宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第六章 間話
第106話  宍戸丈、NDL最初の戦い


 あらゆる物事には終わりがあるように必ず始まりがある。リレーだってそうだ。スタートがなければゴールはないし、そもそもスタートがなければレースを始めることだって出来はしない。

 それはプロデュエリストの世界にとっても同じことだった。

 ペガサス会長の誘いと影丸理事長の陰謀、他にも様々な思惑があって宍戸丈はナショナル・デュエル・リーグに加盟した。

 その決断を丈は後悔していない。だがいざプロとして最初のデュエルの日を迎えてみると体が興奮して抑えがきかないものだ。

 I2カップでペガサス会長が丈のために用意した黒い服についたゴミクズをパっと手で払い立ち上がる。

 

「なんだテメエ、まさか今更になってビビッてんのか?」

 

 入場口では星条旗のデザインのバンダナを巻いた男がニヤニヤと笑いながら立っている。

 男の名はバンデット・キース。丈がNDLになってからは以前のいざこざの縁もあって色々と助けてくれた人物だ。お礼を言うと本人は「別にお前のためにしたんじゃねえ」と否定するが一種の照れ隠しだろう。

 

「ビビってるとは少し違う。ただやっぱり一生に一度のプロ初試合だし緊張はするよ」

 

 緊張はある。不安が欠片もないとも言えない。だがそれ以上に高揚がある。これまでテレビの向こう側から眺めるだけだったプロデュエリストの世界にこれから飛び込むのだという興奮が冷めてくれない。

 

「テメエには三邪神のことで借りがあるからな。一つだけこの俺、バンデット・キース様直々に助言してやるよ。幾らプロデュエリストの試合つっても別に負けても死ぬわけじゃねえんだ。気張る必要なんざねえよ」

 

「あんまりジョークにならないな、それ」

 

 だがキースの言う通りだ。丈はこれまで負けたら死ぬどころか負けたら人類が滅亡するというデュエルを何度かやってきたのだ。

 それに比べればこのデュエルにかかっているのはプロとしての黒星と宍戸丈の名誉。人類の滅亡と比べれば大した価値のあるものでもない。無意味に緊張する必要もないだろう。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

 気合を取り直して丈はキースに言うと、入場ゲードを堂々と歩いていく。

 これまでの人生で一つだけ分かった事がある。デュエリストはその人生で様々なデュエルをするし、多くの駆け引きも経験する。しかし結局のところいざデュエルとなればベストを尽くす以外に出来ることなどないのだ。

 だから丈は相手が誰であろうとベストを尽くすことだけを考える。

 

『さぁ! 北のゲートから入場するのは奇跡の復活を遂げたバンデット・キースを除けば今年ナンバーワンの超大型ルーキー! 宍戸丈だぁぁあああああああああああ!!』

 

 入場口から出るとMCの雄叫びのような声と観客の視線と喝采が降り注ぐ。

 数年前ならその熱気に萎縮したかもしれないが今となっては慣れたものだ。三邪神を前にした時と比べれば大したものではない。

 

『年齢は若干15歳! キング・オブ・デュエリストの故郷ジャパンより海を越えての参戦だぁぁぁああああああああああ!!

 ジュニア・ハイスクール時代に出場したI2カップではインセクター羽蛾、レベッカ・ホプキンスなどを下しての優勝!! そして復活したネオ・グールズを倒しあの三幻神と対を為す三邪神の担い手でもあるという新たなるレジェンド!! プロ初試合のこのデュエル、一体どのようなプレイングを見せてくれるのかっぁああ!?』

 

 三邪神というフレーズを聞いて更に観客が盛り上がる。ネオ・グールズ残党は本当に面倒なことをしてくれたものだ。

 宍戸丈が三邪神の担い手であることを言いふらしまくってくれたせいで過度な期待を抱かれてしまう。

 

『そして新進気鋭の大型ルーキーに対するはあの武藤遊戯や城之内克也との対戦経験もあるベテランデュエリスト、孔雀舞だぁぁああああああああああ!!』

 

