宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

115 / 200
第114話  復活の日、そして始まりの日

キース LP2500 手札3枚

場 パーフェクト機械王

魔法 一族の結束

罠 血の代償 スキルドレイン

 

ペガサス LP4000 手札4枚

場 ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン、トゥーン・デーモン、トゥーン・ブラック・マジシャン・ガール×2、セットモンスター

伏せ 

魔法 トゥーン・キングダム

 

 

 

 何人たりとも手が出せず、手を伸ばすことすら許されない絶対的存在、創造主――――ペガサス・J・クロフォード。

 あらゆるカードを知り、その攻略法をも記憶する神の叡智はあらゆる戦術を見透かし、創造主としての運命力はその戦術を打破する力を掴む。

 大凡同じ人間とは思えない程の強さは神というしかない。

 プロリーグで名を馳せた歴戦のデュエリストでも、ペガサスを前にしたら膝を屈するしかないだろう。

 だがキースが本来ならばバンデット・キースともあろうデュエリストが入れる筈のないスキルドレインを使った事で、初めてペガサスの叡智に陰りが生じた。

 あらゆるカードを知り、あらゆる戦術を知る頭脳。

 しかし頭脳を倒すのはそれよりも上の頭脳とは限らない。否、頭脳という意味で創造主たるペガサスに勝るデュエリストなどこの地上には存在しないだろう。頭脳でペガサスを上回るのは最初から不可能なのだ。

 

(遂に、見えてきたぜ。……あいつの足元が)

 

 これまでのデュエル、キースはペガサスの作った箱庭で弄ばれるだけの人形に過ぎなかった。自分が特定の役割(ロール)を与えられて、プレイヤーの良いように動かされているキャラクターであることすら知らない人形。

 だがキースは漸くペガサスの箱庭を抜け出し、その足元を見つけることができた。足元が見えたのならばあとは簡単である。足元を掴んで引きずりおろせばいい。

 

「俺のターンだ……ドロー!」

 

 このデュエルで初めて追い風というものが吹いて、自分の背中を押しているのをキースは感じた。

 

「運命の宝札を発動。サイコロを振り、出た目の数だけカードをドローし、同じ枚数分デッキの一番上からカードを除外する」

 

 

【運命の宝札】

通常魔法カード

サイコロを1回振る。出た目の数だけデッキからカードをドローする。

その後、同じ数だけデッキの1番上からカードをゲームから除外する。

 

 

 ソリッドビジョンのサイコロが転がり、3つの黒い点を真上に向けた。

 

「出た目の数は3! よって俺は3枚ドローし、3枚のカードを上から除外する」

 

 追い風が吹いていたからだろうか。良い手札が揃った。

 ペガサスは初めて自分にとって予想外の出来事が発生したことで軽い混乱状態にある。だがペガサスほどの歴戦のデュエリストがそう長く混乱してはいないだろう。このまま何もしなければ、次のターンには元の調子を取り戻す。

 キースのデッキにはもうスキルドレインのようなペガサスの予想を崩せるイレギュラーな切り札はない。ここで押し切れなければ、体制を整えたペガサスに敗北する未来しかなくなるだろう。

 

(ここは憶さず攻める!)

 

 攻めるべき時に攻め、守るべき時に守る。これが出来るのが一流のデュエリストである証だ。そしてキースは一流のデュエリスト。攻め時というものを見過ごしはしない。

 

「手札より魔法カード、融合を発動するぜ! 手札のリボルバー・ドラゴンとブローバック・ドラゴンを融合! 蜂の巣にしてやれ! 融合召喚、ガトリング・ドラゴン!」

 

 

【ガトリング・ドラゴン】

闇属性 ☆8 機械族

攻撃力2600

守備力1200

「リボルバー・ドラゴン」+「ブローバック・ドラゴン」

コイントスを3回行う。表が出た数だけ、フィールド上のモンスターを破壊する。

この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。

 

 

