I2カップの主催者にして、I2社の名誉会長。
ペガサス・J・クロフォードは10分間の休憩時間に専用のゲストルームで体を休めていた。日頃のデスクワークの疲労と、一つの大きな悩みによるストレスが相乗されペガサスを襲う。
デスクワークの疲れは特に問題はないのだ。カードデザイナーとしての一面が強いペガサスだが、その実彼はかなりのヤリ手である。デュエルモンスターズを老若男女西洋問わず幅広い層に普及されたその手腕と経営能力。経営者としても商人としても彼は"一流"なのだ。そんなペガサスにしてみれば、デスクワークの疲労なんてものは長年連れ添った友人のようなものである。
そんなペガサスをもってしても頭を抱えずにはいれない悩みというのが、そもそも今大会を開いた切欠だ。あれらのカードはデュエルモンスターズの創造者をもってしても手に余る。あのカードを扱えるのは、カードに選ばれたデュエリストのみ。
ペガサスが知る限り、それに該当するデュエリストは武藤遊戯、海馬瀬人、墓守の一族の面々だけ。嘗て千年アイテムという呪われし秘宝の所有者になったこともあるペガサスだが、彼にあのカードを従えることは出来なかった。
本当なら彼等に協力を仰げれば良かったのだが、運の悪いことに武藤遊戯は行方知らず。海馬はロシアで行われる社運を賭けた取引のために留守。唯一連絡をとれた墓守の一族は別ルートからの捜査をしてくれているものの成果は芳しくない。
「ペガサス会長。一回戦は滞りなく消化され、残り一戦を残すのみ。間もなく最後の一戦が始まります」
「分かりました。私も直ぐに行きマース」
「はっ!」
護衛の黒服を下がらせると、ふわふわのソファに沈めた腰を上げる。
たったそれだけの動作なのに体がどうも重い。最近運動らしい運動をしていなかったからそのせいかもしれない。もしも悩みが解決したら定期的にランニングでもしようと心に決めた。
(この大会であのカードを扱える可能性があるデュエリストが現れてくれるといいのデスが)
ペガサスは八ケタの暗証番号をそっと入力し、自らの指紋を認証させ、厳重にロックされたアタッシュケースを開く。そこにあるのは一枚のカード。されど世界を狂わしかねないほどの力を秘めた最悪のカードでもある。たった一枚でゲームバランスを狂わせ環境を支配するパワー。その威容は"神"と表現するのが相応強い。もしこれが世に出れば―――――どれほどの事態になるか。
武藤遊戯は三幻神のカードを全て所有していたが、それは武藤遊戯だったからこそ問題なかったのだ。下手なデュエリストの手にアレが渡れば、確実に大惨事となる。
多くの人が楽しんでほしい。そんな願いも込めて作ったデュエルモンスターズで悲劇が起こるのを許容するほどペガサスは薄情でも諦めが良くもなかった。
ペガサスはもう一度、アタッシュケースの中のカードを凝視してから蓋を閉じる。
――――――――THE DEVILS ERASER
そのカードテキストにはそう記されていた。
邪神。それはペガサスにより三幻神の暴走を止める抑止力としてデザインされたものの、その途中で創造を躊躇った闇に葬られた筈の凶つ神。これがどのような経緯でどうして創造されてしまったのか。明らかになるのは少しあとのことである。
┏━ 宍戸丈
┌━┫
│ └─ 羽蛾
┌─┤
│ │ ┌─ 本田
│ └━┫
│ ┗━ マナ
┌─┤
│ │ ┌─ 三沢
│ │ ┌━┫
│ │ │ ┗━ 御伽
│ └─┤
│ │ ┏━ レベッカ
│ └━┫
│ └─ トム
─┤
│ ┌─ 牛尾
│ ┌━┫
│ │ ┗━ 不動
│ ┌─┤
│ │ │ ┏━ 天上院
│ │ └━┫
│ │ └─ 竜崎
└─┤
│ ┌─ 骨塚
│ ┌━┫
│ │ ┗━ 十六夜
└─┤
│ ┌─ 丸藤亮
└─┤
└─ 猪爪誠
第一回戦もいよいよ最終試合。亮のデュエルを残すだけとなった。
吹雪の方もレダメを利用した最上級ドラゴン族の大量展開による力押しで華麗に勝利し、二回戦へ駒を進めている。これで亮も勝てばアカデミア参加組全員が一回戦突破を果たすことに成る。
『さぁぁッ! I2カップ第一回戦もいよいよ大詰め! 最後の試合はこの二人! 初戦で見事なデュエルを見せてくれた宍戸丈と、レッドアイズを華麗に操る美形デュエリスト天上院吹雪の友! サイバー流後継者ぁぁぁッ! 丸藤ぃぃぃぃぃいぃい亮ぉぉぉぉおぉぉッ!』
スモークの中からアカデミアの制服を着た亮が颯爽と現れる。
観客の大歓声にも物怖じ一つせずに受け流し、デュエル場へと立った。
『そして丸藤亮に対するはぁぁぁッ! サイバー流と対を為すサイコ流免許皆伝! 猪爪誠ぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!』
「サイコ流?」
亮はふとサイバー流とほぼ同時期に生まれたデュエル流派があったことを思い出す。
余り詳しくは知らないが確かサイコ・ショッカーを中心に据えた流派だったはずだ。こんな時、師範がいればサイコ流についての詳しい情報を教えてくれただろうな、と遠い孤島のアカデミア高等部にいる師範を思い起こす。
