宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第184話  五千年の時空を超えて

 シグナーの化身のライフが0となり決着がついたことで、ソリッドビジョンにより実体化していたセイヴァー・デモン・ドラゴンは陽炎のように消えていった。これは普段のデュエルでも見慣れた光景であるが、今回は違う点もあった。

 デュエルが終わるその瞬間まで丈のデュエルディスクに置かれていたセイヴァー・デモン・ドラゴンのカード。それが忽然といずこかへ消え去っている。念のため墓地を確認してみたが、救世竜セイヴァー・ドラゴンも同じように影も形もなくなっていた。

 あの二枚のカードは丈の力ではなく、神殿にいる『赤き竜』がこのデュエルのために生み出したカード。よってデュエルが終われば消え去るのも自然なことなのかもしれない。

 

『……純黒の王よ、見事だ……。娘は、そなたに返そう』

 

「レベッカ!?」

 

 台座に寝かされていたレベッカの体が浮かび上がる。ふわふわと宙を浮きながら戻ってきたレベッカを、丈は傷つけないよう慎重に抱き抱えた。

 まだ魔力の残滓が残っているせいで意識は戻っていないが、呼吸は正常であるし外傷の類も見当たらない。ホプキンス教授に悪い報告をしないで済んだことに、一先ず丈は胸を撫で下ろした。

 

『そしてすまなかった。そなたをダークシグナーと勘違いしたばかりか、娘を人質にとるなどという下種な方法で力を試すような真似をして』

 

「……いいさ。ここはお前の――――シグナー達の神殿。俺達は謂わば不法侵入者だ。それに勘違いされても仕方ないことは自覚している」

 

 三邪神は丈の支配下にあって完全に安定してはいるが、それは決して三邪神が邪悪でなくなったということではない。未だに三邪神は世界を滅ぼしうるだけの邪気をもっているのだ。

 もしも丈が乱心して世界征服の野望に目覚めなどすれば、たちまちパラドックスの一件やダークネス事件のような大騒ぎになることだろう。

 

『ふっ、甘いのだな純黒の王よ。だが納得もしよう。黒とは時に暗い闇の色と化すが、時として優しさと寛容を備えた肯定の色ともなる。全ての色を否定する者が象徴するのは、なにものも映し出さぬ無色透明よ。全ての色を受け入れるが故に、そなたの心は純粋に黒く輝いているのだな』

 

「あんまり恥ずかしい褒め方をしないでくれ。五千年前に世界を救った偉人に褒められてもこそばゆい」

 

『我々もそう大したものではない。一人ではダークシグナーにも歯が立たないちっぽけな存在だ。我々が奴等に勝てたのは、奴等にはない〝絆〟が我々にあったからだろう』

 

「そう胸を張って言えるのは十分英雄だよ」

 

 先程のデュエルによる影響のせいか、シグナーの化身のフードがとれる。フードの中から現れた男の素顔は、素朴な顔をした青年だった。

 それこそ英雄などではなく畑仕事をしていそうな外見をしているが、目の奥で光る尊いと断言できる意思の強さは英雄性の発露そのものである。

 

『……シシドジョウ、確かこれがそなたの真名であったか? そなたが私を……我等を許してくれると言うのであれば、どうか聞いて欲しい。これは全人類の、全世界の運命に関わることだ』

 

「全人類に……?」

 

『我々の戦いから数千年、この世に再び五千年周期が迫っている。恐らくこれより十数年から二十数年の間にダークシグナーが覚醒し、地縛神が復活することになるだろう』

 

「!」

 

 赤き竜の力の一端は、ついさっき丈も経験したばかりだ。三邪神や三幻神にも劣らぬ力をもつ赤き竜と、五千年周期で死闘を繰り広げてきた地縛神。これまで四年連続で世界の危機に巻き込まれた丈であるが、その丈にとっても楽観できる類のものではない。

 

「地縛神復活を止めることはできないのか?」

 

『不可能だ。今の時代の人間達が〝ナスカの地上絵〟と呼んでいる場所に地縛神は縛られているが、それに干渉することはシグナーの力をもってしても不可能だ。

 なにより五千年前に我等が勝利したその瞬間より、五千年後にダークシグナーが覚醒することは不可避の必然として定められていた。デュエルモンスターズ誕生と同様、これを覆すことは何人たりとも出来ない』

 

 世界に定められた必然を変えることは出来ない。これはパラドックスも言っていたことだ。だからこそパラドックスも過去に遡りデュエルモンスターズを誕生しなかったことにするのではなく、誕生したデュエルモンスターズを滅ぼすことで歴史を変えようとしていたのである。

 地縛神復活もそれと同じことだというのならば、それこそ『世界』という枠すら超えた位階に達したもの―――――最高神をも上回る絶対神くらいだろう。

 

「だが……地縛神の復活は不可避でも、ダークシグナーの覚醒を抑制することはできないのか?」

 

『それも不可能だ。ダークシグナーに選ばれるのは強い憎しみ・怨み・未練を残して死んだ強い魂。故にダークシグナーの誕生を防ぐには、世界の全人類が等しく幸福で満たされる世を作らねばならない。汝、それができるか?』

 

「残念ながら」

 

『地縛神は恐らくデュエルモンスターズのカードとして転生し、それをダークシグナーに与えるだろう。必ず五人が選ばれるシグナーとは異なり、ダークシグナーの総数は固定されていないが、最低でも五人以上と考えて良い。

 そしてダークシグナーに対抗するには、五人のシグナーに五体の竜を届けねばならぬ。シシドジョウ、そのことで汝に頼みたいことがあるのだ』

 

