宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

111 / 200
第110話  突撃!藤原家のお家事情

「ここが藤原の家かぁ」

 

 初めて眺める藤原家を見て最初の感想は立派、だ。

 藤原は両親が亡くなった後、遠縁の親戚でもある俳優一家に引き取られたといっていた。俳優の藤原といえばデュエル関連以外は余りTVを見ない丈も名前だけは知っているというレベルの知名度をもっている。

 そんな有名人の住む場所だけあって藤原の家は以前に行った亮や吹雪の家よりも大きかった。駐車場には高級そうなスポーツカーが何台も止まっている。

 

(まぁ流石に特待生寮ほどじゃないか)

 

 というより王侯貴族同然の生活を保障される特待生寮と比べる方が間違いだろう。あれはもはや豪邸というレベルで片付くものではないのだから。

 NDLでの活動が一段落した丈は春休みを使い日本へ帰国していた。春休みになれば当然デュエル・アカデミアも長期休暇に入り、所属する生徒も余程特別な事情があって家に帰れない生徒を除けばほぼ全員が実家に戻る。

 そこでその休みを利用し学生旅行に洒落こもうということを主に吹雪が企画。丁度吹雪と亮の実家の真ん中あたりにある藤原の家が集合場所となったわけだ。

 丈は玄関口にあったチャームを鳴らす。すると、

 

『はーい……あ。なんだ丈か。随分早かったね。まだ二人とも来てないよ』

 

 藤原の声がインターホンから聞こえてくる。心なしか前よりも調子が弾んでいるようにみえた。

 どうやら藤原もダークネスのことを吹っ切ることが出来たらしい。

 

「というと俺が一番乗りか。うーん、距離的には俺が一番遠いんだけどな」

 

『こういうのって遠くからの人の方が時間を気にして早く出るから一番早く着いちゃったりするんだよ。僕も一度オーストラリアから帰国した時に似た事があった』

 

「へぇ」

 

『じゃ、上がって。幸い叔父さんと叔母さんは仕事で明日までいないし誰もいないから』

 

 自動的に藤原家の門が開いていく。自動ドアならぬ自動門……世の中も便利な時代になったものだ。こういう細かいところからも時代の流れをしみじみと感じる。

 

「おじゃましまーす」

 

 家の中に入ると見慣れたアカデミアの制服ではなく、カジュアルな私服を着た藤原が出迎えた。

 

「いらっしゃい。亮と吹雪の二人が来るまでだけど、ゆっくりしていってね」

 

「それじゃ遠慮なく……」

 

 それにしても少しの間、アメリカへ行っていただけだというのに随分と長い間会ってなかったような気がする。

 丈にとってアカデミアでの生活は日常というべきものだった。その日常を離れ一人NDLへ行ったが、心のどこかではまだ寂しさのようなものが残っているのだろう。

 

「NDLでは大活躍だったね。TV、見てたよ」

 

 リビングに通された丈はソファに腰を下ろした。話ながら藤原が紅茶をコトンとテーブルに置く。

 

「プロリーグでのデュエルはやっぱりアカデミアとは勝手が違ったからな……。今は兎にも角にも我武者羅にやってるだけだよ。偶には余裕をもっていきたいけど……それが出来るまでには経験を積まないと」

 

「え? けど相手がサクリファイス使いのデュエリストだった時は暗黒界で対戦相手を血祭りに」

 

「あれは言うな」

 

 頭を抱えてその時の記憶を振り払う。あれは不幸な事故だった……。対戦相手が悪いのではない。使用したカードが悪かった。

 より深く言えば丈にトラウマを植え付けたショタコンが全ての原因だ。

 

「ま、目下一番悔しいのはキースに新人王を奪われたことだよ。まったく。キースのどこか新人なんだ! 超がつくベテランじゃないか!」

 

 あの時のことは思い出したくないのでさっさと話しを変える。

 

「デュエルモンスターズ最初期からの古豪だからね。表舞台に復帰したのは最近だけど」

 

