宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第113話  愚かなる選択

キース LP4000 手札1枚

場 グリーン・ガジェット

魔法 一族の結束

 

ペガサス LP4000 手札0枚

場 ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン、トゥーン・デーモン、トゥーン・ブラック・マジシャン・ガール、トゥーン・ゴブリン突撃部隊

伏せ 三枚

魔法 トゥーン・キングダム

 

 

 

 

 最上級含め攻撃力2000以上のトゥーンが並ぶと壮観なものだった。

 といってもトゥーンモンスターは攻撃する時か攻撃を受ける時を除いて、普段はトゥーン・キングダムの漫画本に潜んでいるので四体が並んだ威容を見ることは出来ないが。

 

(ペガサスの野郎……。デュエリスト・キングダム以降、世界大会やらのエキシビションマッチ数回くらいしか表舞台じゃデュエルしてねえってのに実力に全然陰りがねえ)

 

 ペガサスのことを死ぬほど恨んでいるキースをもってしても、ペガサスが途方もないデュエリストであるという事実は受け入れざるを得なかった。

 恐らくはデュエルモンスターズの知識という分野においてペガサスを超える人間はこの世界に誰一人としていない。そんなペガサスと知恵で勝負を挑んでも勝ち目はないだろう。

 

(………………〝知恵〟で勝てねえなら〝本能〟でいくしかねえってことか)

 

 野性的な風貌をしているキースだが、その戦い方は力押しに重点を置いているものの知恵を凝らした隙のないものである。

 悪く言えば狡猾。良く言えば深謀。戦う前の策をこらし、勝てる用意を整えてから勝負を決めるのがバンデット・キース本来のやり方だ。このデュエルでも事前にペガサスのデュエルを研究し、その対策としてのカードを何枚も投入してきた。だがデュエルモンスターズ創造主であるペガサスはそんな対策を完全に見切っていた。

 神の叡智を崩すには神すら思いもよらぬ蛮行しかない。

 

「俺のターンだ、ドロー。天使の施しを発動し、更に三枚ドローし二枚捨てるぜ」

 

 しかし蛮行にせよなんにせよ手札がなければ始まらない。キースは多少苦々しげに天使の施しで手札に加えた一枚の魔法カードをデュエルディスクに置いた。

 

「リバースカードを一枚セット。そして魔法カード、天よりの宝札! 互いのプレイヤーは手札が六枚になるようカードをドローする!」

 

「ホワッツ? Oh! 天よりの宝札とはサンキューデース! 一枚もなかった私の手札がユーのお蔭で六枚になりました」

 

 強力なドローソースである天よりの宝札だが、タイミングを間違えると相手を利することになりかねないのがネックだ。

 本来なら天よりの宝札は自分の手札が少なく、相手の手札が多い時に発動するべきカード。ペガサスの手札が0枚なんて時に発動するべきではなかった。

 だがそうも言ってられないのだ。天よりの宝札ともう一枚のカードではどうしたってペガサスの布陣を突破し、次のターンのトゥーン総攻撃を防ぐことはできない。

 例えペガサスに大量ドローを許しても、キースは自分の引く未知の六枚に賭けざるを得なかったのだ。

 

「……! 俺はイエロー・ガジェットを召喚する。イエロー・ガジェットの効果でデッキよりグリーン・ガジェットを手札に加えるぜ」

 

 

【イエロー・ガジェット】

地属性 ☆4 機械族

攻撃力1200

守備力1200

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、

デッキから「グリーン・ガジェット」1体を手札に加える事ができる。

 

 

 三色のガジェットでも最弱の攻撃力のガジェット、イエロー・ガジェットが現れる。

 攻撃力は〝一族の結束〟の効果で800上昇し丁度2000。効果なし下級通常モンスターの最大攻撃力と同じ数値だ。

 トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールと互角だがブルーアイズ・トゥーン・ドラゴンやトゥーン・デーモンを倒すことは出来ない。

 

(ま、仮に攻撃力が上だったとしてもペガサスのフィールドにはトゥーン・キングダムとスピリットバリアがある。攻撃したところで無駄。強いて言えばデッキのカードを除外する事は出来るが、あの野郎のことだ。除外したカードを利用するカードを入れてねえとも限らねえ)

 

 やはりこのターンは攻撃は出来ない。

 

「カードを一枚伏せターンエンド」

 

 最後の可能性を伏せたリバースカードに託しキースはターンを終わらせた。

 そして四体のトゥーンを並べたペガサスにターンが移る。

 

「私のターン! ドローデース!」

 

 さっきのキースのターンでの天よりの宝札による六枚のドロー、さらに今のドローと合わせてペガサスの手札は合計七枚。

 フィールドに既に四体のトゥーンがいることを鑑みると恐ろしい手札枚数だ。ペガサスのドローした手札によっては、このまま為す術なくやられることもあり得る。

 しかしここは賭けるしかないのだ。

 

「手札より手札断殺を発動しマース! 互いのプレイヤーは手札を二枚捨て二枚のカードをドローする。私はトゥーン・アリゲーターと幻想術師ノーフェイスを捨てて二枚ドローしマース」

 

 二枚の手札交換を行った持ち札をペガサスは一枚一枚じっくりと観察する。もしあの中にサイクロンなどの魔法・罠カードを破壊する類のカードがあれば、キースは一気に不利へ追い込まれる。

 たった一つのもしがキースの命運を断ち切るという極限、ペガサスはふっと口元を綻ばせる。

 

