『遂にI2カップの大詰め! 準決勝の開幕だぁ! さてそれでは準決勝一回戦の出場選手を紹介しよう! 嘗て最年少で全米チャンピオンの座にまで上り詰めた天才デュエリストッ! 現在は大学院で若き教授として研究に励む才女! レベッカァァァァァァ・ホプキンスゥゥゥゥウウゥウゥウウ!』
余裕をもって歓声に答えるように手を挙げたのはレベッカ・ホプキンス。全米チャンピオンになっっというだけあり大勢の観客の前にデュエルをするなんていうのは慣れたものなのだろう。彼女は歓声など二酸化炭素くらいにしか感じていないのかもしれない。
『そしてぇぇ元全米チャンプに挑むのは今大会屈指のダークホース、その一角! HERO、暗黒界! あらゆるデッキを変幻自在に使いこなすデュエルアカデミアの生み出した魔王! 宍戸ぉぉぉおぉ丈ぉぉぉおおぉお!』
二回戦までの戦いが印象的だったためか、最初より遥かに巨大な声援が轟いた。
というより自分の「魔王」という二つ名は固定なのだろうか。プロデュエリストになった後は宣伝やらなにやらもあるからまだしも、今の丈はそこいらの野良デュエリストと同じアマチュア。二つ名なんて恥ずかしいだけなのだが、どうせ異名がつくにしても選択肢は他にはなかったのかと思わずにいられない。
丈的には「魔王」なんて悪役っぽいものより、もっと格好良いやつの方が良かった。エースのジョーとか。
「シシドジョウ、さっきは良くも好き勝手に言いたい放題してくれたわね」
レベッカはまだ怒りが引いていない様子だ。少し経てば忘れてくれるかと淡い期待を抱いていたのだが、そんな楽観的思考は木端微塵に打ち砕かれた。
「あー、えーとなんといいますか。アレは単なる言葉のあや……ジョークのつもりだったんで……その侮辱するつもりはなかったんです」
自分が悪いのは明白なので先ずは謝罪しておく。
「――――――そう、反省してるならもう良いわ。私もいつまでも過去に拘ってはいられないし。デュエルは手加減なしだけど」
「えっ? まさかマジでフラれてたんですか? 俺は適当に言っただけなんですけど」
「…………………」
「…………………」
「…………ふ」
ブチっと血管が切れたような音がした。見ればレベッカは額に青筋をたて、まるで般若羅刹が如き怒貌をしていた。
恐い。丈の心の奥で封印された恐怖が蘇ってくる。丈には一年生の頃、とある変態のせいでバーサーくモードに入った女性にトラウマがあるのだ。レベッカは一年生の頃のアレとはベクトルの違う恐怖だが、女を「
「いいわ、そんなに私を怒らせて。挑発してるつもりなら乗るわよ。その上で倒してあげるわ。魔王だなんて呼ばれて調子にのっているハリキリボーイに大海を教えてあげる」
「あっ、いや挑発してるんじゃなくて…………ええぃ、もう面倒臭い! デュエルだ! 取り敢えずデュエルしとけば全部解決だ。亮曰く、デュエルは魂と魂の交流、言葉はなくとも分かり合える云々らしいからな。というわけで」
『
序盤で怒らせてしまったのは予想外に過ぎるが、だとしても丈のやるべき事は勝つ事のみ。相手が誰であろうと、だ。
「俺の先行、ドローカード!」
前回のデュエルの手が悪かったからなのか、今回の手札はかなり良かった。一気に冥界の宝札を軸としたデッキを高速回転させることが出来る。
「俺はおろかな埋葬を発動、デッキからモンスターを一体墓地へ送る。俺はデッキのレベル・スティーラーを墓地へ!」
【おろかな埋葬】
通常魔法カード
自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る。
「レベル・スティーラー。……モンスターの☆を一つ下げることで墓地から特殊召喚できるモンスター」
どうやらレベッカはこのカードの効果を知っているようだ。全米チャンピオンというだけあり、多くのカードの効果や名前をその頭脳の図書館に収めているのだろう。しかしデュエルは知識だけではない。知識だけで勝つことは出来ない。勝利するにはタクティクスとカードを引きよせる天運が必要だ。
「更に迷える仔羊。二体の仔羊トークンを場に特殊召喚!」
【迷える仔羊】
通常魔法カード
このカードを発動する場合、
このターン内は召喚・反転召喚・特殊召喚できない。
自分フィールド上に「仔羊トークン」(獣族・地・星1・攻/守0)を
2体守備表示で特殊召喚する。
