宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第187話  シャドールの恐怖

バクラ LP4000 手札5枚

場 首なし騎士

伏せ 無し

魔法 死のメッセージ「E」

罠 便乗 ウィジャ盤

 

牛尾哲 LP4000 手札5枚

場 リバースモンスター(シャドール・ファルコン)

伏せ 二枚

 

 

 

「オレ様のターン、ドロー」

 

 ウィジャ盤の不気味なプレッシャーに気圧されている牛尾は無視して、バクラは冷静にフィールドと手札を交互に見ながら戦況を見極める。

 

(オレ様の読み通りなら『シャドール』は効果によって墓地に送られた時に発動する効果と、リバース効果の二つを共通して持っているカテゴリー。ってことはシャドール・ファルコンを迂闊に攻撃すれば墓穴を掘る可能性が高い)

 

 かといってリバース効果を恐れて攻撃しないのは論外だ。

 現世に復活を果たしたバクラは、牛尾の使うシャドールのようなテーマデッキと何度かデュエルをした経験があるからこそ、テーマデッキの強さを身に染みて理解している。

 カードがバトルシティ時代のものばかりのせいで火力不足の否めないバクラのデッキでは、キーカードが揃い回り始めたカテゴリーデッキを止めるのは骨が折れる作業だ。

 デッキの回転を防ぐためにも攻め手を緩めるわけにはいかない。しかし馬鹿正直に攻撃してもリバース効果を発動させてしまうだけ。

 

「ならば――――オレ様はこいつを攻撃表示で召喚するぜ。死霊騎士デスカリバー・ナイト!」

 

 

【死霊騎士デスカリバー・ナイト】

闇属性 ☆4 悪魔族

攻撃力1900

守備力1800

このカードは特殊召喚できない。

効果モンスターの効果が発動した時、

フィールド上に表側表示で存在するこのカードを生け贄に捧げなければならない。

その効果モンスターの発動と効果を無効にし、そのモンスターを破壊する。

 

 

 漆黒の巨馬に騎乗するは、翼を生やした髑髏の騎士。

 このモンスターであればシャドール・ファルコンがどのようなリバース効果をもっていたとしても突破できる。

 

「バトルだ。やれ、死霊騎士デスカリバー・ナイト! シャドール・ファルコンを切り刻め! 怨恨の斬撃!」

 

「へ、か、かかったな! シャドール・ファルコンがリバースした瞬間、効果が発動するぜ! シャドール・ファルコン以外のシャドールモンスターを裏守備表示で特殊召喚する。これで俺はステータスの高いシャドールを呼び出せるって寸法よ!」

 

 流石の牛尾もI2社の出資を受けている警備員(セキュリティ)の一員に選ばれるだけあって、いつまでもウィジャ盤に慄いているヘタレではなかった。しっかりとシャドール・ファルコンの効果を発動させる。

 しかしながら今回ばかりは相手が悪かった。

 

「フフフ、ハハハハッハハハハハハ! 無駄だ、無駄なんだよ! 死霊騎士デスカリバー・ナイトの効果発動! こいつを生け贄にすることで、貴様のモンスターの特殊能力を無効にし破壊する!」

 

「な、なんだと!?」

 

 フィールドからデスカリバー・ナイトとシャドール・ファルコンの両方が消え去る。

 効果が無効化されたため牛尾の場にシャドールが呼び出されることはなく、フィールドはがら空き。そしてバクラの場にはまだモンスターが一体残っている。

 

「ククククッ。男気の見せどころだぜぇ~。テメエも公僕ならしっかり耐えてみせな。首なし騎士の直接攻撃、奴に苦痛を与えよ」

 

 首なし騎士が牛尾の体を直接切り裂く。瞬間、牛尾の声にならない絶叫が響き渡った。

 

「――――、――――――ッ!? ……ッ! ぐぉぉ……ぁっ………がぁッ」

 

 牛尾LP4000→2550

 

 ソリッドビジョンはどれだけリアリティがあっても所詮は立体映像に過ぎない。剣で体を両断されても、実際に肉が裂けるわけではなく、あくまでリアリティを演出するためにちょっとした痛みがある程度だ。

 だというのに牛尾の全身を駆け巡った苦痛は、剣で切り裂かれた痛みそのものだった。

 

「地下デュエルの衝撃増幅装置を使ってるわけじゃねえのに…………なんなんだ、なんだんだこの痛みはぁ!? テメエ、なんかトリックを使ってんのか!?」

 

「オレ様のこれに種も仕掛けもねえよ。それと安心しな、なにもテメエだけが苦痛を受ける不平等なルールはオレ様はしてねえ。テメエがオレ様を直接攻撃すりゃ、しっかりオレ様も相応の苦痛を受ける……。これは互いの(ライフ)を奪い合うデスゲームなんだからな」

 

「い、イカれてやがる……! なんでたかがデュエルで命を奪い合わなけりゃならねえんだ。頭おかしいんじゃねえのか!?」

 

 怒鳴る牛尾をバクラは鼻で笑う。

 

「死ぬ覚悟もねえ分際でデュエルの世界に入ってくるんじゃねえ」

 

