宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第125話  みらいいろ

「待っていたぜ。俺のターンだ」

 

 二度目となる十代のターンがやってくる。

 丈ほどではないが十代もまたアカデミアの生徒だった時、何度かカイザーと謳われたサイバー流後継者〝丸藤亮〟と戦っている。だから攻撃力5000のモンスターと相対しても気後れはしなかった。

 寧ろ逆に十代にあるのは昂揚感のみ。子供から大人へと成長する過程で一度は失われた純粋にデュエルを楽しむ心。

 しかしあるデュエルでそれを取り戻した十代は絶望的なピンチでも挑戦的に笑うだけの精神力をもっている。

 

「ドローだ!」

 

 攻撃力5000のモンスター、カイザー亮のような火力が飛び抜けたデッキなら強引に突破することもできるだろう。

 けれどデュエルモンスターズのデッキとは千差万別で一つの常道といえるものは存在しない。攻撃力5000をまともな力勝負で超えることが出来るデッキはそうは多くないだろう。

 他のデュエリストなら攻撃力をなんらかの手段で低下させるか、もしくは魔法・罠、モンスター効果による排除を考えるところだ。

 しかし十代は敢えてSinトゥルース・ドラゴンに真っ向勝負を挑もうと決める。

 特に深い理由があるわけではない。遠望な戦略構想などない。

 ただそっちの方が楽しそうだから、楽しそうなことを全力で万進する。それが遊城十代のデュエルだ。

 

「いくぜパラドックス。手札より融合を発動! 手札のE・HEROバーストレディとE・HEROフェザーマンを手札融合。来い、マイフェイバリットカード! E・HEROフレイム・ウィングマン!」

 

 

【E・HERO フレイム・ウィングマン】

風属性 ☆6 戦士族

攻撃力2100

守備力1200

「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、

破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

 

 赤き竜(レッド・ドラゴン)の右半身に緑の鳥《グリーン・バード》の左半身。炎と風、二つの力を持つ英雄が白い羽と炎を纏い降臨する。

 真紅の瞳が輝き、Sinトゥルース・ドラゴンを凝視する。

 十代にとって掛け替えのないカードといえばE・HEROネオスであるが、このフレイム・ウィングマンもまた同じくらい掛け替えのない価値をもつカードだ。

 アカデミアの入学試験―――――遊城十代というデュエリストの第一歩、その時に十代に勝利を齎したカードこそがこのフレイム・ウィングマン。

 嘗て機械の巨人すら下した英雄は、Sinトゥルース・ドラゴンという強敵にも一歩も退いていない。

 

「フレイム・ウィングマンか。コンタクト融合では勝てぬと見て、歴史に記されている通りお得意の融合戦術に方針転換かね?

 得意気に召喚したところ悪いがフレイム・ウィングマンの攻撃力はたったの2100。攻撃力を倍にしても、私の得た真理には届きはしない」

 

「へっ! 知らないのかパラドックス、HEROは必ず勝つんだぜ! 俺は手札よりもう一枚の融合を発動だ!」

 

「二回連続の融合だと!?」

 

「お前が闇なら俺は光でいくぜ! フィールドのフレイム・ウィングマンと手札のスパークマンを融合」

 

 手札にいたスパークマンが飛び出し、フレイム・ウィングマンとその身を融合させていく。

 融合が完了しフィールドに淡い輝きを放ちながら佇んでいたのは、フレイム・ウィングマンが光の力を得て進化したHEROの姿。

 暗い絶望の闇を光で照らした輝きの戦士。

 

「融合召喚! E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン!」

 

 

【E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン 】

光属性 ☆8 戦士族

攻撃力2500

守備力2100

「E・HERO フレイム・ウィングマン」+「E・HERO スパークマン」

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃力は、自分の墓地に存在する「E・HERO」と名のついた

カード1枚につき300ポイントアップする。

このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、

破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

 

 E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン。

 丈の友であり十代にとっては先輩でもある男、カイザー亮の操るサイバー・エンド・ドラゴンを真っ向から打ち破ったHEROだ。

 

「シャイニング・フレア・ウィングマンは墓地のHERO一体につき攻撃力を300ポイントアップさせるぜ!」

 