 リボルバーを模した機械龍であるリボルバー・ドラゴン、オートマチック拳銃を模したブローバック・ドラゴン。

 その二体が融合されて降臨したのはより過激なガトリングを模した機械龍。ガトリング・ドラゴンだった。

 戦車(チャリオット)のような車輪を回しながら、ガトリング・ドラゴンのガトリング砲がペガサスのフィールドにあるトゥーン・キングダムへ照準された。

 

「Oh! ガトリング・ドラゴン、下手をすると自分のモンスターすら破壊してしまう危険性をもったベリーデンジャラスな融合モンスター。ユーの切り札ですね」

 

「よくご存知なこって」

 

 ペガサスの言う通り、ガトリング・ドラゴンは下手をすると自分のモンスターすら破壊しかねないモンスターだ。

 効果テキストにある破壊効果は相手のフィールドと指定されているわけではないので、破壊するモンスターの数が相手フィールドのモンスターの数を上回った場合、ガトリング砲の弾丸はキースのフィールドに襲い掛かってくるのである。もっともスキルドレインがあるためその効果を使う事は出来ないが。

 

「ついでだ。地砕きを発動、ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴンを破壊。そして速攻魔法サイクロン! テメエの場のスピリットバリアを破壊する!」

 

 スキルドレインの効果はなにもトゥーンにとってマイナスばかりではない。トゥーンがもつ共通の弱点である〝トゥーン・ワールドが破壊されると破壊される〟という自壊効果も無効となっているため、トゥーン・キングダムを破壊したところでトゥーンは死なないのだ。

 だからこそここはトゥーン・キングダムではなくダメージをゼロにするスピリットバリアを破壊する。これでペガサスのライフにダメージが通るようになった。

 

「バトル。パーフェクト機械王でトゥーン・ブラック・マジシャン・ガールに攻撃。アルティメット・ジェット・パンチ!」

 

 トゥーン・キングダムから飛び出してきたトゥーン・ブラック・マジシャンが必死になって迎撃するが、いかせん攻撃力が違いすぎる。

 パーフェクト機械王の電磁パルスが唸るパンチの直撃を喰らい、ゴムボールのように吹っ飛んでいった。

 

「トゥーン・キングダムの効果デース。私はデッキの一番上のカードを除外し、トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールの破壊を防ぎマース」

 

 頭でもうったのかトゥーン・ブラック・マジシャン・ガールが目を回す。しかしキースの攻撃はまだ終わったわけではない。

 

「戦闘破壊は免れるだろうが、スピリットバリアがなくなった以上、肝心のダメージの方は通るぜ。ガトリング・ドラゴンでもう一度、トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールを攻撃! ガトリング・キャノン・ファイヤ!」

 

「NOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

 ペガサスLP4000→1100

 

 ガトリング砲の連射を浴びて、トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールが二度目のノックダウンした。戦闘破壊はトゥーン・キングダムの恩恵で防がれたが、トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールのダメージはそのままマスターであるペガサスのものとなる。

 これまで不可侵であり、1ポイントのダメージも受けなかったペガサスのライフが初めて削られた。

 

「カードを二枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「……………私の可愛いトゥーンたちが、こうも攻略されるとは。ふふふふふ。敵ながらグッド。ベリーグッド、ナイスファイトデース。

 ここまで追い詰められたのは前に遊戯ボーイや海馬ボーイとデュエルして以来かもしれまセーン。ですが私もインダストリアル・イリュージョン社、名誉会長。全国の子供達が見ている前で不甲斐ないデュエルはできまセーン。

 キース。ここからは私も本気の本気、限界のデュエルでユーを倒しマース」

 

 ぞくっ、と背筋に冷たいものが流れた。

 ペガサスの纏っていた雰囲気が変わる。これまでどれだけ追い詰められようと剽軽でコミカルな態度を崩さなかったのが、目は細まり懐に凶器を潜ませた殺し屋めいた気配を放ち始めた。

 

