宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第173話  旅立ち

 邪神ドレッドルートの召喚によりデュエル場が一時使用不能になってしまったので、亮と十代の卒業模範デュエルは卒業パーティの後に変更になった。

 ソリッドビジョンにも拘らず相手プレイヤーにデュエル場にも深刻なダメージを与える三邪神。丈は改めて通常のデュエルで邪神を使用しないことを誓った。万丈目が邪神の攻撃に耐えることができたのは、あくまで彼が精霊に選ばれるほどの素養の持ち主で、精神力がタフだったからだ。

 万丈目のレベルをプロ全員に求めるのは無理がある。プロの試合で使用してその度に対戦相手を再起不能にしていては洒落にならない。

 卒業式はつつがなく終了し、その後の卒業パーティー。

 テーブルに所せましと並べられた御馳走と、和やかに談笑したり、馬鹿みたいに騒ぐ卒業生たち。

 ブルー寮、イエロー寮、レッド寮に別れていがみあっていたのも今は昔。

 卒業式を迎えればもうそこに寮ごとの垣根などはない。これから寮の権威には頼れないプロとして、或は社会人として、または大学生として生きていくのだから。

 そして他の生徒たちと同じように、丈たちも高校生活最後のイベントを四人で分かち合っていた。

 

「こうやっていざ終わってみるとあっという間の三年間だったね」

 

 グラスに注がれたワイン――――の雰囲気を出した葡萄ジュースを飲みながら、吹雪がしみじみと言う。

 

「ああ、まったくだ」

 

 吹雪の言うことに同意する。

 高校生活とNDLの二重生活をしている間はスケジュールの都合などで苦労して一日が長く感じられたものだが、いざ終わってみると本当に短く感じられる。

 泣いても笑ってもこれが最後。ここを過ぎれば高校生でいることはもう出来ない。そう思うと寂しさもあった。

 

「〝四天王〟などと呼ばれていても、実際に俺達四人が共に過ごした日々も余りなかったからな。丈がまずNDLへ入るためアメリカへ行って、それから俺達も留学でここを離れた。

 四人一緒に学生生活をしていた期間だけで換算するのなら、もしかしたら一年にも満たないかもしれん」

 

「それに進路も其々別々だし、会う機会は減るだろうね。僕はちょっとだけ寂しいかな。ここは一つ皆でダークネス世界の扉でも開いちゃう?」

 

「おいおい、藤原。俺はまた宇宙空間でダークネスと一騎打ちしなければならないのか?」

 

「ははははははははは! 単なる冗談だよ、冗談。僕も二回もあんなものと契約するつもりはないって。そんなことをしたら今度は吹雪が本気で怒りそうだし」

 

「普段怒らない人間が怒ると恐いというからな。俺達の中で一番怒りとは縁のない吹雪が怒れば、案外あの明日香以上に恐いかもしれん」

 

「まったくもう。酷いなぁ、僕みたいなプリンスはいつもスマイル。怒ることなんてないよ」

 

 そう言いつつ万が一……いや億が一に藤原がダークネスと契約するようなことがあれば、吹雪は誰よりも早く藤原の下に駆け付けるだろう。

 名前に反して、四人の中で一番友情に熱い男なのだ、天上院吹雪は。1ターン目で黒炎弾二連発なんてやられると忘れそうになるが。

 

「おーい、カイザー!」

 

「ん? 十代か」

 

 卒業パーティーに参加しているのは卒業生だけではない。卒業生に招待された在校生も見送りのために参加していた。

 十代もその一人。もっとも十代の場合は招待されたわけではなく、この後に控えているイベントのための特別枠での参加だが。

 ちなみに丈の招待者は万丈目、亮の招待者は弟の翔、吹雪の招待者は妹の明日香だ。藤原も名前の知らないラー・イエローの生徒を招待していた。

 

「どうした、まだイベントまで時間があるぞ」

 

「いやぁ。そうじゃなくってさ、カイザー達は卒業後の進路とかどうするのか気になってさ」

 

「俺達の進路? 突然だな」

 

「実はさっきそこでクロノス先生に『進路調査書』の提出が遅れてるって怒られて、それで先輩の進路を聞いて勉強してくるノーネって言われたんだ」

 

「クロノス先生らしいな」

 

 進路調査書は丈も一年生の頃に書いた覚えがある。丈が書いたことがあるのならば、亮たち三人も同様だろう。

 当時丈は既にNDLに所属していたので、進路調査書に書くことには困らなかったが、十代のようにまだ特定の進路が決まっていない生徒にとっては面倒臭いものかもしれない。

 

「俺はプロデュエリストだ。日本のSリーグに所属することになっている。中々良い条件のスポンサーも見つけることが出来たからな。ただプロで研鑽を積んだらSリーグは止める予定だ」

 

「プロを止めっちまうのか?」

 

「いや、あくまでSリーグを止めるだけだ。プロから降りるわけじゃない。――――実はこれは翔にしか話していないことなんだが、日本に新しいプロリーグを作るのが俺の夢でな」

 

「新しい、プロリーグ?」

 

「新しいリーグが増えれば、新しい環境が生まれる。現在はSリーグが一強だが、それと同規模のリーグが一つ増えればプロリーグはより賑やかになる。

 野球だってセリーグとパリーグがあるだろう。要するに俺のやりたいことはセリーグしかないプロリーグに、パリーグを作ることなんだ」

 

「おおっ! なんか凄いな!」

 

「凄くはない。まだなにも実現していないからな」

 

「なら吹雪さんは?」

 

