宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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タニヤ「アマゾネスデッキの力、見せる時が来た!!」

ボス「キング・クリムゾン!」

タニヤ「!?」


第139話  闇からの刺客

 暗闇の中、以前と同じように夜の闇のようなローブを羽織った人影が、設置されたモニターに視線を向けながら集まる。

 だが集まった人影は明らかに以前よりも頭数が減っていた。

 第一の刺客〝死の物まね師〟。第二の刺客〝吸血鬼カミューラ〟。そして先日新たに送り込んだ第三の刺客〝タニア〟も鍵の一つを奪いとったものの、遊城十代により敗れ去った。

 これでセブンスターズ七人のうち三人が敗れ去ったこととなる。集まったセブンスターズの面々も最初よりもやや重苦しい気配を漂わせていた。

 

『――――お前達をここに集めた理由、説明するまでもなかろう。次は誰が行くか』

 

 モニターに映る人物がセブンスターズの四人へ言葉を発する。

 セブンスターズたちは暫し沈黙するが、やがて大柄で仮面をつけた男が口を開く。

 

「セブンスターズとは即ち真の闇のデュエリストが集まり……そう聞いていたから同胞として頼もしく思っていたのだがなぁ。それはこの私の買い被りというものだったようだ」

 

「何が言いたい?」

 

 大柄な男の侮蔑に対して、理知的な雰囲気を漂わせる男が静かに尋ねる。

 しかし静かでありながらその声色には不用意な発言をするならば許さない、という脅しに臭いが含まれていた。

 

「三人だ! 既に三人倒れた! それもうち二人はカイザーとかいう奴ではなく、学生……それも一年生だそうじゃないか。これのどこが精鋭だ?」

 

「デュエリストの年齢は強さとイコールではない。ペガサス・J・クロフォードを倒し決闘王の称号を手に入れた武藤遊戯が当時何歳であったかレクチャーする必要があるのか?」

 

「むっ」

 

「それに敗北した彼等とて無駄死にだったわけではない。カミューラはクロノス・デ・メディチを。タニアは三沢大地を其々撃破し鍵の奪取を成功している。一人で七人抜きとはいかないまでも一人一殺は成立しているのだ。

 ようは残った我等が一人二殺のノルマをこなしさえすれば、このまま一人一殺でいける」

 

 理性的な男の理路整然とした言い返しに仮面の男は押し黙る。

 偉そうなことを言っていたが仮面の男はセブンスターズの中で所謂新入りに当たる。対して理性的な男はセブンスターズでも一番の古株だ。

 それに真っ向から反抗するほど仮面の男は愚かでも考えなしでもない。

 

「ふん! つまり一つの鍵を奪えず終わったのは死の物まね師だけか! 元同業者として恥ずかしいな」

 

 一番大柄な男がここにはいない死の物まね師に野次を飛ばした。

 今度は理性的な男も何も言わない。折角〝魔王〟より奪ったデッキを使っておいて、誰一人として倒すことなく敗北した死の物まね師は完全に役立たず。弁護するところなどありはしない。

 それに死の物まね師は常日頃から人を侮辱する癖があり、セブンスターズの誰からも良く思われてはいなかったのだ。

 

「……私から一つ提案がある」

 

 モニターとセブンスターズたちの中間に立つと、理性的な男は全員を見渡しながら提案する。

 

『アムナエル、提案だと?』

 

 モニターの人物に〝アムナエル〟と呼ばれた男はコクリと頷く。

 セブンスターズの実質的ナンバーツーにあたる男の提案だ。他のセブンスターズも黙って耳を傾ける。

 

「鍵の守護者で最も強敵なのはカイザー、丸藤亮。これはいいだろうか?」

 

 セブンスターズ全員が頷く。

 四天王の一人としてネオ・グールズを壊滅させ、三邪神を倒し、ダークネス異変にもかなりの深さで関わっていた新しい伝説の一角。

 その実力はトッププロクラスすら超えて、既に〝最強〟の頂きを目視できる位置にいるとさえ言われている。

 彼が鍵の守護者の中で最強なのは疑うべくもないことだ。

 

「もう一人鍵の守護者で厄介なのは宍戸丈だが、彼は太平洋で海の藻屑となっているから一先ず除外する。そしてカイザーの次に難敵なのは誰だと思う?」

 

 セブンスターズたちが沈黙する。アムナエルは彼等が黙り込んだのを見計らい、間を置くと絶妙なタイミングで言い放つ。

 

「遊城十代だ」

 

「…………………」

 

「思い返せばカミューラ以外のセブンスターズ、死の物まね師とタニヤも最初に相手した守護者に勝利しておきながら、次に戦った遊城十代に敗れ去っている。

 つまり遊城十代こそ七星門の守護者で第二位の実力をもつデュエリストということだ」

 

『ならばどうするのだ?』

 