「私のターン、ドロー。強制転移を発動、私のフィールドのモンスターと貴方のフィールドのモンスターを其々一体ずつ入れ替える。私はトゥーン・ブラック・マジシャン・ガールを選択、貴方が選択するのは……パーフェクト機械王ですね」

 

「……ふん。パーフェクト機械王を選択する。チッ、さっさとしやがれ」

 

 トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールとパーフェクト機械王が居る位置を互いにチェンジした。

 

「更に私は手札よりアドバンスドローを発動。私の場のレベル8以上のモンスター、パーフェクト機械王を生け贄に捧げ……二枚のカードをドロー。そして私は大嵐を発動。フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する」

 

「大嵐だとっ!?」

 

 ペガサスは答えない。まるで人が変わったかのように淡々とゲームを進める。

 まるでペガサスの全神経がデュエルをするためだけの機械となってしまったかのようだ。だが口調と動作は機械的だというのに、瞳の奥にはデュエリストとしての闘志が爛々と輝いているのが恐ろしい。

 人間の感情と人間の情熱と人間の本能をもちながら、機械的な合理性でペガサスはデュエルをプレイしていた。

 

(あの野郎がなに考えているか知らねえが、今のあいつはやべえ)

 

 キースはついさっき伏せたばかりのリバースカードをオープンする。

 

「大嵐の発動にチェーンして速攻魔法、非常食発動!」

 

 

【非常食】

速効魔法カード

このカード以外の自分フィールド上に存在する

魔法・罠カードを任意の枚数墓地へ送って発動する。

墓地へ送ったカード1枚につき、自分は1000ライフポイント回復する。

 

 

「スキルドレインと一族の結束、血の代償、そしてセットしているカードを墓地へ送り俺は4000のライフを回復する」

 

 フィールドに吹き荒れた嵐はペガサスのトゥーン・キングダムを破壊したが、キースのカードは非常食により破壊される前に墓地へ送られたために破壊されなかった。

 四枚ものカードを失ったのは痛かったが、代わりに4000のライフを得て相手の大嵐を素通りできたのならばそれほど痛くはない。

 

「残念だったな。当てが外れて、これで俺のライフは初期ライフを超えた6500ポイント。形勢逆転だな」

 

「いいえ。ここまでは概ね予定通りです。私が大嵐を発動したのはあくまでもスキルドレインを消し去るため。ライフを回復されたのは残念ですが、その目的は達せられました。

…………本当に、懐かしい。私がデュエルでこのモンスターを召喚するのは遊戯とのデュエル以来です。手札より儀式魔法発動、イリュージョンの儀式」

 

 

【イリュージョンの儀式】

儀式魔法カード

「サクリファイス」の降臨に必要。

手札・自分フィールド上から、レベルが1以上に

なるようにモンスターを生贄にしなければならない。

 

 

 専用儀式魔法でモンスターを生け贄にすることで初めて降臨される儀式モンスター。

 当初儀式モンスターはステータスの高いモンスターばかりであったが、それに革命を起こすモンスターが現れた。誰であろう創造主自身の手によって。

 儀式モンスター史上最低レベルにして、最初の特殊能力をもった儀式モンスター。その名は、

 

「私は手札の千眼の邪教神を生け贄にし、サクリファイスを降臨です」

 

 

【サクリファイス】

闇属性 ☆1 魔法使い族

攻撃力0

守備力0

「イリュージョンの儀式」により降臨。

1ターンに1度、相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択し、

装備カード扱いとしてこのカードに1体のみ装備する事ができる。

このカードの攻撃力・守備力は、このカードの効果で装備したモンスターの

それぞれの数値になる。この効果でモンスターを装備している場合、

自分が受けた戦闘ダメージと同じダメージを相手ライフに与える。

また、このカードが戦闘によって破壊される場合、代わりにこのカードの効果で

装備したモンスターを破壊する。

 

 

 闇の中から先ず現れたのは千年アイテムにあるものと同じウジャト眼。

 そして全身を覆う傘のような羽。全体の体は青白く染まっており、そこを網目のように白い血管が通っている。

 