「墓地のHEROは七体、2100ポイントの上昇か。しかし2100ポイント攻撃力を上昇させたところで、シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は4600止まり。惜しかったがこれが限界だ。私のSinトゥルース・ドラゴンには届かない」

 

「それはどうかな」

 

 遊星が不敵に口元を緩ませる。

 

「俺はお前の手札抹殺により墓地に送られたスキル・サクセサーの効果を発動!」

 

「墓地から罠だと!?」

 

 

【スキル・サクセサー】

通常罠カード

自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターの攻撃力はエンドフェイズ時まで400ポイントアップする。

また、墓地のこのカードをゲームから除外し、

自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。

選択した自分のモンスターの攻撃力はエンドフェイズ時まで800ポイントアップする。

この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できず、

自分のターンにのみ発動できる。

 

 

 ニヤリと遊星が墓地に置かれた罠カード、スキル・サクセサーを除外する。

 遊星の発動したスキル・サクセサーはフィールド上にセットされている時は、自分のモンスターの攻撃力を400ポイントあげるという地味なカードでしかないが、その真骨頂は墓地に置かれた時に発揮される。

 このカードを墓地から除外することで、自分モンスターの攻撃力を800ポイント上昇させることができるのだ。

 800ポイントの上昇だけでは余り飛び抜けた効果ではないが、墓地からの発動という奇襲性は他の追随を許さない。

 

「スキル・サクセサーの効果により十代さんのシャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は5400になる!」

 

「サンキューだぜ遊星。これでシャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力がSinトゥルース・ドラゴンを超えたぜ!」

 

「しかし私のSinトゥルース・ドラゴンには墓地のSinモンスターを除外することで破壊を無効にする能力がある。スキル・サクセサーの効果が持続するのはこのターンのみ」

 

「へっ! だからこれだけじゃ終わらせないぜ。速攻魔法、禁じられた聖杯! Sinトゥルース・ドラゴンの効果をこのターンの間だけ無効化する!」

 

 禁じられた聖杯によりSinトゥルース・ドラゴンの攻撃力も上がるが、その上昇値は400。

 シャイニング・フレア・ウィングマンとSinトゥルース・ドラゴンの攻撃力が並ぶ。

 

「バトルだ。シャイニング・フレア・ウィングマンでSinトゥルース・ドラゴンを攻撃、シャイニング・シュート!」

 

 シャイニング・フレア・ウィングマンが跳躍し、Sinトゥルース・ドラゴンに攻撃を仕掛けた。城壁をも砕く力がSinトゥルース・ドラゴンへと迫り。

 その力が真理の竜を破壊する直前、四方から出現した鎖がシャイニング・フレア・ウィングマンを雁字搦めに拘束した。

 

「これは……」

 

「フフフフフ。甘かったな遊城十代。罠カード、デモンズ・チェーンを発動させて貰った」

 

 

【デモンズ・チェーン】

永続罠カード

フィールド上の効果モンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターは攻撃できず、効果は無効化される。

選択したモンスターが破壊された時、このカードを破壊する。

 

 

 鎖に縛られたシャイニング・フレア・ウィングマンが抜けだそうともがくが、悪魔の鎖は英雄を捕えて離さない。

 

「これはモンスターの攻撃を封じ、モンスター効果を無効化するカード。シャイニング・フレア・ウィングマンの能力が封じられたことにより攻撃力は元に戻る」

 

「くそっ。カードを一枚セットしてターン終了だ」

 

 後一歩、後ほんの僅かにSinトゥルース・ドラゴンに届かなかった。

 禁じられた聖杯とスキル・サクセサーの効果も十代のエンド宣言と共に消失する。

 

「私のターン。発動しているSin Worldの効果発動。ドローフェイズにドローする代わりに、私はデッキに眠る『Sin』と名のつくカードをランダムに一枚手札に加える。

 速攻魔法、Sin Cross! 墓地に眠るSinモンスターを一体召喚条件を無視して特殊召喚。私が蘇らせるのはSinサイバー・エンド・ドラゴン!」

 

 

【Sin サイバー・エンド・ドラゴン】

闇属性 ☆10 機械族

攻撃力4000

守備力2800

このカードは通常召喚できない。

自分のエクストラデッキから「サイバー・エンド・ドラゴン」1体を

墓地に送った場合のみ特殊召喚できる。

「Sin World」がフィールド上に存在しない場合このカードを破壊する。

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、

その守備力を攻撃力が超えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

 

