宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第120話  融合

 イリアステル滅四星にその名を連ね、歴史の修正による救済を目論むパラドックス。

 そのパラドックスの精神はE・HEROマグマ・ネオス――――正しい闇の力を担う者のしもべにして、炎の力を得たHEROを前にしても屈する事はない。

 マグマ・ネオスは強力な能力をもつコンタクト融合体。ネオスペーシアンが実質的に十代専用カードであるため、コンタクト融合がどのようなものかについての具体的な知識を持つ者は歴史的に非常に少ないといえるだろう。

 十代より以前の過去から来ている武藤遊戯や宍戸丈は当然知らないだろうし、十代より後の時代の人間である不動遊星もネオスについては知っていても、ネオスペーシアンとコンタクト融合については知っているか怪しいものだ。

 だがパラドックスはそうではない。

 歴史を修正するにあたりパラドックスは多くの歴史をその目で俯瞰してきた。

 古代エジプトから続くデュエルモンスターズの歴史。

 パラドックスの時代においても史上最強とされたデュエリスト、武藤遊戯が千年パズルを完成させた時から始まった戦いの日々。

 決闘王国、バトルシティ、オレイカルコスの神との戦い、大邪神ゾークネクロファデスとのミレニアムバトルの決着、戦いの儀。

 伝説のデュエリストの系譜はそれからも脈々と受け継がれ、歴史の一つの起点において活躍した彼等は自分の時代で自分の伝説を築いてきた。

 故に遊城十代がこれより辿る歴史や辿って来た歴史についても当然パラドックスは知っているし、遊城十代がどういうデッキを使ってどういうカードを使うかについても熟知している。

 相手の戦い方を知るということはそれだけで有利だ。

 マグマ・ネオス、一見強大に見えるモンスターにある弱点を見逃さずにすむのだから。

 

「私のターンだ、ドロー。遊城十代、ご自慢のHEROを召喚して勝ったつもりでいるかもしれないが、それは愚かなる誤りだ。どれほど強い力で防衛しようと、どれほどの暴力で踏み躙ろうと……決して完全などは有り得ない。

 優れた文明を築き上げた王朝がたった一人の暴君や叛逆者の誕生により滅ぶのと同じ。お前の足元は脆い地盤で出来ている」

 

「おっ! 強気だな。いいぜ、来いよパラドックス。お前がどういう方法でマグマ・ネオスを倒すのか気になって来たぜ」

 

「その減らず口がいつまで続くかな。私は手札抹殺を発動、互いのプレイヤーは手札を全て捨て、捨てた枚数分カードをドローする」

 

 

【手札抹殺】

通常魔法カード

お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから

捨てた枚数分のカードをドローする。 

 

 

 手札交換、狙い通りのカードを引き当てパラドックスは邪悪に笑った。

 

「マグマ・ネオスの攻撃力は強大。まともにぶつかっては私のSinモンスターでも分が悪い。なにせ私がモンスターを下手に召喚すれば逆にマグマ・ネオスは攻撃力を上げてしまうのだからな。

 だからマグマ・ネオスを戦闘では倒しはしない。魔法効果で消えて貰おう。手札より魔法カード発動、地砕き」

 

 

【地砕き】

通常魔法カード

相手フィールド上の守備力が一番高いモンスター1体を破壊する。

 

 

 真上から巨大な圧力がマグマ・ネオスにかかる。マグマ・ネオスはふんばるが、圧力がどんどんと強くなり遂にマグマ・ネオスを押し潰して、粉々に砕いた。

 マグマ・ネオスの破片がフィールドに飛び散り、粒子となって消滅する。

 

「マグマ・ネオス!? けどHEROはただじゃやられはしないぜ。マグマ・ネオスの装備していたインスタント・ネオスペースの効果発動!