「サクリ、ファイス……。出やがった、か」

 

 キースとしても、まさかという思いが強かった。

 公式に残っているペガサスのデュエルで、ペガサスがサクリファイスを召喚したのは武藤遊戯とのデュエルただの一度きり。以降、如何な敵と戦う時もペガサスがサクリファイスを召喚する事はなかった。

 だからキースもサクリファイスを攻略するためのカードは特にデッキに投入していない。

 つまりここからは、データなど通用しない正真正銘の殴り合いだ。

 

「サクリファイスの効果、ガトリング・ドラゴンを吸収しその力を得る」

 

 サクリファイスがガトリング・ドラゴンを吸い取り、その機械の胴体を拘束した。

 縛り付けられたガトリング・ドラゴンはもがいているが、力をサクリファイスに吸い取られてしまったのかその動作は頼りない。

 

「サクリファイスでダイレクトアタック、イリュージョン・ガトリング・キャノン・ファイヤ!」

 

「ぐぅ、おぉぉおぉおおおおおおおお!!」

 

 ガトリング・ドラゴンの力がそのままサクリファイスのものとなり、その攻撃力は2600だ。

 6500まで回復したキースのライフがいきなり3900まで削り取られた。

 

「バトルを終了。ターンエンドです」

 

 ペガサスは静かにターン終了を告げた。

 あれだけ自分の所に来ていた流れが、一気に奪い返された。サクリファイスが奪ったのはガトリング・ドラゴンだけではなくデュエルの流れも吸収していった。

 

「この、野郎っ」

 

 キースの手札は0枚。幸い非常食のお蔭でライフにはまだ余裕があるが、肝心の手札がないのではどうしようも出来ない。

 ペガサスのフィールドにいるのがサクリファイスというのも最悪だった。

 仮にサクリファイスを超えるモンスターを呼ぶことができたとして、戦闘しようにも装備カードとして吸収したモンスターを身代わりに戦闘破壊を逃れることができる。更にサクリファイスを残しておけば、今度はサクリファイスを攻撃したモンスターを吸収され同じことの繰り返しとなってしまう。

 サクリファイスを戦闘で倒すには二体のモンスターが必要だが…………これからドローするカード一枚だけで攻撃力2600以上のモンスターともう一体のモンスターを呼びこむなど不可能にも程がある。

 それでもやらなければ自分が負けることは明らかである以上、やる以外の選択肢は最初からなかった。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 果たして勝利の女神は微笑まなかった。キースがドローしたのはサクリファイスの攻撃を防ぐ防御カードでも、モンスターでもないカード。

 このタイミングではまるで役に立たないカードだった。

 

(畜、生!)

 

 流れだけでなくツキまで何処かへ行ってしまったようだ。ここに至ってキースは崖っぷちに追い込まれた。

 

「カードを一枚伏せターンエンドだ」

 

「私のターンですね。ドロー」

 

 キースの残りライフは3900。ペガサスが攻撃力1300以上のモンスターを引き当てたら、そこでジ・エンドだ。

 

「……………………」

 

 自分のドローしたカードを確認したペガサスはゆっくりと口を開く。

 

「バトルです」

 

「!」

 

 ペガサスはモンスターを召喚せずにバトルフェイズへと移行した。つまり……モンスターカードを引き当てることができなかったのだ。

 

「サクリファイスの攻撃、イリュージョン・ガトリング・キャノン・ファイヤ!」

 

「ぐっぅうう! まだ、まだァ! この程度の弾丸、屁でもねえ!」

 

 ライフが遂に1500ポイントをきり1300ポイントとなる。

 だが1300残った。このターンで勝負が終わらなかった。絶望的な状況だったがたった1ターンの猶予を得ることができたのだ。

 

「私はターン終了です。さぁ――――正真正銘、貴方と私の運命を分ける貴方のラストターンです」

 

 キースはデッキトップに手をかける。

 運よく、最後の最期で悪運強さが発揮されてキースのライフは800ポイント残った。だが泣いても笑ってもこれがラストターン。

 このターンも何も出来なければキースの敗北は殆ど確定的となる。

 

(……俺のデッキにはこの状況を打破できる逆転のカードが一枚ある。だが俺にそのカードを引き当てることができるのか?)