 新人王に選ばれる条件は野球などでもそうだが、デュエリストになった年月ではなくプロになった年月によって測られる。

 キースはデュエルモンスターズ最初期に活躍したベテランであり、その強さと老練なタクティクスはルーキーなど及びもつかないものであるが、プロの資格をとってプロリーグに加盟したのはつい最近だ。よって新人賞に選ばれる資格をもっているのである。

 極端なことを言えばプロリーグに在籍した経験のないキング・オブ・デュエリスト武藤遊戯や海馬瀬人も仮にプロに入れば新人王に選ばれることが可能なのだ。

 

「ま、キースのことで『まるでルーキーとはいえないキャリアをもつデュエリストが新人賞はどうなんだ』って新人王の規定についても問題視される声があるから、来年か再来年あたりには規定のところが修正されてるかも」

 

「ふーん。けど今やNDLのスター選手のキースのことを友人みたいに話すなんて。やっぱり丈はプロになったんだね。ちょっと羨ましいかもしれない」

 

「お前だって卒業してプロになれば分かる。なる前は憧れてたプロだけど、いざなってみるとなる前は分からなかった苦労に気付くものだって。

 アカデミアの頃から魔王だなんだのって騒がれてたけど、プロになってからはそれが日常茶飯事。街を出たら心休まる暇がない」

 

「それで今日サングラスしてたのか」

 

「まぁな。……ま、俺はNDLに入って日が浅いから来年も新人王になる資格がある。来年に向けて調整を頑張らないと」

 

 それから藤原と亮たちが来るまでの間、お互いの近況報告をかねて雑談となった。

 藤原によれば特待生寮は正式に廃寮となり、特待生はオベリスク・ブルー寮へそのまま住む場所を移ることになったらしい。また特待生コースは今後廃止。それに伴いデュエルマシーンとの一日50デュエルという過酷なノルマも廃止となった。ただし授業自体は一般生徒よりも多く、学費免除も卒業するまでは持続するとのことだ。

 鮫島校長あたりがそうやって処理したのかとも思ったが、藤原によれば過酷なカリキュラムの廃止を率先して主導したのはカリキュラムを提唱した張本人であるはずの影丸理事長だそうだ。

 自分で提唱したカリキュラムを自分で廃止にする。そこにどんな意図があるのか気にならないといえば嘘になるが、一学生が理事長の決定に一々文句をいっても仕方ない。理事長にもなにか事情があったのだろう。

 二人の話に熱が入り始めたその時だった。藤原家のドアががしゃんと開く。それから規則正しい足音がスタスタと近付いてきた。

 

「ん? 亮たちが来たのか?」

 

「たぶん……ち、違うよ」

 

 何故か藤原が困った顔をしていた。声も僅かにどもっている。

 

「二人ならチャイムを鳴らすはずだし、やっぱり……けど、丈がいるのはこれはこれで……」

 

 なにやら藤原がブツブツと呟いている。どうしたのか、と丈が尋ねる前に足音がリビングに入ってくる。

 リビングに入ってきたのは薄い青色の髪をツインテールにした少女だった。年齢は丈や藤原より年下だろう。見たままだが吹雪の妹である明日香くらいの年にみえる。

 整った顔立ちをしているが、それ以上に蠱惑的で危険な色香を放つ少女だ。

 

「あら? 見ないボウヤがいるわね。優介のオ・ト・モ・ダ・チかしら?」

 

「ぼ、坊や?」

 

 丈はつい無意識のうちに周囲をキョロキョロと探す。だがリビングにいたのはツインテールの少女を除けば丈と藤原だけだ。

 藤原のファーストネームは優介というので藤原も除外するにしても、どこにも彼女の言う〝坊や〟に該当する人間が見当たらない。

 

「どこを見ているのボウヤ? 貴方よ貴方」

 

 少女は自分の唇を指でなぞってから二本の指で丈を指し示す。

 さりげない動作の一つ一つに男の劣情を刺激させるものがあった。

 まるで演じた様子もなく自然体でそんな色気を放てるあたりこれは天性の才覚の一つといってもいいだろう。

 

「もしかしなくても、俺のことだったのか」

 

 まさか年下に坊や呼ばわりされるとは予想だにしなかった丈はガクッと肩を落とした。

 

