宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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ユーヤ→トマト
ユート→ナス
ユーゴ→バナナ

……ということはユーヤのそっくりさんシリーズは野菜と果物で統一されている可能性は微レ存。ニンジン、ピーマン、レタス、大根、オレンジ、ブロッコリー、メロン、スイカ。次はどんな野菜(果物)が出てくるのか楽しみですね。


第171話  眠りし者

宍戸丈 LP3000 手札2枚

場 メタル・リフレクト・スライム

伏せ 無し

魔法 冥界の宝札

罠 メタル・リフレクト・スライム

 

 

万丈目 LP2000 手札0枚

場 アームド・ドラゴンLV10

伏せ 二枚

 

 

 丈のフィールドにはメタル・リフレクト・スライムがあり、墓地には二体のレベル・スティーラー。

 苦労して相手の最上級モンスターを撃破したと思ったら直ぐにこれである。途切れぬ戦線、倒せど倒せど次から次へ湧いて来る最上級モンスターの召喚ラッシュ。

 冥界の宝札が生み出すドロー加速による途方もないスタミナ。これこそが宍戸丈のデッキの厄介さである。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 ターンが回り、丈のターン。

 デュエル場は奇妙なほどに静まり返っていた。アームド・ドラゴンLV10の登場には、ギャラリーも立ち上がって『サンダーコール』をしたものだが、そんな熱気は直ぐに失せてしまっている。

 何もせずターンが回るだけで観客を鎮まらせるだけの気迫――――その源泉に、万丈目は心当たりがある。

 

(まさか、まさか……まさかなのか)

 

 人間である以上は切り離すことのできない根源的な恐怖。万丈目にも当然のように根付いているそれが警鐘を鳴らしている。

 デュエリストとしての本能というより、生物としての危険察知能力が途方もない邪悪の訪れに呼び覚まされているようだ。

 

「万丈目、まずは見事と言わせてくれ。この三年間、よくもここまで練り上げた。大したものだ」

 

「なにを」

 

 丈からいきなり告げられた賞賛の言葉。それはなんの虚飾もない本心からの言葉だった。宍戸丈は真っ直ぐ万丈目を見据えたまま、柔和な笑みを浮かべている。

 だが温かみすら感じられた笑みは、次の瞬間、凍てつく闘気へと変わった。

 

「っ!」

 

 昂ぶるのではない。震えることもできない。恐怖する心すら恐怖させ沈黙させる根源的な鬼気。

 丈の全身から闘気が黒い魔力となって立ち昇り、まだデュエルディスクに何のカードも置かれていないと言うのに、紫電染みたものが丈の周囲で煌めいた。

 

「お前の三年間に報いるため――――俺も〝見せ〟よう」

 

 刹那。アカデミア島にいたデュエルモンスターズの精霊たちが、等しく根源的な恐怖を思い出した。

 デュエルモンスターズの頂点に君臨する最大最強のレアカード、三幻神。その三幻神と対になる最悪最凶の三邪神。

 それが初めて公式で行われるデュエルにて顕現する。

 

「メタル・リフレクト・スライムのレベルを二つ下げレベル・スティーラー二体を墓地より復活。ゆくぞ、万丈目。呑まれるなよ」

 

 邪神の召喚には生け贄が三体必要。ここに邪神降臨の準備は整った。

 いつもなら大型モンスターの登場に盛り上がるアカデミア生たちも、今回ばかりは生唾を呑み込み沈黙する。

 アカデミアに通っている者ならば全員が見たことがあるだろう。公に放映されたバトルシティートーナメント準決勝、オシリスの天空竜とオベリスクの巨神兵の激突を。

 あれを見て誰もが三幻神という絶対的な強さに憧憬の念をもち、同時に恐怖した。それと同格の邪悪なる神が現れようとしているのである。

 声を失うのは当たり前のこと。

 

「破壊神をも駆逐する恐怖の根源、我が絶対の力となりて、 我が領域に顕現せよ!  天地を揺るがす全能たる力によって、俺に勝利をもたらせ! 邪神ドレッド・ルート降臨ッッ!!」

 

 

【THE DEVILS DREAD-ROOT】

DIVINE ☆10 GOD

ATK/4000

DEF/4000

Fear dominates the whole field.

Both attack and defense points of all the monsters will halve.

