宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第118話  シンクロ

 パラドックスに奪われ全くの未知の〝Sin〟モンスターになってしまっているとはいえ、青眼の白龍と真紅眼の黒竜という二体のモンスターの威圧は相当のものだ。

 並みのデュエリストであればこの二体を前にしただけで心が折れたかもしれない。

 しかしここに集った四人は全員が〝並み〟という二文字から程遠いデュエリストである。

 自分とカードの力で世界の危機を救ったこともある者達だ。

 この程度の危機ならば各々の時代で既に乗り越えてきている。

 

「十代さん、丈さん、遊戯さん、俺から行かせて下さい。ヤツはあらゆる時代からモンスターを奪い、Sinモンスターへと変貌させ世界を滅ぼす道具にしている。

 そしてそれには奪われた俺のスターダスト・ドラゴンも含まれています。 俺は各時代の人々や、俺たちの街、大切な仲間を守るためにも、このデュエル、持てる力のすべてをかけて戦いたいんです!」

 

 四人の中で一番遠い時代から来ている遊星が前へ出る。

 遊星の実力は最初にパラドックスの掟破りの先制攻撃を見事に防いでみせたことからも証明済みだ。三人は遊星の実力を信頼し頷いた。

 

「任せた」

 

「ぶちかましてやれよ!」

 

「遊星、その熱い気持ちを奴にぶつけてやるんだ!」

 

「はい!」

 

 三人の同意を得て遊星は力強く頷いた。

 青眼の白龍と真紅眼の黒竜、それは遊戯、丈、十代の時代だけではなく遊星の時代においても、否、遊星の時代だからこそ〝伝説〟とされているレアカード中のレアカードだ。

 だが伝説を前にしても遊星は動じない。――――〝伝説〟や〝神〟などこの身はとうに超えてきている。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 最初のターンでいきなり優秀な手札誘発の防御カード、速攻のかかしを使わされた遊星だが、パラドックスが発動した『天よりの宝札』で一枚ドローしていたため、手札の枚数は合計六枚。通常のデュエルと変わらないスタートだ。

 だがこれは敗北者が死ぬ闇のゲーム。このデュエルには自分達の命が、否、世界の命運がかかっている。

 パラドックスは遊星を英雄といったが、遊星本人はそんな大それたものになった覚えなどない。

 だが土壇場や窮地でこそ力を発揮するのが真の英雄だというのならば、少なくとも遊星は英雄だった。

 

「おろかな埋葬を発動、デッキよりレベル・スティーラーを墓地へ送る」

 

 

【おろかな埋葬】

通常魔法カード

自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る。

 

 

 レベル・スティーラーは墓地にいてこそ真価を発揮するカード。ここでいきなり墓地へ送ることができたのは幸先が良い。

 けれど無論このまま手を休める気は毛頭なかった。

 

(俺の後ろには遊戯さんたちが控えてくれている)

 

 罪なものだ。自分の背中に最強のデュエリストたちがいると思うだけで気分が最高潮だった。

 

「手札のモンスターを一枚捨てることで、クイック・シンクロンを特殊召喚。そしてチューニング・サポーターを通常召喚」

 

 

【クイック・シンクロン】

風属性 ☆5 機械族

攻撃力700

守備力1400

このカードは手札のモンスター1体を墓地へ送り、手札から特殊召喚できる。

このカードは「シンクロン」と名のついたチューナーの代わりに

シンクロ素材とする事ができる。

このカードをシンクロ素材とする場合、

「シンクロン」と名のついたチューナーをシンクロ素材とするモンスターの

シンクロ召喚にしか使用できない。

 

 

【チューニング・サポーター】

光属性 ☆1 機械族

攻撃力100

守備力300

このカードをシンクロ召喚に使用する場合、

このカードはレベル2モンスターとして扱う事ができる。

このカードがシンクロモンスターの

シンクロ召喚に使用され墓地へ送られた場合、

自分はデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

 ガンマンの恰好をしたモンスターと中華鍋のような被り物をしたモンスターが出現する。

 いきなり二体のモンスターを召喚した遊星だが共に攻撃力は1000に満たない弱小モンスター。ブルーアイズとレッドアイズには到底敵わない。

 しかし遊星の時代には弱小モンスターでも力を合わせることで高ステータスモンスターを倒す力があった。

 

「……来るか」

 

「――――――――」

 

 未来のシステムを知るパラドックスと、その一端を垣間見たことのある丈が目を見開く。

 

「チューニング・サポーターの効果。このモンスターをシンクロ素材とする時、レベル2モンスターとして扱うことが出来る。

 レベル2、チューニング・サポーターにレベル5、クイック・シンクロンをチューニング!」

 

 ☆2 + ☆5 = ☆7

 

 チューニング・サポーターとクイック・シンクロンが空中に出現した光の輪に飛び込む。

 光へと吸い込まれた二体は粒子となって新たな形へと変貌していった。

 

