Sinパラドックス・ドラゴン。攻撃力4000という最高クラスの攻撃値をもち、その名前からパラドックスを象徴するであろうモンスターは真の切り札ではなかった。
パラドックスの真の切り札。Sinトゥルース・ドラゴン、真実という名を与えられし竜は時空を超えて集った四人の英雄達に牙を剥いた。
「私のターン、ドロー」
そしてパラドックスのターン。
遊戯のフィールドには三幻神の一角であり嘗て海馬瀬人が使役した破壊神オベリスクがいる。並みの相手どころか一流のデュエリストですら、神を前にすれば恐怖に膝を屈するだろう。
とはいえ今度ばかりは三幻神といえど相手が悪い。
Sinトゥルース・ドラゴンの攻撃力は5000、オベリスクの4000を上回っている。無敵に近い耐性をもつ神のカードだが、攻撃に対しては耐性はない。単純な高い攻撃力は三幻神を攻略する最も手っ取り早い方法の一つだった。
「バトルフェイズ。Sinトゥルース・ドラゴンでオベリスクの巨神兵を攻撃、トゥルース・フォース・バースト!!」
「くっ! 迎撃しろ、オベリスク! ゴッド・ハンド・クラッシャー!」
矛盾を超越し真理に至りし竜と、大地を砕く最強の破壊神。邪悪でありながら神々しさを感じる波動と、破壊の二文字を象徴するかのような力がぶつかり合う。
オベリスクの体に皹が入っていく。軍配が上がりしは真理。人々を見下ろし時に裁きを下す神は、絶対の〝真理〟の前に敗れ去る。
「神のカードが、こんな簡単にやられっちまうなんて」
神の撃破ではなく、僅か1ターンで神のカードを攻略してしまったパラドックスの強さに十代が瞠目する。
「終わりは呆気ないものだったな武藤遊戯。この戦いは私の勝利だ」
トゥルース・ドラゴンとオベリスクの攻撃力の差は1000、残り800の遊戯たちの命を消し飛ばすには十分な数だ。だが武藤遊戯もまたそう簡単に敗れるような男ではない。
「それはどうかな」
『クリクリ~』
研ぎ澄まされた空気には似合わぬ可愛らしい鳴き声が響き渡る。
茶色い毛玉のモンスター、クリボーが遊戯の前に浮かびながら徐々に薄まり消えていく。
「ありがとうクリボー。俺は手札からクリボーを捨てて、戦闘ダメージをゼロにさせて貰った」
「狡い手を、よくも使う」
「褒め言葉として受け取っておくぜ」
ともあれこれでSinトゥルース・ドラゴンの攻撃でライフが消し飛ぶことはなくなった。
けれどもパラドックスが浮かべたのは悔しさではなく冷笑。
「なにが可笑しい?」
遊星が慎重にパラドックスへ探りを入れる。
「ふふふ。たかがダメージをゼロにした程度でSinトゥルース・ドラゴンの攻撃を防ぎきったと思ったら大間違いだ。
Sinトゥルース・ドラゴンの特殊能力! Sinと名のつくモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した時、相手フィールド上のモンスターを全滅させ、その効果で破壊したモンスターの数×800ポイントのダメージを相手に与える。
これで正真正銘のジ・エンドだな。武藤遊戯、宍戸丈、遊城十代、不動遊星!!」
「成程。だからオベリスクを狙ったのか」
感心したように丈が呟く。
三幻神は敵に回せば恐ろしいモンスターだ。それは三幻神と対になる三邪神と戦った丈も良く知っている。デュエリストからすれば一刻も早く退場して欲しいカードだろう。
だがそれだけがパラドックスがオベリスクを狙った理由ではなかった。
神のカードはモンスター効果に対しても強力な耐性をもつ。仮にブラック・マジシャンを攻撃してSinトゥルース・ドラゴンが効果を発動しても、オベリスクはその絶対的な耐性で効果を弾いてしまうのだ。
「死ね!」
Sinトゥルース・ドラゴンの周囲に黒い針が展開し、それらが一斉にブラック・マジシャンへと飛ぶ。
「速攻魔法発動、禁じられた聖衣!」
【禁じられた聖衣】
速効魔法カード
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。
