宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第14話  HEROの鼓動ナリ

 学校にいて一番自由な時間というのは一部の例外を除けば昼休みだ。

 他の休み時間が一休みとするのなら、昼休みというのは昼食という一日を元気に過ごすための活力を得る時間であり、同時に仲の良い学友と気ままなお喋りなどに興じられる時間でもある。

 デュエルアカデミアとてそれは例外ではない。基本十分しかない休み時間とは違い、昼休みは四十分。平均的男子生徒が昼食をとるのに必要とする時間を10分~15分と仮定するのなら、約30分もの自由が生徒には与えられるということだ。

 丈はいつもと同じように昼食を取り終えると、アカデミア校舎内にある売店に来ていた。

 腹が空いているのではない。

 アカデミアの購買が他の学校と最も違うこと。それはデュエルモンスターズのパックが販売されえているということだ。

 デュエリスト養成校だけありパックの種類も豊富である。オーナーである海馬社長の手回しで普通のショップより優先して新パックが入荷されるというのも大きいだろう。

 

「ええと……どれにしようかな」

 

「悩まなくても出るカードは同じだ」

 

「違うだろ?」

 

 丈と一緒に来た亮は迷うことなく二つのパックを手に取るとお勘定を済ませてしまっていた。即断即決、優柔不断とは縁遠い男。それこそが丸藤亮である。その意思決定力は日頃のデュエルにも活かされており、常に最善と思える選択を強い意志で選び取ることができるのだ。

 ここに先々週の"デッキ交換デュエル"で知り合った吹雪の姿はない。丈も誘ったのだが、なんでも女の子に誘われているらしくそっちに行った。野郎と女の誘いならホモでもない限り女を選ぶだろう。自分でもそうする。だからその事に関しては何か言うつもりもなかった。多少羨ましいとは感じたが。

 しかし流石はJOIN。入学一か月もしない間にファンクラブまで誕生しているようだ。

 

「亮、なんか良いカードでも当たった?」

 

 この世界だとパックを買ってレアカードを当てる確率も、常日頃のドローパワーが関係しているのは不明だが、亮は他の人に比べレアカードを当てる確率が高い。お宝級と称されるほどのカードが適当に勝ったパックから出てくるのを、丈は何度か目撃している。

 それ故に今回も当てたかな、と思ってワクワク半分嫉妬半分で覗きこんでみる。

 

 

・コマンダー

・ワイト夫人

・キャノン・ソルジャー

・死者への手向け

・粘着テープの家

 

・レオ・ウィザード

・E・HEROエアーマン

・ジェノサイド・キング・サーモン

・ジェノサイド・キング・デーモン

・レベル制限A地区

 

 

「……俺のデッキに入りそうなものはないな。残念だが……キャノン・ソルジャー辺りは或いはいけるかもしれんが」

 

 亮の言う通り大当たりとはいかない内容だった。

 前世での記憶だとE・HEROエアーマンはそこそこの高額カードだった筈だが、この世界だとそうでもない値段で売買されている。丈自身は持ってないが、他に持っているデュエリストなど幾らでもいるだろう。しかもサイバー・ドラゴン主体の機械族デッキにエアーマンなんて入れたところで大した意味はない。これでエアーマンが無制限カードなら話は変わるのだが、哀しいかな、エアーマンは制限カード。自分で自分をサーチするという三色ガジェットのようなプレイングは出来ないのだ。

 

「それよりお前もいい加減に買ったらどうだ」

 

「分かってるって」

 

 亮に急かされるように購買のおばちゃんに450円+税を渡す。亮が二パック勝って当たらなかったので、自分は三パック。それで当たる確率は格段に上昇……というほどでもないが、こういうものは気分が大事である。

 いつまで経ってもパックからカードを取り出す時の昂揚感はいいものだ。パックの封をビリビリと破きながら丈はそんな風に思う。

 未知のカードと遭遇できるかもしれないという緊張。珍しいカードが当たるかもしれないという期待。そういったものが混じり合い奇妙なセンセーションとなって心中を支配する。

 こればかりはデュエリストではないと分からない感覚だ。

 

「さてと、……おぉ!」

 

 

・モリンフェン

・暗黒界の龍神 グラファ

・魔法除去

・魔力の枷

・落とし穴

 