 観客の歓声を颯爽と受け流しつつ綺麗な足取りで美しい金髪をもつ妙齢の女性が歩いてくる。

 孔雀舞、その名前をデュエリストで知らない者はいないだろう。武藤遊戯を筆頭とする〝伝説の三人〟にネーミングで及ばないまでも、ペガサス王国やバトルシティなど名だたる大会で必ず本選に出場してきた歴戦のデュエリストだ。

 初戦の相手が伝説級のトッププロとはつくづく厄介事に事欠かない星の下に生まれてしまったらしい。

 対戦相手である孔雀舞はしげしげと丈の顔を観察するとクスリと笑う。

 

「アンタが宍戸丈? へー、城之内のやつがアカデミアに凄そうなやつが四人いたって言ってたけどアンタがその一人なわけね」

 

「伝説のデュエリストの城之内さんにそう言われてくれると光栄ですね」

 

 丈がそう言うと孔雀舞は呆気にとらわれたように目を丸くしてからクスクス笑いだした。

 

「?」

 

「ふふふっ。悪いわね、いきなり笑って。けど城之内の奴が伝説だなんて余りに可笑しかったから。あいつも偉くなったわね。つい少し前まではドのつくような初心者だったのに」

 

 丈のような、伝説のデュエリストたちの活躍をテレビで眺めてきた身としてはそんなこと言われても恐れ多いだけだ。

 だがきっと同じ時代を駆け抜けてきた者にしか分からないことがあるのだろう。

 

「それじゃいつまでもお喋りしても仕方ないし始めるわよ。言っておくけど、私は相手がプロ入りほやほやのルーキーだからといって手は抜かないわよ。折角大型ルーキーだなんて宣伝されてるところ悪いけど、記念すべき初試合に黒星をプレゼントしてあげるわ」

 

「だったら俺は白星をもぎ取るまで」

 

 バトルシティ時代からの愛用品なのだろう。孔雀舞の旧式のデュエルディスクと丈のブラックデュエルディスクが同時に起動した。

 表示される4000のライフポイント。こうして向かい合った以上、もはやベテランもルーキーの違いもない。ただ二人のデュエリストが勝つか負けるかの戦いをするだけだ。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 宍戸丈と孔雀舞は同時に力強く宣言した。

 

『遂に始まったぁぁああああ!! NDLが誇るハーピィ・レディ使い孔雀舞と超大型ルーキー〝魔王〟宍戸丈の一戦!! 宍戸丈、初試合からいきなりドリームマッチ開始だぁああああああああああああああああ!!』

 

 ドーム中の観客が興奮して二人の立つデュエル場を見つめる。

 長い髪を手で払いつつ舞が言う。

 

「NDLでは初試合のルーキーに先攻を譲るのが恒例になっているのさ。最初のターンはアンタにあげるよ」

 

「……ではお言葉に甘えて。俺のターン、ドロー!」

 

 亮のように後攻有利なデッキなら兎も角、先攻を譲ってくれるというのに受け入れないという選択肢はない。

 丈はデッキからカードを引いた。

 

「俺は神獣王バルバロスを攻撃表示で召喚! 来い、バルバロス!」

 

 

【神獣王バルバロス】

地属性 ☆8 獣戦士族

攻撃力3000

守備力1200

このカードは生贄なしで通常召喚する事ができる。

この方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。

また、このカードはモンスター3体を生贄して召喚する事ができる。

この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。 

 

 

 丈のデッキの切り込み隊長にして神に仕える従属神では最強の力をもつバルバロス。

 フィールドに駆け降りたバルバロスは紫電を纏ったスピアを舞へ向ける。だが孔雀舞は歴戦のデュエリスト。形の良い眉を少し動かした程度で全く動じなかった。

 

「リバースカードを二枚伏せてターンエンド」

 

「伏せカードを警戒せず自由に動ける先攻ターン。妥協召喚できるモンスターを呼んでカードを二枚伏せる。ま、妥当なプレイングかしらね。

 だけど当たり障りのないプレイングで勝てるほどNDLは甘いところじゃないよ! 強欲な壺でカードを二枚ドロー。アタシは手札からハーピィの狩場を発動!」

 

