宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第195話  裏切りの機光竜

カイザー亮  LP1900 手札0枚

場 サイバー・ダーク・ドラゴン

伏せ 二枚

 

エド・フェニックス LP1550 手札0枚

場 無し

伏せ 一枚

 

 

 物語には多くの作品で使われる常套句のようなものがある。

 復讐なんて死んだ人は望んでいない、人を殺して幸せになれるはずがない、真実を知りたいなどなど。その手の台詞は幾つもあるだろう。

 そして〝運命は変えられる〟という言葉も多くの物語で見かけることのある常套句の一つだ。

 しかし多くの人間が多用するものが必ずしも真実とは限らないし、多くの人間が支持するものが正解とは限らない。

 遥か昔は大勢の人間が世界は水平であると信じていたし、自分の立つ大地は不動のまま星々だけが動いていると信じていた。

 運命は変えられるというが、本当のところは果たしてどうなのだろうか。

 変えられるのか、それとも変えられないのか。もし変えることが出来たとして、変えられた運命はもはや運命とは言えないのではないか。そういった疑問も出てくる。

 だがこの時、カイザー亮とエド・フェニックスとのデュエルにおいてそういったまどろっこしいことを考える必要はない。エド・フェニックスがこのターンに逆転するという運命は覆らないのだから。

 

「僕のターン……このターン、僕は死者への供物のエフェクトによりドローフェイズをスキップされる。だがドローはさせて貰う」

 

「なに?」

 

「僕は前のターンでダイヤモンドガイが定めた〝運命〟を行使する! 僕はダイヤモンドガイの効果で墓地へ送られた魔法カード『終わりの始まり』のエフェクトを発動!!」

 

「墓地から魔法だと!? だが終わりの始まりを発動するには闇属性モンスターが七体墓地にいることが条件のはずだ!」

 

「ダイヤモンドガイの効果で墓地へ送られた魔法効果の発動に制約やコストは不要。どのようなカードでもコストを踏み倒して発動することができる」

 

「馬鹿な……」

 

 亮とて阿呆ではない。ダイヤモンドガイのモンスター効果が単に通常魔法を墓地へ送るだけでないことくらいは予想していた。

 しかし墓地へ送った通常魔法を、コストを踏み倒して発動するというのは、流石の亮にも想定外だった。運命の鎖に首が絞めつけられていく感覚に亮は冷や汗を流す。

 

「終わりの始まりのエフェクトにより僕はカードを三枚ドロー。そして魔法カード、デステニー・ドローを発動! 手札のD-HEROを一枚捨てることでカードを二枚ドローする。僕はD-HEROディアボリックガイをセメタリーへ捨て二枚ドロー!

 更に僕はおろかな埋葬のエフェクトを発動し、デッキよりD-HEROディスクガイを墓地へ送る。リバースカードオープン! リビングデッドの呼び声! 僕のセメタリーに眠るモンスターを攻撃表示で復活させる。僕はディスクガイを蘇生!

 ディスクガイのエフェクト発動! ディスクガイが墓地からの特殊召喚に成功した時、僕はカードを二枚ドローする!」

 

「なんという凄まじいドローを……」

 

 

【D-HERO ディスクガイ】

闇属性 ☆1 戦士族

攻撃力200

守備力200

このカードが墓地からの特殊召喚に成功した時、

自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

【D-HERO ディアボリックガイ】

闇属性 ☆6 戦士族

攻撃力800

守備力800

自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。

自分のデッキから「D-HERO ディアボリックガイ」1体を

自分フィールド上に特殊召喚する。

 

 

 ドローフェイズをスキップしておきながら、これでエドは七枚のカードを一気にドローした計算となる。手札の数が勝敗を左右するといっても過言ではないデュエルモンスターズにおいて、ここまでのドローは驚異的と言う他ない。

 そしてエド・フェニックスほどのプロデュエリストが七枚ものドローを行ったのである。逆転のカードを引き当てるのも必然だ。

 

「さて、カイザー亮。D-HEROの真の恐ろしさたっぷり味わえ。D-HEROデビルガイを攻撃表示で召喚する!」

 

 

【D-HERO デビルガイ】

闇属性 ☆3 戦士族

攻撃力600

守備力800

このカードが自分フィールド上に表側攻撃表示で存在する場合、

1ターンに1度だけ相手モンスター1体をゲームから除外する事ができる。

この効果を使用したプレイヤーはこのターン戦闘を行えない。

この効果によって除外したモンスターは、

2回目の自分のスタンバイフェイズ時に同じ表示形式で相手フィールド上に戻る。

 

 

 悪魔を模した衣装に白貌。悪魔(デビル)としか言いようがない不気味なHEROが新たに出現する。

 ステータスはそう高くはないが、サイバー・ダークのように低いからこそ強力な効果をもっている可能性が高い。

 そんな亮の考えを裏付けるようにエド・フェニックスが自らのしもべの効果を発動させる。

 

「デビルガイのモンスターエフェクト! 1ターンに1度、相手モンスターを2ターン後のスタンバイフェイズまでゲームより除外する!」

 

「ダイヤモンドガイは未来の運命を確定させ、デビルガイはモンスターを未来へ飛ばす。D-HEROは時間を操るとでも言うのか?」

 

「その通りだ! 僕はサイバー・ダーク・ドラゴンをゲームより除外する!」

 

「くっ……!」

 

 サイバー流裏デッキの象徴も除外にはなんの抵抗力も持っていなかった。しかも悪いことに装備カードを喪失したサイバー・ダークは攻撃力1000のモンスターに過ぎない。例え2ターン後に戻ってきたとしても大した力にはならないだろう。

 

「このまま攻撃といきたいところだが、デビルガイのエフェクトを発動したターン、僕はバトルを行うことが出来ない。しかし駄目押しはさせて貰おうか。

 墓地のD-HEROディアボリックガイをゲームより除外。その効果により二体目のディアボリックガイをデッキより特殊召喚する!