 

 

 数多のカードの中で三幻神と同じく『神』という属性を持つ者。オベリスクの巨神兵を殺すためにデザインされた恐怖の根源が、ここに出現した。

 デュエルディスクのキャパシティを軽く超えたエネルギーに、デュエル場が大きく振動し烈風が吹き荒れる。

 強烈な風に思わず吹き飛ばされそうになるが、万丈目はどうにか堪えた。

 

「お……俺は、万丈目サンダーだ。いずれ……決闘王になる男だ! 邪神なんぞ……通過点に過ぎん!」

 

 それは空元気だったが、不思議に口に出して叫ぶと邪神の威圧が少し和らいでいくような気がした。

 

「踏みとどまったか。やはり俺の決断は正しかった。お前ならば折れないと信じていたぞ。並みのデュエリストなら邪神と対峙しただけで気絶するからな」

 

「……っ!」

 

 こうして間近で邪神の威圧を受けた万丈目には、それを誇張であると笑うことは出来ない。

 三年間で様々なことを味わってきたからこそ耐えられているが、これが三年前の自分なら今頃気絶していてもおかしくはなかった。

 三幻魔との戦いの際も一度見たが、あの時は邪神は味方だった。だが今回は違う。邪神ドレッドルートは万丈目準の敵。その事実が途方もなく恐ろしいことのように思える。

 

「まずは冥界の宝札の効果で二枚ドローする。そして邪神ドレッドルートは自身を除くフィールドのモンスターのステータスを半減させる。攻撃力3000のアームド・ドラゴンLV10の攻撃力は1500となる」

 

 ドレッドルートとの差分は2500。直撃すれば残りライフ2000の万丈目は一巻の終わりだ。

 

「バトル。邪神ドレッドルートでアームド・ドラゴンLV10を攻撃、フィアーズノックダウンッ!」

 

「こんなところで……俺は負けんッ! 罠発動、ゴブリンのやりくり上手! さらにチェーンして速攻魔法、非常食を発動! 発動したゴブリンのやりくり上手を墓地へ送り1000ポイントのライフを回復する!」

 

 

【ゴブリンのやりくり上手】

通常罠カード

自分の墓地に存在する「ゴブリンのやりくり上手」の枚数+1枚を

自分のデッキからドローし、自分の手札を1枚選択してデッキの一番下に戻す。

 

 

【非常食】

速攻魔法カード

このカード以外の自分フィールド上に存在する

魔法・罠カードを任意の枚数墓地へ送って発動する。

墓地へ送ったカード1枚につき、自分は1000ライフポイント回復する。

 

 

「ゴブリンのやりくり上手は自分の墓地に存在する『ゴブリンのやりくり上手』の枚数+1枚をドローし、それから手札一枚をデッキの一番下へ戻すカード。

 非常食の効果により発動したゴブリンのやりくり上手は墓地へ置かれているため、俺は二枚ドローし、一枚をデッキの一番下へ戻す」

 

「……上手いな」

 

 非常食により万丈目のライフは1000ポイント回復し、3000ポイントになった。更にゴブリンのやりくり上手の効果を上手く使い消費した手札を回復させもした。

 しかしそれは邪神ドレッドルートの攻撃を防いだわけではない。ドレッドルートの神拳が、アームド・ドラゴンを粉々に破壊する。

 

「アームド・ドラゴンLV10を粉砕」

 

「ぐっ、おおおぉぉぉおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーッ!!」

 

 万丈目LP2000→3000→500

 

 闇のゲームで体感したものを超える、嘗て経験したことのない苦痛が万丈目の肉体を駆け巡る。

 生きながらまな板の上に乗っけられて、包丁で体を切り刻まれる魚の気分が理解できたような気がした。

 苦痛の余り胃の中のものを吐き出してしまいそうになるが、万丈目の高い自尊心が後一歩のところでそれだけは堪える。

 

『ま、万丈目の兄貴。やばいわよぉ、魔王の旦那は本気だわぁ。兄貴をガチで殺しにきてるって!』

 

「……だ……黙……れ。クズ共、俺は……戦える」

 

 震える膝を殴りつけて、万丈目は立ち上がる。呼吸はしっかりとしていた。苦痛は凄まじいものだったが、肉体に傷はない。

 ただ邪神の一撃によって、デュエル場には今も魔力の残滓がバチバチとしていた。

 

「――――サレンダーするか、万丈目」

 

「な、んだと?」

 

「邪神の一撃は下手すれば命を奪いかねない。これは持って生まれた性質のようなものでな。俺がどれだけ抑え込んでいようと消すことはできん。

 もしこれ以上続けるのならば、命を懸けて貰うことになる。どうする?」

 