「集いし思いがここに新たな力となる。光差す道となれ!」

 

 二体の変貌した姿、それは例えていうのならば凶悪な面貌のオーガ。

 

「シンクロ召喚! 燃え上がれ、ニトロ・ウォリアー!」

 

 

【ニトロ・ウォリアー】

炎属性 ☆7 戦士族

攻撃力2800

守備力1800

「ニトロ・シンクロン」+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

自分のターンに自分が魔法カードを発動した場合、

このカードの攻撃力はそのターンのダメージ計算時のみ1度だけ

1000ポイントアップする。

また、このカードの攻撃によって相手モンスターを破壊した

ダメージ計算後に発動できる。

相手フィールド上に表側守備表示で存在するモンスター1体を選択して攻撃表示にし、

そのモンスターにもう1度だけ続けて攻撃できる。

 

 

 灼熱の業火を滾らせながら遊星の前に鬼のような戦士が降り立った。

 丈を除いた過去の人間にとって全く未知のシンクロというシステム。十代は勿論、決闘王と謳われた遊戯ですら目を見張った。

 

「シンクロ召喚……これが未来のシステム」

 

「すげぇな遊星! 未来じゃそんな召喚方法があるのか!」

 

 別に遊星がシンクロ召喚の概念をデュエルモンスターズに取り入れたわけではないのだが、二人の伝説のデュエリストに目を輝かされるとこそばゆいものがあった。

 けれど今はデュエル中。遊星は目の前の敵を倒すことに専念する。

 

「魔法カード、調律を発動。デッキより『シンクロン』と名のつくモンスターを一枚手札に加える。俺はジャンク・シンクロンを手札に加える」

 

 

【調律】

通常魔法カード

自分のデッキから「シンクロン」と名のついたチューナー1体を

手札に加えてデッキをシャッフルする。

その後、自分のデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。

 

 

 本来ならサーチカードは最初に使うのがベターだが、敢えてこのタイミングに使ったのには相応の理由がある。

 その理由を遊星は実行した。

 

「ニトロ・ウォリアーでSin青眼の白龍を攻撃、ダイナマイト・ナックル!」

 

「攻撃力3000のブルーアイズに攻撃力2800のニトロ・ウォリアーで攻撃?」

 

 パラドックスではなくニトロ・ウォリアーの能力を知らない丈が疑問を口にする。

 それに答えるように遊星は叫んだ。

 

「ニトロ・ウォリアーは自分のターンに魔法カードを使用した場合、そのターンのダメージ計算時に一度だけ攻撃力を1000ポイントアップする!」

 

「上手いぞ遊星! それならニトロ・ウォリアーの攻撃力は3800、ブルーアイズを上回る!」

 

 十代の言う通りとなった。

 攻撃力を1000ポイント上昇させたニトロ・ウォリアーがブルーアイズに殴りかかる。ブルーアイズも口からバーストストリームを吐き出して応戦するが、ニトロ・ウォリアーをそれを乗り越えてブルーアイズを殴り倒した。

 

「チッ。よもやこうも早くブルーアイズがやられるとはな。流石は不動遊星、ダークシグナーと地縛神から世界を救った英雄……。

 しかしお前の正しいと思った選択、それにも必ず穴がある。リバースカードオープン、Sin Tune! Sinと名のついたモンスターが戦闘によって破壊された時、デッキよりカードを二枚ドローする」

 

 

【Sin Tune】

通常罠カード

「Sin」と名のついたモンスターが戦闘によって破壊された時、

自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

 

 遊星も強いが、パラドックスも負けていない。

 ブルーアイズという強力なモンスターを失いながらも、二枚のカードをドローし手札を増強してみせた。

 

(……奴のSinモンスターは墓地にモンスターを送るだけで強力なモンスターを特殊召喚できる強力な力。増えた手札が気になるが)

 

 残念ながら遊星の手札に追撃を可能とするカードはない。

 

「俺はカードを二枚伏せてターンエンド」

 

 だが怖れはない。そもそも自分の力だけで勝とうと思うほど遊星は自惚れてなどいなかった。

 デュエルは始まったばかり。そして自分の後ろにいるのは誰も彼も時代の最強デュエリストたちなのである。

 そしてパラドックスにターンが移った。

 

「Sin Worldの効果、私はドローするかわりにデッキからSinと名のつくモンスターをランダムに手札に加える。

 フフフ。Sinブルーアイズを倒して一安心といったところだが、私のデッキはそうそう温くはない。君達に面白いものを見せてやろう」

 

「面白いもの、だと?」

 

 底知れぬ悪寒が遊星たちを襲う。心に直接流れ込んでくる悪寒の発生場所はパラドックスの手札だった。

 

「まずは最初の絶望だ。私はデッキの究極宝玉神レインボードラゴンを墓地に送り、Sinレインボードラゴンを特殊召喚!」

 

 