・戦士ダイ・グレファー

・異次元の女戦士

・荒野の女戦士

・心変わり

・洗脳解除

 

・E・HERO Great TORNADO

・人食い虫

・オシロ・ヒーロー

・火の粉

・DNA改造手術

 

 

「よっしゃ! E・HERO Great TORNADOとグラファでレアカード二枚! 今日はラッキーだな」

 

 今使っている最上級モンスター多用デッキには採用できないカードだが、レアカードはレアカード。やはり出ると嬉しいものだ。

 

「だけど結構E・HEROや暗黒界とかも集まってきたな。これを期に違うデッキも組もうかな?」

 

 一応丈は二つデッキを持っている。言うまでもなく一つは冥界の宝札を主軸とした最上級モンスター多用デッキ。そしてもう一つが財政面から構築し易かった剣闘獣デッキだ。剣闘獣は派手さはないがかなり堅実さのあるテーマで、その力は大会優勝者が使用したデッキだったこともあり折り紙つきである。デッキに必要不可欠となる上級モンスターは融合体である二体だけなので、それほど値も掛からずに済む。安くて強い。そのフレーズは当時小学生で今ほど金なんてなかった丈にとっては大切なものだった。

 ただ幾ら強いといっても同じデッキばかり使っていれば飽きる。特に剣闘獣は基本戦術というのがワンパターンなので面白さやスリルに欠けるのだ。

 だからこそ最近は冥界の宝札を主軸としたリスキーなデッキを使っていたが、カードが溜まってくると他のデッキも作ってみたいという欲に駆られる。

 先々週の授業で別のデッキを使ってデュエルしたことも影響しているのかもしれない。

 

「いいんじゃないか。俺もお前が組む新しいデッキには興味がある。それに他のデッキを使うと、以前のデッキの気付けなかった欠点が見えてくるもの……らしい」

 

「らしい?」

 

「俺の言葉ではなくサイバー流の師範の言葉だ。俺はサイバー・ドラゴン一筋の男だからな。前の授業のようなことでもない限り他のデッキは使わん」

 

「………………」

 

 サイバー・ドラゴンへの愛もここまでくると尊敬の念すら浮かぶ。

 これが未来にはヘルカイザーになるというのだから信じられない。もし友人がダークサイドに堕ちようとしたら、腕を引っ張って止めようと丈は胸の中で決意する。

 

「なら丁度いいや。さっき当てたエアーマン交換してくんない? アレ、俺持ってないんだよ」

 

「いいぞ。ただ俺からも頼みがある。今お前の当てたDNA改造手術、それを交換してくれ。このエアーマンとな」

 

「OK! トレード成立」

 

 DNA改造手術を渡す代わりにエアーマンのカードを亮から受け取る。

 E・HEROといえば十代の使用デッキ。使うのは不味いのでは、とも思うがE・HEROはD―HEROと違い普通に一般で流通しているので十代以外が使っても特に問題はない。

 

(でもフレイム・ウィングマンとかは十代ってイメージがあるし……そうだ。漫画版出身のやつとか、アニメで十代が使ってないカード中心で組むか。それなら被らない! 暗黒界の展開力もいいしワームの火力も捨て難いな。いや~、持ってるカードが増えると夢が広がる広がる)

 

 アカデミア入学祝ということで親から結構な額のお金を貰った際、HEROや暗黒界が多く封入されてるパックを箱買いしたので主要モンスターやサポートカードに至るまで一通り揃っている。

 ワームはまだまだだが、暗黒界とヒーローは十分デッキが構築できるくらいにはカードが集まってる筈だ。

 

「……DNA改造手術……相手のモンスターを全て機械族……キメラテック・フォートレスで吸収……相手フィールドはがら空き………攻撃力6000……これは……いい…な」

 

 隣で物騒な事言っている友人がいたが気にしないことにした。

 自分のフィールドに五体の最上級モンスターがいるのに、たった一体のプロト・サイバー・ドラゴンで全てが引っ繰り返るような光景がフラッシュバックしたが気のせいだ。疲れているのだろう。最近色々あったからこういう事もある。そうやって自分を納得させた。

 亮にDNA改造手術のカードをトレードしたことを微妙に反省しつつ、丈は次の授業を受ける為教室に戻っていった。

 次は音楽の授業である。

 


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