宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第107話  隠し玉

宍戸丈 LP4000 手札3枚

場 神獣王バルバロス

 

孔雀舞 LP4000 手札1枚

場 ハーピィ・チャネラー、ハーピィズペット竜、ハーピィ・レディ三姉妹

伏せ 一枚

フィールド ハーピィの狩場

 

 

 

 序盤。いきなりの召喚ラッシュとハーピィの狩場による除去ラッシュにより当初の計画は崩壊。終焉の焔をエンドフェイズで発動し生け贄要因を揃える計画は完全に台無しになってしまった。

 孔雀舞が積み重ねてきた戦績は伊達ではない。数多くのデュエリストたちとの対戦経験はルーキーでは到底出せない深みを戦術に与えている。

 丈はそれなりのデュエリストではあるが〝年季〟に限っていえば孔雀舞とは勝負にもならない。

 

(年季で勝てないなら、ルーキーの〝勢い〟で勝負するしかないな)

 

 ベテランにはルーキーがもっていないものを多く持っている。だが同じようにルーキーだってベテランが持っていないものを多く持っている。

 ここで丈が武器とすべきはそれだ。ルーキーだけがもつ勢いを活かさない手はない。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 バルバロスは攻撃力3000の強力なモンスターだが、逆に言えば攻撃力だけしか強味がない。

 孔雀舞のハーピィ・レディを中心としたデッキは攻撃以外の除去を豊富にもつデッキだ。攻撃力だけのバルバロスではやや相性が悪い。ここは少し勿体なくても除去に強いカードを出す。

 

「おろかな埋葬を発動。デッキよりモンスターを一体墓地へ送る。俺が墓地へ送るのはレベル・スティーラーだ」

 

 

【おろかな埋葬】

通常魔法カード

自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る。

 

 

【レベル・スティーラー】

闇属性 ☆1 昆虫族

攻撃力600

守備力0

このカードが墓地に存在する場合、自分フィールド上に表側表示で存在する

レベル5以上のモンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターのレベルを1つ下げ、このカードを墓地から特殊召喚する。

このカードは生贄召喚以外のためには生贄にできない。

 

 

 デュエルディスクにセットされていたデッキを抜き、レベル・スティーラーのカードを墓地へ置いた。

 フィールドのモンスターのレベルを一つ下げるだけという緩い蘇生能力をもつレベル・スティーラーは、丈のデッキにおいて『終焉の焔』に次ぐ召喚の要ともいうべきカードである。

 

「俺はバルバロスのレベルを一つ下げて墓地よりレベル・スティーラーを蘇生。そして俺はバルバロスとレベル・スティーラーを生け贄に捧げる!」

 

「攻撃力3000のバルバロスを生け贄にするですって!」

 

 強力な最上級モンスターを敢えて生け贄に捧げる。そうそう見ないプレイングに孔雀舞の目が見開かれた。

 だが最上級モンスターの数が下級モンスターの数より多いという非常に特殊な構成となっている丈のデッキにおいては至極よくあるプレイングである。

 

「降臨せよ、堕天使アスモディウス!」

 

 

【堕天使アスモディウス】

闇属性 ☆8 天使族

攻撃力3000

守備力2500

このカードはデッキまたは墓地からの特殊召喚はできない。

1ターンに1度、自分のデッキから天使族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。

自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、

自分フィールド上に「アスモトークン」(天使族・闇・星5・攻1800/守1300)1体と、

「ディウストークン」(天使族・闇・星3・攻/守1200)1体を特殊召喚する。

「アスモトークン」はカードの効果では破壊されない。

「ディウストークン」は戦闘では破壊されない。

 

 

 象徴とする大罪は〝色欲〟。男性的な鎧で体を包みつつも、どことなく女性的でもある堕天使が黒い羽を舞い散らしながらゆっくりと地面に降り立つ。

 ハーピィと堕天使。これで奇しくも同じ翼をもつモンスター同士が相対する形となった。

 

「堕天使アスモディウス。破壊された時に破壊耐性と効果耐性をもつトークンを残す最上級堕天使カード。デッキと墓地から特殊召喚できない制約をもつ大型モンスターをこうも簡単に。

 あのペガサス直々にNDLに招いただけあるわね。とても十五歳だか十六歳の坊やとは思えない戦い方だわ」

 

「……お褒めに頂き上々。堕天使アスモディウスのモンスター効果。1ターンに1度、デッキより天使族モンスターを墓地へ送ることができる。俺はデッキより守護天使ジャンヌを墓地へ送る。

 バトルフェイズだ。堕天使アスモディウスでハーピィ―・チャネラーを攻撃!」

 

 堕天使アスモディウスの瞳が妖しく光る。空に舞い上がったアスモディウスは本来狩人の側であるハーピィ―・チャネラーを逆に刈り取った。

 

「っ! まさか私が先手を……!」

 

 孔雀舞LP4000→2600

 

 堕天使アスモディウスとハーピィ―・チャネラーの攻撃力の差が戦闘ダメージとなって孔雀舞の(ライフ)を奪った。

 リーグ加盟したてのルーキーがいきなりベテランにダメージを負わせたことで観客の熱気が高まる。

 

『おおっと!! なんとも痛烈ゥゥ!! 最初にダメージを貰ったのはハーピィ・レディ使いの孔雀舞!! 宍戸丈。攻撃力3000の神獣王バルバロスを生け贄に捧げるという〝魔王〟の名に恥じぬプレイングによって先制したァーーーッ!』