 バクラにとってのデュエルとは、古の決闘(ディアハ)と同じく殺し合いであり奪い合いそのもの。

 デュエルモンスターズをゲームとして受け止めている現代人と、戦争や財宝のためにモンスターをしもべとして従えた三千年前の人間とでは価値観の差異は大きすぎる。

 そしてこの価値観はどちらか一方が歩み寄らない限り決して埋められることはない。

 

「さて。ここでテメエのライフを0まで削ってゲームセットとしておきたいところだが、オレ様にはもう攻撃可能なモンスターはいねえ。メインフェイズ2に移行、永続魔法『凡骨の意地』を発動しターンエンドだ」

 

 

【凡骨の意地】

永続魔法カード

ドローフェイズにドローしたカードが通常モンスターだった場合、

そのカードを相手に見せる事で、自分はカードをもう1枚ドローする事ができる。

 

 

 ウィジャ盤は相手ターンのエンドフェイズ時のみ新しい死のメッセージを告げる。よってバクラのエンドフェイズに新しいメッセージが現れることはなかった。そしてターンは牛尾へと移る。

 人間とは奇妙なもので、キャパシティを超える恐怖や情報を一気に頭に流し込まれると逆に冷静になるものであるらしい。先程まで軽くパニック状態だった牛尾は、一周してデュエルをするための思考能力を取り戻していた。もっとも過去のトラウマを思い出し、現在の闇のゲームという事実から必死に逃避しているだけかもしれないが。

 

「とにかく要は勝てばいいんだ、勝てば。そのウィジャ盤だって、よくよく考えりゃ死のメッセージが揃う前にウィジャ盤を破壊しちまえばいいんじゃねえか……! やってやる。俺のターンだ、ドロー!

 マスマティシャンを召喚! マスマティシャンが召喚された時、デッキからレベル4以下のモンスターを墓地へ送ることができる。俺はシャドール・リザードを墓地へ送る。

 墓地へ送られたことでシャドール・リザードの効果発動。デッキからシャドールモンスターを墓地へ送る。俺はシャドール・ビーストを墓地へ送るぜ。シャドール・ビーストの効果で一枚ドロー!」

 

「おっと、それに『便乗』させてもらうぜ。オレ様もカードを二枚ドローだ」

 

 

【マスマティシャン】

地属性 ☆3 魔法使い族

攻撃力1500

守備力500

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。

デッキからレベル4以下のモンスター1体を墓地へ送る。

(2):このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。

自分はデッキから1枚ドローする。

 

 

 マスマティシャンが優秀な下級モンスターということもあるが、一体モンスターを召喚するだけで牛尾のデッキは休みなく稼働する。

 I2社が開発し警備員(セキュリティ)用に先行配備させたシャドール。その驚くべき強さを、バクラはターン毎に思い知っていっていた。

 

「よし。デスゲームだかなんだか知らんが、これで俺の勝利だ! お待ちかねの魔法発動だ、影依融合(シャドール・フュージョン)

 こいつはシャドールモンスター専用の融合魔法だ。シャドール融合モンスターによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、シャドールモンスターを融合召喚する!」

 

 

【影依融合】

通常魔法カード

「影依融合」は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分の手札・フィールドから

「シャドール」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、

その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

エクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが相手フィールドに存在する場合、

自分のデッキのモンスターも融合素材とする事ができる。

 

 

 影依融合には他に相手フィールドにエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターがいる場合、自分のデッキのモンスターすら融合素材とする恐るべき効果がある。

 だがバクラの場には通常モンスターである首なし騎士しかいないので、そちらの効果はここでは意味がなかった。

 

「ライトロード・ハンター ライコウとシャドール・ドラゴンを融合素材として墓地へ送る。地獄みやげに拝んでおけよ、雨のしずくか血か汗か。融合召喚! 出あえ、エルシャドール・ネフィリム!!」

 

 

【エルシャドール・ネフィリム】

光属性 ☆8 天使族

攻撃力2800

守備力2500

「シャドール」モンスター+光属性モンスター

このカードは融合召喚でのみエクストラデッキから特殊召喚できる。

(1):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。

デッキから「シャドール」カード1枚を墓地へ送る。

(2):このカードが特殊召喚されたモンスターと

戦闘を行うダメージステップ開始時に発動する。

そのモンスターを破壊する。

(3):このカードが墓地へ送られた場合、

自分の墓地の「シャドール」魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。

そのカードを手札に加える。

 

 影糸を繰ぐる者が、空より落ちてくる。

 山よりも巨大な人形からは糸が伸び、果たしてそれがどこへ繋がっているのかは三千年の時を彷徨ったバクラにも分からない。神の血を受けながら、神を侮辱する背徳のオブジェ。

 これこそがシャドールの切り札だ。

 

「遂に出やがったか、シャドールの融合モンスター」

 

「まずはシャドール・ドラゴンの効果でウィジャ盤を破壊だ。さらにシャドール・ネフィリムが特殊召喚に成功した場合、デッキからシャドールモンスターを墓地へ送る。シャドール・ファルコンを墓地へ送り、墓地よりファルコンを裏守備表示で特殊召喚。