「雪乃! 初対面の人にいきなり坊や呼ばわりはないだろう。これまでも僕が友達を連れてくる度にそんな風に接して……」

 

「ふ、藤原?」

 

 藤原がまるで昭和の頑固親父のような剣幕で怒りを露わにする。

 雪乃といえば藤原が前に言っていたやたらアダルトな口調で話す従兄妹の名前だ。しかし従兄妹が相手だと藤原はこんな風に話すとは。

 親友の知らなかった一面を知り丈は少し驚いた。

 

「あら? 優介のお友達たちだって最初は初めての刺激に戸惑ってたけど、最終的には皆悦んでいたじゃない」

 

 よろこぶの文字が変だった気がするが、ここは気にしたら負けというやつなのだろう。

 兄弟喧嘩……もとい従兄妹喧嘩に巻き込まれるのは嫌だったので丈は沈黙を守ることにした。

 それに、

 

(ああいった口調で喋る相手は苦手だ)

 

 劣情を誘い誘惑してくるような口調は否応なく中学生の頃にトラウマを植え付けられたショタコンを思い出してしまう。

 丈はあらゆるものを受け入れ、あらゆる考え方を肯定するという面倒臭い性質の持ち主だが、これには但し書きでショタコンは除くとつくのだ。

 

「雪乃、残念だけどここにいる丈は一味違う。なにせ学生でありながらNDLに入って活躍してるスーパールーキー。きっと君のその口調とかあれこれを矯正してくれるはずだよ」

 

「あぁ。どこかで見た顔だと思ったら……なるほど。そこのボウヤが私のクラスでも噂になっていた宍戸丈なのね。ふふふふふふっ。面白いわ。魔王とまで怖れられたオトコを私色に染め上げるなんて」

 

「またそんな言葉使いを!」

 

「喋り方だって立派な個性の一つじゃない。私のオトモダチだって私の個性をとっても愛してくれてるわよぉ」

 

「個性も大事だけど、他人との和を重んじるのも大切だよ」

 

「ふぅ。そこまで言うならいいわ。それじゃ賭け事しましょう。私が貴方ご自慢のボウヤにデュエルで勝てば、金輪際私の言葉使いのことで文句を言わない。ついでに貴方達にはこの春休みの間、私の下僕になって貰おうかしら」

 

「……分かった。その条件を呑もう。ただし丈が勝てばその口調は改めて、春休みは僕の言いつけを守ること。丈、出番だよ」

 

「は? 悪い。話聞いてなかったんだけど、なにがどうしたって?」

 

「デュエルだよ! 雪乃にデュエルして勝ってくれ。そうしないと君も僕も春休み中、雪乃の下僕になることになる」

 

「はぁ!?」

 

 自分の知らないうちに、話がオーバートップクリアマインドで進んでいたらしい。

 気付けば藤原の従兄妹の雪乃と春休みの身分をかけてデュエルすることになっていた。自分に断りの一つもなく。

 

「さぁ。行くわよ――――――デュエル」

 

「しかも勝手に始まってるし!」

 

 おまけに知らぬ間にリビングから庭に移動していた。隣りには丈のデュエルディスクをもつ藤原がいる。

 

「丈、これデュエルディスク」

 

「もう俺がデュエルをするのは決定事項なのか」

 

 完全に意味不明だが断れる雰囲気でもない。取り敢えず勝てばいいのだろう勝てば。負けた場合は藤原を身代わりにしてなんとかすればいい。

 事の顛末について全く掴んでいない丈だったがデュエリストの本能がそうさせたのか。デュエルディスクを起動させ雪乃と相対する。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 そして春休みをどういった身分で過ごすかを決める戦いが始まった。

 勝てば今まで通り魔王。だが雪乃に敗北すれば藤原共々――――本当にどうしてこうなったのか知らないが――――雪乃の奴隷になってしまう。

 魔王から奴隷への転落。過去、戦争に敗北した王様が庶民に落とされたりということはあったが、これほどの転落は史上類のないことだろう。

 

「先攻は私ね。私のターン、ドロー。………………ふふ、優介があそこまで認めてるオトコだもの。私をたっぷり感じさせて頂戴ね」

 

「……善処する」

 

