元Sランク冒険者、弟子を取る〜引退後の生活は、おしかけ弟子のせいで滅茶苦茶です〜 作:サラダよりは肉が好き
翌日、ミャゲル、サリーナとか言う小娘、ミランダ、そして俺は町の冒険者ギルド支部、その地下訓練場へと訪れていた。
冒険者ギルドの支部には、冒険者たちが訓練するための訓練場が設置されている。本日はそこを貸し切っていた。
どうやら、ここの支部長のおっさんとミランダは顔見知りらしい。訓練場を借りたい旨を話すとすぐに明け渡してくれた。ミランダの顔をみるやいなや顔を青ざめてたけどな。一体コイツ、支部長に何をしたんだよ……。
ちなみに俺は、認識阻害のマントを羽織り、ミランダの知り合いということで通してもらっている。
「それでは、模擬戦を始める。相手に“まいった”と言わせた方の勝ちじゃ。異論はないな?」
「ありません!」
「わかりました、ミランダ先生!」
これは余談だが、本来冒険者同士の私闘はご法度だ。しかし模擬戦ならば話は別。こうして、同ランク以上の冒険者の立ち合いの下ならば許可されている。
昨日、ミランダの“模擬戦をしろ”という唐突な提案に、ミャゲルとサリーナは最初こそ困惑していたが、すぐに乗り気になった。“修行の成果を試すために丁度良い”というのが両者の言い分である。ミランダの狙いも恐らくそこだろう。自身の弟子に戦闘経験を積ませたいんだろうが……。
「やめといた方が良いと思うがな……」
「見てて下さい師匠!絶対勝ちますから!」
「随分と自信満々ね……その自信、どこまで持つかしら」
「では、勝者は敗者に要求を通せるものとする。ミャゲル。お主の望みはなんじゃ」
「もちろん!師匠への侮辱の撤回を求めますっ!」
「ではサリーナ。望みはなんじゃ」
「アタシは……テツロウの弟子を辞めて、アタシとパーティーを組むことよ」
「え!?」
驚いた顔をするミャゲル。まぁミャゲルは半年でDランクに上がる逸材だし、観察眼もある。パーティーに1人は欲しい人材だ。
ミランダと共に行動をしているだろうが、流石に依頼にまでミランダはついてこないだろうしな。その度に1人で依頼をこなしたり、臨時でパーティーを組むのは骨が折れる。
「ミャゲルちゃん……いいえ、ミャゲル。昨日はああ言ったけど、あなたは優秀よ。年も近いし、気も合うと思ってる。アタシは、あなたが欲しいの」
「サリーナちゃん……」
「でも……その男はダメよ。うら若き乙女が、うだつの上がらないアラサー男と一緒に過ごして健全な訳がないわ……!」
おい小娘。事実でも言っていいことと悪いことがあるぞ。
「師匠とは離れたくありません!確かに独身のアラサーですけど!」
「ねぇ今追い打ちかける必要あった?よし小娘!遠慮なくミャゲルをぶったおせ!ついでにミャゲルも貰ってけ!」
「言われなくてもそうするわ!」
「師匠!?」
……と、ふざけて小娘を応援したはいいが、この勝負、予想が正しければすぐに決着が着くだろう。
「やれやれ……それでは両者、構え……始めッ!」
さて、実際にはどうなるかな……。
☆
向かい合う少女が2人。
1人はミャゲル。半年でDランクへ昇格した天才にして、元Sランク冒険者“拳王テツロウ”の弟子。
もう1人はサリーナ。3か月でDランクへ昇格した、こちらも天才。現役のSランク冒険者“魔法妃ミランダ”の弟子。
それぞれの師匠を立ち会い人として、戦いの火ぶたが切られる。
「早速いくわよ……!風魔法、ストーム!」
「っ!」
先に動いたのはサリーナだ。風属性の魔法で風を生み出す。ミャゲルにとって逆風になるソレはミャゲルの動きを鈍らせつつ、自身は風を利用して距離を取った。そして、
「一気に決めさせてもらうわ!火魔法、ファイアーボール!」
