全ての一回戦が終わった後、そのままの流れで二回戦が始まった。二回戦は一回戦とは逆の順番で始まり、最後にデュエルした亮が最初の試合で、最初にデュエルをした丈が今度はラスト試合である。
第一試合で亮はサイバー・エンド・ドラゴンの高速召喚によるスリーターンキルを達成。吹雪もFGDを駆使してのワンショットキルと上々の結果だった。
そして二回戦最終試合。遂に丈の出番がやってきた。
『さぁぁぁて! いよいよ第二回戦もラストスパートッ! ラスト試合の選手を紹介するぞぉぉお! 一回戦で華麗なる勝利を飾ったアカデミアからの出場選手の一人! 本大会のダークホース! 宍戸丈ぉぉぉお!』
丈は曖昧に笑いながら観客に手を振る。この会場に立った当初こそは緊張でガチガチになったものだが、慣れてしまえばどうということはない。今ならこの大観衆の前で逆立ちでもバク転でも決められそうだ。
『そしてぇぇぇ! それに挑むは一回戦で可憐なるデュエルを見せてくれたこの人! 謎の美少女デュエリスト、マナぁぁぁぁぁッ!』
「うぉぉおおおおお!」
「マナちゃーん!」
「こっち向いてーーーーっ!」
「萌えるぜ、バーニング!」
「俺の股間がクリアマインド!」
主に野太い男の大歓声にニコッとキュートなスマイルを送って見せたのは金髪の少女。まるで最近の女子学生が好むような流行りの服を教科書通り選んだような服装。それでも少女の可愛らしさと相まって異常なほど似合っていた。若干開いている胸元が可憐さだけではなくうっすらと大人の色気をも漂わせていた。子供の幼さと大人のエロティックが絶妙にブレンドした美少女、それが丈の対戦者ことマナだった。
(っていうか……どう見てもこれって)
「みんなー! 応援ありがとう! 今日は楽しんでいってね!」
その美少女に見覚えがありありとあった。マナ、それは三千年前のファラオに仕えた魔術師見習いの一人で後にBMGの精霊ともなった少女である。キング・オブ・デュエリスト武藤遊戯にとってはブラック・マジシャンと同じ前世からの繋がりがある大切な仲間といってもいい。
そんなある意味のVIPがどうしてこんな場所に選手として参加しているのか。もう意味不明だった。案外単に面白そうだからっていう理由で精霊パワーかなにかで紛れ込んだのかもしれないが。
(いや、深く考えるのは止めよう)
一つだけ確かなのはブラック・マジシャン・ガール……いいやマナは宍戸丈の対戦者で倒すべき敵ということだ。相手が名も亡きファラオの精霊だろうと関係ない。自分はただ全力で戦うだけだ。
『観客の熱狂は最高潮! それもそうだろう。なんとマナ選手! キング・オブ・デュエリスト武藤遊戯のデッキにしか入っていないという超レアカード! ブラック・マジシャン・ガール使いのデュエリストなのだぁぁぁ! しかもマナ選手本人もカードイラストに描かれるブラック・マジシャン・ガールと瓜二つの容姿! こんな可憐な美少女、MCの私も初めて見るぞぉぉぉお!』
MCとて男。ブラック・マジシャン・ガールのカードには特別な感情があるのだろう。実況の節々に熱い感情が篭っていた。
「初めまして、マナでーす。今日のデュエル、一杯楽しもうね!」
「……はぁ、こちらこそ」
こちらに悪意のない感情を向けてくるマナ。
今までは戦意がギラギラしている猛者が相手だったり、欲望が滲み出ている変態相手ばかりだったので、こういう手合いにはどうも調子が狂う。
(しかし、やっぱり使用デッキはブラック・マジシャン・ガールか)
マナが出場した第一回戦第二試合は丈も観戦していた。
その時使用していたデッキはBMGを主体とした魔法使い族デッキ。一回戦と二回戦ではデッキを変えている可能性もあるが、大抵の場合デュエルモンスターズの精霊は自分自身のカードが入ったデッキを使うと記憶している。何を軸とするかの違いはあれど魔法使い族デッキというのは変わらない筈だ。その対策という訳でもないが丈のデュエルディスクにあるのは最初に使ったHEROデッキではない。暗黒界デッキである。
暗黒界と魔法使い、強いのはどちらか。
「それじゃあ行くよ」
マナがその腕に装着されたデュエルディスクを起動する。
精霊がどういうルートでデュエルディスクを手に入れたのかは不明だが、今更そんな細かい事を突っ込んでも仕方ない。突っ込むのはダイレクトアタックだけで十分だ。
「ええ、やりますか」
そしてダイレクトアタックするにはデュエルをしないことには始まらない。
どんなタイプのデッキかは不明だが、暗黒界デッキなら除外以外ならば対抗できるはず。
『デュエル!』
「私の先行だね。私のターン、ドロー」
初手を制する事は叶わなかったが、後攻なら後攻でやり様はある。ただし一つの不安が丈の中でむくむくとその頭を上げようとしている。考え過ぎと笑い飛ばしたくはあったが、そうも出来ない恐ろしさがアレにはあった。
「そうだな。良し、私はこのカード。熟練の黒魔術師を攻撃表示で召喚です!」
【熟練の黒魔術師】