 デュエルを始めたはいいが、やはり雪乃の口調は苦手だった。丈も普段とは異なり完全に鉄面皮となる。

 

「私はモンスターを攻撃表示で召喚するわ。現れなさい、マンジュ・ゴッド」

 

 

【マンジュ・ゴッド】

光属性 ☆4 天使族

攻撃力1400

守備力1000

このカードが召喚・反転召喚に成功した時、

自分のデッキから儀式モンスターまたは

儀式魔法カード1枚を手札に加える事ができる。

 

 

 万の手をもつわけではないが、数えきれない手をもった仏像とオークを足して二で割ったようなモンスターが召喚される。

 マンジュ・ゴッドは儀式モンスターを主軸とするデッキならば必須ともいえるカードだが、逆にそれ以外のデッキでは何の役にも立たないモンスターだ。

 十中八九、雪乃のデッキは儀式モンスターを使うタイプだろう。

 

「マンジュ・ゴッドのモンスター効果を発動するわ。このカードが召喚・反転召喚に成功した時、私のデッキから儀式モンスターか儀式魔法を手札に加えることができる。

 ふふふふっ。いきなり私のデッキのエースカードを召喚する準備が整るわ。私はデッキより〝サクリファイス〟を手札に加える」

 

「!?」

 

 サクリファイス、聞き間違いではない。確かに雪乃はサクリファイスと言った。

 三年以上前、中学一年生の頃に保健室で起きた事件がフラッシュバックする。

 

「私はカードを二枚セットしてターンを終了するわ。さ、貴方のターンよ。魔王のデュエル、私に堪能させて貰えるかしら?」

 

 男を誘い溺れさせるような口調。そしてモンスターを捕食してその力を奪うサクリファイス。あらゆるものが――――あの記憶を思い起こさせてしまう。

 サクリファイスは相手の場にモンスターがいなければ単なる攻撃力0でしかないモンスター。だから雪乃は最初のターンで召喚しなかった。

 だが丈のターンでなにか高い攻撃力のモンスターを召喚すれば、確実に雪乃はサクリファイスを出してくるだろう。

 

「俺のターン……ドロー」

 

 どうすればサクリファイスを封じることができるのか。ふと手札を見た丈は気付いた。

 

(なんだこの手札は? エアーマン、マスク・チェンジ、融合、そしてミラクル・フュージョン!! オイオイこれじゃ……俺の勝ちじゃないか!)

 

 簡単なことだった。次のターンでサクリファイスを召喚されたくないのなら、このターンでデュエルを終わらせればいい。

 

「手札よりモンスターを召喚。E・HEROエアーマン! エアーマンの効果発動、デッキよりHEROと名のつくカードを手札に加える。俺はE・HEROオーシャンを選択し手札に加える。

 さらに手札より魔法カード、融合を発動。場のエアーマンとオーシャンを融合。降臨せよ、絶対零度の氷戦士。E・HEROアブソルートZero!!」

 

 

【E・HEROエアーマン】

風属性 ☆4 戦士族

攻撃力1800

守備力300

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、

次の効果から1つを選択して発動する事ができる。

●自分フィールド上に存在するこのカード以外の

「HERO」と名のついたモンスターの数まで、

フィールド上に存在する魔法または罠カードを破壊する事ができる。

●自分のデッキから「HERO」と名のついた

モンスター1体を手札に加える。

 

 

【融合】

通常魔法カード

手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって決められた

融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を

融合デッキから特殊召喚する。

 

 

【E・HEROアブソルートZero】

水属性 ☆8 族

攻撃力2500

守備力2000

「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する

「E・HERO アブソルートZero」以外の

水属性モンスターの数×500ポイントアップする。

このカードがフィールド上から離れた時、

相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

 

 

 光、闇、炎、風、水、地の六属性分ある属性融合HERO。その中において最強の名を欲しいままにする丈のHEROデッキのエース。アブソルートZeroが主のトラウマを粉砕するためにフィールドに降り立った。

 そういえばアブソルートZeroやHEROデッキが最初に相手したのもまたショタコンだった。……HEROデッキはトラウマキラーに定評があるらしい。

 

