デュエルモンスターズの歴史は長い。
三千年前の古代エジプトで行われていた闇のゲームをペガサス・J・クロフォードがデュエルモンスターズという形で世に出して以来、多くのデュエリストが『最強』の頂を目指し、切磋琢磨してきた。
時にデュエルが世界の危機を招いた事もあるし、救った事もある。その歴史の転換期にもほぼ必ずといっていいほどデュエルモンスターズは関わって来たし、正に今パラドックスと相対している英雄を生み出してきた。
だがどれほどの年月が経とうと届かない頂きがある。たった一人、長いデュエルモンスターズの歴史で史上最強の称号を欲しいままにした男がいる。
そのデュエリストこそが武藤遊戯。初代キング・オブ・デュエリスト、三幻神を担う者だ。
「おっと。パラドックス、エンド宣言の際に俺はカードを発動させて貰おう。速攻魔法、終焉の焔」
【終焉の焔】
速攻魔法カード
このカードを発動するターン、
自分は召喚・反転召喚・特殊召喚する事はできない。
自分フィールド上に「黒焔トークン」
(悪魔族・闇・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。
このトークンは闇属性モンスター以外の生贄召喚のためには生贄にできない。
丈がデュエルディスクを操作し伏せカードをオープンにすると、場に出現する二体のトークン。
エンドフェイズでの発動のため、発動ターンに召喚・反転召喚・特殊召喚できないというデメリット効果は無意味だ。
「遊戯さん。任せますよ」
「ナイスアシストだぜ丈。お前の力、確かに受け取った! 俺のターン、ドロー!」
丈の援護射撃もあり、最高のコンディションで史上最強の男のターンが始まる。
天よりの宝札で手札は六枚となっていたため、ドローした遊戯の手札は合計七枚。決闘王に七枚の手札を持たせることがどういうことか、実際に武藤遊戯と戦った経験のある十代は味方であるにも拘らず武者震いをした。
「強欲な壺を発動し二枚ドロー! まずはお前が遊星から奪ったスターダスト・ドラゴンを返して貰おうか。魔法カード、振り出しを発動するぜ! 手札を一枚捨て、フィールド上のモンスター1体をデッキの一番上に戻す!」
「なんだと!?」
【振り出し】
通常魔法カード
手札を1枚捨てる。
フィールド上のモンスター1体を持ち主のデッキの一番上に戻す。
「上手い! スターダストの効果は破壊効果にしか対応していない! デッキの一番上に戻す効果を無効にすることはできない」
単純に墓地へ送るのではなくデッキの一番上に戻す。通常のモンスターと異なり融合モンスターやシンクロモンスターは手札やデッキに戻されるときは、エクストラデッキへと戻される。
墓地ならば死者蘇生などで容易に復活できるがエクストラデッキではそうもいかない。しかもスターダストは遊星のカードであり、スターダストが戻る先はパラドックスのエクストラデッキではなく遊星のエクストラデッキだ。
誰よりもスターダスト・ドラゴンを知る遊星だからこそ、あっさりと自分の切り札を取り返してみせた武藤遊戯に感嘆の声を漏らさずにはいられない。
「遊星。スターダストは取り返したぜ」
「ありがとうございます、遊戯さん」
スターダストが粒子となって消えて、本当の主である遊星の所へと戻った。
消える間際スターダストが嬉しそうに嘶いたのは決して聞き違いではないだろう。
「俺は丈の召喚した二体の黒焔トークン二体を生け贄に捧げる! 現れろ! 我が最強のしもべ、ブラック・マジシャン!!」
【ブラック・マジシャン】
闇属性 ☆7 魔法使い族
攻撃力2500
守備力2100
魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。
デュエルモンスターズにその名も高き最上級魔術師。三千年前のファラオに仕えた神官の魂が、時空の果てにおいてファラオの前に現れる。
奇しくも十代のエースたるネオスや遊星のエースたるスターダストと全く同じ攻撃力だ。
「これが遊戯さんのエースカード、ブラック・マジシャン……!」
「ブラマジ来たーッ!!」
「……いつぞやの戦いを想いだすな。ただあいつのブラック・マジシャンとはデザインが違う」
ブラック・マジシャンに対して三人はまったく違った反応をする。
「丈の発動した永続魔法、冥界の宝札の効果は味方である俺にも有効だ! よって俺は二枚カードをドローするぜ。
そして魔法カード、師弟の絆を発動。自分フィールドにブラック・マジシャンがいる場合、自分のデッキ・手札から最上級魔術師の弟子を守備表示で召喚する。来い、ブラック・マジシャン・ガール!」
【師弟の絆】
通常魔法カード
自分フィールド上に「ブラック・マジシャン」が
表側表示で存在する場合に発動する事ができる。
自分のデッキ・手札から「ブラック・マジシャン・ガール」1体を
表側守備表示で特殊召喚する。
【ブラック・マジシャン・ガール】
闇属性 ☆6 魔法使い族
攻撃力2000
守備力1700
お互いの墓地に存在する「ブラック・マジシャン」
「マジシャン・オブ・ブラックカオス」1体につき、
このカードの攻撃力は300ポイントアップする。
師匠に並びデュエルモンスターズ界で絶大な知名度を誇る魔法使い族モンスター、ブラック・マジシャン・ガール。
フィールドに降り立ったブラック・マジシャン・ガールはぎらぎらと殺意を滲みだすパラドックス・ドラゴンとSinサイバー・エンド・ドラゴンを前にして「うえっ」と顔を歪めた。
「お師匠サマ、なんだかすっごく強そうな敵なんですけどぉ……」
「臆するな 私達とマスター達の力を合わせれば、必ず勝てる!」
「はい!」
精霊を見る力のない遊星にはなにが起きたか分からなかったが、精霊を見れる三人にはそのやり取りを聞き取ることができた。
どうやら師弟同士と主従同士の関係は非常に良好らしい。遊戯は二人の魔術師のやり取りに薄く微笑む。だが直ぐにパラドックスという敵に挑むデュエリストの顔に戻ると言い放った。
「俺はブラック・マジシャン・ガールのレベルを二つ下げ、丈と遊星の墓地よりレベル・スティーラー二体を蘇生。更に二重召喚、俺は再び通常召喚権を得る!
