宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第142話  自業自得

闇のプレイヤーキラー LP5800 手札6枚

場 堕天使アスモディウス、カオス・ソルジャー -開闢の使者-、メタル・リフレクト・スライム

伏せ 二枚(心鎮壷により封印)

魔法 冥界の宝札×2

罠 メタル・リフレクト・スライム

 

 

万丈目準 LP1600 手札2枚

場 無し

伏せ 二枚

罠 心鎮壷

 

 

 

 

 ライフアドバンテージ、フィールドアドバンテージ。

 あらゆる点で万丈目は闇のプレイヤーキラーに追い詰められている。宍戸丈――――彼の決闘王に最も近いとまで噂される男のデッキだ。

 それを使うデュエリストも姑息な手を使ったとはいえ決闘王国で武藤遊戯を追い詰めたこともある男。更に宍戸丈のデュエルデータを記録したチップを頭に埋め込んでいるとなればこの強さも当然かもしれない。

 

(だが俺はただでここまでやられてきたわけじゃない)

 

 闇のプレイヤーキラーは自分の力に酔いしれ慢心している。

 それが自分本来の力によるものならまだ良いが、闇のプレイヤーキラーは他人の力を自分の力と勘違いしてそれに浸っているだけだ。

 凡百のデュエリストならいざしれず、やがては四天王すら超えアカデミアの頂点に君臨する自分には通用しない。万丈目は追い詰められて尚もぎらぎらとした戦意を輝かせていた。

 それに闇のプレイヤーキラーは幾つか失態を犯している。

 その一つが魔法・罠カードゾーンを埋めてしまったこと。

 万丈目の心鎮壷で二枚の伏せカードが封印され、冥界の宝札とスライムにより五枚のゾーンを使いきった闇のプレイヤーキラーは、心鎮壷を破壊するか自分の魔法・罠を一枚以上破壊しない限り新たな魔法・罠が使用できない。

 言うなれば闇のプレイヤーキラーは魔法・罠が使えないロック状態にあるといっても過言ではないのだ。

 これはデュエルをする上で万丈目の有利となる。

 

「俺のターン……ドロー!」

 

 かといって万丈目が不利なことに変わりはない。

 堕天使アスモディウス、カオス・ソルジャー -開闢の使者-、メタル・リフレクト・スライム。いずれも強力なモンスターたちを突破して、5800ものライフを削りきるのは至難の業だ。

 カイザーであればサイバー・ドラゴンの一撃で軽くワンショットキルを決められるのだろうが、生憎と自分にはあの火力はない。

 

「どうした長考かぁ? いいぜ別にどんだけ考えてもよぉ。どうせ俺のモンスターたちを倒すことなんざできねえんだ」

 

「黙れデカブツ。俺の優雅なるシンキングタイムの邪魔だ。黙っていろ」

 

「なんだと!?」

 

 闇のプレイヤーキラーから意識を外し思考の海に沈む。

 白状するならば闇のプレイヤーキラーの圧倒的なフィールドを壊滅させる手がないわけではない。

 おジャマ三兄弟がフィールドに揃った時に発動できる魔法カード、おジャマ・デルタハリケーン。あれを使えば一発で闇のプレイヤーキラーのフィールドを焼野原にできるだろう。

 かといってそれを発動するにはおジャマ三兄弟を場に揃えなければならないし、フィールドを焼野原にして勝利が確定するわけではないのだ。

 あれだけドローしていれば手札誘発の一枚や二枚は持っていることはほぼ確実だし、闇のプレイヤーキラーのライフは5800もあるのだから。

 

(となれば)

 

 デュエルは単純な力比べではない。圧倒的なパワーを破るのが圧倒的パワーであるとは限らず、なんの効果も持たない通常モンスターが最強モンスターを撃破することもある。

 闇のプレイヤーキラーが誇るフィールドを真っ向から打ち破るのは難しいが、ならばそもそも打ち破らなければいい。

 別にフィールドを打ち破らなければ相手を倒せないということはないのだ。

 つまるところデュエルの勝敗はモンスターではなくデュエリストを倒すことで決まるのだから。

 

「決まったぞ俺の戦略が……! 俺はカードカー・Dを攻撃表示で召喚! そしてこいつを生け贄に捧げ俺はカードを二枚ドロー!