 このカードは装備モンスターがフィールドを離れた時、手札・デッキまたは墓地からE・HEROネオスを特殊召喚できる。現れろ、ネオス!」

 

 粒子となって飛び散ったマグマ・ネオスの破片が集まり、それが白亜の戦士を形作る。

 再びフィールドに現れたネオスは雄叫びをあげながら、十代の前に降り立った。

 だがこうやってネオスが召喚されることなどパラドックスは想定済みである。

 

「お前がネオスを召喚するのは分かっていた。なにせ貴様が共に伝説を築き上げたデッキの中心カードだからな。英雄のエースモンスターたるネオス。だとすればそれを滅ぼすのもまた英雄のエースカードが相応強い」

 

「英雄の、エースだって?」

 

「なにをするつもりなんだ、奴は」

 

 悪寒を感じて十代はパラドックスを睨み、十代以上の悪いものを感じた遊星は知らずの内に拳を握りしめた。

 パラドックスがあらゆる時代から集めた最強のカードたち。その中で英雄――――歴史の中心人物から奪ったカードはただの一枚。そのカードの名は、

 

「私はエクストラデッキからスターダスト・ドラゴンを墓地へ送り、シグナーに使役されし五体の竜が一角よ。我が下に頭を垂れよ」

 

「貴様――――!」

 

「飛翔しろ、スターダスト・ドラゴン!」

 

 

【Sin スターダスト・ドラゴン】

闇属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力2500

守備力2000

このカードは通常召喚できない。

自分のエクストラデッキから「スターダスト・ドラゴン」1体を墓地に送った場合のみ特殊召喚できる。

「フィールド上のカードを破壊する効果」を持つ

魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、

このカードをリリースする事でその発動を無効にし破壊する。

この効果を適用したターンのエンドフェイズ時、

この効果を発動するためにリリースされ墓地に存在するこのカードを、

自分フィールド上に特殊召喚できる。

「Sin World」がフィールド上に存在しない場合このカードを破壊する。

 

 

 瞬間、星屑が弾けた。

 辺り一面に星の欠片が舞う。巨大な翼を雄大に広げ嘶くのは星の光を集めた竜。幻想的なその光景であったが、四人に浮かぶのは怒りだ。

 武藤遊戯、宍戸丈、遊城十代、そして不動遊星。各々が様々な理由はあれど、等しくデュエルモンスターズの精霊と深く関わってきた経験がある。だから分かるのだ。幻想的な星屑を散らすスターダストの苦しみが。スターダストは暗い牢獄に囚われ、偽りの主によって強引に使役されている。

 

「パラドックス、俺のスターダストを……!」

 

 自分にとって何よりも大切なカードを使われている遊星の怒りは他の比ではない。明確な怒気をパラドックスへ向ける。

 

「今は私のしもべだ。バトルフェイズに移行。Sinスターダスト・ドラゴンでE・HEROネオスを攻撃、シューティング・ソニック!」

 

「Sinモンスターとなっても俺のスターダストの攻撃力は2500。十代さんのネオスと同じ。相打ちにするつもりか?」

 

「相打ち? 違うな不動遊星。私が求めるのは両者相打つなどという無様な終焉ではない。私の……私達の完全なる勝利だけが我々の望み。

 速攻魔法発動、収縮! ネオスの攻撃力を半減する」

 

 

【収縮】

速攻魔法カード

フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターの元々の攻撃力はエンドフェイズ時まで半分になる。

 

 

 ネオスの体がみるみるうちに半分に小さくなっていく。小さくなったのは体だけではなく存在密度というべきものまでだ。

 攻撃力2500のネオスの攻撃値はこれで1250。スターダストの半分に低下してしまった。

 

「不味い! このままじゃ十代さんのネオスが――――」

 

「おいおい慌てるなよ遊星」

 

「十代さん?」

 

「俺のHEROたちは俺に似てしぶといんだぜ。こんくらいじゃ倒れやしないさ」

 

 自分のエースカードがやられようとしているにも拘らず、十代には子供のようなワクワクとした笑みが失われていない。

 そして十代は悪戯を披露する子供のような表情で宣言した。

 

「俺も速攻魔法発動だ! ……俺の心の闇が生み出した絶対無敵の力、超融合!!」

 

「ちょ、超融合だと!?」

 

 十代が発動を宣言した途端、スターダストを凌駕しかねないほどの別格の暴風が吹き荒れる。

 スターダストの攻撃が掻き消え、十代だけが暴風の中でまるで動じず雄大に君臨していた。その背中は太古に大陸を駆け抜けた覇王を想起させる。

 