「アンラッキーデース。私はトゥーン・ゴブリン突撃部隊を生け贄に二体目のトゥーン・ブラック・マジシャン・ガールを召喚しマース!」

 

 ゴブリンが生け贄にされると聞いて目を形容ぬきで飛び出させるが、ペガサスが「ドーモ、ごめんなさいデース!」と言うと頬をぽりぽりと掻きながら消えていった。

 かわりに二体目の魔導師の少女がフィールドに降り立った。

 

「バトルフェイズデース。キース、これでユーはジ・エンドデース! トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールでユーへダイレクトアタック! ブラック・バーニング!」

 

 トゥーン・キングダムから飛び出してきたトゥーン・ブラック・マジシャン・ガールは本来ならば避けて通れないイエロー・ガジェットを素通りして、その魔導師の杖をキースへと向けた。

 

「…………そうは、問屋がおろさねえよ。こいつがペガサス! テメエの叡智を超えるための俺の切り札だ! 罠カード発動、スキルドレイン!」

 

 

【スキルドレイン】

永続罠カード

1000ライフポイントを払って発動できる。

このカードがフィールド上に存在する限り、

フィールド上の全ての効果モンスターの効果は無効化される。

 

 

「ホワッツ!? スキルドレインですって! あ……アンビリーバボー。そんな馬鹿な……信じられまセーン。そんなカードが……」

 

 初めてペガサスの表情に演技ではない焦りが生まれる。

 ペガサスほどのデュエリストがスキルドレインというカードの存在を知らない訳はないだろう。ペガサスはスキルドレインそのものではなく、キースがスキルドレインを入れていた事について驚いているのだ。

 

「1000ポイントのライフを払い効果発動。テメエには説明するまでもねえことだが、スキルドレインはフィールドに存在する限りフィールドのモンスター効果を無効化する永続罠。

 トゥーンってのは扱いが難しいが、一度決まると厄介なモンスターだよ。特にテメエの作り上げた布陣じゃな。戦闘では破壊されねえし、直接攻撃はできると最悪だ。壁モンスターを出しても防げねえし、直接攻撃を受ける前にテメエを倒そうにも無敵のトゥーンがテメエを守る。もたもたとしてたら俺の方がゲームエンドになっちまう。

 だがスキルドレインの効果によりトゥーンは直接攻撃能力を失う。こうなりゃ戦闘で破壊されねえだけのモンスター。俺のモンスターを素通りして攻撃することは出来ねえ」

 

「ですがスキルドレインの効果は諸刃の剣! その効果範囲は私だけではなくユーにも及ぶ。ユーのデッキの要であるガジェットたちの最大の持ち味であるサーチ効果をも失いマース」

 

「ンなことテメエに言われなくても分かってんだよ。あぁ、そうだ。ガジェットを中心としたデッキにスキルドレインを入れるなんざ正気の沙汰じゃねえ。つぅか馬鹿の所業だ。

 対策カードってのは相手のデッキの強味を殺し、自分のデッキの強味を最大限に活かすために入れるもんだ。自分のデッキの強味まで殺しちゃ意味なんてねえ。

 だがな。だからこそ入れる価値があった。幾らテメエも俺がこんなカード、入れる筈がねえ(・・・・・・・)って決めつけてただろう」

 

「……!」

 

 敢えて自分のデッキの力をも殺すスキルドレインを入れるという愚行、それが初めて全知全能を誇った叡智を突き崩した。

 賢人を倒すのはそれ以上の賢人とは限らない。時に蛮人の蛮行が賢人を打倒してしまうこともある。賢人は賢人故に蛮行を読み切ることはできないのだから。

 

「ですがまだデース。スキルドレインにより直接攻撃能力を失いはしましたが、普通に攻撃する分ならば問題ありまセーン!

 トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールでイエロー・ガジェットを攻撃デース!」

 

「そうもさせねえ! 永続罠、血の代償!」

 

 

【血の代償】

永続罠カード

500ライフポイントを払う事で、モンスター1体を通常召喚する。

この効果は自分のメインフェイズ時及び

相手のバトルフェイズ時にのみ発動する事ができる。

 

 

「こいつは自分のメインフェイズか相手のバトルフェイズにのみ発動できる。500ライフを払うことで俺は手札よりモンスターを通常召喚できる。

 俺は500のライフを支払い、拝んでおきな。とっておきだ。二体のガジェットを生け贄に捧げパーフェクト機械王を召喚!!」

 

 

【パーフェクト機械王】

地属性 ☆8 機械族

攻撃力2700

守備力1500

フィールド上に存在するこのカード以外の機械族モンスター1体につき、

このカードの攻撃力は500ポイントアップする。

 

 

 白亜の巨大ロボットがペガサスのトゥーン軍団の前に立ち塞がる。スキルドレインにより機械族一体につき500ポイント攻撃力を上げる特殊能力は失っているが、キースの場には一族の結束がある。

 パーフェクト機械王の攻撃力は永続魔法効果により3500。ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴンの攻撃力を上回った。これでペガサスはもうキースに攻撃することができない。

 

「これでは手出しができまセーン。やむを得ません。私はバトルフェイズを終了しマース。そしてモンスターをセットしターンエンド」

 

 スキルドレインと血の代償のライフコストによりキースのライフは一気に2000へと低下してしまった。ペガサスのフィールドには五体ものモンスターがおり、ライフは未だに無傷。

 しかしデュエルの流れが自分の方に向いてきているのをキースは実感していた。


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