宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第2話   初戦闘は未来のカイザーナリよ

 デッキの構築。

 子供から大人まで。爺さんだろうと婆さんだろうと、デュエリストになるのなら必ず通らなければならない道、それがデッキの構築である。

 幾ら優れた才能をもっていてもデッキがなければデュエルは出来ない。当たり前のことだが真理でもある。キング・オブ・デュエリストもデッキがなければただの人だ。

 

「やっぱりテーマ的に最上級モンスターを入れたいよな」

 

 デッキは個性を映す鏡。ガチガチのガチデッキが当たり前だった前の世界はまだしも、この世界だと真実デッキはその人間の個性というものを現す。吸血鬼なら吸血鬼をイメージするようなデッキに、漁師なら水属性デッキに、といった具合で。

 遊戯王お馴染みの奇抜な髪形とは無縁で普通な現実からの転生者である丈だが、一応デッキを作る上でのコダワリというやつがある。

 それが最上級モンスターを出来る限り多く採用したい、というものだ。

 今に至るまで安く構築できる低ステータスモンスター主体のデッキで戦い続けてきたせいで飽きたからというのもあるが、それ以上に意地のようなものが丈にはある。

 元の世界ではシンクロモンスターの登場によるエクストラデッキ(この世界では融合デッキ)の実質的手札化によって、手札事故原因ともなる上級モンスターや最上級モンスターは帝などの一部を除き採用率が激減してしまった。丈自身、友人との遊びは兎も角として公式大会などに出る時は最上級モンスターなどを抜いて、剣闘獣を始めシンクロ・エクシーズなどが主体のデッキを使っていた。

 それでもシンクロやエクシーズに頼らなくても済む剣闘獣デッキを多用していたのはもはや意地だろう。といっても死者蘇生で相手のチューナーモンスターを奪えたりするので、結局はシンクロモンスターをエクストラデッキには入れていたのだが。

 それはそれとして、デッキ構築だ。

 最上級モンスターを入れようにも、どうしたって二体もの生贄が必要な最上級モンスターは重い。一体の生贄で済む帝やサイコショッカーはまだしも、バルバロスなんて入れれば途端にデッキが鈍重になり上手く回せなくなる。

 三体の生贄が必要な神のカードを三枚入れている上にブラック・マジシャンなどの最上級モンスターを入れて平然と回していた王様は化け物だと最近分かってきた。流石元祖遊戯王。三千年のベテランは格が違う。

 もし自分なら超重量級な闇遊戯デッキを確実に回せたりしないだろう。運よく回せても十回に一度が精々だ。

 

(最上級モンスターは出せば強いけど出すまでが難しいからな。よしんば出せても聖バリとかで破壊されたり、次元幽閉で除外されたら生贄分完全に大損だし。ううむ……)

 

 何か良いカードはないだろうか。

 丈はそうブツブツと呟きながら長年パックをちょくちょく買い続けた事で溜まったカードの束の中を探す。

 十分が経過し諦めかけたその時、丈の視線はあるカードに釘づけとなった。

 

「こ、これだァ!」

 

 そのカードを拾い上げると、つい大声を出してしまう。だが、それほどこのカードとの出会いは運命的だったのだ。

 

(これなら結構面白そうなデッキが作れるかも。だけど……それを作るには今あるカードだけじゃ足りないな)

 

 欲しいカードが現在手元にない。だけどパックを悠長に買って当たるのを待つのは面倒臭い。

 そんな状況でデュエリストが頼る場所は一つ。そうカードショップだ。

 

 

 

 

「ありがとうございましたーっ!」

 

 ほくほく顔で丈はショップから出る。

 お目当てのカードは全部手に入った。幸いばら売りされていたカードが大半だったので出費も少なくて済んだ。

 ちなみにカードショップなのだが、シンクロモンスターやエクシーズは全くなかった。ネットやTVからの情報だと、今の時系列は初代とGXの中間あたりなので当たり前といえば当たり前だが、5D's放送後に出たシンクロやエクシーズと関係ないカードは幾つかあったので、現実とは多少カードプールが異なるらしい。

 新しいカードを手に入れ、新しいデッキが完成したとなると次はデュエルでその力を試したくなる。前の世界だったら寂しく一人でデュエルするか、大会にでも出るか、友人を呼ぶかしかなかったが、この世界ではそうではない。

 道行くデュエルディスクを腕につけてる人に「おい、デュエルしろよ」と声を掛ければ大抵の人は「いいぜ! デュエルだ!」みたいなノリになってくれる。

 この世界では腕にデュエルディスクをつけていることは、いつでも戦うぜみたいな合図らしい。

 