 シグナーの周囲に再び石版が浮かび上がる。石版はまるで照明塔のように真っ白に光り輝いていくと、看板ほどの大きさだった五つの石版は五枚のカードに変化していった。

 五枚のカードは宙を舞い、宍戸丈の手へと収まる。

 

「これは……」

 

 

【スターダスト・ドラゴン】

風属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力2500

守備力2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

「フィールド上のカードを破壊する効果」を持つ

魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、

このカードをリリースして発動できる。

その発動を無効にし破壊する。

この効果を適用したターンのエンドフェイズ時、

この効果を発動するためにリリースした

このカードを墓地から特殊召喚できる。

 

【レッド・デーモンズ・ドラゴン】

闇属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3000

守備力2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードが相手フィールド上に守備表示で存在するモンスターを攻撃した場合、

そのダメージ計算後に相手フィールド上に守備表示で存在するモンスターを全て破壊する。

自分のエンドフェイズ時にこのカードがフィールド上に表側表示で存在する場合、

このカード以外のこのターン攻撃宣言をしていない自分フィールド上のモンスターを全て破壊する。

 

【ブラック・ローズ・ドラゴン】

炎属性 ☆7 ドラゴン族

攻撃力2400

守備力1800

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードがシンクロ召喚に成功した時、フィールド上のカードを全て破壊できる。

また、1ターンに1度、自分の墓地の植物族モンスター1体をゲームから除外して発動できる。

相手フィールド上に守備表示で存在するモンスター1体を選択して表側攻撃表示にし、

エンドフェイズ時までその攻撃力を0にする。

 

【ブラックフェザー・ドラゴン】

闇属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力2800

守備力1600

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

自分がカードの効果によってダメージを受ける場合、

代わりにこのカードに黒羽カウンターを1つ置く。

このカードの攻撃力は、このカードに乗っている黒羽カウンターの数×700ポイントダウンする。

また、1ターンに1度、このカードに乗っている黒羽カウンターを全て取り除く事で、

相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、

その攻撃力を取り除いた黒羽カウンターの数×700ポイントダウンし、

ダウンした数値分のダメージを相手ライフに与える。

 

【エンシェント・フェアリー・ドラゴン】

光属性 ☆7 ドラゴン族

攻撃力2100

守備力3000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

1ターンに1度、手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚できる。

この効果を発動するターン、自分はバトルフェイズを行えない。

また、1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。

フィールド上のフィールド魔法カードを全て破壊し、

自分は1000ライフポイント回復する。

その後、デッキからフィールド魔法カード1枚を手札に加える事ができる。

 

 

 五枚のカードはどれも等しくドラゴン族シンクロモンスター。スターダスト・ドラゴン、レッド・デーモンズ・ドラゴン、ブラック・ローズ・ドラゴンはシグナーとのデュエルで見たが、ブラック・フェザー・ドラゴンやエンシェント・フェアリー・ドラゴンは初見のカードだった。

 

『これこそがシグナーの五竜がカードとして転生した姿。そなたにはこの五竜をシグナーの手に届けて欲しいのだ』

 

「どうして俺に?」

 

『私ではない。赤き竜がそなたを選んだのだ。時代の英雄達を時空を超えて友情という絆で繋ぐそなたであれば、必ずやシグナーにドラゴンを届けてくれるだろう』

 

 赤き竜が時間の流れをも超えた精霊ならば、この時代にいながら時空を超えたデュエルのことも知っているのかもしれない。

 既にあの時空を超えた戦いに参戦したデュエリストには、他に〝決闘王〟武藤遊戯もいるが、彼と宍戸丈では一つだけ違う点がある。それは不動遊星の父、または祖父であろう不動博士と面識があるということだ。

 この五体のドラゴンを不動博士に託せば、きっと巡り巡ってドラゴンたちは、シグナーの一人である遊星へと行き着くだろう。

 

「成程。赤き竜の目は確からしい。分かった、確かに承った。このカードは俺が責任をもってシグナーの下へ届くようにしよう」

 

『ふふ、ダークシグナーとの戦いに備え、五千年もの時を留まっていたが、漸く私も皆のところへ逝くことができそうだ。

 頼んだぞ、シシドジョウ。いいや今この瞬間を生きる全ての人々よ。どうか我等の繋いだ世界を、これからも――――』

 

「待ってくれ! まだお前に――――貴方には!」

 

 礼を言っていない。五千年前に世界を救い、現代までバトンを繋げたことに対して。だが丈が手を伸ばすよりも早く、神殿より赤き竜が現れ丈を呑み込んでいった。

 次に丈が目を開くと、そこには遺跡の入り口。足の骨を折ったホプキンス教授やレベッカも一緒だった。どうやら赤き竜が、遺跡の入り口へと戻してくれたらしい。

 

「シグナーの竜、か」

 

 もう一度、シグナーの化身より託された五枚のカードへ視線を落とす。

 

「重いな……」

 




 どうもARC-Vにまさかのジャックとクロウが登場するらしいですね。これは本格的にエクシーズ次元=ZEXAL、シンクロ次元=5D'sと考えた方がよくなってきました。これは融合次元の正体もガチでGXのデュエル・アカデミアが関わっている可能性もあるかもしれません。
 これまでZEXAL世界はシンクロじゃなくてエクシーズが生まれた5D'sの平行世界と思ってましたが、もしかしたら5D's(シンクロ次元)もZEXAL(エクシーズ次元)も元々は一つの世界で、なんかの事故で五つの次元に分裂してしまったのかもしれませんね。
 あとジャックとクロウが出るということは、大徳寺先生と放浪してる二十代が再登場の可能性もワンチャン……

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