宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第136話  帝王VS吸血鬼

 クロノス教諭は倒れた。カミューラに敗北し、その体を人形と変えられた。だが圧倒的な敵に対する恐怖を乗り越えて果敢に挑む姿はデュエリストとして素晴らしいものだったろう。

 亮は自分の部屋で一人黙々とデッキを調整する。自分にとって最高のデッキではなく、カミューラを倒すためのデッキを作るために。

 たった一人の相手の為にデッキを調整するなど、アカデミアに入学してから友人である三人以外にはしたことがないことだ。

 しかしカミューラは特別。カミューラは丸藤亮という男の逆鱗に触れることをした。故に全身全霊をもって叩き潰す。

 

「……来たか」

 

 アカデミアの上空で大量の蝙蝠が騒いでいる。

 蝙蝠といえば吸血鬼の眷属として有名な生き物。そしてカミューラもまた吸血鬼。偶然とは考えられない。カミューラの使いだと考えるのが適当だろう。

 やがて蝙蝠の一匹が亮の部屋に近付いてきて窓を叩く。

 開けろ、と言っているのだろう。亮は窓のカギを開けて、蝙蝠を中に入れた。

 蝙蝠が部屋に入ってくる。すると驚くべき事に蝙蝠が手紙へと姿を変えた。

 

「吸血鬼らしい手品だな。差出人は…………カミューラ」

 

 手紙を開いて中を見て、亮は目を細める。

 自分のもとに届けられたこれは招待状だ。今夜九時、自らの城に来いという。ご丁寧に来なければ罪のない他の人間たちで喉の渇きを潤すなんていう脅しつきだ。

 そんな脅しなどなくとも亮には招待を断るなんて考えはない。あちらがデュエルを挑むならば望むところだ。

 

「行くぞ」

 

 自分についている精霊――――三体のサイバー・ドラゴンたちに語りかける。

 クロノス教諭を侮辱するような真似をしたとはいえカミューラの実力は本物だ。心してかからなければならないだろう。

 カミューラの誘い通り昨日クロノス教諭が倒れた場所に行くと、そこには先客がいた。

 

「……カイザー」

 

 十代たち鍵の守護者の面々に翔と隼人、付き添いとして大徳寺先生。クロノス教諭を除く全員が勢ぞろいしていた。

 

「お前達も昨日のことについて言いたいことはあるが――――今回は俺が行かせて貰う。奴も俺と戦うことを望んでいるようだしな」

 

「えと、どれどれ……」

 

 カミューラからの招待状を投げ渡す。

 招待状を器用に掴んだ大徳寺先生が手紙の内容を朗読する。

 

「『親愛なる丸藤亮様へ。今夜九時、私の城にて貴方とのデュエルを所望いたします。もしも招待を断られるのであれば、この渇きは何も知らない貴方の後輩たちの血で潤すことといたします。どうか断らぬよう。誇り高き吸血鬼一族の末裔、カミューラより』」

 

「か、完全に果たし状だな。カミューラはよっぽどカイザーと戦いたいらしい」

 

 ストレートな挑戦文句にらしくなく万丈目が眉を潜めた。

 

「というわけだ。俺が出ることで異論はないな?」

 

「わ、私は良いと思うにゃ。丸藤くんなら三邪神の件で闇のゲームも経験しているし心配いらないのにゃ」

 

 付き添いとして翔と隼人に連れてこられた大徳寺先生がもろ手をあげて賛成すると他の物も頷く。

 プライドの高い万丈目やデュエル馬鹿の十代も誰がこの場で一番強いかを知っているのだ。それにここまで丁寧に誘われて亮以外の者がいけば、逆上したカミューラがなにかをしないとも限らない。

 

「なら行きましょう。もうそろそろ九時よ」

 

 PDAを見ながら明日香が言う。

 亮を先頭に一同は海の上に浮かぶレッドカーペットを渡りカミューラの城へ侵入した。

 

「く、暗いんだな」

 

「なんか前に旧校舎を探検した時のことを思い出すぜ」

 

 隼人と十代が正反対の感想を呟く。

 歩いて一分ほどだろうか。廊下を抜けると一際広いロビーに出た。

 