対戦者の猪爪誠という男は地味な服装をした男だった。片方の目は髪の毛に隠されて見えないが、もう片方の目からはありありとこちらに対する敵意が透けて見えた。更にその腕には鍛錬の賜物だろう。デュエルするのには最適の筋肉がついている。かなりの強敵だと亮は直感した。
「ふふふふふふ。サイバー流後継者、丸藤亮。お前と戦える時を心待ちにしていたぞ。まさかこのような大舞台でお前と戦うことに成るとは、これもデュエルの神の導きというものかな」
「大会実行委員の導きじゃないのか」
「だが俺からしたら僥倖だ。これほど大勢の観衆がいれば嘘偽りなど出来よう筈もない。俺は今日、サイバー流を超える。丸藤亮、貴様を倒して!」
猪爪誠が真っ直ぐに亮を指差した。
中々の気迫。されど亮とて負ける為にこの大会に参加したのではない。必ずや決勝まで進み、そして優勝する。そのために大会に参加したのだ。
「サイバー流にどんな恨みがあるかは知らない。だが俺とて負ける訳にはいかない」
「無論だ。後から本気ではなかったなどと言われても迷惑。全力のサイバー流を倒してこそ、我がサイコ流の力が証明されるのだから」
「フッ。言葉など必要なかったか。ならばデュエルで語るのみ」
「「デュエル!」」
先行は残念ながら亮のターン。
後攻を得意とする亮からしたら先行になったところで特に嬉しくもなんともない。しかしなったものは仕方ないだろう。先行なら先行でやりようはある。
「俺のターン、サイバー・ヴァリーを攻撃表示で召喚。そしてカードを二枚セット。俺はこれでターンエンドだ」
【サイバー・ヴァリー】
光属性 ☆1 機械族
攻撃力0
守備力0
以下の効果から1つを選択して発動できる。
●このカードが相手モンスターの攻撃対象に選択された時、
このカードをゲームから除外する事でデッキからカードを1枚ドローし、
バトルフェイズを終了する。
●このカードと自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を
選択してゲームから除外し、その後デッキからカードを2枚ドローする。
●このカードと手札1枚をゲームから除外し、
その後自分の墓地のカード1枚を選択してデッキの一番上に戻す。
バーンデッキならまだしも、亮のデッキはサイバー・ドラゴン中心のビートダウン。攻撃出来ない先行では攻める事も出来ない。
故にサイバー・ヴァリーとリバースカードで防御を固める。これで仮に相手がモンスターを超大量展開してきたとしても防ぎきれるだろう。
「フン。俺のターン、ドロー! 天使の施しを発動。三枚ドローし二枚捨て……見せてやる。サイバー流にとっての切り込み隊長がサイバー・ドラゴンというのならば、これがサイコ流の切り込み隊長。俺は人造人間―サイコ・リターナーを攻撃表示で召喚」
【人造人間―サイコ・リターナー】
闇属性 ☆3 機械族
攻撃力600
守備力1400
このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。
このカードが墓地へ送られた時、自分の墓地の
「人造人間-サイコ・ショッカー」1体を選択して特殊召喚できる。
この効果で特殊召喚した「人造人間-サイコ・ショッカー」は、
自分のエンドフェイズ時に破壊される。
切り込み隊長――――先鋒ということもあり、上級モンスターのサイコ・ショッカーと比べれば随分と小さく弱そうな人造人間だった。
「サイコ・リターナーのモンスター効果、このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。そして速攻魔法リミッター解除! 機械族モンスターの攻撃力を倍にする!」
【リミッター解除】
速攻魔法カード
このカード発動時に、自分フィールド上に表側表示で存在する
全ての機械族モンスターの攻撃力を倍にする。
この効果を受けたモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。
「これでサイコ・リターナーの攻撃力は1200に上昇する!」
「直接攻撃能力……? サイバー・ヴァリーの効果は相手に攻撃対象となった時に発動するもの。モンスターを無視しての直接攻撃ならば発動できない」
「そういうことだ。サイコ・リターナーの直接攻撃、サイバーエナジーショット!」
倍になったとはいえ1200。
そこまで重大なダメージではない、が、ダメージはダメージ。先手を奪われるというのはモチベーションを左右する意味でも痛手だ。
丸藤亮 LP4000→2800
「ははははははは! ざまぁないな丸藤亮! サイバー流によって受けた積年の恨みつらみ‼ この大舞台で晴らしてくれようぞ!」
「分からない。どうしてサイバー流を目の仇にする? サイバー流がお前になにかしたというのか?」
「別にサイバー流に直接どうこうされた訳じゃないさ。ただサイバー流は我がサイコ流にとってみればひどく不愉快な存在なんだよ。お前にも話してやる! サイコ流とサイバー流、その歴史をな!」
そして紡がれるのは知られざるサイコ流の歴史。
サイバー流とは異なるもう一つの流派。その闇が今、解き放たれる。