 Sinトゥルース・ドラゴンだけでも厄介だったというのに、その横に貫通能力もちで攻撃力4000のSinサイバー・エンド・ドラゴン。

 あらゆる時代から最強カードだけを集めたパラドックスのデッキは、歴代最強デュエリストたちを単独で相手していても、こうも容易く圧倒的な切り札を招きよせる。

 

「バトルフェイズ。Sinサイバー・エンド・ドラゴンでシャイニング・フレア・ウィングマンを攻撃、エターナル・エヴォリューション・バースト!!」

 

「させないぜ」

 

 パラドックスの攻撃宣言に対して遊戯が動く。

 

「リバースカード、聖なるバリア ーミラーフォースー!」

 

 

【聖なるバリア ーミラーフォースー】

通常罠カード

相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。

相手フィールド上に存在する攻撃表示モンスターを全て破壊する。

 

 

 Sinサイバー・エンド・ドラゴンが吐き出したエターナル・エヴォリューション・バースト。それがシャイニング・フレア・ウィングマンの前に出現した不可視の壁に触れるとエネルギーの行き先が反転する。

 跳ね返ったエターナル・エヴォリューション・バーストがパラドックスのフィールドに襲い掛かり、Sinサイバー・エンド・ドラゴンを吹き飛ばした。

 

「ミラーフォースか。厄介なカードを伏せていたようだが、私はSinトゥルース・ドラゴンの効果発動。Sin 真紅眼の黒竜をゲームより除外し、Sinトゥルース・ドラゴンの破壊を無効とする!

 バトルはまだ続いているぞ。Sinトゥルース・ドラゴン、不動遊星のスターダスト・ドラゴンを破壊せよ」

 

「させねぇぜ。言っただろう、HEROは必ず勝つって。罠発動、ヒーローバリア!」

 

 

【ヒーローバリア】

通常罠カード

自分フィールド上に「E・HERO」と名のついたモンスターが

表側表示で存在する場合、相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。

 

 

 風車のようなバリアがSinトゥルース・ドラゴンの放つエネルギーを受け流していく。

 シャイニング・フレア・ウィングマンと遊星の場にいるスターダスト・ドラゴンは共に無傷だ。

 

「ええぃ、なぜ倒れない! バトルを終了……ターンエンドだ」

 

 パラドックスは舌打ちしたが、先程の攻防で殆どの防御カードは使い果たしてしまった。もう次の攻撃は流石に防ぎきることはできないだろう。

 次の攻防、それで長かったこの戦いにも決着がつく。

 

 

 

 

 

―――――昔の話をしよう。

 

 否、或いは現代に生きる人々にとっては遥かな未来の話、というべきだろうか。

 有史以来、人類は如実に発展してきた。人類が誕生し知恵や言語をもち『文明』を生み出した歴史は、一人の人間からすれば想像すらできないほど長大な時間だろう。

 だがこの星、地球にとってはほんの瞬きの間のことに過ぎない。

 その瞬きの間に、人類は星ですら予想できないほどの進歩を遂げた。

 翼もないのに空を飛び、鰓もないのに深海を泳ぎ、あらゆる命を許さぬ星々の海ですら人間は進出した。地球誕生以来、人間ほど多くの場所に活動地域を広げた生命体は他にはいない。

 けれど人類の進歩とは必ずしも良いものばかりではなかった。

 娯楽のためにと多くの動物を無慈悲に奪い、産業の発達の代償として空を汚し海を汚し、遂には人間は世界を滅ぼす禁断の兵器まで生み出してしまった。

 人間の欲望は無限大。欲望に限界はない。

 あれが欲しいと思って手に入れても、人間は直ぐにそれ以上のものを求め始める。

 求め手に入れ、求め手に入れる。人間の欲望はエンドレス・サイクル。終わりなどありはしない。

 

――――それは違う。

 

 終わりはあった。終わりは訪れてしまった。

 欲望の消滅、即ち人間社会の滅亡という形で驚くほどあっさりと人類誕生以来続いていた欲望の輪廻は終焉を迎えたのだ。

 切欠は一つのシステム。

 無限永久に活動を続け、エネルギーを供給する理想の動力機関モーメント。

 だがモーメントは欲望に反応する機能を備えていた。人々の悪しき欲望をシンクロ召喚とDホイールを通じて吸収し続けたモーメントはやがて逆回転を始め、

 