「ようこそ皆さん」

 

 城に反響する女の声。

 声のした方向に視線をやると、そこには露出度の高い扇情的なドレスを着込んだ美女が一人。吸血鬼カミューラ、セブンスターズ第二の刺客だ。

 

「歓迎しますわ。時間ぴったし、時間を守れる殿方は好きよ。舞台に上がりなさい、坊やたちの帝王様」

 

「……いいだろう」

 

「お兄さん」

 

 翔が心配そうな目を向ける。亮は安心させるように笑うと、

 

「心配するな。俺は負けん」

 

 自信をもって断言し、亮は舞台へと昇る。吸血鬼の城で帝王と渾名されたデュエリストと、吸血鬼の末裔が対峙した。

 亮はデュエルディスクに調整したデッキをセットする。

 背筋にナイフを突き立てられるような懐かしい感覚。これより始まるのは命と命とを奪い合う闇のゲーム。これをやるのはダークネス事件の時以来なのでざっと二年ぶりだろう。

 

「ルールは分かっているわね。勝者は次なるステージへ進み、敗者はこの愛しき人形に魂を封印される」

 

「いいだろう。俺は俺の魂をこのデュエルに懸ける!」

 

「Good!!」

 

 亮とカミューラがデッキより五枚のカードを引く。

 自分が負ければ自分の魂を失い。自分が勝てば奪われたクロノス教諭の魂を取り戻す。シンプルなルールだ。

 

「「デュエル!!」」

 

 

丸藤亮   LP4000 手札5枚

場  

 

 

カミューラ LP4000 手札5枚

場 無し

 

 

 

「私の先攻、ドロー!」

 

 相手の先攻を許すが、亮は何もリアクションを起こさない。

 そもそも亮のサイバー流は後攻有利。先攻をとられることはなんのデメリットもない。

 

「テラ・フォーミングを発動。デッキからフィールド魔法、ヴァンパイア帝国を手札に加える! 手札に加えたヴァンパイア帝国をそのまま発動!」

 

 フィールドが中世ヨーロッパの街並みに変化する。夜空に浮かぶのは血のように真っ赤な紅い月。

 ヴァンパイア帝国……確かごく最近発売されたばかりのヴァンパイアのためのフィールド魔法。こんなレアカードを手に入れているとは、カミューラのバックにはデュエルモンスターズ界の重鎮でもついているのかもしれない。

 

「ヴァンパイア・ソーサラーを攻撃表示で召喚、カードを一枚伏せターンエンド」

 

 

【ヴァンパイア・ソーサラー】

闇属性 ☆4 アンデット族

攻撃力1500

守備力1500

このカードが相手によって墓地へ送られた場合、

デッキから「ヴァンパイア」と名のついた闇属性モンスター1体

または「ヴァンパイア」と名のついた魔法・罠カード1枚を手札に加える事ができる。

また、自分のメインフェイズ時、

墓地のこのカードをゲームから除外して発動できる。

このターンに1度だけ、自分が「ヴァンパイア」と名のついた闇属性モンスターを召喚する場合に

必要な生け贄をなくす事ができる。

 

 

 ヴァンパイア・ソーサラー、吸血鬼の魔法使いとでもいったところか。

 先程のヴァンパイア帝国といいカミューラはヴァンパイアと名のつくモンスターを中心としたヴァンパイアデッキ。

 自身もまたヴァンパイアであるカミューラには似合いすぎのデッキといえるだろう。

 

「俺のターン!」

 

 だが相手が吸血鬼でくるのであれば、こちらは人類の英知が生み出した機械の光龍にて対抗するのみ。

 

「相手の場にモンスターがいて自分の場にモンスターがいない時、このモンスターは特殊召喚できる。サイバー・ドラゴンを攻撃表示で召喚!」

 

 亮のデッキのキーカード。サイバー・ドラゴンが飛び出してくる。

 攻撃力はヴァンパイア・ソーサラーを上回っている。このまま攻撃するのも良いが、ここは早速例のカードを使うことにした。

 

「このターン、俺はまだ通常召喚をしていない。サイバー・ドラゴン・コアを攻撃表示で召喚する」

 

 