 デュエルを止めて降参するか、それとも命懸けで邪神に挑むか。

 恐らくここでサレンダーしたところでアカデミアの生徒が自分を軽蔑するということはないだろう。邪神ドレッドルートを前にすれば誰だってサレンダーしたくもなる。だが、

 

「ふざけるな! 俺はサレンダーなどはせん! 言った筈だ、俺は三邪神を倒すとな! 訂正はない!」

 

「……分かった。失礼なことを言った。もう二度とは言わん。俺はターンエンドだ」

 

「くっ。俺のターン、ドロー!」

 

 卒業模範デュエルで邪神と戦うことは覚悟していた。そして邪神を倒すためにデッキの調整も念入りにしている。

 しかし万丈目の手札に邪神を倒すためのカードはない。

 

「強欲な壺を発動。デッキよりカードを二枚ドローする。モンスターをセット、リバースカードを二枚セット。ターンエンドだ」

 

 そのためにも、ここは耐え凌ぐしかない。

 苦渋に滲んだ顔で万丈目はターンエンドを宣言した。

 

「俺のターン。神獣王バルバロスを妥協召喚、バルバロスのレベルを二つ下げレベル・スティーラー二体を守備表示で蘇生させる」

 

 邪神ドレッドルートの能力はフィールド全体に及ぶ。よってバルバロスの攻撃力も半減され950になった。

 だが万丈目の残りライフはたった500なので、攻撃力950でも十分すぎるほどである。

 

「バトル。ドレッドルートでリバースモンスターを攻撃する」

 

「……伏せていたモンスターはメタモルポット。互いのプレイヤーは手札を全て捨て五枚カードをドローする」

 

 破壊されたのが守備表示モンスターだったお蔭で、今度は先程のように苦痛を味わうことはなかった。

 ドレッドルートが壁モンスターを破壊すると、続いてバルバロスが飛びかかって来る。

 

「バルバロスでプレイヤーを直接攻撃、トルネード・シェイパー!」

 

「罠発動、ガード・ブロック! ダメージを0にして一枚ドローする!」

 

 これで万丈目の手札は合計六枚。次のドローで七枚。十分すぎるほどの手札を得ることができた。

 

「バトルを終了。ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 邪神にバルバロスにレベル・スティーラー。レベル・スティーラーは兎も角、丈のフィールドには錚々たる最上級モンスターが並んでいる。

 だが丈の魔法・罠ゾーンにあるのは冥界の宝札が一枚だけ。対して自分はフィールドこそがら空きだが、手札は七枚。

 邪神を倒すのは今を置いて他にはない。キーとなる二枚は手札にきている。

 

「宍戸さん、俺は予言する。このターンで邪神ドレッドルートを倒すとな!!」

 

「!」

 

 万丈目の『邪神撃破宣言』に、ギャラリーがざわめき立つ。

 倒せるはずがない、口ばかりだ、でももしかしたら……。そんな囁きが万丈目の耳にも届いてきた。

 

「面白い。やってみろ」

 

 丈は心底楽しそうにニヤリと笑う。

 

「その余裕がいつまで続くかな。見せてやる、この万丈目サンダーのデュエル革命を! 魔法発動、おろかな埋葬! デッキのモンスターを墓地へ埋葬する。俺が墓地へ送るカードはこいつだ。眠れる巨人ズシン!」

 

「ズシン、だと!?」

 

 万丈目が墓地へ送ったモンスター、眠れる巨人ズシンは三幻神にも匹敵する能力をもっていると囁かれる、誰もが当たり前に持っている単なるノーマルカードだ。

 どうして三幻神にも匹敵するほどの能力をもつカードが『ただのノーマルカード』に分類されているかというと、それは一重にその召喚難易度にある。

 自分のターンで数えて10ターン以上フィールド上に表側表示で存在しているレベル1の通常モンスター1体を生け贄にする――――それが眠れる巨人ズシンの召喚条件だ。

 なんの耐性も持たずステータスも貧弱な通常モンスターを、20ターンに渡ってフィールドに維持し続けなければならないのである。

 そんな面倒臭いことをするくらいならば『終焉のカウントダウン』での勝利を目指した方が一兆倍効率的だ。

 故に眠れる巨人ズシンは三幻神クラスの力をもちながらも、誰もデッキに投入しないノーマルカードという地位に納まっている。

 事実公式戦でズシンが召喚されたという記録はゼロ。誰もが知っていて、誰もが持っているが、誰もデッキに入れたことのないカード。それがズシンなのだ。

 だがおジャマ三兄弟と同じだ。クズカードにはクズカードなりの使い方がある。

 