〝世界は滅びた〟

 

 遥か遠くの中華を祖とする儒教で語られていたことと同じだ。人類を発展させた原動力たる〝欲望〟が対には人類そのものを滅ぼしてしまったのだ。

 しかし滅びた世界にまだ呼吸する命がいた。

 

「アポリア…アンチノミー…パラドックス…」

 

 人類を救うため己を捨て去り〝英雄〟となった男、Z-ONEは三人の同志を集めた。滅亡した世界で自分と同じように生き残ってしまった三人の人間を。

 滅んだ世界、ただただ絶望しかない世界でも四人は歩き続けた。四人が願ったのはたった一つ、滅びの回避。

 命あるものは死ぬのが必然。ならばその滅びを受け入れるのか。――――それはNOだ。

 滅びとは死だ。四人のいる時代に先はない。100年が経とうと1000年が経とうと死んだ世界は死んだままでしかない。

 ならば未来ではなく過去でならば。

 滅んだ世界のたった四人の生き残り、彼等は破滅の未来の回避こそを自分達の義務とした。幸い方法はあった。四人は研究の末、歴史を渡る術を得ることができたのだ。

 発達した科学で延命を重ね、仲間たちが一人また一人と倒れていく中で遂に滅びの原因を見つけ出した。

 シンクロ召喚、そしてデュエルモンスターズ。モーメントの暴走はこの二つが密接に関わっていることに。

 だが本格的な行動に出る頃には、Z-ONEを除いた三人は寿命に倒れ、三人は人格と記憶を受け継いだロボットとして友であるZ-ONEと共にあった。

 

――――同じ絶望に苦しんだ者達は、

 

 人ではなくなった三人は其々の方法から滅びに対してアプローチする。

 絶望の番人アポリアは己を三つの絶望を経験した三人へと分け、遥かな過去でイリアステルを組織し、時間軸に干渉と改変を行った。

 最もZ-ONEと付き合いの長いアンチノミーはZ-ONEの意志を直接受けて動く尖兵となった。

 そしてパラドックス。彼はデュエルモンスターズこそ全ての原因と捕え、その消滅のために動き出した。

 

――――破滅の未来を救うために、

 

 妥協はしない。滅びの未来の回避、その為ならばあらゆるものを犠牲にする。手段も選びはしない。

 例え過去の人間達から非道だと叫ぼうと、決してその身は歩き続けることを止めはしない。

 罪悪感がないといえば嘘になる。人々を殺すのが楽しいはずがない。だが世界を救うためならば例え罪のない赤子だとしても、その手を返り血に濡らそう。

 

――――行動を起こした。

 

 だからパラドックスはここに立っている。

 デュエルモンスターズの長い歴史の中で〝最強〟と謳われた四人のデュエリストたちと相対しているのだ。

 シンクロ召喚、ひいてはデュエルモンスターズの消滅。

 デュエルモンスターズを消滅させるのに一番早いのは創造主ペガサス・J・クロフォードの死、それがパラドックスの導き出した答えだった。

 ただ殺すのではない。一度ペガサスがデュエルモンスターズを生みだし、ある程度世界に浸透したところで叩きつぶす。これが肝心だ。

 歴史には運命づけられた必然事項というものがある。それは核兵器の開発であるし、宇宙船の開発であるし、モーメントの開発であるし、デュエルモンスターズの開発でもある。

 デュエルモンスターズ誕生前にペガサスを殺しても、歴史の後押しを受けた別の人間が同じようにデュエルモンスターズを生み出すだろう。

 だから一度デュエルモンスターズを生み出させ、完全に世界に一般化する前に殺すのだ。

 創造主たるペガサスがデュエルモンスターズそのものに殺されるという最大のスキャンダルをもって、デュエルモンスターズの歴史は終焉へと向かい歴史は変革される。

 他のIFなどはない。シンクロ召喚により滅んだ未来を回避するために、これが唯一の方法だ。

 

――――本当に、そうなのだろうか?

