元Sランク冒険者、弟子を取る〜引退後の生活は、おしかけ弟子のせいで滅茶苦茶です〜 作:サラダよりは肉が好き
急いでギルドを逃げ出そうと思った頃には、ギルド内に冒険者が押し寄せてきていた。吹き飛ばして帰ることもできるが、目立つからやりたくない。
ミャゲル、サリーナ、そしてミランダも訓練場から戻って来ていて、逃げ出せる雰囲気でも無くなってしまった。
支部長が、冒険者が集まったことを確認して詳細を話を始める。支部長の頭が眩しいのが微妙に気になるな……。あそこまでのツルッパゲは見たことがない。真面目に話を聞けるかは怪しい。
「つい先ほど、Cランク魔物、オーガの群れが町に向けて進軍している様子が確認された。依頼から戻ってきた冒険者からのタレコミだ。……斥候を送って、既に確認もとってある」
「……数はどれくらい居るんですか?」
ミャゲルが、緊迫した雰囲気に負けずに手を上げ質問を飛ばす。本当に度胸はあるよな……冒険者なんだから、無いと困る話ではあるんだが。
「およそ100匹。……Aランクモンスターの、ブラッドオーガも確認されている……」
ブラッドオーガの存在が明かされると、冒険者たちはざわめき出す。
「ブラッドオーガだって!?」
「そんな……!この町のギルドに、Aランク冒険者なんていないわよ!?」
「オーガだけなら、死ぬ気でやればなんとかやったかもしれないが……」
こちらの総数は30人程度ってところだ。町の衛兵も足せばもうちょっと稼げるかもしれないが、Aランクが混じってるなら荷が重いな。
……本来なら、だが。
「……やれやれ、仕方ないのぅ」
ミランダは認識阻害のローブを脱いで、支部長の横に立つ。露になるのは、あらゆる魔法を使いこなすSランク冒険者、“魔法妃”ミランダだ。
……ローブの下の恰好があまりにも目に毒だけどな。全体的な露出は少ないんだが、胸あたりが強調されすぎていて煽情的になっている。
「狼狽えるでない……ここには儂がおる。そうじゃろう支部長?」
「み、ミランダ姐さん……」
「ミランダ!?あのSランク冒険者か!?」
「どうしてこんなところに……」
冒険者たちが目の前のミランダに注目する。そりゃそうだ。Sランク冒険者なんてそうそう見かけるものじゃない。
「いいんですかい?ミランダ姐さんのランクに見合った報酬なんて直ぐに用意できやせんが……」
「仕方なかろう。それとも、他にAランクを相手できる冒険者が居るとでも?」
「……お言葉に甘えさせていただきやす。報酬は他のギルド支部にも連絡して、かき集めますんで!」
「ということじゃ!ミランダの名に懸けて、勝利を約束しよう!」
「「「うおおおおお!!!!」」」
勝機が見えたことで、冒険者たちの士気が目に見えて上がる。実際、Aランクのブラッドオーガが何体いたところでミランダの相手じゃない。アイツに任せておけば、何事もなく終わるだろうな。
何とかなりそうだし、俺はとっとと帰らせてもらおう……。
「……ミランダ先生」
「サリーナちゃん?どうかしたんですか……?」
サリーナがミランダを心配そうに見つめていたが……気にする必要はないな。
「ところでオーガってどっちの方面から来るんだ?」
「あぁ、向こうの……ほら、物好きが買った山がある方角から来るってよ」
俺の帰り道からだと!?