いくぜパラドックス。俺は二体のレベル・スティーラーとブラック・マジシャン・ガールを生け贄に捧げる!」
「三体の生贄、まさか!」
「目覚めよ、我が掌中に眠りし破壊の神。オベリスクの巨神兵、降臨!」
【THE GOD OF OBELISK】
DIVINE ☆10 GOD
ATK/4000
DEF/4000
The Player shall sacrifice two bodies to God of Obelisk.
The opponent shall be damaged.
And the monsters on the field shall be destroyed.
巌のように雄々しく、山のように猛々しい巨神が雷鳴を轟かせながら降臨する。その迫力は破壊の神に相応強いもので、黙していても隠し切れぬ破壊衝動は完全に他を圧倒していた。
これこそが武藤遊戯が操りし三枚の神のカードの一枚、オベリスクの巨神兵。バトルシティにおいて海馬瀬人を倒して勝ち取った神だ。
「冥界の宝札の効果で二枚ドロー。死者蘇生を発動し、遊星の墓地よりニトロ・シンクロンを蘇生。更に場にチューナーがいることにより、ボルト・ヘッジホッグを特殊召喚する。
そしてオベリスクの特殊能力。二体のモンスターを生け贄に捧げ、相手フィールド上のモンスターを全滅させる。やれ、オベリスク!」
「チッ。スターダストを不動遊星のエクストラデッキに戻したのはこの効果のためでもあったのか!?」
「正解だぜ。神にモンスターの効果は通用しない。だが遊星のスターダストは強力な精霊の宿ったカード。神の力を凌駕してくる可能性があったからな」
遊星のスターダスト奪還と不安要素の排除。その二つを容易くこなしてこそキング・オブ・デュエリスト。
二体のモンスターを両手で握りつぶしたオベリスクが、パラドックスのフィールドのモンスター目掛けて破壊の波動を放った。
地面を揺らしながら破壊のエネルギーの塊が突き進む。パラドックスは顔を歪めながらも、動いた。
「速攻魔法発動、神秘の中華なべ! Sinサイバー・エンド・ドラゴンをリリースし、私は4000のライフを回復する!」
「だがまだSinパラドックス・ドラゴンがいるぜ」
「ああそうだ……まだ破壊されるモンスターにはSinパラドックス・ドラゴンがいる」
逆刹を象徴するドラゴンも破壊神の蹂躙には一溜まりもない。リリース&エスケープしたSinサイバー・エンド・ドラゴンと違い、パラドックス・ドラゴンはオベリスクの力の前に一方的に破壊された。
神秘の中華なべでパラドックスは4000ものライフを回復したが、未だに遊戯の場にはオベリスクとブラック・マジシャン。この二体が総攻撃すればパラドックスは終わりだ。
「くっ……本当の勝負はこれからだ」
「諦めろ、おまえの場にはすでにモンスターはいない!」
「諦める? 生憎だが、この程度で諦めるようなら私はこの場所に立ってなどいない。それにまだまだだ。私はまだ終わっていない。
一見正しいように見えた今の攻撃……だがそれは、大いなる間違い! 罠発動! Sin Paradigm Shift!
Sinパラドックスドラゴンが破壊されたとき、我が身を生け贄としライフを半分にすることで、Sinトゥルースドラゴンを特殊召喚する!」
【Sin Paradigm Shift】
通常罠カード
自分フィールド上に存在する「Sin パラドックス・ドラゴン」が破壊された時、
自分のライフポイントを半分にする事で発動する事ができる。
自分の手札・デッキ・墓地から「Sin トゥルース・ドラゴン」1体を自分フィールド上に特殊召喚する。
パラドックスの体がフィールドに出現したなにかに呑みこまれていく。
我が身を生け贄にするというのは言葉の綾ではなく真実だった。パラドックスは自らの命を代償にして、最強のドラゴンを呼び寄せる。
「う、おおおおおおおおおおおおお! お前達はこの私自らの手で抹殺してやる…!」
【Sin トゥルース・ドラゴン】
闇属性 ☆12 ドラゴン族
攻撃力5000
守備力5000
「Sin paradigm shift」の効果でのみ特殊召喚できる。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
自分の「Sin」と名のついたモンスターの攻撃で相手モンスターを破壊した時、
相手のモンスターを全て破壊し、破壊した数×800ポイントのダメージを相手に与える。
このカードが破壊される場合、「Sin」と名のついたモンスター1体を
自分の墓地から除外する事でその破壊を無効にする事ができる。
攻撃力5000。数値化されているモンスターでは事実上の最高値を叩きだすモンスターが現れる。Sinトゥルース・ドラゴン、溢れんばかりのエネルギーはパラドックスの半分のライフを代償にして余りある力を秘めていた。
遊戯はモンスターと一体化したその姿にバトルシティで戦った邪悪なる魂を思い出した。
「攻撃力5000のモンスター……! 俺はカードを三枚セット、ターンエンドだ」
オベリスクの攻撃力は4000。Sinトゥルース・ドラゴンの5000には及ばない。
遊戯に出来る事は伏せカードをセットして、ターン終了を宣言することだけだった。