【サイバー・ドラゴン・コア】

光属性 ☆2 機械族

攻撃力400

守備力1500

このカードが召喚に成功した時、

デッキから「サイバー」または「サイバネティック」と名のついた

魔法・罠カード1枚を手札に加える。

また、相手フィールド上にモンスターが存在し、

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、

墓地のこのカードを除外して発動できる。

デッキから「サイバー・ドラゴン」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。

「サイバー・ドラゴン・コア」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

このカードのカード名は、フィールド上・墓地に存在する限り「サイバー・ドラゴン」として扱う。

 

 

 新しいサイバー・ドラゴンの一枚、サイバー・ドラゴン・コア。

 コアというだけあってその姿はサイバー・ドラゴンの外装を取っ払った細すぎるものだ。

 

「サイバー・ドラゴン・コアの効果発動。このカードが召喚に成功した時、デッキから『サイバー』または『サイバネティック』と名のついた魔法・罠カードを一枚手札に加える。

 俺が手札に加えるのは罠カード、サイバー・ネットワーク! そして融合を発動。サイバー・ドラゴン・コアはフィールド・墓地に存在する限りサイバー・ドラゴンとして扱う。

 フィールド上の二体のサイバー・ドラゴンを融合。融合召喚! 現れろサイバー・ツイン・ドラゴンッ!」

 

 

【サイバー・ツイン・ドラゴン】

光属性 ☆8 機械族・融合

攻撃力2800

守備力2100

「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」

このカードの融合召喚は、上記のカードでしか行えない。

このカードは一度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 

 サイバー・ドラゴンの融合体が一体、サイバー・ツイン・ドラゴンが早々に召喚された。

 パワー・ボンドで攻撃力を倍にせずとも、攻撃力2800の二連続攻撃を可能とするサイバー・ツイン・ドラゴンは強力である。それに、

 

「凄ぇ! いきなりサイバー・ツイン・ドラゴンだ!」

 

「それだけじゃない」

 

「ああ」

 

 十代の声援の中で三沢と万丈目が鋭い目を亮の手札へ向けた。

 

「融合は強力な融合モンスターを呼び出せる反面、手札消費が多いのが難点。だっていうのにカイザーの奴。あれだけカードを発動しておいて手札が四枚も残ってやがる」

 

 万丈目の言う通り亮にはまだ十分な数の手札があった。

 これまで亮は手札消費の激しさを補うためあの手この手でドローソースを投入していたが、新しいカードのお蔭で燃費の悪さをかなり補えるようになっている。

 鬼に金棒とは正にこのことだった。

 

「バトル! サイバー・ツイン・ドラゴンでヴァンパイア・ソーサラーを攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト、第一打ァ!!」

 

「ちぃいっ!」

 

 カミューラLP4000→3200

 

 ヴァンパイア帝国の効果でダメージステップ時のみヴァンパイア・ソーサラーの攻撃力は500ポイントアップした。

 だがそれでもサイバー・ツイン・ドラゴンには勝てず撃破される。

 

「ヴァンパイア・ソーサラーのモンスター効果。私はデッキよりシャドウ・ヴァンパイアを手札に加える!」

 

「まだだ。サイバー・ツイン・ドラゴン、第二打ァ!!」

 

「……ふん。サイバー・ツイン・ドラゴンが二連続攻撃ができるなんてお見通しよ。リバースカードオープン、ドレインシールド!」

 

 

【ドレインシールド】

通常罠カード

相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。

攻撃モンスター1体の攻撃を無効にし、

そのモンスターの攻撃力分だけ自分のライフを回復する。

 

 

 ドレインシールドによりサイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃が吸い込まれ、攻撃のエネルギーがそっくりそのまま回復に変化する。

 削られたカミューラのライフが一気に6000まで回復した。

 

「伊達にセブンスターズに選ばれたわけではないということか。カードを二枚伏せ、ターンエンド」

 

 2800のライフを回復されたが、そんなことは恐れるには足らない。たった2800のライフなどサイバー・ドラゴンのパワーで消し飛ばせる数値だ。

 それに亮の場にはアンデット対策のリバースカードもあった。

 これで止めるようなデュエリストならば良し、止まらないのであればそれなりの実力者だということだ。

 

 


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