【Sin レインボー・ドラゴン】

闇属性 ☆10 ドラゴン族

攻撃力4000

守備力0

このカードは通常召喚できない。

自分のデッキから「究極宝玉神 レインボー・ドラゴン」1体を墓地に送った場合に特殊召喚できる。

「Sin World」がフィールド上に存在しない場合このカードを破壊する。

●自分フィールド上のこのカード以外のモンスターを全て墓地へ送る事で、

このカードの攻撃力は墓地へ送った数×1000ポイントアップする。

この効果は相手ターンでも発動する事ができる。

●自分の墓地の「Sin」と名のついたモンスターを全てゲームから除外する事で、

フィールド上のカードを全て持ち主のデッキに戻す。

 

 

 虹色の極光を放ちながら白亜のドラゴンが降臨した。攻撃力4000、ブルーアイズすら超えた虹色のドラゴン。

 遊星も名前だけは知っていた。レインボー・ドラゴン、世界に一人だけ存在する宝玉獣使いが操る世界に一枚だけの超レアカードだ。

 

「貴様! よくもヨハンのカードを……!」

 

 大切な友人のカードをさも自分のエースカードのように使われた事に、十代が普段の陽気さを消した怒りの表情をパラドックスへ向けた。

 

「まだだ! 私のデッキはあらゆる時代から最強カードを集めた別次元の領域……。たかが攻撃力4000のモンスターが一体現れたくらいでそう驚かないで貰おうか。

 私は更にデッキより二体の青眼の白龍を墓地へ送り、現れろ!! 二体のSin青眼の白龍よ!」

 

 

【Sin 青眼の白龍】

闇属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3000

守備力2500

このカードは通常召喚できない。

自分のデッキから「青眼の白龍」1体を墓地に送った場合に特殊召喚できる。

「Sin World」がフィールド上に存在しない場合このカードを破壊する。

 

 

「なん……だと……?」

 

 攻撃力4000のレインボードラゴンだけでも厄介だというのに、更に攻撃力3000のブルーアイズ二体。

 これでパラドックスのフィールドには四体もの伝説のドラゴン族モンスターが揃った。

 

「バトル。Sinレインボー・ドラゴンでニトロ・ウォリアーを攻撃、オーバー・ザ・レインボー!」

 

「罠発動、くず鉄のかかし! モンスター1体の戦闘を無効にする」

 

 

【くず鉄のかかし】

通常罠カード

相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。

その攻撃モンスター1体の攻撃を無効にする。

発動後このカードは墓地へ送らず、そのままセットする。

 

 

 レインボー・ドラゴンの攻撃の前にボロボロのかかしが立ち塞がる。

 4000という破格の攻撃力をもつレインボー・ドラゴンの攻撃だがどうにか防ぐことができた。

 

「発動後、このカードは墓地へ送らず再セットする」

 

「面倒なカードを使う。しかし第二、第三の攻撃を躱し続けることができるかな。Sinブルーアイズの攻撃、滅びのバースト・ストリーム!」

 

「……くっ!」

 

 先程ブルーアイズをやられたお返しと言わんばかりに、ニトロ・ウォリアーはブルーアイズにより撃破された。

 遊星たちのライフが3800となる。けれどパラドックスにはまだブルーアイズとレッドアイズの攻撃が残っていた。

 

「二体目のSinブルーアイズの追撃、バースト・ストリーム!」

 

「これは防がせて貰う! 罠発動、ガード・ブロック! 戦闘ダメージを一度だけゼロにしてカードを一枚ドロー!」

 

 

【ガード・ブロック】

通常罠カード

相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。

その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、

自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 攻撃が防がれパラドックスが若干目を細める。残っている攻撃可能モンスターはレッドアイズのみ。

 これでこのターンでパラドックスが勝負を決めることはできなくなった。

 

「Sin真紅眼の黒竜の攻撃、ダーク・メガ・フレア!」

 

「くっ!」

 

 ライフが0にならないとはいえ2400のダメージはかなりの痛手だ。

 出来れば防ぎたいがもう遊星には防御カードは残ってはいない。けれど、

 

『クリ~ッ!』

 

 救いの声にしては可愛らしい毛玉の声を遊星は聞いた。

 

「……残念だが、その攻撃は通さない」

 

「丈さん!」

 

 クリボーがレッドアイズの攻撃から身を挺して遊星たちを守る。

 クリボーは速効のかかしやバトル・フェーダーのような手札から墓地へ捨てることで攻撃を防ぐ防御カードの元祖というべきカードだ。

 最初に決闘王、武藤遊戯が愛用してからというものの、それなりの数のデュエリストの間で防御カードとして愛用されてきている。

 そしてその愛用している人物の中には丈も含まれていた。

 

「小癪な真似を。私はカードを一枚セット、ターンエンド」

 

 パラドックスのターンが終わり、次に動いたのは、

 

「よっしゃ! 次は俺の番だな!」

 

 遊城十代、正しい闇の力を持つ者だった。

 


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