 バトルだ! マスマティシャンで首なし騎士を攻撃、この俺に切りかかった御礼参りだ!」

 

「……!」

 

 バクラLP4000→3950

 

 たかが50のダメージであるが、闇のゲーム故に弾丸で掌を撃ち抜かれたのと同程度の苦痛がバクラを襲った。

 

「続いてエルシャドール・ネフィリムの直接攻撃を喰らいなぁ! シャドール・ネフィリア!!」

 

「させねぇよ! 永続罠発動。現れろ、 死霊ゾーマ!」

 

 

【死霊ゾーマ】

永続罠カード

このカードは発動後モンスターカード

(アンデット族・闇・星4・攻1800/守500)となり、

自分のモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。

このカードが戦闘によって破壊された時、

このカードを破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

(このカードは罠カードとしても扱う)

 

 

 死霊ゾーマは発動した瞬間にモンスターカードとなるトラップモンスター。よって死霊ゾーマがバクラのフィールドに特殊召喚された。

 場にモンスターが増えたことにより、バトルの巻き戻しが発生する。

 

「死霊ゾーマは戦闘で破壊されても、怨念となって破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える死霊モンスター。クククククッ、ダメージ承知で攻撃してくるかい?」

 

「はっ! そんな手じゃ俺の権力には勝てねえ! シャドール・ネフィリムは特殊召喚されたモンスターと戦闘を行う場合、ダメージステップ開始時に戦闘するモンスターを破壊する効果を持ってるんだよ!」

 

「なに!?」

 

「消えっちまえな、ゾーマ!」

 

 バトルを行う必要はあるが、シャドール・ネフィリムの破壊は戦闘破壊ではなく効果破壊。効果破壊では死霊ゾーマの特殊能力が発動することはない。

 死霊ゾーマがネフィリムの光によって強制的に浄化され消滅する。幸いゾーマは守備表示だったのでバクラにダメージはなかった。

 

「逃がしはしないぜ。速攻魔法、神の写し身との接触! 手札・フィールドから融合素材モンスターを墓地へ送り、シャドールの融合モンスターを融合召喚する」

 

「……成程。速攻魔法の専用融合カードもあるとはな。つくづく鬱陶しいカテゴリーだぜ」

 

「手札の終末の騎士とシャドール・ヘッジホッグを融合。今が盛りの菊よりも、綺麗に咲かせる男意地! 融合召喚! 出あえ、エルシャドール・ミドラージュ!」

 

 

【エルシャドール・ミドラージュ】

闇属性 ☆5 魔法使い族

攻撃力2200

守備力800

「シャドール」モンスター+闇属性モンスター

このカードは融合召喚でのみエクストラデッキから特殊召喚できる。

(1):このカードは相手の効果では破壊されない。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、

その間はお互いに1ターンに1度しかモンスターを特殊召喚できない。

(3):このカードが墓地へ送られた場合、

自分の墓地の「シャドール」魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。

そのカードを手札に加える。

 

【シャドール・ヘッジホッグ】

闇属性 ☆3 魔法使い族

攻撃力800

守備力200

「シャドール・ヘッジホッグ」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードがリバースした場合に発動できる。

デッキから「シャドール」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

(2):このカードが効果で墓地へ送られた場合に発動できる。

デッキから「シャドール・ヘッジホッグ」以外の「シャドール」モンスター1体を手札に加える。

 

【神の写し身との接触】

速攻魔法カード

「神の写し身との接触」は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分の手札・フィールドから、

「シャドール」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、

その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

 

 

 新たに現れたエルシャドールは、人形のドラゴンに乗った少女のモンスターだった。

 人形が本体なのか、少女が本体なのかはいまいち定かではないが、そんなことはどちらでも良いことである。問題なのは新たなエルシャドールの能力だ。

 

「シャドール・ヘッジホッグが墓地へ送られたことで、俺はデッキからシャドール・ビーストを手札に加えるぜ。エルシャドール・ミドラージュが場に存在する限り、互いにモンスターの特殊召喚は1ターンに1度に制限され、しかもこいつは効果では破壊されない。

 さらにさらにぃ~。これはバトルフェイズ中の融合召喚。よってエルシャドール・ミドラージュは攻撃が可能だ! さっきのお返しだ。エルシャドール・ミドラージュで直接攻撃、常夜のシャドール・バースト!」

 

「――――、――――!」

 

 バクラLP3950→1750

 

 上級モンスターの直接攻撃で、バクラのライフが一気に半分以下まで削られた。

 闇のゲームの掟通り首なし騎士の直接攻撃の比ではない苦痛がバクラを襲うが、バクラは眉を少し動かしただけでこれに耐える。

 

「はははははははは! 頼りのウィジャ盤は消滅、俺の場にはエルシャドール・ミドラージュとエルシャドール・ネフィリム。お前の勝ち目はゼロだ!

 バトルフェイズ終了後、リバースカードを一枚セット。ターンエンドだ。くくくっ、次の俺のターンで今度こそお前のライフを消し飛ばしてやるぜ」

 




 今日の最強カードというか功労賞は間違いなく『便乗』です。

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