元Sランク冒険者、弟子を取る〜引退後の生活は、おしかけ弟子のせいで滅茶苦茶です〜 作:サラダよりは肉が好き
師匠に言われた通り、私は冒険者ギルドで素材を換金をしていました。
「お、お嬢ちゃんこれ……ブラッドオーガの角じゃねぇか……!まさか、お嬢ちゃんがコレを!?」
「い、いやいやいや!ち、違います!これは私の師匠が……!」
流石にこんな高級品を貰ったなんて言える筈もなく……私には師匠が居て、師匠に換金してもらえるように頼まれたということにしました。う、嘘は言っていませんし!
どうやら、師匠は自分の正体がバレることを良く思っていないようです。弟子として、師匠に迷惑をかけるわけにはいきません!
金額は……とんでもないことになりました。1~2か月は仕事をしなくても暮らせてしまうくらいです。ブラッドオーガなんてAランク魔物の換金、実力が伴わないのにするものではないですね……。
その後は、予定通り依頼をこなすことにしました。Dランク以下の冒険者は、どんな小さな依頼でも良いので3か月以内に依頼を10件こなさなければ資格をはく奪されます。
ギルドエンブレムは、境遇問わず獲得できる身分証のようなもの。登録だけして仕事をしない、なんて人員を減らす措置だそうです。
一般的に冒険者は、狩猟や薬草採取など、同時にこなせそうな依頼を数件受けるのが主流です。例に漏れず、私も数件の依頼を受注して早速街の外へ出ました。
町の外にある森で、食用になるEランク魔物“一角ラビット”を狩ったり、薬草を採取していると……自分の中の異変に気が付きます。
妙に感覚が研ぎ澄まされている気がして、直ぐに獲物を見つけることができてしまったり、薬草の場所を直ぐに発見できたり。
もちろん魔物の生態や植物の知識はあるのですが、まるで森が教えてくれているかのようにすぐに発見できました。
「これも修行の成果でしょうか……?」
まぁ、あんなに滅茶苦茶な修行を1か月もしたんですから、成果の1つも欲しい所ですけどね……。
あと、妙に疲れにくくなっているような気もします。前なら、依頼をこなすだけで必死で、終わった後は疲れて宿で寝る生活でしたが……今日は、数時間経った今でもそれほど疲れを感じていません。
なんなら心に余裕があります。……原因は、間違いなく山での修行の日々でしょうけど。あの環境に比べれば、この森は天国のようなものです!
師匠の修行は滅茶苦茶だけど、こうして冷静に考えてみると理に適っている気がします。以前、師匠にどうしてこんな滅茶苦茶な修行なのか聞いた事がありました。
『あ?文句があるならさっさと逃げ出してくれると助かr……理由をちゃんと知りたい?はぁ……それはお前、アレだよ。冒険者の基本は肉体だからな。体力が尽きれば冷静さも失う。戦いも探索もおろそかになるだろ?基礎がなってないとそもそもどうにもならねぇんだよ。技とか細かいことはその次だな』
走らされたり筋トレばかりやらされている理由がわかった気がしました。こうして身になっていることを実感すると嬉しくなります!
一角ラビットと薬草を持って、冒険者ギルドへ戻り報告。すっかり夕方になってしまいました。
でも、この調子で依頼をこなせば一週間もしないうちに山に戻ることができそうです。
修行は辛いし、逃げ出したくなることがないとは言いませんが……それでも、この1か月。憧れの師匠と過ごしている時間は楽しいです!早く戻れるように頑張ります!
そうやって1人で意気込んでいると……
「ちょっと、お話いいかしら?」
「え?私、ですか?」
私と同い年くらいの、ヒューマンの女の子に話しかけられました。冒険者ギルドにいるから、冒険者なんでしょうけど……。
黒いローブに身を包んで赤い髪をおさげにしている美人さんです。杖を持っているところを見ると、魔法使いでしょうか?
「あなたが、半年でDランクになった冒険者のミャゲルさん?」
「はい、そうですけど……あなたは?」
「私はサリーナ。3か月でDランクになった、天、才の!魔法使いよ!」
えへんと胸を張って自己紹介するサリーナさん……驚きました。まさか同い年くらいの、女の子の冒険者に出会えるなんて思いませんでしたから。
それに、Dランク……ランクまでお揃いなんて。
「噂で、すぐにDランクに昇格した天才が居るって聞いてね。1度お話してみたかったのよ……ほら、女の子で同い年の冒険者ってあまりみないから」
「ですよね!男の子とかは割と見るんですけど……私もお会いできて嬉しいです!」
サリーナさんとは、お話が弾みました。女の子冒険者のあるあるとか悩みとか。
女の子の冒険者は、どうしても舐められがちです。下品な視線を向けられたりすることもしばしば。気にしないのが一番なのですが、良い気持ちはやはりしません。
だから、女の子の冒険者は組んだりすることもあります。互いを守りあったり、愚痴を言ったり。ですが私は師匠を一生懸命探していたので、そんな仲間も居ませんでした。
今の生活に後悔はありませんが、それでも同年代の友達ができるのは嬉しいことです!