火属性の魔法、ファイアーボール。火属性攻撃魔法の基礎だ。威力も高くはない。……本来ならば。
「2属性使いですか……それにあれがファイアーボール?なんて大きさ!そして数が多い……!」
「当たり前じゃない!アタシは、天才なのっ!」
通常のファイアーボールの大きさはせいぜい人間の頭くらいのものだ。しかし、サリーナのファイアーボールは通常より2回り程大きい。
魔法は、つぎ込む魔力が多いほど威力を増す。これはそれの現れだ。
加えて、サリーナが出したファイアーボールの数は6個。魔法の多重展開は高等技術である。
「行けっ!」
サリーナの操作で、ファイアーボールがミャゲルへと迫る。
「ッ!」
かなりの速度を持ってミャゲルを穿たんと飛ぶ連続火球だが、獣人のミャゲルにとって、躱すことは難しくない。
問題は、躱した後だ。ボウッ!と地面に着弾した火球は、火を周囲に散らす。流石に二次被害は防げない。
「熱っ……!」
「残念だけど、この距離はアタシのテリトリーよ!諦めて降参したら?」
「……」
ミャゲルはそれに答えない。目は見開かれ、その視線はサリーナへ注がれている。
「無視とはいい度胸ね……!いたぶる趣味はないの!これで、終わりっ!ファイアーボール!」
ゴウッ!という音を立てて、今度は10個のファイアーボールが燃え盛る。そして先ほどよりも速く、今度は一斉にミャゲルに襲い掛かった。
「……見えた」
小さな声で、ミャゲルは呟いた。
ミャゲルが居た場所にファイアーボールが着弾する。ミャゲルはそれをモロに受け、模擬戦は決着した……かに思われた。
「これでアタシの勝ちね……やばっ、ちょっと魔力込め過ぎたかな……」
「どこ見てるんですか?」
「え———」
サリーナが勝ちを確信した瞬間、ミャゲルは既にサリーナの背後へと回り込み、ダガーを首筋に当てていた。
「……まいったって言ってくれないと、首筋を少し切って出血してもらわないといけないんですけど……どうします?」
「う、そ……いつの間に……」
「“魔法が派手すぎ”です。威力が高いからか、燃え盛る炎の音が大きかったので足音は消せましたし、着弾後に燃え広がる炎も目くらましには丁度良かったですよ。流石に無傷ではないですけど」
ミャゲルの肌は、所々火傷している。それでも、彼女はファイアーボールをかいくぐりサリーナの下までたどり着いた。
「……まいったわ。無詠唱は流石にできないし、この距離で魔法を撃ったら自分にも当たる」
「そうですか……ふぅ」
勝者はサリーナ。相手の能力の高さを逆手に取った勝利だった。
☆
「勝者、ミャゲル!……まったく、儂の弟子はまだまだ未熟じゃな」
「こうなると思った。ミランダ、あの小娘“実践の経験”少ないだろ。勉強ばっかりさせてんじゃねぇのか?」
「そういうわけでは無いが、冒険者ランクをちと早く上げすぎたかの。……まぁ魔法の勉強を始めたのがだいたい3年前じゃからな。実戦経験を突かれると痛いところじゃ」
勝敗を分けたのは、実戦経験とバトルセンスの差だと俺は思っている。
サリーナは天才なのは認める。魔法には属性に対する適正っていうのがある。基礎属性 の火、水、土、風、雷。あとは珍しい特殊属性の闇、光。属性問わず発動できるが、威力がある魔法を扱いにくい無属性。これがこの世界の魔法属性だ。
適正っていうのは、言葉の意味通り向いてるかどうか。常人なら1属性、上等な奴は2属性の適正を持ってる。訓練次第で伸ばすことも可能だが、体質が変わらんように向き不向きは存在する。
サリーナは模擬戦で、魔法を学び始めてから3年程で火と風の2属性を扱っていた。それに加えて……
「……火傷した部分見せて。———水属性魔法、コールド!」
「ありがとうございます!」