☆
「……はぁ~~」
「師匠!ため息ばかりだと幸せが逃げますっ!」
「どうしてコイツも来るのよ……冒険者は辞めたんでしょ?」
どうしてもこうしてもない。あの後、構わず帰ろうとしたらミランダの拘束魔法に捕まった。そのまま現場の近くまで引きずられて今に至るわけだ。
「弟子の雄姿くらい見届けてやってもよいではないかテツロウ……おっと、ここではウロウだったのう?」
今回のこの防衛戦にはミャゲルとサリーナが参加する。Dランクではあるが、戦闘能力だけで見ればCランクと言えなくもないからだそうだ。
そもそもあの町の冒険者は少ない。人手は少しでも欲しいところだろう。
「来たぞ!オーガの群れだ!」
冒険者の1人が、敵の来襲を告げる。ぞろぞろと緑色の人型魔物が現れ……その中に、ポツポツと赤い肌の個体が見えた。ブラッドオーガだ。
そういえば、1か月ちょっと前にも山に来たことがあったな……オーガ種は、普段このあたりに現れないはずだが。
「情報通りと言ったところだな。よし!出番だ冒険者共!通常のオーガを確実に始末しろ!ブラッドオーガはミランダ姐さんが引き受けてくれるからな!」
「よっしゃあ!」
「俺達の町を守れッ!!」
「やったらぁ!!!」
支部長の号令で、冒険者たちは雄たけびを上げてオーガの群れと対峙する。
「修行の成果、見せます!」
「あの程度に負けてられないわ……!」
ミャゲルとサリーナの弟子コンビも、その実力を発揮していた。
ミャゲルはオーガの攻撃を持ち前の俊敏性でかいくぐり、隙をついてオーガの首を切り裂き、サリーナは模擬戦の時よりも魔力を込めたファイアーボールを発射してオーガを攻撃する。
オーガは強靭な肉体を持つ強力な魔物だ。決して弱い相手じゃない。だがそれは冒険者達も同様だ。
オーガはパワーこそあるが、素早いとは言い難い。冷静に対処できたなら、地力のある冒険者なら駆除は可能だ。
鈍重な動きという弱点を克服しているのが、Aランクのブラッドオーガだったりするが……
「ふむ……ブラッドオーガの数は多いわけではないようじゃな」
「ゴッ!?ガガガッ……!?ガアアアアア!!!」
こちらにはミランダがいる。Sランク冒険者のミランダにとっては、ブラッドオーガは脅威ではない。
他の冒険者に被害が及ばないようにブラッドオーガを魔法で拘束……そのまま締め上げて、ブラッドオーガを絶命させる。俺にもかかっている無属性の拘束魔法、キャッチリングだ。
リング状の魔力で肉体を拘束する……だけの魔法なのだが、魔力を込めて魔法の効果範囲を縮小するとリングがギチギチに締まり……対象は弾ける。
次々と、オーガたちが倒されていくな……ミャゲルやサリーナも、連携しながらオーガの相手をしている。一度模擬戦をしたからか、即席コンビでも中々の活躍ぶりだ。
「……ブラッドオーガが何とかなれば、蓋を開ければこんなモンか。存外、あの町の冒険者も優秀だな」
「お主も手伝ってくれても構わんぞ?」
「冗談言うなよ。お前が居るのに必要ないだろ……」
およそ30分。オーガの軍勢との戦いは続く。冒険者側も無傷では済まなかったが、オーガの数は半分程にまで減少し、ブラッドオーガもミランダがほぼ片づけていた。
……ミランダが本気を出せば、数分で終わる戦闘けどなコレ。
「お前が本気出せばすぐ終わっただろ。どうしてこんな回りくどいことしてんだよ」
「先達が後進に見せ場を譲らんでどうする。弟子の修行にもならん。……それに今はちと事情が……ッ!?」
ミランダが話を中断し、オーガがやって来た方角を見た。
空に、金色の線が伸びる……いや、伸びている。
こちらに向かってその線は……いや、魔物は近づいて来ていた。……まず感じるのは、莫大な魔力だ。
次に感じるのは、圧。近づいて来るにつれて、肌に刺す程の強烈な気配を感じる。
魔物は、やがて戦場へと姿を現す。空から降ってくるように、轟音を立てて地面へと“着弾”した。
衝撃が戦場に広がり、土煙が舞う。
「うわあああ!?」
「なんだ……?何が起こった!?」
「グガアッ!?」
冒険者も、オーガも巻き込んで吹き飛ばす。土煙が晴れる頃、その姿を現した。
その体躯はおよそ2.5m程。ブラッドオーガに比べると小柄だ。しかしそれは、弱くなったということではない。
ブラッドオーガよりも遙かに隆起した筋肉、そして光り輝く身体からは、実際の大きさよりも何倍の存在感を感じさせる。
……嫌な感覚だ。俺は、いや、俺とミランダはこの感覚を何度も味わったことがある。
人類を超越する生物、魔物……その頂点。
「……ォォォオオオオオオオオ!!!!!!」
Sランク魔物が、文字通り戦場に降り立った。
Sランク魔物、登場。