 

 なにかもっと別の方法はなかったのか。誰も殺さずに済むような方法はありはしなかったのか。

 

「馬鹿な。これ以外に正しい答えなどありはしない」

 

 パラドックスは自分に言い聞かせるように囁く。

 迷うのはこれまでだ。もう直ぐ終わる。四人の英雄達を倒し、ペガサス・J・クロフォードを殺し。

 パラドックスは世界を救うだろう。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 二度目となる丈のターン。彼はSinトゥルース・ドラゴンを見据えながらカードを引いた。

 

「這い蹲るがいい、絶望するがいい。ふはははははははははは。もはや貴様等にはSinトゥルース・ドラゴンを倒す術などあるまい」

 

「そいつはどうかな」

 

 あらゆる絶望に包まれた、滅びの世界の如きフィールドでそれでも武藤遊戯は不屈だった。

 心臓が脈打つ。何故か武藤遊戯の顔がパラドックスにとって掛け替えのない永遠の友たちの横顔と被る。

 

「ふん。この状況で他に何ができると言うのだ? この戦いの趨勢は決している。なにもかもが無駄だ」

 

「へぇ。だったらこっちも聞かせて貰うぜパラドックス。お前ならこの状況で諦めるのか?」

 

「なにっ?」

 

 十代からの思いもよらぬ問い掛けにパラドックスは言葉を詰まらせる。もし自分がこの状況に置かれれば諦めるか否か。当然だ、と言い返せなかった。

 涙が枯れ果てても。奇跡を願い未来へと手を伸ばし続けた。滅びではない、光り輝く未来の色を見つける為に。

 どれほど絶望的な状況でも諦めずに戦う四人のデュエリストは、パラドックス自身の姿ではないか。

 

「俺はお前の言う滅びの未来を見たわけじゃない。けれどお前が諦めずに未来を求めるように、俺も未来を求めることを止めることはできない。

 未来で待っている俺の仲間たちの為にもパラドックス! お前と同じように、俺は未来を諦めない!」

 

「誰だって死ぬのは恐い。それが世界の死となればもっと恐い。滅びの未来を回避するために行動するのは正しい選択だ。だが未来には無限の可能性がある。何気ない一日、右を行くか左を行くか。たったそれだけのIFで歴史は簡単に行き先を変えてしまう。お前は本当に全ての歴史を検証したのか。別の可能性が絶対にないと言い切れるのか?」

 

 不動遊星と宍戸丈。二人もまた不屈の闘志でパラドックスを見る。

 

「ふん。口先だけならばなんとでも言える。本当に別の可能性があると言うのならば、それを見せてみるがいい!」

 

 瞬間だった。不動遊星のシグナーの証たる痣が輝き、天空から赤き竜が嘶いて姿を見せた。

 それだけではない。遊城十代のもとからは正しい闇の力――――ネオスペーシアンやユベルが。丈からは三体の邪神たちが。そして遊戯のデッキからは三幻神が。

 四人のデュエリストと共にあった力が集まっていく。

 

「これは……な、なにが……起きているというのだ……。こんなものは、私の研究には――――」

 

「未知の可能性が見たいならば、それを見せよう」

 

「宍戸、丈?」

 

 ブラックデュエルディスクに集められたエネルギーが流れ込んでいく。そのエネルギーの総量は――――計測不能。

 これはシグナーやネオスペーシアンや三邪神や三幻神だけではない。全ての人間たちが持つ当たり前の心〝生きたい〟という願いの塊だ。

 

「行くんだ丈、今こそ俺達の力を結束させるんだ!」

 

「はい遊戯さん! 俺は魔法カード、フォトン・サンクチュアリを発動! フィールドに二体のフォトントークンを特殊召喚する!