 

【ハーピィの狩場】

フィールド魔法カード

「ハーピィ・レディ」または「ハーピィ・レディ三姉妹」が

フィールド上に召喚・特殊召喚された時、

フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を破壊する。

フィールド上に表側表示で存在する鳥獣族モンスターは

攻撃力と守備力が200ポイントアップする。

 

 

 周囲が巨大な鳥の巣のような風景に変化する。いや真っ平らな地面だけで見晴の良いそれは巣というよりも狩場というべきだろう。

 フィールドにいるバルバロスが緊張したように身を固める。ここが狩場であるなら当然狩人がいるはずだ。そしてその狩人は舞の手札の中に潜んでいる。

 

「そしてアタシはハーピィ・チャネラーを攻撃表示で召喚!」

 

 

【ハーピィ・チャネラー】

風属性 ☆4 鳥獣族

攻撃力1400

守備力1300

手札から「ハーピィ」と名のついたカード1枚を捨てて発動できる。

デッキから「ハーピィ・チャネラー」以外の

「ハーピィ」と名のついたモンスター1体を表側守備表示で特殊召喚する。

「ハーピィ・チャネラー」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

また、自分フィールド上にドラゴン族モンスターが存在する場合、このカードのレベルは7になる。

このカードのカード名は、フィールド上・墓地に存在する限り

「ハーピィ・レディ」として扱う。

 

 

 狩場に住まう狩人たるハーピィが翼を羽ばたかせて木の上に降り立つ。そして地面にいるバルバロスを見下ろし舌なめずりをした。

 

「ハーピィ・チャネラーはフィールドと墓地に存在する限りカード名を『ハーピィ・レディ』として扱う。そしてハーピィの狩場の効果、ハーピィ・レディまたはハーピィ・レディ三姉妹が場に召喚・特殊召喚された時、フィールドに存在する魔法・罠を一枚破壊する!

 アタシが刈り取るのはアンタの左のリバースカードよ。やりなさい!」

 

 ハーピィ・チャネラーが長いかぎ爪をリバースカード目掛けて振り下ろしてくる。だが丈としてもただその様を眺めている義理はない。

 

「この瞬間、チェーンしてリバースカードオープン。速攻魔法、終焉の焔! 俺の場に黒焔トークンを二体出現させる」

 

 

【終焉の焔】

速攻魔法カード

このカードを発動するターン、

自分は召喚・反転召喚・特殊召喚する事はできない。

自分フィールド上に「黒焔トークン」

(悪魔族・闇・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。

このトークンは闇属性モンスター以外の生贄召喚のためには生贄にできない。

 

 好きなタイミングで発動できるのはこういう時、相手の破壊効果を無効にして発動できるので便利だ。

 本当なら終焉の焔は相手のエンドフェイズ時に発動したかったのだが贅沢は言ってられない。

 

「小賢しいわね。けどまだ終わりじゃないよ。ハーピィ・チャネラーの特殊能力、手札よりハーピィと名のつくカードを捨てることでデッキよりハーピィと名のつくモンスターを表側守備表示で特殊召喚できる!

 アタシは手札のハーピィ・ガールを捨ててハーピィズペット竜を表側守備表示で召喚!」

 

 

【ハーピィズペット竜】

風属性 ☆7 ドラゴン族

攻撃力2000

守備力2500

このカードの攻撃力・守備力は、

フィールド上の「ハーピィ・レディ」の数×300ポイントアップする。

 

 

 いきなり最上級モンスターのドラゴンがフィールドに降り立った。名前の通りハーピィ・レディに飼われているドラゴンなのだろう。主であるハーピィの前に立ち塞がるとギロリと睨んでこちらを威嚇してきた。

 最上級モンスターにしては攻撃力はたったの2000だが場に「ハーピィ・レディ」扱いのハーピィ・チャネラーがいるため攻撃力は2300だ。

 