(誰にしようかなぁ)

 

 流石にゴッツイおっさんとか盆栽やってそうな爺さんとかは遠慮したい。

 相手が年上過ぎても遠慮してしまうし、小さすぎても遠慮するので出来る限り同年代がいいだろう。近くの公園のベンチに座りながら適当な対戦相手を探していると、丁度見た目同じ年齢くらいの少年が通りかかった。しかも腕にはデュエルディスク。髪形は……多少純黒髪ではないが、そこまで奇抜でもない。これ以上相手を探すのも面倒なので、彼にデュエルを申し込むとしよう。

 

「ちょっといいですか」

 

「はい?」

 

 少年A(仮)が呼び止められて振り返る。

 適当に選んだつもりだったが、結構な美少年だ。丈も一応父親がホスト顔のイケメン(ただしDQN)なのでそこそこルックスには自信はあるが、この少年Aは将来女泣かせになること間違いなしなジャニーズ系のイケメンだった。正直、TVの向こうでダンスを踊っていてもなんら違和感を感じないだろう。

 それでもルックスとデュエルタクティクスは関係ない。たぶん。

 相手が未来のイケメンだろうと、デュエルを申し込むだけだ。

 

「実は新しいデッキが完成したんで、時間がよければデュエルの相手になってくれませんか」

 

「俺と? ああ構わない。俺も丁度、デュエルをしたいと思っていた所だ。それと見たところ年もそう変わらなそうだし、畏まる必要はない」

 

「それじゃ、宜しく」

 

 こうして簡単に見知らぬ人とデュエル出来るのはこの世界の良い事だ。

 互いにデュエルディスクを構え、一定位置まで下がる。ソリッドビジョンを使う以上、元の世界のようにテーブルに座って向き直って……といった風にはいかない。

 

「……珍しいな。そんな懐かしいデュエルディスクを使ってるなんて」

 

 少年Aが丈の持ってるデュエルディスクを見てそう言う。

 丈の持ってるデュエルディスクは今一般的に使用されているものではなく、バトルシティートーナメントで使われていたデュエルディスクを現代用に調整したものだ。

 最新型のデュエルディスクがKCから発売されて以降、そちらを使うデュエリストが増え始め今では殆どのデュエリストが最新型を使っているが、原作ファンの丈としては遊戯や社長の使っていたこのタイプが一番馴染み深くデザインも好きなのでこちらを使っているのだ。

 

「よく言われるよ。だけどデッキまで古くはないぞ」

 

「フ、お互いに悔いの残らないよう良いデュエルをしよう」

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 同時に二人が叫ぶと、デュエルディスクがガチャッと起動しデュエルモードへなる。

 新デッキの初陣だ。出来るのなら勝利を掴みたい。

 

「先行後攻は?」

 

 少年Aに尋ねる。

 デュエルを申し込んだ手前、もし少年Aが先行を求めたのなら素直にそれを認めようと思っていたのだが、少年Aの返答は意外なものだった。

 

「先行は譲ろう。俺は後攻でいい」

 

「いいんですか?」

 

「ああ」

 

 どうやら少年Aは本当に後攻を求めているようだ。

 基本的にデュエルモンスターズは先行が有利である。

 デュエルというのは互いのデュエリストがモンスター、魔法、罠を駆使して時に頭脳で時に戦略でしのぎを削る戦場だ。最終戦争や混沌帝龍の効果でも発動しない限り、基本的にフィールドにはなにかしらモンスターないしリバースカードがあるものである。

 しかし先行一ターン目はそれがない。フィールドは完全なるがら空きであり、唯一懸念するべきものは相手の手札だけだ。

 後攻ワンキルよりも先行ワンキルの方が凶悪とされる理由もそれで、後攻ワンキルなら伏せカードやモンスター効果で防ぎきることも可能だが、先行ワンキルの場合、防ぐ方法が手札のモンスター効果を使うしかない。だが手札から効果を発動出来るモンスターは絶対数が限られている上、必ずしも初期手札の五枚にあるとは限らないので幾ら対策をしようと先行ワンキルが極悪なことには変わりないだろう。

 そのアドバンテージを自分から捨てる。

 考えられる可能性は三つ。

 一つ、こちらを舐めている。

 しかしこれはどうも違いそうだ。対峙する少年Aはこちらに真摯な目を向けており、いきなりデュエルを申し込んだ丈への態度も礼儀正しかった。とてもじゃないがこちらを馬鹿にしているとは思えない。

 二つ目、遠慮した。

 これは有り得るかもしれない。あの少年Aが新しいデッキを作ったばかりという自分に遠慮して、敢えて先行を譲ろうとしているとすれば辻褄も通る。

 そして三つ目。

 少年Aのデッキが先行よりも後攻の方が有利となる場合。

 

