さんをからかいながら旅をするのは楽しかったのにのう……プクク」

 

「少し感動しかけてた俺の気持ち返せ」

 

「……お前さん、前から思っていたがチョロすぎはせんかの?」

 

「うるせぇ……ったく」

 

 前言撤回。すごく悪い気分になりました。これだからミランダは……。

 冒険者時代も、そのグラマラスな肢体を存分に利用して俺を含む男連中をからかっていた。こちらから手を出そうものなら、仲間の女連中の鉄槌が飛ぶのだが。

 赤くなりそうだった顔を誤魔化すように、ビールを飲み干す。やはり酒。世の中の大体の出来事は酒を飲むことで気にならなくなるのだ。

 

「すまんすまん。久しぶりにお前さんと会えたことが嬉しくての。ついつい興がのってしまったわ。……さて、そろそろ行くとするわい。そろそろ弟子が宿に戻ってくる頃じゃ」

 

「おう、とっとと行け」

 

 ここで別れてさえしまえば、もう二度と……少なくとも、しばらく会うことはないだろう。寂しさはある。だがそれ以上に、俺は自身の平穏な生活を守ることが大事なのだ。

 実際はミャゲルのせいで平穏とは言い難いがな……。

 俺もそろそろ町を出るか。ミャゲルがどのくらい町に滞在して依頼をこなす気かは知らないが、1人のうちに存分に自由な山ライフを満喫しなければ。

 ミランダを見送って、ゆっくり唐揚げを食べ終わってから俺も外に出る。全力で走れば30分で帰れるだろうか。全力疾走は目立つが、そろそろ夜も近い。この時間帯ならば見られる心配もないだろう。

 帰ったら、ここの店の唐揚げの再現でもして過ごそう……

 

「師匠は臆病者なんかじゃありません!!!取り消して下さい!!!!」

 

 ……あーあー、ミャゲルの声なんか聞こえない、聞こえないッ!

 




急に叫ぶよ。
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