 ただしこの効果を使う場合、俺は自動的にエンドフェイズに移行する!」

 

「クククッ。まさか手札だけ増やして壁すら召喚しねえとはなぁ。一時休戦の効果はさっきの俺のエンドフェイズで終わっている。もうテメエを守るものはなにもねえ。

 俺はメタル・リフレクト・スライムのレベルを二つ下げ、二体のレベル・スティーラーを特殊召喚!」

 

「またレベル・スティーラーか!」

 

 レベル5以上のレベルをもつモンスターのレベルを一つ下げて特殊召喚されるレベル・スティーラー。レベル10のメタル・リフレクト・スライムとの相性は抜群だ。

 再び闇のプレイヤーキラーの場に生け贄要因が揃う。

 

「行くぜぇ。二体のレベル・スティーラーを生け贄にThe supremacy SUNを召喚!! 冥界の宝札で四枚ドローだぁ!!」

 

「…………!」

 

 ピクリと万丈目の眉が動く。暗い闇雲が避け、暖かな日差しが差し込む。

 ソリッドビジョンとは思えぬ光を放つそれは太陽を象徴するモンスターである証だ。

 

 

【The supremacy SUN】

闇属性 ☆10 悪魔族

攻撃力3000

守備力3000

このカードはこのカードの効果でしか特殊召喚できない。

フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、

次のターンのスタンバイフェイズ時、

手札を1枚捨てる事で、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 攻撃力と守備力が3000にしてレベル10という破格の重量級モンスター。しかもこのカードは幾ら破壊しても手札を一枚捨てることで墓地から蘇生する効果を備えている。

 正に太陽を名乗るに相応しい不死身のモンスターなのだ。

 

「闇のプレイヤーキラーが太陽か。似合ってないな」

 

「クククククッハハハハハハハハハハハハハ!! 心配してありがとうよ。お礼に一発で沈めてやるぜ。バトルフェイズ、The SUNでテメエに直接攻撃――――」

 

「待て。バトルフェーダーだ。その攻撃は通さん」

 

 

【バトルフェーダー】

闇属性 ☆1 悪魔族

攻撃力0

守備力0

相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。

このカードを手札から特殊召喚し、バトルフェイズを終了する。

この効果で特殊召喚したこのカードは、

フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。

 

 

 The SUNの行く手を十字架の形をした悪魔が塞ぐ。

 バトルフェーダーは相手の直接攻撃に反応する手札誘発。相手のバトルフェイズを強制的に終了することができる。

 その優秀な効果からクリボーのかわりに採用率の高まっているカードだ。

 

「またかよ! いい加減にテメエの相手してる時間はねえんだ。さっさと消えりゃいいものを」

 

「馬鹿め! 万丈目サンダーは不滅だ! 消えることなどあるものか!」

 

「……チッ。ターンエンドだ」

 

 それに闇のプレイヤーはついさっき自分から墓穴を掘った。

 闇のプレイヤーキラーがThe SUNを召喚した時点でプレイヤーキラーの敗北はほぼ確定的なものとなっている。

 万丈目は自信満々に指を一本たててプレイヤーキラーに突きつけた。

 

「なんだその指は?」

 

「1ターンだ。俺と貴様に残されたターンは共に1ターンのみ。そして俺がエンドフェイズして貴様のターンに移った瞬間、貴様は負ける!」

 

「俺が負けるぅ? はははははははははははは。遂に狂いやがったか! 俺には無敵のモンスターたちがいる! こいつらを倒して俺のライフを削るなんざできるものか!」

 

「確かにそうかもしれん。ならば俺はお前のモンスターもライフも削らずにお前を倒す!」

 

「な、なんだと!?」

 

 闇のプレイヤーキラーが顔を歪める。

 けれどもう遅い。既に万丈目の手札にはあのカードがある。それに魔法・罠ゾーンが使用不能となれば、もはや闇のプレイヤーキラーにはどうしようもできない。

 

「俺のターン、ドロー。魔法石の採掘、手札を二枚捨て墓地の魔法一枚を手札に加える。俺が手札に加えるのは手札抹殺のカード。

 そして手札に加えた手札抹殺をそのまま発動! 互いのプレイヤーは手札を全て捨て捨てた枚数分だけカードをドローする!