 魅せてやるカイザー。これがHEROデッキの切り札だ。このカードはD-HEROを含めた三体のモンスターを生け贄とすることで特殊召喚することが出来る。僕は三体のD-HEROを生け贄とする!」

 

『D-HEROが三体……。来るぞ、カイザー!』

 

 実況が青褪めた声で言う。

 三体のモンスターを生け贄に召喚されるモンスターといえば、まず真っ先に思い浮かぶのは三幻神と三邪神。そして次にバルバロスやギルフォード・ザ・ライトニング、あの幻魔の一体であるラビエルなど。

 謂わば三体の生け贄とは強力なモンスターを呼び出すための通過儀礼のようなものだ。

 神と似通った召喚方法で呼び出されるHEROは、真実D-HEROの切り札である。

 

「現れろ! D-HEROドグマガイ!!」

 

 

【D-HERO ドグマガイ】

闇属性 ☆8 戦士族

攻撃力3400

守備力2400

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上の「D-HERO」と名のついたモンスターを含む

モンスター3体を生け贄にした場合のみ特殊召喚できる。

この方法で特殊召喚に成功した次の相手のスタンバイフェイズ時、

相手ライフを半分にする。

 

 

 悪魔の翼を生やした漆黒のD。Dの〝教義〟によって世界にただ一つの真実を示すHEROがフィールドに顕現する。

 ダイヤモンドガイやデビルガイとは比べものにならないプレッシャーに、亮はこのカードをエドが頼りにしていることに納得を覚えた。

 

「僕はターンエンドだ」

 

「……俺のターン、ドロー!」

 

「このスタンバイフェイズにドグマガイのエフェクト発動。相手ライフを半分にする!」

 

「!」

 

 丸藤亮LP1900→950

 

 ダイヤモンドガイにデビルガイに続いて、ライフを半分にするというドグマガイ。D-HEROの能力はこれまでのHEROとは一味違う。

 亮にとって幸いだったのはライフが1900で、ライフ半減の被害が少なかったことだろう。こんなものを序盤で使われては溜まらない。

 

「だが! 如何にお前のHEROが強くとも俺のサイバー・ドラゴンは更にその先をゆく!! 墓地のサイバー・ドラゴン・コアをゲームより除外、デッキよりサイバー・ドラゴンを特殊召喚!

 魔法カード、死者蘇生! お前の墓地よりD-HEROディスクガイを蘇生する! ディスクガイのドロー効果は、このカードを蘇生したプレイヤーに作用する。よって俺はカードを二枚ドロー!」

 

「僕のD-HEROを使って手札を増やした。やるじゃないか、カイザー。だが判断をミスしたんじゃないかな? ディスクガイではなくデビルガイを蘇生していれば、ドグマガイを2ターン先の未来へ飛ばすことができていたというのに」」

 

「俺はこれまでサイバー・ドラゴンと共に生きてきた。勝利も敗北も――――俺はサイバー・ドラゴンと共にある! 俺はカードを二枚ドロー!」

 

 敵のカードではなく自分のカードを信じて、丸藤亮は二枚のカードをドローする。

 そしてドローしたカードを見た途端、亮の目が大きく見開かれた。

 

(…………この、カードは…………)

 

 亮が信じた最強の融合カードであるパワーボンド、なによりも頼りにしたサイバー・ドラゴン、渇望したサイバー・ダーク。ドローしたカードはそのどれでもなかった。

 ドローしたのは二枚とも全て罠カード。それもサイバー流とはなんの関係もないカードだった。

 

(オレを、見放したと言うのか…………サイバー・ドラゴンが……)

 

「どうしたカイザー? なにを固まっている」

 

「………………俺はリバースを一枚伏せる。ターン終了だ」

 

「僕のターン、サイクロンを発動! 右のリバースカードを破壊する」

 

 サイクロンが破壊したカードはマジックシリンダー。

 この発動が成功していれば一発逆転も出来たトラップであるが、サイクロンによってあっさり逆転の目は塞がれた。

 これでもうカイザー亮に逆転の目は何一つとして残されてはいない。

 

「僕はメインフェイズを終了し――――」

 

「罠発動、威嚇する咆哮。これでお前のバトルフェイズは……」

 

「カウンター罠、神の宣告。ライフを半分支払いそれを無効にする」

 

 エドLP1550→775

 

「…………」

 

「もう終わりだ! ドグマガイでサイバー・ドラゴンを攻撃! デス・クロニクル!!」

 

「俺は……俺はッ! リバースカードオープン、破壊指輪! 俺はサイバー・ドラゴンを破壊し、互いのライフへ1000ポイントのダメージを与える!!」

 

「なんだと!?」

 

「サイバー・ドラゴンよ。お前が俺を見捨てるというのならばそれでいい。だが俺と運命は共にしてもらうぞ」

 

 破壊の指輪がサイバー・ドラゴンを破壊し、その残骸は咎めるように亮の体へと降り注ぐ。

 熾烈な戦いの果ての引き分けに盛り上がる会場とは裏腹に、丸藤亮の心はただただ冷え切っていた。

 


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