エンドフェイズ時まで、
選択したモンスターは攻撃力が600ポイントダウンし、
カードの効果の対象にならず、カードの効果では破壊されない。
針が黒魔術師を貫く直前、ブラック・マジシャンを純白の聖骸布が包み込む。聖なる衣は黒い針を弾き返し、ブラック・マジシャンを守り通した。
「Sinトゥルース・ドラゴンのバーンダメージは特殊能力でモンスターを破壊できた場合にのみ有効だ。
禁じられた聖衣はカード効果による破壊からモンスターを守るマジック! これでお前のSinトゥルース・ドラゴンの能力は不発に終わる!」
「……伊達にキング・オブ・デュエリストなどと謳われてはいないか。カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」
漸く四人たちのターンが一巡する。
遊星から始まった時空を超えたデュエルは十代、丈、遊戯へとバトンを渡していき、遊星へと戻ってきた。
「遊星、Sinトゥルース・ドラゴンは凄ぇ強敵だ。でもお前なら大丈夫だ。ぶちかましてやれ!」
「はい、十代さん」
偉大なる先輩からのエールを受け、遊星はいつになく力強い瞳でパラドックスを睨む。
「世界はお前の好きにはさせない! 俺のターン、ドロー!」
遊星のジャンクデッキは〝
そしてパラドックスが度々発動させた手札交換カードの甲斐あって遊星の墓地は十二分に廃品が詰まれている。
「手札よりジャンク・シンクロンを攻撃表示で召喚! ジャンク・シンクロンの効果発動、このカードが召喚に成功した時、墓地のレベル2以下のモンスターを効果を無効にして特殊召喚できる!、現れろ、スピード・ウォリアー!
そして墓地にチューナーがいる時、このカードは墓地より特殊召喚できる。ボルト・ヘッジホッグを特殊召喚」
【ジャンク・シンクロン】
闇属性 ☆3 戦士族
攻撃力1300
守備力500
このカードが召喚に成功した時、自分の墓地の
レベル2以下のモンスター1体を選択して表側守備表示で特殊召喚できる。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。
【スピード・ウォリアー】
風属性 ☆2 戦士族
攻撃力900
守備力400
このカードの召喚に成功したターンの
バトルフェイズ時にのみ発動する事ができる。
このカードの元々の攻撃力はバトルフェイズ終了時まで倍になる。
【ボルト・ヘッジホッグ】
地属性 ☆2 機械族
攻撃力800
守備力800
自分のメインフェイズ時、このカードが墓地に存在し、
自分フィールド上にチューナーが存在する場合、
このカードを墓地から特殊召喚できる。
この効果で特殊召喚したこのカードは、
フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。
たちまち三体のモンスターが遊星のフィールドに集結する。
レベルの合計はこれで丁度7になるが、まだまだ遊星は止まらない。
「魔法発動、ワン・フォー・ワン! 手札のモンスターカードを一枚墓地へ送り、レベル1モンスターを手札またはデッキより特殊召喚する。デッキよりチューニング・サポーターを特殊召喚!」
【チューニング・サポーター】
光属性 ☆1 機械族
攻撃力100
守備力300
このカードをシンクロ召喚に使用する場合、
このカードはレベル2モンスターとして扱う事ができる。
このカードがシンクロモンスターの
シンクロ召喚に使用され墓地へ送られた場合、
自分はデッキからカードを1枚ドローする。
【ワン・フォー・ワン】
通常魔法カード
手札からモンスター1体を墓地へ送って発動できる。
手札・デッキからレベル1モンスター1体を特殊召喚する。
傘を被ったサムライのような恰好をした小さな機械族モンスターが召喚される。
弱小モンスターの集合、レベル1のチューニング・サポーターが加わったことでその合計値は8になった。
パラドックスがあることに気付き眉間にしわを寄せる。
「レベル8、来るか!」