色々と雑談をしているうちに、どこかでご飯でも食べようって話になり、外を歩いていました。
「それにしても、サリーナちゃんはDランクなんですよね?それも3か月でなんて……最速記録じゃないですか?」
「当然よ!私天才だし!……まぁ、それだけじゃなくて、師匠に修行をつけてもらったからなんだけどね」
「サリーナちゃんには師匠が居るんですか!?」
Dランクに昇格するための条件は単純明快で、ギルドが指定する依頼を達成することです。依頼は数も種類も毎回変わりますが、新人冒険者にとっては達成するのが難しいものばかり。腕っぷしだけじゃなくて、正しい知識が無いとクリアできない難易度のものが指定されます。
私の時はオークの駆除と、魔力を回復する薬草、魔力草の採取。オークはDランクモンスターで、動きは鈍いですがパワーがあって厄介な相手です。魔力草は一定の条件下でないと自生しておらず、正しい知識がなければ見つけることが出来ません。
私は元々冒険者を目指していましたから、幼い頃から鍛錬や勉強を重ねていました。それでも半年かかったけど、サリーナちゃんは3か月でなんて……。
それに、師匠がいるのもお揃い!共通点が多いですね!
「えぇ!どんな魔法も使いこなす最強の師匠がね!」
「そんな凄い人が師匠なんですね!」
「えぇ!師匠は凄いのよ!……修行は地獄だけど……」
元気一杯なサリーナちゃんがしょぼんとしています。……どこの師匠も、やはり修行は地獄になるものなのでしょうか?
「……アタシね、いつか伝説のパーティー、マスターアーツのように……魔法妃ミランダ様のように活躍するのが夢なんだ」
「マスターアーツのように……大きな夢ですね」
「えぇ。……だから、立ち止まってられないのよ」
サリーナちゃんも憧れの人がいるんですね……途轍もなく遠い目標だけど、サリーナちゃんの目は真っすぐに私を見ていました。本気で目指しているんだと思います。
「私も、実は憧れてる人が居るんです。マスターアーツに」
しょ、触発されて思わず言ってしまいました。師匠が……拳王テツロウ様がこの町にいることは秘密なのに……!
そ、そのことさえ言わなければきっと平気ですよね!
「へぇ……ミャゲルちゃん軽戦士っぽいし、やっぱり正義賊ラーズ様とか?」
ラーズ様はマスターアーツの斥候です。罠を見抜く達人ですが、凄腕の軽戦士でもあって、魔法と道具を使いこなして戦う女傑なんです!ですが、私の憧れは違います。
「ラーズ様のように、かっこいい女性として活躍できれば良いなとは思いますけど……違います。私が憧れているのは……拳王、テツロウ様です」
世間での噂はもちろん承知の上で、正直なことを話します。私は自分の憧れに、師匠に嘘をつくような真似はしたくありません。
「……ミャゲルちゃん、悪いことは言わないわ。そいつだけはやめときなさい」
サリーナちゃんは、予想通りの言葉を返してきました。
輝かしいSランク冒険者パーティー解散は、冒険者の中でも惜しまれていた話題です。様々な偉業があるだけに、解散の原因と噂されている師匠の風当たりはとても強く……そのことには、心が痛みます。
「確かに、拳王テツロウの実力はSランクの冒険者の中でも指折りと言われていたけど……」
「そうなんです!……だから、“足を引っ張ったことがきっかけでパーティーを抜けた”なんて、考えられなくて」
「それはアタシも同感。……じゃあ、なんでテツロウはマスターアーツを抜けて、冒険者を引退したの?」
……人に関わりたくないと、師匠は言っていました。きっと解散するときに、何かあったに違いありません。
「……どんな理由があるにせよ、Sランクだったのに、力があったのに消えるなんて無責任よ」
無責任なんて……!師匠にだって事情があったはずです。確かに、師匠はすぐに私に“とっとと修行投げ出して逃げろよ”とかいじわるも言いますけど、私を見捨てることはしませんでした……!
「力ある者には、責任が生じるってアタシは思う。……テツロウが、マスターアーツを解散のきっかけになったことは間違いないわ!それなのにテツロウは、Sランクの責任も何もかも放り投げて逃げた!……アイツは、臆病者よッ!」
……マスターアーツが、ミランダ様が憧れだとサリーナちゃんは言っていました。きっと、ミランダ様が所属していたパーティーが解散していることにも、思うところがあるんだと思います。
それに、力ある者の責任という話もわからないでもありません。サリーナちゃん自身が、まさに力をつけようと努力しています。きっとそういう考えを持っているのには事情があるんでしょう。
それでも……!あの日私を救ってくれた拳王テツロウは!私に修行をつけてくれている師匠は!
「師匠は臆病者なんかじゃありません!!!取り消して下さい!!!!」
何も知らないあなたが貶していい人じゃない!
信じたものは、譲らない。