「作戦を変える。これまでは差し向けた刺客の自己判断で相手するデュエリストを決めていた。だが今度からは予めターゲットを絞り込む。即ち丸藤亮と遊城十代の他の守護者。万丈目準と天上院明日香に」

 

『邪魔な二人を排除しておいて、残った遊城十代とカイザー亮を総力をもって叩き潰す、か』

 

 アムナエルはその通りだと頷いた。カイザーが強敵なのは周知の事実。そして遊城十代が難敵なのは彼の戦績が証明している。

 そもそもセブンスターズの面々に『こいつだけは自分の手で倒したい』というような執着はないので、方針転換を拒否する者は誰もいなかった。

 

『決まりだな。では誰が行くかだが――――』

 

「俺が行こう」

 

 一際大柄な男が舌なめずりをしながら挙手する。

 

「死の物まね師の晒した恥はこの俺が注いでやる。宍戸丈のデッキだったか。一つ貰うぞ」

 

『良かろう』

 

 大柄な男がローブを脱ぐ。

 その姿は嘗てのペガサス島において闇のプレイヤーキラーと呼ばれ、孔雀舞を倒した男のそれだった。

 プレイヤーキラーが懐から抜いた短刀を投げつける。投擲された短刀は真っ直ぐな軌跡を描き、万丈目準の映る写真を貫いた。

 

 

 

 

 日曜日が休日なのはどこの学校も変わらない。

 部活動に所属していれば日曜日の方が平日よりも苦痛だ、ということもあるが帰宅部が大多数のデュエル・アカデミアではそんな生徒は稀である。

 夜遅くまでデッキ構築していた万丈目は時計の針が12を超えてから目覚めて、遅めの朝食――――もとい昼食をとるために下に降りて行った。

 しかしそこにあったのは、

 

「……どうしたんだ、あいつは?」

 

 何故かレッド寮の食堂では三沢が悩ましげな目で黄昏ていた。

 

「あ、万丈目くん」

 

「さん、だ! それと翔、あいつ七星門の鍵を奪われて頭がおかしくなったのか?」

 

「たぶんそうじゃないっスよ」

 

 さっきから三沢は窓に視線をやっては寂しげに瞳を揺らせ、それから溜息をつくを繰り返している。

 これが明日香のような美少女がやったなら非常に絵になる光景なのだが、男で少し前まで硬派で通っていた三沢がやっても薄気味悪いだけだ。

 

「ったくあいつは性に目覚めた中学生か。そんなんだから七星門の鍵をみすみす奪われるんだ」

 

「ははは。今回は否定できないっスね」

 

 これ以上三沢のことを考えていても不毛なので、三沢のことを思考から外すと昼食のエビフライに舌鼓をうつことにする。

 はっきりいって料理の質はブルー寮と比べれば雲泥の差だが、それでもエビフライはエビフライ。それなりに美味しい。

 

「だけど三沢くんがやられちゃって鍵の守護者は四人になっちゃったっスね」

 

「ふん! 他の連中がやられてもこの万丈目サンダーある限り三幻魔の復活などあるものか」

 

「はぁ。その自信をちょっとは分けて欲しいっスよ。僕なんて次のテストが心配で心配で」

 

「心配なら勉強でもしろ」

 

 万丈目は翔の悩みを一蹴する。正論のダイレクトアタックに翔のライフは0となった。

 

『兄貴兄貴~。そういう万丈目の兄貴はちゃんと勉強してるのぉ~?』

 

 万丈目の精霊であるおジャマイエローが野次を飛ばすと、兄弟のグリーンとブラックも下品な笑いをする。

 眉間に青筋をたてた万丈目はデコピンをイエローに喰らわせた。

 

「ええぃ黙れ雑魚共。この俺を誰だと思っている? あのカイザーと同じデュエル・アカデミア中等部首席だぞ。テストなんぞ完璧に決まってるだろう!」

 

「筆記は三沢くんの方が上っスけど」

 

「そんで実技は俺が勝ったけどな~」

 

「なっ! 貴様等っ! というより十代、お前いつの間に!」

 

 起きたばかりなのか寝癖の酷い十代がへらへらと笑いながら食堂に入ってきた。

 昨日セブンスターズのタニヤとデュエルをしたばかりというのに疲労は見えない。タニヤが死の物まね師やカミューラとは違うまともなデュエリストだったというのもあるだろうが、それにしてもこの元気さは異常だ。

 

(いや疲労があるからこんなに寝坊したのか)

 

 妙に納得する。

 しかしよくよく思い返せば最初の死の物まね師といいタニヤといいカイザーを除けばセブンスターズを倒したのは十代ばかりだ。

 万丈目は確かに以前十代に負けた。だからといってこれからも負け続ける気は毛頭ない。いつかは自分の手で完膚なきまでに叩き潰してやろうと思っている。

 だというのにここで白星に差をつけられるのは、はっきりいって気に入らない。

 

「よし!」

 