「行く! レベル1、チューニング・サポーターとレベル2、ボルト・ヘッジホッグとスピード・ウォリアーにレベル3、ジャンク・シンクロンをチューニング!」
☆1 + ☆2 + ☆2 + ☆3 = ☆8
空中に出現する光の環。三体のモンスターが光となり、後ろをジャンク・シンクロンが飛び込む。
単体では到底Sinトゥルース・ドラゴンに及ばないモンスターたちが、新たなる姿へシンクロしていく。
「集いし願いが新たに輝く星となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 飛翔せよ、スターダスト・ドラゴン!」
【スターダスト・ドラゴン】
風属性 ☆8 ドラゴン族
攻撃力2500
守備力2000
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
「フィールド上のカードを破壊する効果」を持つ
魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、
このカードをリリースして発動できる。
その発動を無効にし破壊する。
この効果を適用したターンのエンドフェイズ時、
この効果を発動するためにリリースした
このカードを墓地から特殊召喚できる。
罪過の枷を着せられ、パラドックスに使役されていた星屑の竜は真なる主のもと両翼を広げ飛翔する。
山々を超えていきそうなほど透き通った鳴き声が響き渡った。キラキラと星の輝きを放ちながら、スターダスト・ドラゴンが遊星の前へ降り立った。
「チューニング・サポーターの効果。デッキからカードを一枚ドローする」
「スターダスト・ドラゴンか。厄介なモンスターだが、私のSinトゥルース・ドラゴンの前では攻撃力2500程度のスターダストなど無力に等しい。どういうつもりかね?」
「確かにスターダストじゃSinトゥルース・ドラゴンを破壊することはできない。だがこれでSinトゥルース・ドラゴンの破壊効果は封じられる。
俺はカードを二枚セットし、ターンエンドだ」
攻撃力で劣るスターダストを攻撃表示にしてのターンエンド。更にはこれ見よがしのリバースカード。遊星がなんらかの罠カードをセットしたのは確定的に明らかなことだった。
「私のターン。そうしてこれ見よがしにリバースカードをセットすれば、私が攻撃を躊躇すると考えたのなら早計だったな不動遊星」
「なに!」
「たかが伏せカード如き闇など、この身はとうに踏破している。人の身では辿り着けないからこその真理。
バトルフェイズ。Sinトゥルース・ドラゴンでスターダスト・ドラゴンを攻撃、消え去れ不動遊星!」
罠カードの存在など無視してパラドックスが攻撃を仕掛ける。
これはパラドックスの浅慮ではない。Sinトゥルース・ドラゴンには罠カードの障害などを踏み躙る特殊能力がある。自分のカードを信じているからこそ、パラドックスはこんな強引な手を躊躇いなく仕掛けられるのだ。
しかし、
「リバースカードオープン!」
伏せカードの発動を宣言するはやはり遊星。
「カウンター罠、攻撃の無力化! モンスター1体の攻撃を無効にしバトルフェイズを終了する」
【攻撃の無力化】
カウンター罠カード
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。
トゥルース・ドラゴンの衝撃波がスターダストを破壊する寸前、スターダストの前に出現した渦が攻撃を呑み込んでいく。
バトルフェイズが強制終了させSinトゥルース・ドラゴンは攻撃を停止させた。スターダスト、そして遊戯のフィールドにいるブラック・マジシャンは無傷。
「諦めの悪い。メインフェイズ2を終了、ターンエンドだ」
Sinトゥルース・ドラゴンの攻撃は防いだ。しかしパラドックス自身にはなんらダメージを与えられていない。ただ単に時間を稼いだだけだ。
四人全員が悟る。Sinトゥルース・ドラゴン、あのモンスターを倒さずしてパラドックスに勝利する道はないと。