 ただしこのトークンは攻撃することもできずシンクロ素材にも出来ない。また光属性以外のモンスターの召喚も封じられる。

 

「今更二体のトークンを増やしたところでなんになる!?」

 

「更に! 手札に眠るこのカードは攻撃力2000以上のモンスターを生け贄にすることで特殊召喚できる。二体のフォトントークンを生け贄に捧げ、銀河より現れよ! 銀河眼の光子竜を特殊召喚!」

 

 

【銀河眼の光子竜】

光属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3000

守備力2500

このカードは自分フィールド上に存在する

攻撃力2000以上のモンスター2体を生け贄にし、

手札から特殊召喚する事ができる。

このカードが相手モンスターと戦闘を行うバトルステップ時、

その相手モンスター1体とこのカードをゲームから除外する事ができる。

この効果で除外したモンスターは、バトルフェイズ終了時にフィールド上に戻る。

この効果でゲームから除外したモンスターがエクシーズモンスターだった場合、

このカードの攻撃力は、そのエクシーズモンスターを

ゲームから除外した時のエクシーズ素材の数×500ポイントアップする。

 

 

 彼の青眼の白龍と全く同じステータスをもつ〝銀河〟の瞳をもつドラゴンが降臨した。

 だが攻撃力5000のSinトゥルース・ドラゴンには到底及びはしない。

 

「今更攻撃力3000のモンスターを召喚して、なにをするつもりだ?」

 

「それはこれから見せる。十代、遊星、二人の力を貰う」

 

「はい、俺達の未来を――――」

 

「ガッチャ! 任せたぜ、丈さん」

 

 そして三人の声がシンクロする。

 

「「「俺はレベル8の銀河眼の光子竜、シャイニング・フレア・ウィングマン、スターダスト・ドラゴンをオーバーレイ!!!」」」

 

「オーバーレイ……だとッ!?」

 

 シャイニング・フレア・ウィングマンが悪魔の鎖を引きちぎる。

 そして銀河眼の光子竜、シャイニング・フレア・ウィングマン、スターダスト・ドラゴンの三体のモンスターが光の渦に呑み込まれていった。

 データを検索する。該当……ゼロ。パラドックスが未だ嘗て見た事のない現象が目の前で発生している。

 

「「「三体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!!!」」」

 

 再びエクシーズ召喚を再検索。だがやはり該当するのはゼロ。

 ただし一つだけ言えることがある。あれはシンクロとは全く別のシステム、別の法則によるものだと。

 

「「「「逆巻く銀河よ、今こそ、怒涛の光となりてその姿を現すがいい! 降臨せよ、未知なる可能性! 超銀河眼の光子龍!!!」」」

 

 

【超銀河眼の光子龍】

光属性 ★8 ドラゴン族

攻撃力4500

守備力3000

レベル8モンスター×3

「銀河眼の光子竜」を素材としてこのカードがエクシーズ召喚に成功した時、

このカード以外のフィールド上に表側表示で存在するカードの効果を無効にする。

1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。

相手フィールド上のエクシーズ素材を全て取り除き、

このターンこのカードの攻撃力は取り除いた数×500ポイントアップする。

さらに、このターンこのカードは取り除いた数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃できる。

 

 

 全く未知の方法により、全く未知のモンスターがフィールドに舞い降りる。銀河の瞳をもちし竜は星屑の竜と輝きの英雄の力を得て新生した。

 遥かなる未来か或いは未知なる可能性か。ここではない……パラドックスより遠い世界において、兄弟の絆が生み出した魂のカード。

 あらゆる因果を超えて超銀河眼の光子龍は時空を超えた舞台に降臨した。

 

「まだだ! 例えそのモンスターとシステムが私の知らない未知の可能性だったとしても私の得た〝真理〟には届かない」

 

「おいおいパラドックス、俺のことを忘れて貰っちゃ困るぜ。罠発動! ブラック・スパイラル・フォース! このカードはフィールドにブラック・マジシャンがいる時、モンスター1体の攻撃力を倍にする!」

 

 

【ブラック・スパイラル・フォース】

通常罠カード

自分フィールドに「ブラック・マジシャン」が

表側表示で存在する場合に発動する事ができる。

自分フィールドの「ブラック・マジシャン」以外の

表側表示のモンスター1体の攻撃力はエンドフェイズまで倍になる。

このカードを使用するターン、「ブラック・マジシャン」は攻撃する事ができない。

 

 

 遊戯のフィールドに存在し続けた黒魔術師がその魔力の全てを超銀河眼の光子龍に送る。

 四人の力、その全てが超銀河眼の光子龍に集まった。

 

「攻撃力9000だと!?」

 

「バトル! 超銀河眼の光子龍でSinトゥルース・ドラゴンを攻撃!」

 

