「ここに来るのも三年目になると感慨深いな」
購買に着くや否や亮がそんな風に呟く。
亮のそんな言葉には丈も共感できる。アカデミアの購買部、ここには昼食から新パックなどで毎度毎度世話になった。
慣れ親しんだこの場所も後一年間しか来ることが無いと思うと寂しくもあった。
いつものように適当なパックを選ぶと代金を渡す。
財布に100円硬貨と五十円硬貨が一枚ずつあるとついパックを買ってしまうのはデュエリストの悪癖の一つかもしれない。
そんな事をぼんやりと思いながら、丈はビリビリとパックを破った。
「……良いカード、当たったか?」
「ううん、どうだろ」
見た限り大したカードはなさそうだ。
コケ、メカ・ハンター、自律行動ユニット、レスキューキャット。
余りこれといったカードはない。レスキューキャットは前世で禁止カードに名を連ねたほどのカードであるが、このカードが禁止になった背景にはシンクロ召喚の存在がある。
シンクロモンスターとシンクロ召喚の概念が存在しないこの世界では、レスキューキャットはそこまで強力なモンスターではない。
ましてや丈のデッキには獣族モンスターは殆ど入っていないので入れる価値はないといえるだろう。
自律行動ユニットは相手モンスターを特殊召喚できるという意味ではそこそこの応用性があるものの、ライフ4000では1500のライフコストはデカすぎる。コケはただのバニラでメカ・ハンターも同じ。メカ・ハンターは攻撃力がそこそこ強いので機械族では採用できる可能性もあるが、生憎と丈のデッキは機械族ではない。機械族モンスターを主力とするのは亮のデッキだ。
「おい丈。一枚重なってるようだぞ」
「え? 本当だ」
一番後ろにあるカードがレスキューキャットと重なっていた。流石レスキューキャット。カードを呼び出すことに定評がある。
「ん?…………って、おぉッ!」
レスキューキャットの裏側に張り付いていたカードに視線が釘付けになる。キラキラと綺麗に光る絵柄。金色に輝くカード名。
間違いなくウルトラレア。しかもそのカードはサイバー流と深くかかわるモンスターの一枚だった。そう、漫画版において丸藤亮が操ったエースモンスター。
「さ、サイバー・エルタニン……おいおいマジかよ」
「サイバー・エルタニンだと!?」
【サイバー・エルタニン】
光属性 ☆10 機械族
攻撃力?
守備力?
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上及び自分の墓地に存在する
機械族・光属性モンスターを全てゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。
このカードの攻撃力・守備力は、このカードの特殊召喚時に
ゲームから除外したモンスターの数×500ポイントになる。
このカードが特殊召喚に成功した時、
このカード以外のフィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て墓地へ送る。
反応からすると亮もこのカードは持っていなかったのだろう。丈自身、亮がこのカードを所持しているのを見た試がなかった。
サイバー・エンド・ドラゴンやサイバー・ツイン・ドラゴンと違い融合体ではないものの、その効果は強力無比にしてハイリスク。"サイバー"と名がついているものの、入れようと思えばサイバー・ドラゴンデッキ以外にも投入できる光属性機械族の最上級モンスター。
そのレベルはサイバー・エンドと同じ10。そういう意味でもこのカードは漫画版カイザー亮のエースというべきものでもある。
そんなカードをまさか自分が引き当ててしまうとは。
(どうしよう、これ?)
サイバー・エルタニンは強力なカードだ。
墓地アドの大半を失う羽目になるとはいえ、出ればフィールド上のこのカード以外の表側表示モンスターを全て墓地に送るという強力な効果をもっている。
例え相手フィールド上に強力なモンスターが並ぼうと、墓地さえ十分に肥えていればたった一枚で形勢を引っ繰り返せるカード。それがこのサイバー・エルタニンなのだ。
しかしながらサイバー・エルタニンを投入するとなると、必然的に光属性機械族を中心としたデッキを組む必要がある。そうでないデッキに入れた所でサイバー・エルタニンはその力の半分も発揮できない。デュエルモンスターズの強力なカードにも単体で強いものと専用デッキを組んでこそ強くなるものとの二種類があるのだ。
丈のデッキでサイバー・エルタニンを組み込もうとすれば、アニメオリジナルカードである輪廻独断で無理矢理墓地のモンスターを機械族にでも変えるしかない。
(むぅ)
チラリと横にいる亮を見やる。
亮は食い入るようにサイバー・エルタニンのカードを見つめていて「このカードが欲しい」と顔に書いてあるようだった。
サイバー流の使い手である亮からしたら、このカードはのどから手が出る程に欲しいカードの一つなのだろう。
光属性機械族を中心とした亮のサイバー流デッキなら、サイバー・エルタニンのカードも違和感なく組み込める筈だ。
(良し!)
自分が持っていても仕方ない。
このカードも自分を使わないデュエリストの下にいるよりも、自分を思う存分使ってくれるデュエリストの所にいた方が幸せだろう。
「亮、このカードいるか?」
「いいのかっ!」
物凄い勢いで亮が迫ってきた。
余程サイバー・エルタニンが欲しかったのだろう。そんな友人の様子を多少可笑しく思いながらも丈は力強く頷いた。
「俺には使えないしな。ただし何か良いカードトレードしてくれよ?」
幾ら亮が友人とはいえ、折角手に入ったウルトラレアカードを無料でポイッとあげてしまえるほど丈は太っ腹ではない。
このカードが亮の所に行くのはノープロブレムだが、その対価としてなにかレアカードの一枚でもゲットしたいと思うのが人情というものだろう。
「勿論だ! まさかこんなカードと巡り合えるとは……このカードを得られただけでもデュエルアカデミアに入学した甲斐があった」
それは多少大袈裟すぎないだろうか。丈なんかはそう思うのだが、サイバー・ドラゴンをこのなく愛する亮にとっては重要なことなのだろう。
「サイバー・エルタニンか。これを入れれば俺のサイバー流デッキは更なる新境地へ到達することが出来る。除外……そう除外を有効活用すれば……」
なんだか入学してからというものの亮はどんどん力をつけている気がする。
丈が最初にトレードしたサイコ・ショッカーを皮切りにしてサイバー・エルタニンまで。そのうち平然とサイバー流裏デッキとか使いだすかもしれない。
(やれやれ苦労が耐えないな)
苦笑しながらも溜息を吐く。
そんな時であった。アカデミアの校舎内に放送が鳴り響いたのは。
『三年
「校長先生が? 何の用だろ」
「さぁ。覚えがないな」
記憶回路を穿り返しても何か学校の不利益となる事をした覚えはない。最近は。亮や吹雪も一緒となると何か厄介事だろうか。中等部成績優秀者だからという理由で受験者用のパンフレットのために写真でもとられるのかもしれない。
制服を着てポーズをとる自分を想像しうすら寒くなりながらも、丈と亮は校長室へ行く事にした。
この頃は丈も亮もまだ知らない。その呼び出しがネオ・グールズとの戦いの火ぶたを切って落とす導火線だったことを。
闇は静かに、されど大胆に三人を招き入れた。