 

 やや暑苦しいMCの声が会場に響き渡った。

 もはやこの暑苦しさと熱気にも慣れたものである。丈は特に動揺しないまま「ターンエンド」を宣言する。

 

「アタシのターン……ドロー。まったく驚いたわ。三邪神だなんだいって騒がれていたとはいえ、初試合のルーキーにこのアタシがキツいやつを喰らうなんて。

 お陰でいきなりデッキに投入したばかりの隠し玉を見せることになったわ!」

 

「隠し玉、だって?」

 

『ここで孔雀舞!! なにやら奥の手を出す構えをみせたぁぁぁぁッ! 一体孔雀舞のいう隠し玉とはなんなのか!!』

 

 MCの大音響もまるで耳に入って来ない。

 孔雀舞の浮かべる自信満々の笑顔。恐らくはこの戦況を一気に引っ繰り返すだけのカードを既に手札に持っている。

 

「アタシはフィールドにいるハーピィズペット竜、ハーピィ・レディ三姉妹。墓地のハーピィ・ガールをゲームより除外!

 フィールドを大気で取り込み制圧しなさい! 現れろ、The アトモスフィア!!」

 

 

【The アトモスフィア】

風属性 ☆8 鳥獣族

攻撃力1000

守備力800

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上に存在するモンスター2体と自分の墓地に存在する

モンスター1体をゲームから除外した場合に特殊召喚する事ができる。

1ターンに1度、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを

装備カード扱いとしてこのカードに1体のみ装備する事ができる。

このカードの攻撃力・守備力は、このカードの効果で装備した

モンスターのそれぞれの数値分アップする。

 

 

 この空間中の大気がブラックホールに吸い込まれるかの如く一か所に集まりだし、集まった大気がやがて一つの姿を形作る。

 雄大な翼が広がっていく。足のあたりには透明な白い球体状のカプセルがあった。

 そして風と大気が生んだ鳥獣モンスターが威嚇するように鋭く丈を睨んだ。

 

「レベル8で攻撃力が1000……?」

 

 最上級モンスターにしては異常なまでに低い攻撃力。だからといって丈にはThe アトモスフィアを舐める気は毛頭なかった。

 レベル8の最上級モンスターにランク付けされるには必ず理由がある。でありながら攻撃力が低いということは、そのモンスターの効果によって最上級のレベルを与えられたということに他ならないのだ。

 

「The アトモスフィアはフィールドのモンスター2体と、墓地のモンスター1体をゲームから除外した場合に特殊召喚することが出来る最上級モンスター。

 その効果は相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを装備カードとして吸収! その攻撃力と守備力を奪うことができるのさ!」

 

「ま、不味い!」

 

 丈のフィールドには攻撃力3000の堕天使アスモディウスがいる。The アトモスフィアからしたら恰好の得物だ。

 しかも最悪なことに堕天使アスモディウスのトークン精製能力は破壊されて墓地へ行った時に発動する。だが装備カード扱いとして吸収されてはその効果は発動できない。

 

「The アトモスフィア! 堕天使アスモディウスを吸収しなさい!」

 

 空間中の大気が今度は堕天使アスモディウスを吸い寄せていく。アスモディウスも抵抗したが抗え切れず、アスモディウスはThe アトモスフィアのカプセルに封じ込まれてしまった。

 アスモディウスの攻撃力である3000がアトモスフィアに加算された。ハーピィの狩場の上昇効果も合わせてアトモスフィアの攻撃力は4200。神のカードであるオベリスクやドレッド・ルートを上回った。

 そして丈のフィールドに壁モンスターはいない。

 

「バトルよ。アトモスフィアで相手プレイヤーを直接攻撃。テンペスト・サンクションズ!!」

 

 アトモスフィアの吐き出した大気の波動が丈へ襲い掛かった。

 丈には壁となるカードも攻撃を跳ね返す罠カードもない。だが手札にはまだ可能性があった。

 

「俺はクリボーを捨てることで戦闘ダメージを一度だけゼロにする!」

 

 大気が丈にぶつかる直前、手札から飛び出したクリボーが身を挺してその攻撃から主の身を守った。

 

「く、クリボーですって!? また懐かしいカードを」

 

 クリボーは弱小モンスターではあるもののキング・オブ・デュエリスト武藤遊戯が愛用したことで有名なカードでもある。

 武藤遊戯とは共に戦い戦った仲である孔雀舞からしたら馴染のあるモンスターだろう。

 しかし危ないところだった。もしもクリボーがなくアトモスフィアの攻撃が通っていれば、丈のNDL初デュエルにして初敗北が決定していただろう。

 

「仕方ないわね。バトルフェイズを終了しメインフェイズ2。私はこのターン、まだ通常召喚を行っていない。モンスターを一枚セットしてターン終了よ」

 

 取り敢えずこのターンは凌いだが中々不味い展開だ。

 ライフだけは上回っているが、手札はそれほど差がなくボードアドバンテージは明らかに相手の優勢。次のターンでもしもモンスターを引けなければ、そのままクリボーの奮戦空しく惨めに敗れ去るということすら有り得る。

 

「俺のターン……」

 

 丈は意を決してデッキの一番上に手をかけた。




 実はここだけの話、当初は丈の最初の対戦相手はラフェールの予定でした。ガーディアンのカードが余りにも少なすぎることで没となりましたが。

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