 万丈目はあることを思いつくと拳を握りしめる。

 そんなこんなでアカデミアの昼時は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 そして夜になった。

 万丈目は昼に思いついた策を実行に移すべくレッド寮の外に出ていた。万丈目に強引に連れてこられた十代と翔は露骨に眠そうな顔をしている。

 

「なぁ万丈目~。一体なにする気なんだよ」

 

「そうっスよ。もう眠る時間じゃないっスか」

 

 無理矢理叩き起こされた十代と翔がブーブー不平不満を並び立てるが、万丈目は「いいから少し黙れ」と反論を封殺する。

 万丈目とて無意味に二人を連れてきたのではない。秘策を使ってセブンスターズを誘き寄せるにしても、自分の勝利を誰かに知らしめなければ意味がない。十代と翔はそのためのギャラリーだ。

 

(……本当は天上院くんも来てほしかったんだが。くそっ! 天上院くんの女子寮とレッド寮の距離が近ければ、こんな寝ぼけた阿呆二人でギャラリーを代用する必要などなかったのだ)

 

 理不尽な苛々を心の中で十代と翔にぶつけながら、万丈目は木々がざわめく暗闇を睨みつける。

 

「それでどうするんだよ万丈目。セブンスターズを誘き寄せるとか言ってたけどどうやるんだ?」

 

「さんだ! フフフフフフ、聞いて驚け。俺の名推理を。これまでアカデミアに来たセブンスターズは三人。うち二人は必ず夜に侵入してきている」

 

「そういや、そうだな」

 

 死の物まね師が十代たちを火口に転移させてのも皆が寝静まった夜更けだ。そしてカミューラがやってきたのも太陽が完全に沈みきってから。

 三沢を倒したタニヤを除けば万丈目の言う通りセブンスターズは夜に襲撃を仕掛けてきている。

 

「だけどそれが分かったからってどうするんっスか」

 

「聞いて驚け。夜に来るということは今この瞬間、奴等はこのアカデミアに潜んでいる可能性が高い! ということはここで大声で奴等を挑発すれば、頭にきたセブンスターズが出てくるのは必然だ!!」

 

「そ、そうなんっスか?」

 

「信じていないようだな。俺の推理の正しさを証明してやろう。ゆくぞ―――――――セブンスターズのチキン! バーカ! アホ! ドジ! マヌケぇえ!!」

 

 万丈目は自身が考えうる限り最悪の罵詈雑言を叫んだが、しーんと静まったまま何の返事もない。

 

「ば、馬鹿な!」

 

 万丈目の推理ではここまで虚仮にされれば顔を真っ赤にしたセブンスターズが激高しながら現れるはずだったのだ。

 あの罵詈雑言を聞いて出てこないはずがない。そうなると、

 

「まさかセブンスターズは耳が不自由なのか?」

 

「なんでそうなるんっスか」

 

「ええぃ。ならばもっと大きな声で……。くぉらぁああああああああああああああああ!!! セブンスターズ!! この万丈目サンダーと戦え! もし出てこなければお前達の不戦敗だ!! 俺の勝ちだ!! いいな、分かったか!?」

 

「そんなことしても無駄っスよ」

 

 呆れながら翔が呟くが、

 

「――――呼んだかぁ? 小僧」

 

 木々の間からぬっと天を衝くような大男が姿を現した。腕には凶悪なフォルムのデュエルディスク。

 顔にはまるで拷問を受けたかのような生々しい傷がある。その異様な姿に翔などは男を見ただけでちびりそうになっていた。

 

「ふっ。俺の推理通り現れたなセブンスターズ。貴様、この万丈目サンダーとデュエルしろ!」

 

「クククッ。望むところだ、元から貴様を殺るつもりだったんでねぇ。俺の名はセブンスターズ第四の刺客。闇のプレイヤーキラー。この魔王のデッキで貴様を地獄に送ってやる」

 

「魔王、だと?」

 

 闇のプレイヤーキラーはこれみよがしにデッキを見せ、その中から一枚のカードを取り出した。

 身が凍った。闇のプレイヤーキラーの見せたカード、それはカオスソルジャー 開闢の使者。世界に四枚しか存在しない伝説のレアカードだ。

 

「成程。お前も十代が戦った死の物まね師のように宍戸さんのデッキを使うわけか。良いだろう。あの人には三年前に卒業模範デュエルでやられた借りがあったからな。

 本物と比べれば貴様など雑魚中の雑魚なのに違いはないが、進化したこの俺の強さを試す試金石には丁度良い」

 

「その減らず口がいつまで続くかな」

 

『デュエル!』

 

 万丈目と闇のプレイヤーキラー。

 奇しくも二人の黒衣のデュエリストが暗闇の中で激突する。

 

 




 今週のZEXAL。ドンさんが吸引力のかわらない唯一つの股間にベクターを吸い込んでキャストオフ。インチキカード使い始めた。
 なんというかベクターと遊馬って結婚詐欺師と、騙されたけど相手を諦めきれない男の構図に近いような気がします。

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