「ぐっ……だ、だが私はぁぁあああ!! リバースカードオープン、聖なるバリア ーミラーフォースー! 貴様等のフィールドのモンスターを全滅させる!」

 

 例え未知のモンスターだったとしても、モンスターであることには変わりはない。

 Sinトゥルース・ドラゴンの周囲に展開される聖なる障壁。超銀河眼の光子龍の攻撃はバリアに跳ね返され、

 

「諦めはしない! 罠発動、スターライト・ロード! 自分のモンスター二体以上を破壊する効果の発動を無効にし破壊する!」

 

「馬鹿な!」

 

「これが、俺達の未来に向かう力だ! 行け、スターダスト・ドラゴン!!」

 

 スターダスト・ドラゴンの幻影が聖なる障壁を打ち砕く。もはやSinトゥルース・ドラゴンを守る盾はない。

 

「「「「アルティメット・フォトン・ストリーム!!!!」」」」

 

 銀河の光がSinトゥルース・ドラゴンを――――矛盾の果てにパラドックスが手に入れた真理を包み込んでいく。

 夢破れ倒れるというのに不思議と悔しさはなかった。ただどこか光まみれの清々しさがある。

 

「やっと……見つけた……。これが……別の、可能性……」

 

 Z-ONE、アポリア、アンチノミー。三人の友を思い浮かべ、最期に漸く得た煌めきを確かめるとパラドックスはゆったりと瞳を閉じた。

 

 

 

 

「今日のために作ったスペシャルカードデス。お持ち帰りくだサーイ」

 

「やったー! ちょうだい! ありがとう!」

 

 ビルの屋上から丈はデュエル大会後の喧騒を見下ろしていた。

 パラドックスの敗北と消滅により、この大会で起きてしまった惨劇は最初からなかったことになった。だから崖下にあるのは平和で楽しい光景だけ。デュエルモンスターズ創造主ペガサス・J・クロフォード会長にも傷一つとしてない。

 取り敢えず丈はほっと一息つく。

 パラドックスに囚われていたサイバー・エンド・ドラゴンなどといったカードも、彼の敗北と同時に元の世界へと帰っていった。きっと其々の時代のデュエリストたちに引っ張られていったのだろう。

 これで丈が――――いや、この時空を超えた舞台に集まった四人のやるべきことは終わった。

 

「もう行くのか?」

 

 この時を超えたデュエルで誰よりも頼もしい存在だったデュエリスト、武藤遊戯が微笑みかける。

 

「ええ。俺はNDLのシーズン中ですから。全米王者に三冠王と新人王諸々のタイトル総なめ狙っているので浦島太郎になるのは御免です」

 

「そういや俺も後でちょっと用が入ってたっけ。世界中でモンスターが暴れまわってるって異変を聞いて用事後回しにしてすっ飛んできたからな」

 

「でも、また会える気がします そのときは、オレとデュエルしてください!」

 

「あ、遊星! 抜け駆けなんてずるいぜ。遊戯さん、俺ともまたデュエルして下さい!」

 

「十代、こういうのは年功序列だろう。ということで最初に遊戯さんとデュエルするのは俺だ」

 

 三人のデュエルの申し込みに力強く遊戯は頷く。

 

「ああ、もちろんさ。またいつかきっと会える。デュエルモンスターズを信じる限り、俺達の絆はずっと繋がっている!」

 

 赤き竜が遊戯以外の三人を包み込んでいく。

 そう、いつかいっとまた会える。時代という壁が四人の間にはあるが、こうして出会えたということは時間の流れは確かに繋がっているのだ。生きていればそのうち会う機会もあるだろう。

 三人は其々の思いを胸に元の時代へと帰っていった。

 

 

 

 

 元の時代に戻ってきた丈の目に飛び込んできたのはデュエルドームだった。

 パラドックスにより破壊された惨劇の後などはどこにもない。子供達がカードカップを買い、大人たちが贔屓のプロについて語り合う。ごくごく平和でのどかな光景があった。

 丈たちがパラドックスを倒したことで歴史が修正され、パラドックスが引き起こした事件は最初から〝なかったこと〟になったのだろう。

 

「やぁ。今戻って来たのかい? お疲れ様、丈くん」

 

 突然背中に掛かってきた声に振り向くと、丈は目を見開いた。

 

「貴方、は――――?」

 