水まで扱える。練度に差はあるだろうが、まともに属性魔法を発動できるだけ充分適正はあるって言える。あの若さで3属性なら、鍛えればミランダのように全属性を扱うことも夢じゃないだろう。
習得が天性のものに大きく左右されることもあってか、魔法は強力で便利なものが多い。実際Dランクに上がるまでは魔法の力でなんとかなっていたんだろう。知能が低い魔物なら、魔法を撃ち込めれば敵はいない。しかし、だからこそ濃厚な実戦経験を積めないとも言える。
その点、ミャゲルは冒険者になることを目標に、鍛錬を積み、様々な知識を蓄えて来た。
魔法を扱える訳でもない、軽戦士のミャゲルがDランクに上がるということは、充分に地力があることを意味している。
それとは別に、ミャゲル自身が観察眼に優れており、戦闘中冷静に対処できたことも勝因の1つだな。
最初の攻撃で、ファイアーボールの速度と燃え広がり方を確認。打ち出した後、次の攻撃にインターバルが生まれたことを確認して、ファイアーボールの音と着弾後の炎を利用して自分の物音や姿を消し、獣人特有の俊足で回り込むように移動。背後を取ってチェックメイトってところだ。これはミャゲルのバトルセンスが凄い。獣人は獣の本能からか、戦いが上手い連中が多いしな。
ミランダがそのことに気がついてないなんてことは無いと思うが……
「ミランダ。お前わかっててミャゲルの相手をさせたな?」
「何の事やら……」
……自分の弟子の修行にミャゲルを使ったか。相変わらず食えないババアだ。
「……これでいいわ。一応後で薬草も使って治療してちょうだい」
「はい!」
「さて、勝敗は決した。……サリーナ。わかっておるな?」
「……っ、はい、先生」
サリーナは、俺の目の前に立ち頭を下げる。
「偉大なる先達、テツロウ様を侮辱する発言をしたこと、誠に申し訳ございません」
律儀な奴だ。わざわざ俺に頭を下げるとは……
「受け取っとく。……で、本音は?」
「……あなたのことは、やっぱり認められない」
「サリーナ!」
「良いぞミランダ。こいつの言い分は別に間違っちゃいない。確かに、冒険者から逃げたことは間違いないからな。昨日の侮辱は取り下げて貰ったことにしておく」
「師匠……」
俺のために頑張ったらしいミャゲルには申し訳ない気持ちも無いわけではない。だが、心から納得していないものを無理やり納得させるのは、違うように感じる。
俺だって、未だにパーティー解散の件は……理解はできても納得できない部分はある。
「要件は終わったか?……じゃあ俺は帰る。畑の手入れもしなきゃいけないしな」
「……テツロウ、お主はそれで良いのか?このまま俗世から距離を置くことが、お主の望みか?」
「望みだよ。俺はもう、面倒なことに悩まされたくないんだ」
「…………そうか。お主がそういうなら、何も言うまいよ」
小さく溜息を吐くミランダを一瞥することなく、俺はこの場から離れるべく歩みを進める。
……わかっているさ。冒険者を辞めて、アイツらと向き合うことから逃げているのは、俺だ。
あの時起こった出来事は、詳しく思い出したくもない。……だが、客観的に見れば話合えば解決できた問題だったのかもしれないな。俺に、他人を思いやる心でもあれば解決した可能性だってある。
“それでも”、俺は納得できなかった。納得できなかったから……逃げたんだ。
弟子なんてイレギュラーは仕方ないが、これ以上自分から何かをする気には、なれない。
気を取り直して、帰ってからのことを考える。調味料は大量に買い込んだ。帰ってからの飯が楽しみだ。
「緊急クエスト発令だ!……オーガの大群が、町に近づいている!!!」
……いい加減平和に帰らせてくれねぇかなぁ!?
厄介事は、次から次へと。