 俺は一枚のカードを捨て一枚のカードをドローする。さぁお前もカードを捨てドローしろ。お前の手札の枚数……六枚のカードをな」

 

「……なにを考えていやがる。手札交換なんざしたところで」

 

 闇のプレイヤーキラーが訝しながら自分の手札を墓地へ置き、一枚ずつカードをドローしていく。

 一枚、二枚、三枚、四枚、そして五枚にきたところで闇のプレイヤーキラーが目を見開き驚愕した。

 

「お、俺のデッキが――――あ、あと一枚しかねぇだと」

 

「どうした? まだ六枚のカードを引き終わってないぜ。さっさと残り一枚、サクッとドローしな」

 

「あ、ああ……」

 

 操られるマリオネットのように促されるまま闇のプレイヤーキラーが最後の一枚を引き終わる。

 六枚のカードを引き終わって闇のプレイヤーキラーの山札はゼロ。つまりはデッキデス。

 

「俺はターンを終了する」

 

「そん……な……。お、俺の最強の……フィールドが…………無敵の、パワーが……」

 

「デッキからカードをドローできなくなったデュエリストに待ち受ける運命は唯一つ。敗北だ。力に溺れ過ぎたな」

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 発狂したように闇のプレイヤーキラーが蹲る。

 実力勝負で負けたならまだしも、こんなマヌケなことで負けたのだ。こうなるのも無理はない。

 万丈目は一枚しかない自分の手札に視線を落とす。

 

「焦るな光と闇の竜(ライトアンドダークネス・ドラゴン)……。こんな場所でお前を出すなど勿体ないにも程がある」

 

 あの日、宍戸丈に譲られそれ以来万丈目と共に中等部時代を戦い抜いてきた光と闇の竜。

 これを使うべきはこんなデッキを盗んだ偽物ではなく、本物と戦う時だけだ。

 

「デッキデスかぁ。こんな終わり方するなんてな。これがカイザーの言う致命的な落とし穴だったのか?」

 

 十代の問いかけにカイザーは頷いた。

 

「丈のあのデッキには幾つか弱点といえるものがある。そのうち一つがデッキ破壊だ。冥界の宝札は通常のデッキには有り得ないほどのドロー加速を生み出す。それが二枚同時発動となれば猶更だ。

 二枚も冥界の宝札を発動させればデッキの消費もそれに比例して大きいものとなる。1ターンに1度モンスターを召喚すると仮定すれば、通常ドローも合わせて1ターンに五枚もドローする計算となるのだからな」

 

 だからこそデッキ破壊が落とし穴になる。万丈目も丈を打倒する上で『デッキ破壊』が有効な策の一つだと見出した者の一人だ。

 しかしNDLのデュエルでデッキ破壊デッキと遭遇した時に丈があっさりと撃破したのを見て、あの魔王相手に単純なアンチデッキが通用するものではないと知ってからは方針転換をしたのだが……。

 

「う、うがぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

「なっ!」

 

 蹲っていた闇のプレイヤーキラーが急に立ち上がると万丈目に突進してきた。

 目は白目を向いていて口元はぐにゃりと捲れ上がっている。明らかに正気ではない。

 

「俺はぁぁあああああああああああああ!! 闇のプレイヤーキラーだぁあああああああああああああああああああああ!1 テメエみてええな餓鬼によぉぉおおおおおおお!! 負けるとかねェンだよぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 闇のプレイヤーキラーが掴みかかってくる。だが闇のプレイヤーキラーの暴挙は、

 

「黙れ」

 

「へぶし!?」

 

 冷徹なる帝王の拳により強制的に黙らせられた。

 ポキポキと拳を鳴らしながらカイザーは冷徹に、後ずさる闇のプレイヤーキラーに近付いていく。

 

「あ、え、あ……」

 

「デュエルではなく生身での決着がお望みか。ならばお望み通り己の肉体で闘争をするとしよう……」

 

「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 万丈目と十代と翔は黙ってその惨劇を見つめる。

 そして事が済んだ後、闇のプレイヤーキラーだったものを見た十代は一言だけ呟いた。

 

「ミンチよりひでぇや」

 

 


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