 

 デッキの一番上とは未知の可能性。ドローするその瞬間まで無限の可能性を内包しているが、引いた後、可能性は唯一つの運命へと変わる。

 デッキに眠るあるカードを引けるか引けないか。たったそれだけがこのデュエルの勝敗を決定的に分けることとなるだろう。

 キースの手がカードを引く直前で止まった。

 本当に自分があのカードを引き当てることができるのか……いや、引けないという不安だけが渦巻いて足を止めさせた。

 

(引いたら最後、俺の負けが確定するかもしれねえ)

 

 だがドローしなければ、デュエルは終わらない。負けないでいられる。

 例えばここでサレンダーしてデッキトップを見ずにシャッフルしてしまえば、永遠にあるはずだった運命は闇の中だ。

 後から振り返って、もしかしたらあの時に勝っていたかもしれないと生温い勝利の可能性に浸ることもできるだろう。

 

――――ここでペガサスに負けたらどうなる?

 

 また自分は地獄に逆戻りになるかもしれない。プライドもなにもかもが消えた暗い闇の底に。

 折角表舞台に戻ってきて、それなりの地位と力を取り戻したのだ。わざわざペガサスに挑まなくても、

 

「―――――――――」

 

 ふとペガサスの顔が視界に映る。ペガサスは何もせず、静かにキースのことを見下ろしていた。

 その視線は天上から人々の生活を眺める神のもの。誰にも到達できぬ頂きより、ペガサスはバンデット・キースという人間を見下ろしている。

 ペガサスの瞳に宿るのは憐み――――ではなかった。

 双眸の中で輝くのは期待だ。ペガサスの目はただ一言「這い上がってこい」と告げていた。

 

「ククッ」

 

 上等だ。サレンダーという逃げの選択に流れようとしたチキンな心は焼き鳥にして食ってしまえばいい。

 這いあがれというのならば這い上がる。そして、その時こそ本当にバンデット・キースは復活するのだ。

 

「俺のターンッ! ドローッ!!」

 

 運命のラストドロー。キースは不思議と穏やかな気分で引いたカードを見る。そして口元を僅かに釣り上げた。

 

「来たぜ。魔法カード、発動! 死者蘇生!」

 

 

【死者蘇生】

通常魔法カード

自分または相手の墓地のモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。

 

 

 死者蘇生、デュエルモンスターズ最初期から多くのデュエリストに使われている蘇生カードの元祖。

 正にバンデット・キースの復活の日には相応しいカードだ。

 

「俺が地獄から蘇らせるのはリボルバー・ドラゴンだ。蘇りな、リボルバー・ドラゴン!」

 

 

【リボルバー・ドラゴン】

闇属性 ☆7 機械族

攻撃力2600

守備力2200

相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して発動する。

コイントスを3回行い、その内2回以上が表だった場合、そのモンスターを破壊する。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 

 そして蘇るキースにとって暗い過去を彷彿とさせるモンスターでもあるリボルバー・ドラゴン。

 最悪の時は自分で自分に向けたリボルバーは、この日は真っ直ぐにキースの敵であるペガサスに銃口を向けた。

 

「リボルバー・ドラゴン……ギャンブル効果であるものの、ノーコストでモンスターを破壊する力をもつモンスター」

 

「テメエに説明するまでもねえよな。サクリファイスには戦闘耐性はあっても効果破壊耐性はねえ。リボルバー・ドラゴンの効果が成功すりゃテメエのフィールドはがら空き。俺の勝ちって寸法よ! 