「更に万華鏡-華麗なる分身-を発動! 私の場にハーピィ・レディが表側表示で存在する場合、自分の手札またはデッキよりハーピィ・レディまたはハーピィ・レディ三姉妹を特殊召喚できる!」

 

 

【万華鏡-華麗なる分身-】

通常魔法カード

フィールド上に「ハーピィ・レディ」が表側表示で存在する場合に発動する事ができる。

自分の手札・デッキから「ハーピィ・レディ」または

「ハーピィ・レディ三姉妹」1体を特殊召喚する。

 

 

 万華鏡に映し出されたようにハーピィ・チャネラーの姿が残像のように増える。残像はやがて姿を変え三体のハーピィ・レディを映し出す。

 

「現れなさい。私の可愛いしもべ、ハーピィ・レディ三姉妹!」

 

 

【ハーピィ・レディ三姉妹】

風属性 ☆6 鳥獣族

攻撃力1950

守備力2100

このカードは通常召喚できない。

「万華鏡-華麗なる分身-」の効果で特殊召喚する事ができる。

 

 

 三姉妹の名に違わず三体のハーピィ・レディが得物を前にした狩人特有の猛々しい笑みと共に舞の前に降り立った。

 ハーピィ・レディ三姉妹とハーピィズペット竜。ハーピィを代表するモンスターが最初のターンから揃い踏みだ。やはり孔雀舞、歴戦のデュエリストは伊達ではないということか。

 

「三姉妹が特殊召喚されたことでハーピィの狩場の効果が再び発動。アンタの場のリバースカードを破壊する」

 

 これで丈の場に残るのは攻撃力1900のバルバロスと二体の黒焔トークン。傍から見れば絶体絶命だろう。だが、

 

「それはどうかな」

 

「なんですって!?」

 

「万華鏡-華麗なる分身-が発動した時、俺もチェーンして魔法カードを発動していた。速攻魔法、禁じられた聖杯を。

 禁じられた聖杯はこのターン、モンスターの攻撃力を400ポイント上昇させ効果を無効にするカード。バルバロスは妥協召喚されたモンスター。禁じられた聖杯によりその効果はなくなり元々の攻撃力に戻る。そして更に禁じられた聖杯で攻撃力が400上昇し攻撃力は3400だ」

 

「……攻撃力3400。幾らハーピィの狩場でハーピィの攻撃力が200ポイントアップしても勝てないわね。だけどアンタが華麗なる分身を使ったタイミングで禁じられた聖杯を発動した理由は他にもあるんでしょう?

 城之内が言うだけあるわね。まだ高校生の坊やにしては強かなことをするじゃない」

 

 ハーピィの狩場が消失し元の風景に戻っていく。

 これがハーピィの狩場の弱点。魔法・罠カードを破壊する効果は任意ではなく強制のため丈の場に魔法・罠がなければ舞は自分のカードを自分で破壊することを強いられるのだ。

 だからこそフィールドにある唯一の魔法カード、ハーピィの狩場が破壊されたのだ。他ならぬハーピィの狩場によって。

 

「まぁいいわ。バトル! ハーピィ・チャネラーとハーピィ・レディ三姉妹で黒焔トークンを攻撃!」

 

 黒焔トークンの攻撃力守備力はゼロ。ハーピィの前に為す術もなく撃破される。

 

「バトルを終了。メインフェイズ2へ移行。手札より魔法カード、テラ・フォーミングを発動。デッキからフィールド魔法を手札に加える! アタシはハーピィの狩場を手札に。そしてそのままハーピィの狩場を発動!」

 

 再び周りの景色が元の狩場に戻っていく。上手く狩場を消し去れたと思ったのに、既に次の用意があったとは。やはり油断できない相手だ。戦術の奥に更にもう一つの戦術を用意してきている。

 

「カードを一枚伏せる。ターンエンド!」

 

 だがデュエルは始まったばかり。本当の勝負はこれからだ。




 お久しぶりです。適当に休んだのでちょくちょく投稿します。

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