「これが邪神を倒すための俺の戦略だ! ファントム・オブ・カオスを召喚し効果発動! 墓地のズシンを除外し、このターンの間だけズシンの能力とステータスを得る!」

 

 

【ファントム・オブ・カオス】

闇属性 ☆4 悪魔族

攻撃力0

守備力0

自分の墓地に存在する効果モンスター1体を選択し、ゲームから除外する事ができる。

このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、

このカードはエンドフェイズ時まで選択したモンスターと同名カードとして扱い、

選択したモンスターと同じ攻撃力とモンスター効果を得る。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

このモンスターの戦闘によって発生する相手プレイヤーへの戦闘ダメージは0になる。

 

 

【眠れる巨人ズシン】

地属性 ☆10 戦士族

攻撃力0

守備力0

このカードは通常召喚できない。

自分のターンで数えて10ターン以上フィールド上に

表側表示で存在しているレベル1の通常モンスター1体を生け贄にする事でのみ

特殊召喚する事ができる。

このカードが戦闘を行う場合、

バトルフェイズの間だけ戦闘を行う相手モンスターの効果を無効化し、

このカードの攻撃力・守備力はダメージ計算時のみ戦闘を行う相手モンスターの

攻撃力+1000ポイントの数値になる。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

このカードはこのカード以外の魔法・罠・効果モンスターの効果を受けない 。

 

 

 泥のような亡霊が、ズシンの姿へと変化していく。オリジナルのズシンとは違って、戦闘ダメージも与えられはしないが能力はそのままだ。

 ズシンを正規の方法で召喚できずとも、ファントム・オブ・カオスを用いることでズシンの能力を得ることはできる。丈とバクラのデュエルを見て思いついた戦術だった。

 ドレッドルートの半減の呪縛がズシンにも伸し掛かる。だがズシンはあっさりそれを撥ね飛ばす。

 

「ズシンの攻撃力は戦闘を行う相手モンスターの攻撃力に1000ポイントプラスした数値となる。邪神ドレッドルートの攻撃力は4000。よってズシンの攻撃力はドレッドルートと戦闘する場合、5000ポイントになる!

 バトルだ。眠れる巨人ズシンとなったファントム・オブ・カオスの攻撃。ファントム・オブ・ズシン・クラッシャー!」

 

 ドレッドルートが殴りつけていた腕を払いのけ、逆にズシンが頭部を捻り潰した。

 ファントム・オブ・カオスの効果のせいでダメージを与えることは出来ない。それでも確かに……万丈目準は邪神を倒したのだ。

 

「うおぉぉおおおおおおお! 凄ェ、サンダーが邪神を倒した!」

 

「サンダー! サンダー! 万丈目サンダー!」

 

 会場中から響き渡るサンダーコール。それを満足気に受け止めつつ、万丈目はデュエルを進めた。

 

「ドレッドフィールドが破壊され墓地へ送られた瞬間、リビングデッドの呼び声を発動! 墓地よりアームド・ドラゴンLV5を復活させる!」

 

「二枚目のリビングデッドだと!?」

 

 

【アームド・ドラゴンLV5】

風属性 ☆5 ドラゴン族

攻撃力2400

守備力1700

手札からモンスター1体を墓地へ送る事で、

そのモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持つ、

相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。

また、このカードが戦闘によってモンスターを破壊したターンのエンドフェイズ時、

フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地へ送る事で、

手札またはデッキから「アームド・ドラゴン LV7」1体を特殊召喚する。

 

 

 バトルフェイズ中に特殊召喚されたモンスターはバトルが可能だ。そして丈の場にあるバルバロスには、未だドレッドルートの影響が残っており攻撃力たったの950。

 万丈目は肺の中のものを全て吐き出す勢いで宣言する。

 

「バトルだ! アームド・ドラゴンLV5でバルバロスを攻撃! アームド・バスター!」

 

「むっ……っ!」

 

 宍戸丈LP3000→1550

 

 まだまだ0にするには至らないが、宍戸丈に確かなダメージを与えることができた。

 万丈目は小さくガッツポーズする。

 

「バトルフェイズを終了。メインフェイズ2へ移行。カードを一枚伏せターンエンドだ」

 




 というわけでフライングしてズシンが出ました。チーム太陽涙目。けど別にズシンそのものを召喚したわけじゃないからセーフなはず。

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