「………………」

 

 もしもそうならば油断は禁物だ。

 相手が自分と同年代で前世も合わせれば年下だからといって舐めてかかってはいけない。この世界の子供は強いのだ。

 

「――――よし」

 

 先行を譲ってくれるというのだ。

 ここは有り難く貰っておくとしよう。少年Aのデッキがどうだか知らないが、自分のデッキはスタンダードに先行の方が有利だ。

 

「お言葉に甘えて俺の先行。カードドロー!」

 

 初期手札の六枚を見る。

 残念ながらこのデッキを回すためのキーカードはない。ここはベターにいくしかないだろう。

 

「俺は神獣王バルバロスを攻撃表示で召喚!」

 

 馬の下半身に人間の上半身、そしてライオンの顔。

 従属神の一体にして恐るべき効果をもつ丈のデッキでもトップクラスに強力な最上級モンスターが呼び出される。

 

 

【神獣王バルバロス】

地属性 ☆8 獣戦士族

攻撃力3000

守備力1200

このカードは生贄なしで通常召喚する事ができる。

この方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。

また、このカードはモンスター3体を生贄して召喚する事ができる。

この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

 

 

「レベル8のモンスターを生贄なしで通常召喚しただと!」

 

「バルバロスの効果だ。このモンスターは生贄なしで召喚できる。ただしこの効果で召喚した場合、攻撃力が1900になってしまうけどな」

 

 生贄なしで攻撃力3000なんていうモンスターだったら、強力過ぎるので妥当といえば妥当だろう。もし3000のままで通常召喚できてデメリット無しという効果だったら、ジェネティック・ワーウルフどころではない超インフレだ。

 

「他にもそいつには……三体を生贄することで発動できる特殊能力があったな」

 

 脳の奥にある記憶を引っ張り出す様に、少年Aが尋ねてくる。

 

「ああ、三体を生贄にする召喚に成功した時、相手フィールドを全滅させる効果がある。といっても先行ワンターン目でそんな効果を使用しても意味ないし、生贄要因も確保できてないけどな。俺はリバースカードを一枚セットしてターン終了」

 

「お前が妥協召喚とはいえ最上級モンスターを呼び出したのなら、俺もそれに答えるとしよう。相手のフィールドにのみモンスターがいる時、このモンスターは手札から特殊召喚する事が出来る。出でよ、サイバー・ドラゴン! 攻撃表示!」

 

 ブルーアイズやレッドアイズとは異なる、全身を機械によって創られた機械仕掛けのドラゴン。だがその瞳から発せられる威圧は本物のドラゴンに決して劣らない。対戦相手を飲み込むようなオーラをこのモンスターは持っていた。

 

 

【サイバー・ドラゴン】

光属性 ☆5 機械族

攻撃力2100

守備力1600

相手フィールド上にモンスターが存在し、

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、

このカードは手札から特殊召喚できる。

 

 

(…………あれ? サイバー・ドラゴン?)

 

 相手フィールドにモンスターがいれば、生贄や通常召喚権を行使することなくフィールドに出せるサイバー・ドラゴンは非常に優秀なカードだ。出してアタッカーにするも良し。生贄として上級モンスターへ繋げるのも良し融合するのも良しと三拍子が揃っており、元の世界でも数少ない多くのデッキで採用される上級モンスターだ。もし少年Aがサイバー・ドラゴンを主体としたデッキを使うというのなら、後攻を求めた理由も分かる。効果の性質からいって後攻の方がサイバー・ドラゴンの効果を活かせる可能性が高いからだ。

 しかしこの世界ではかなり希少なカードであるサイバー・ドラゴン。ブルーアイズのように四枚しか世界に存在しないだとか、世界に一枚というほどではないが余り持っている人間は少なかった筈。しかもそれを主体としている人間といえば、

 

(え? まさか、ええっ!?)

 

 そういえば子供同士の野良試合だというのにやたらとギャラリーが集まってきている。そして口ぐちに「あのサイバー流後継者とデュエル」「なんて命知らずな」「りょうさま、かっこいー!」とかいう声があちこちから聞こえてきた。

 恐る恐るといった様子で丈は少年Aに聞く。

 

「あのぉ」

 

「なんだ?」

 

「名前、なんていうの? ちなみに俺は宍戸丈ナリよ」 

 

「ナリ?…………俺は―――――丸藤亮だ」

 

 落ち着きたいのに落ち着けない。

 気軽な初陣の対戦者として選んだ名も知らない少年Aは未来のカイザーだった。これなんて無理ゲー。


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