闇属性 ☆4 魔法使い族
攻撃力1900
守備力1700
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
自分または相手が魔法カードを発動する度に、
このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大3つまで)。
魔力カウンターが3つ乗っているこのカードをリリースする事で、
自分の手札・デッキ・墓地から「ブラック・マジシャン」1体を特殊召喚する。
ソリッドビジョンが形となり召喚されたのは黒いローブと杖を構えた魔術師。攻撃力は下級アタッカーの一つの目安ともいえる1900で有数な効果もあるという中々のモンスターだ。
「そして私はこのフィールド魔法を―――――」
「ッ!」
フィールド魔法、その言葉に丈は身構える。
最悪の予想が形を成しつつあった。違ってほしい。フィールド魔法といってもアレばかりではない。もっと別の魔法使い族に相性の良いフィールドもある。
しかしそんな丈の淡い願いはあっさりと打ち砕かれた。
「フィールド魔法、魔法族の里を発動しまーす!」
ドームの試合会場がその光景をみるみると変えていく。
無機質な試合会場が消えた後に地面からニョキニョキと生えてきたのは不可思議な木々の数々。そして辺りには他に丸っこいお伽噺の魔法使いが住んでいそうな家が立ち並ぶ。
【魔法族の里】
フィールド魔法カード
自分フィールド上にのみ魔法使い族モンスターが存在する場合、
相手は魔法カードを発動する事ができない。
自分フィールド上に魔法使い族モンスターが存在しない場合、
自分は魔法カードを発動する事ができない。
最悪な事態だ、そう思いつつも同時に丈はほっとしていた。
魔法族の里は相手に魔法使い族がいなければ魔法を封殺することが出来る強力なフィールド魔法である。一応自分のフィールドに魔法使いがいなければ魔法が発動できなくなるというデメリットがあるものの、デッキの殆どが魔法使い族で構成されるデッキならばリスクは最小限で済む。
さて、魔法カードというのはあらゆるデッキにおいて戦略の要となるカードである。その魔法が封じられるというのはデッキの種類によっては戦術の根幹を封じられるに等しい。
丈の使用するデッキのうちHEROと冥界の宝札軸は魔法カードがかなり大きな意味をもつデッキである。融合魔法が根幹をなすHEROは当たり前として、後者にしても永続魔法「冥界の宝札」がなければデッキの回転率がポルシェから自転車クラスにまで落ち込む。
だからこそ丈は使用デッキとして暗黒界を選んだ。暗黒界も魔法カードはかなり重要な要であるが、必要不可欠という訳ではない。融合が必須のHEROと違いやり様はあるのだ。
本当は同じように魔法使い族デッキを使えれば良かったのだが、生憎と丈は「魔法使い族」でデッキを組めるほど魔法使い族モンスターを持ってはいない。
「これで魔法使い族を出さない限りあなたは魔法カードを使用できなくなりました。そして魔法カード使用によって熟練の黒魔術師にカウンターが一つ乗ります。続いていきますよ。私は魔力掌握を発動!」
【魔力掌握】
通常魔法カード
フィールド上に表側表示で存在する魔力カウンターを
置く事ができるカード1枚に魔力カウンターを1つ置く。
その後、自分のデッキから「魔力掌握」1枚を手札に加える事ができる。
「魔力掌握」は1ターンに1枚しか発動できない。
「これで私は熟練の黒魔術師に魔力カウンターを一つ乗せて、デッキから新しい魔力掌握を手札に加えます。そして魔法カード使用により熟練の黒魔術師にカウンターが乗り、三つのカウンターが乗った熟練の黒魔術師を生贄にデッキから特殊召喚!」
「来るか!」
熟練の黒魔術師が召喚された時からこういうことも予想はしていた。
デュエルモンスターズにおける魔法使い族の代名詞。名も亡きファラオに前世から仕えし最上級マジシャン。
「来てお師匠サマ! ブラック・マジシャンを攻撃表示で召喚です!」
【ブラック・マジシャン】
闇属性 ☆7 魔法使い族
攻撃力2500
守備力2100
熟練の黒魔術師が消え召喚されたのは何違わぬ最上級魔術師。嘗て古代エジプトにおいて六神官の一人に数えられ、千年リングを担った者。
ブラック・マジシャン、そのカードが
『来た来た来た来た来た、来たぁぁぁぁあぁ! 前回の試合でブラック・マジシャン・ガールが召喚された時、もしもとは予想していたが本当に出たっぁぁぁ! デュエルモンスターズ界における伝説の魔法使いレアカード! ブラマジの降☆臨! この大会のMCを引き受けて良かった! 本当に良かったぁぁぁあああ!』
「先行は攻撃できないので、私はカードを二枚セットしてターンエンドでーす。さぁ、あなたのターンですよ」
最上級魔術師と魔法カードのロック。
上等だ。そのロックを打ち破り、その魔術師を倒して見せる。そう意気込み丈はデッキトップのカードを高らかにドローした。