「あら。アブソルートZero? これじゃサクリファイスで吸収しても、私のモンスターまでやられちゃうわね。優介が認めるだけあって、それなりの――――」

 

「まだだ。さらに俺は速攻魔法マスク・チェンジ発動!」 

 

 

【マスク・チェンジ】

速攻魔法カード

自分フィールド上の「HERO」と名のついた

モンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターを墓地へ送り、

選択したモンスターと同じ属性の「M・HERO」と名のついた

モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

 

 

「自分フィールドのHEROと名のつくモンスターを一体選択し墓地へ送る。そして墓地へ送ったモンスターと同じ属性の〝M・HERO〟を融合デッキより特殊召喚する。

 アブソルートZero、仮面を被り変身せよ。変身召喚、M・HEROアシッド!」

 

 

【M・HEROアシッド】

水属性 ☆8 戦士族

攻撃力2600

守備力2100

このカードは「マスク・チェンジ」の効果でのみ特殊召喚できる。

このカードが特殊召喚に成功した時、相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊し、

相手フィールド上の全てのモンスターの攻撃力は300ポイントダウンする。

 

 アブソルートZeroが無地の仮面を被ると、その姿かたちをM・HEROに変身させる。マスクを被って変身、というのは日本の特撮ヒーローをモデルとしているのだろう。

 アメコミ的なHEROであるE・HEROとは赴きの異なるHEROだった。

 

「そしてアブソルートZeroがフィールドから消えたことでZeroの効果発動。相手フィールドのモンスターを全滅させる! さらにアシッドの効果! このカードが特殊召喚に成功した時、相手フィールドの魔法・罠を全て破壊する!

 他に攻撃力を300下げる効果もあるけど関係ない。相手フィールドにモンスターがいないんだから。更に――――」

 

「藤原、邪魔するぞ」

 

 だが丈が最後の一手をかける直前、亮が到着した。

 

「りょ、亮?」

 

「なんだ丈、鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔をして。俺の顔になにかついているのか? ……む、デュエルをしていたのか。これはすまなかったな。続けてくれ」

 

 亮は先を促してくるが……丈は自分の手札にあるカード、ミラクル・フュージョンを見つめる。

 このカードを発動し墓地のHERO二体を融合、新たに融合HEROを召喚すればフィールドのアシッドと合わせて攻撃力の合計が4000を超える。

 相手フィールドは魔法・罠もなくがら空き。雪乃の手札に手札誘発がなければ、丈のワンターンキルが成立するだろう。だが、

 

「やめよう。亮もきたし、吹雪もあとちょっとで来るだろう。このデュエルはこれまでだ」

 

「え、ちょっと」

 

「待ちなさい」

 

 藤原もなにか言いたそうだったが、それ以上に強い雪乃の口調が丈へ向けられる。

 

「アナタ、最後になにかカードを発動させようとしていたわね。どんなカードを使おうとしたのかしら?」

 

「別に大したカードじゃない。召喚師のスキルでモリンフェンをサーチしようとしただけだよ」

 

「みえみえの嘘を吐かないで。本当のことを教えなさい」

 

「本当だって? 魔王、嘘つかない。つまり何が言いたいかと言うと……従兄妹同士の問題は従兄妹同士で解決してくれ」

 

「良く分からんが、話が纏まったようだな」

 

 不思議そうに状況を見守っていた亮が頷く。もし亮が寸前で来なければ勢いに任せて従兄妹の問題を無理矢理に解決してしまっていただろう。亮には自覚はないだろうが密かに感謝しておく。

 丈は最後にこっそり耳打ちする。

 

「(なぁ藤原。もしかしてお前がダークネスの力で個性を無くそうとしたのって、本当は従兄妹の性格を矯正させるためだったのか?)」

 

「(流石に違うよっ! …………と、言いたいけど心の奥底で否定できない自分がいるよ)」

 

 藤原はげんなりとする。どうも従兄妹同士の問題が解決するのはまだまだ遠い日のことになりそうだ。




 いつだったかダークネスのデッキを当てた方が一人だけいてしまったので、出す予定の皆無だったゆきのん出しました。ゲスト出演的なキャラなので今後特に話しの大筋に関わってくることはありません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。