「手札を一枚捨て、超融合はその力を発揮される。フィールドのモンスターを融合し、融合モンスターを降臨するぜ。だが超融合が対象とするのは俺のフィールドだけじゃない。超融合はお前のフィールドのモンスターをも融合素材として利用する!」

 

「……スターダストの効果はあくまで破壊に対してのみ。融合に関しては効果は発動できない。いや、どちらにせよ超融合の前にあらゆる耐性は無力。発動した超融合を止める術はない。

 遊城十代、伊達に伝説となってはいないというわけか」

 

 

【超融合】

速攻魔法カード

手札を1枚捨てて発動できる。

自分・相手フィールド上から融合モンスターカードによって決められた

融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を

融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

このカードの発動に対して、魔法・罠・効果モンスターの効果を発動できない。

 

 

 暴風にスターダスト・ドラゴンが巻き込まれ、ネオスは自ら進んで暴風の中にその身を投じる。

 HEROとドラゴン、二つのモンスターが暴風の中で一つになろうとしていた。

 

「待ってろよ遊星。お前の大切なモンスターは取り返してやるからな」

 

「十代さん……」

 

「クッ、ハハハハハハハハハハハハハ。喜んでいるところ悪いが残念だったな」

 

「なにが可笑しいんだ、パラドックス?」

 

 超融合という掟破りのカードの発動にも動じずに構えていた伝説の男、武藤遊戯が静かに訊く。

 

「私は歴史を見てきたといっただろう。残念だが遊城十代、お前のエクストラデッキにはネオスとSinスターダストにより召喚できる融合モンスターなどありはしない。

 融合したところで完成する融合モンスターがいないのであれば融合召喚など無意味。だから残念だと言ったのだ。この融合は無意味に終わるのだからな」

 

「それはどうかな。例えお前の言う通りでも、俺の目から見て十代はそんなチャチなミスをするほど軟なデュエリストじゃないぜ。だろう?」

 

「遊戯さんには敵わないな。そうだぜパラドックス。確かに俺の融合デッキにネオスとSinスターダスト・ドラゴンで融合できる融合モンスターはいない。ただし俺の融合デッキには、だけどな」

 

「――どういうことだ?」

 

「こういうことだよ」

 

 答えたのは十代ではなく丈。ブラックデュエルディスクを掲げ、そこから融合モンスターが眠る融合デッキの扉を開いていた。

 

「十代の融合デッキになくとも、俺のデッキにはある。受け取れ十代!」

 

「よっしゃ! やっぱ丈さんは頼りになるぜ! Sinスターダスト・ドラゴンの属性は闇! 一体のHEROと闇属性モンスターの融合により闇のHEROが降臨する。

 融合召喚。フィールドを圧巻しろ、E・HEROエスクリダオ!」

 

 

【E・HEROエスクリダオ】

闇属性 ☆8 戦士族

攻撃力2500

守備力2000

「E・HERO」と名のついたモンスター+闇属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃力は、自分の墓地に存在する

「E・HERO」と名のついたモンスターの数×100ポイントアップする。

 

 

 闇のHEROという謳い文句に違わぬ、漆黒を纏った戦士が召喚される。

 モンスター効果により墓地にいるE・HEROの数だけ攻撃力が100ポイントアップした。

 

「私としたことが……。宍戸丈が複数のデッキを使い、そのうちの一つがHEROデッキだったことなど知っていたというのに」

 

 Sinスターダストが消えたことで、パラドックスには攻撃可能なモンスターは失われた。

 バトルフェイズが終わっていなくても、バトルするモンスターがいなければ話にならない。

 

「バトルフェイズを終了。カードを一枚伏せターンを終了する」

 

「さて。俺のターンだな」

 

 そして遂に宍戸丈のターンが始まる。




 このたびは更新が遅れに遅れてしまい申し訳ありません。
 余り大声ではいえない事情により、感想返しすら出来ない日々が続いていました。まだなにかと立て込んでいますので、更新間隔があくかもしれませんが、少なくとも二か月放置などはないよう努めます。

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