 リボルバー・ドラゴン効果発動、ロシアン・ルーレット!」

 

 ガタンッとリボルバー・ドラゴンの撃鉄が落ちた。だがトリガーが引かれた時、フィールドに響き渡ったのはカチッという無機質な音。

 銃口からサクリファイスを破壊する弾丸が放たれることはない。効果は……失敗だ。

 

「残念でしたねキース。断言しましょう、貴方は強かった。私が絶体絶命の窮地に追い込まれるほどに。ですがこれも一つの結末。運命の女神が最後に微笑んだのは私の方……ただ運命の歯車が少し狂えば、負けていたのは私の方だった」

 

 キースは力なくうなだれ、

 

「なに勘違いしてんだ?」

 

 とっておきの悪戯を成功させた子供のようにニヤリと笑った。

 

「勝つのはこの俺だ。バトルフェイズ、リボルバー・ドラゴンでサクリファイスを攻撃だ! ガン・キャノン・ファイヤ!」

 

「馬鹿な! サクリファイスとリボルバー・ドラゴンの攻撃力はまったくの互角……。そんなことをしても、私にダメージを与えることもサクリファイスを撃破することもできない。ただリボルバー・ドラゴンが破壊されるだけ」

 

「ンなこたァ知るかァ!!」

 

 サクリファイスの攻撃とリボルバー・ドラゴンの攻撃がぶつかり合い、互いの弾丸がお互いを襲い掛かった。

 リボルバー・ドラゴンが粉々に破壊され消滅する。だがサクリファイスは吸収していたガトリング・ドラゴンを盾とすることで戦闘破壊を免れる。

 フィールドに残るのは攻撃力0のサクリファイスと、キースの場に伏せられた一枚のカードだけ。

 キースは天を仰ぎ、宣誓する。

 

「これが俺の――――正真正銘、最後の切り札だ。リバースカードオープン、時の機械-タイム・マシーン」

 

 

【時の機械-タイム・マシーン】

通常罠カード

モンスター1体が戦闘によって破壊され

墓地へ送られた時に発動する事ができる。

そのモンスターを、破壊された時のコントローラーの

フィールド上に同じ表示形式で特殊召喚する。

 

 

 ペガサスとの戦いでの屈辱的敗北。あれ以来、失われてしまったキースの時間。だがキースは今を生きる一人の人間だ。生きていれば、人生をまたやり直すこともできるだろう。

 フィールドの時間が逆行していく。

 サクリファイスの攻撃力はそのままに、死んで墓地へ行ったはずのリボルバー・ドラゴンが元の姿となって戻ってきた。

 

「復活したリボルバー・ドラゴンには攻撃権がある。リボルバー・ドラゴンでサクリファイスを攻撃。ガン・キャノン・ファイヤ」

 

 リボルバー・ドラゴンの砲火が攻撃力0となったサクリファイスを吹き飛ばす。

 ペガサスは微笑みながらそれを受けて、遂にライフが0を刻んだ。

 

「見事でした、キース」

 

 それはどういう意図が込められていたのか。満ち足りた様にペガサスが言う。

 爆発的な歓声が会場に響き渡ったが、何故かキースにはそれが遠く聞こえた。視線は真っ直ぐにペガサスへ向けられている。

 

「ここは通過点だ。テメエに勝って漸くあの頃に戻ってきたに過ぎねえ。次は、ここからだ」

 

 止まっていた時間を動かし、失われた時間を取戻し、過去に戻ってくることは出来た。

 ならばキースの人生はここからまた始まるのだ。キースは観客席の方を見ると、そこに切欠を作った張本人である丈が立っていた。

 ペガサスとの戦いは通過点に過ぎない。

 この時代のライバルとの戦いが、これからも待っているのだ。

 

「ふふふっ。最初貴方が今年の新人王に輝いた時、あなたのようなベテランが新人など、と思ったものですが……案外と似合っていたのかもしれませんね」

 

「うるせぇよ」

 

 それ以上、言葉を交わすことはなかった。

 ペガサスへの恨みが完全に消えたわけではないが、これで区切りはついた。憎しみはこの場に置き去りにしていく。

 キースはこれからの戦いへ向けて、過去の不敗神話の神へ背を向けて歩き出した。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。