 そこに立っていたのはついさっき一緒に戦っていた史上最強のデュエリスト、武藤遊戯だ。

 だがついさっきまで居た武藤遊戯と今目の前にいる武藤遊戯は同一人物のようでいて別人だった。それは彼がさっきまで話していた武藤遊戯とは別の魂だからでもあるし、あれから時間が経ち少年から大人へ成長していたからでもある。

 歴史は続いている。だからこういうこともある――――そうは思ったが、よもやこうして元の時代に戻ってきた途端に会うのは不意打ちだった。

 

「こういう場合、さっきぶりか久しぶり。どっちを言うべきなんでしょうね」

 

「ふふふ。僕も過去にタイムスリップしてきた人とこうして現代で再開するのは初めてだからね。どっちにするべきかはちょっと分からないな」

 

「是非感想を教えて下さい。俺も五年後に十代相手に同じことをしようと思うので」

 

「君も人が悪いね。だけどこうやって考えると時間移動っていうのは面白いな。僕は何年か前にパラドックスと戦い倒した。君はついさっきパラドックスを倒して戻ってきた。

 だけどこれから五年後にはパラドックスが活動を始めて、十代くんがパラドックスを倒しに行くんだね」

 

「仰る通りです。ところで遊戯さん、ついさっきした約束を覚えていますか?」

 

「次に会った時はデュエル、だったかい?」

 

 自然と二人はデュエルディスクを起動させていた。

 武藤遊戯はバトルシティトーナメントから愛用し続けているデュエルディスクを。丈はキースとの戦いで手に入れたブラックデュエルディスクを。

 二人はお互いに自分が最も信頼するデッキをセットして向かい合う。

 

「「デュエル!」」

 

 人知れず再会のデュエルが始まった。

 

 

 

 

――――超融合! 時空を越えた絆 完――――




 長かった劇場版編でしたがこれにて完結です。劇場版通り遊星をフィニッシャーにしようと思ったのですが、一応この作品の主人公なので丈にフィニッシャーになって貰いました。とはいえ最後に遊星が美味しいところを持っていきましたが。
 ちなみに「超銀河眼の光子龍」とか出しましたが、これは劇場版だけの特別出演なので今後本編で丈がエクシーズ召喚をするようになる、というわけではありません。
 余談ですが元の時代に戻ってのVS遊戯は――――――20ターンに及ぶ激戦の末、僅差でAIBOが勝利しました。
 劇場版も終わったので、そろそろ原作突入がもう目前ですね。





  【次章予告】





――――長い時間の果てに。

「我が内に住みし最高位の邪神よ。時空を越えた舞台に宵闇を齎すがいい。従属神と二体のしもべの魂を供物とし、降臨せよ! 邪神アバター!」

「朋友の化身たるしもべよ! 今こそその魂を継ぎメタモルフォーゼしろッ! 降臨せよ我が魂! 我が誇り! フィールドを圧巻し、この俺に勝利の美酒を授けろ! サイバー・エンド・ドラゴンッッ!」

「これが友との思い出がくれた僕の力だ。バトル! モンスターたちよ、藤原の心に憑りつく邪悪なる意志を焼き払え! 真紅眼の黒竜の攻撃、黒炎弾!」

「ダークネスの世界により生誕せし無色なる竜よ! 未だダークネスを受け入れられぬ哀れなる者に真理を突きつけるがいい! ダークネスより舞い降りろ。クリアー・バイス・ドラゴン!!」

――――遂に二つの物語が、

「HEROにはHEROに相応しい戦い舞台ってもんがあるんだ!」

「一、十、百、千、万丈目サンダー!!」

「カウンター罠、ドゥーブル・パッセ!」

「小さいからって甘く見るな!」

――――交差する。

「セブンスターズの戦いにあたって、アメリカ・アカデミアに留学中の三人に帰還要請を送りました。程なく彼等が援軍に駆けつけるでしょう」

「フッ。二年ぶりだな。俺達〝四天王〟がデュエル・アカデミアに揃うのは」

「アンタが宍戸丈さんか?」

「そういう君は遊城十代。……一年ぶりだな」



宍戸丈の奇天烈遊戯王~アカデミア卒業編~


――――120話以上の話数を重ね、物語は漸く原作に突入する。




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