「僕はアイドルプロデュエリストさ!!」

 

「アイドル?」

 

「歌って踊ってデュエルも出来る最高のエンターテイナーになるのが僕の夢なんだよ。プロになるなら僕一人じゃなくて、観客全員を楽しませられるデュエリストになりたいからね。

 あ、来年の紅白に出演するつもりだから応援宜しく。それとアスリンにもアイドルになることをそれとなく誘ってくれると嬉しい。アスリンはアイドルの素養があると思うんだよ!」

 

「い、言うだけ言っておくぜ……」

 

 十代の笑顔が引き攣っている。

 無理はない。吹雪のようなタイプならまだしも、明日香はどう考えても自分からアイドルになろうとするタイプではない。

 確かにルックスといい実力といいアイドルで大成する器はあるが、それは本人の意志がなければ不可能だ。

 

「じゃあ藤原先輩は?」

 

「僕もプロだよ。お世話になっている人にはプロデュエリスト兼俳優にならないかって誘われたんだけどね。僕は俳優っていう柄でもないから。

 だけど僕も亮と一緒でプロリーグはいつか止めるかもしれないな……」

 

「カイザーのプロリーグ作りに協力するのか?」

 

「いいや。惜しいけど、ちょっと違うよ。僕は日本にプロリーグを新しく作るんじゃなくて、プロリーグのない国にプロリーグを作りたいんだ。

 今は世界大会といえばアメリカと日本メインで、他の国のデュエリストの参加はまちまちだけど、それはプロリーグが少ないのが一因だと思うんだよ。

 だからもっと多くの国にプロリーグが出来れば、世界大会が盛り上がるんじゃないかってね」

 

 藤原はアカデミアに入学するまでは、オーストラリアに留学していた。

 その経験が外国でのデュエル活性化という夢に繋がっているのだろう。

 

「それじゃ最後に丈さんは?」

 

「――――〝決闘王(キング・オブ・デュエリスト)〟」

 

「!」

 

「遊戯さんを倒して、二代目決闘王の称号を得る。これが俺の夢だ。万丈目と一緒だな」

 

「丈さんは遊戯さんとデュエルしたことがあるのか?」

 

「ああ、ある。惜しいところまではいったんだが…………完敗だった」

 

 パラドックスが引き起こした時間改変事件。

 過去から帰還を果たした丈を待っていた武藤遊戯と出会った丈は、そのままデュエルを挑み、正面から敗れ去った。

 あの敗北とデュエルの興奮は片時も忘れたことはない。

 

「まぁ手始めにNDLのランキング一位、次に世界王者だな。来年は四年に一度の世界王者決定戦だ。必ず決定戦に出場し、DDを倒す」

 

 全世界1000人を超えるプロデュエリストの頂点に立つ。

 それでこそ全世界60億人を超えるデュエリスト達の頂点に立つ決闘王に挑めるというものだ。

 

「――――セニョール十代。そろそろ時間ナノーネ!」

 

「あ、クロノス先生が呼んでる。じゃ先行ってるぜ、カイザー!」

 

 名前を呼ばれた十代が忙しなく走っていく。苦笑しながらカイザーもデュエルディスクを嵌めて、会場中央へ降りて行く。

 これからアカデミアの最後を飾るデュエルが始まるのだ。

 パーティー会場の中心で向かい合うカイザー亮と遊城十代。卒業生も在校生も談笑を止めて、二人を見守る。

 十代も亮もパーティーで談笑しているよりずっと楽しそうだ。性格もデュエリストとしてのタイプもなにもかも違う二人だが、筋金のデュエル馬鹿だということは同じなのだろう。

 

「いくぜ、カイザー!」

 

「来い、十代!」

 

 これから十代は多くの戦いを経験するはずだ。

 だがあのデュエルを心から愛する心があれば、どんな苦難の中でも進んでいけるだろう。

 

「「デュエル!」」

 

 この日、宍戸丈はアカデミアを卒業した。

 

 

 

 

 

――――デュエル・アカデミア高等部 卒業――――

 

 




「ユーには海馬コーポレーションから出張してきた社員たちと共に、新たなる召喚システムの開発に加わって欲しいのです」

 全てはペガサス・J・クロフォードの依頼から始まった。
 そして宍戸丈は未来において世界を救う英雄となる男――――その父親と邂逅する。

「初めまして。海馬コーポレーションから出張してきた不動です。彼の魔王とお会いできて光栄ですよ」

「宜しく、プロフェッサー。そちらは?」

「ルドガー・ゴドウィン、レクス・ゴドウィン……頼もしい、私の右腕と左腕です」

 シンクロ召喚。生け贄や融合とはまったく異なる、レベルをプラスするという概念。
 それは時空を超えた舞台で不動遊星がみせた召喚法そのものだった。

「――――異国の邪神を束ねし王よ。娘を返してほしければ、私とデュエルするがいい」

「やるしか、ないのか……!」

 アラスカの地で発見する赤き竜の伝説。シグナーとダークシグナーの戦いの記憶。
 宍戸丈は五体の竜の物語の前日譚に遭遇する。

「集いし願いが、新たに輝く星となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 飛翔せよ、スターダスト・ドラゴン!」

「研磨されし孤高の光、真の覇者となりて大地を照らす! 光輝け! シンクロ召喚! 大いなる魂、セイヴァー・デモン・ドラゴン!」

 5000年の時を超えて、古の竜達が眠りより覚める。
 宍戸丈の奇天烈遊戯王 第九章『シンクロ覚醒編』

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