「これで二体の生贄要因を確保した。永続魔法、冥界の宝札を二枚発動。準備は整った」
「迷える仔羊は使用したターン、召喚や特殊召喚ができるデメリットがある。けどそのデメリットはモンスターをセットすることには対応していない。どうやら単なる世間知らずのお坊ちゃんじゃあないようね」
「言っとけ。二体の仔羊を生贄にモンスターをセット! そして冥界の宝札、二体のモンスターを生贄にした召喚に成功した時、デッキから二枚ドローする。そして場に出ている冥界の宝札は二枚。よって俺は四枚ドロー!」
【冥界の宝札】
永続魔法カード
2体以上の生け贄を必要とする生け贄召喚に成功した時、
デッキからカードを2枚ドローする。
これで丈の手札は初期手札の五枚に戻った。
最上級モンスターを召喚し場には二枚の永続魔法カード、そして手札はまだ五枚と余裕がある。序盤にしては最良に近いプレイングだ。
「俺はカードを一枚セット、ターンエンド」
「ふーん、やるわね」
二体の生贄を必要とする最上級モンスターを、先行1ターン目で通常召喚したことにレベッカは感心したように頷く。
前回の試合やDVDを見る限り彼女も上級・最上級モンスターを多用するデッキを使う。デッキのモンスターの大半が最上級モンスターの丈のデッキに考えることがあるのかもしれない。
「そういえば……また違うデッキね。最初の試合はHERO、次は暗黒界。複数のデッキを使うデュエリストは珍しいわ」
「ど、どうも」
褒められているのだろうか。
取り敢えずこれ以上機嫌を損ねないように曖昧に礼を言っておく。
「だけどまだまだよ。私のターン、ドロー。良いカードを引いたわ。私は手札よりアレキサンドライドラゴンを攻撃表示で召喚!」
【アレキサンドライドラゴン】
光属性 ☆4 ドラゴン族
攻撃力2000
守備力100
「こ、攻撃力2000で効果無しの通常モンスターだって!?」
キラキラと幻想的な光を全身から放つドラゴンを見て、丈が驚嘆の叫びをあげる。
デュエルモンスターズにおいて大半の下級アタッカーの最低ラインは1900だ。2000を超える☆4モンスターもいるが、その大半は何らかのデメリットを持つモンスターであり、使い難いカードが多い。そんな中で効果なしの攻撃力2000のモンスターというのは存在そのものがレアだ。
(攻撃力2000の星4通常モンスターはジェネティック・ワーウルフだけだと思ってたけど……そうだよな。時代は進んでるんだから俺の知らないカードがあっても不思議じゃないのか)
ちなみに言えばアレキサンドライドラゴンは光属性でドラゴン族。地属性獣戦士族のジェネティック・ワーウルフと比べても、サポートカードの豊富さという意味では勝っている。ヘルドラゴンやカース・オブ・ドラゴンの恨み節でも聞こえてきそうなモンスターだ。
「驚いているようね。それはそうでしょう。なんといったってこのカードは日本ではまだ販売すらされていないという超レアカード! 世界にも数十枚くらいしか出回ってないはずよ!」
「マジで!?」
「そのモンスターの攻撃を受けられることに感謝しなさい! アレキサンドライドラゴンでセットモンスターを攻撃、アレキサンドライト・ストリームッ!」
「……俺がセットしていたのは守備力3000のThe SUN! 2000じゃ届かない」
【The supremacy SUN 】
闇属性 ☆10 悪魔族
攻撃力3000
守備力3000
このカードはこのカードの効果でしか特殊召喚できない。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、
次のターンのスタンバイフェイズ時、
手札を1枚捨てる事で、このカードを墓地から特殊召喚する。
「不用意ですね。セットしているのは最上級モンスターだって言うのは分かっていたのに攻撃するなんて」
凡骨ならまだしも彼女に限ってど忘れしたということもあるまい。守備力2000以下の最上級モンスターである確率に賭けてみたのか。
「ふふふふ、いいのよこれで。今のはただの……そう相手の戦略や出方を見たかっただけ。お蔭で大体は分かったわ。この情報を得る為だったなら、たかが1000ポイントのライフは大した消費じゃないもの」
レベッカ LP4000→3000
守備表示モンスターを攻撃した場合でもダメージは負う。
レベッカのライフから1000ポイントが削れた。
「さて、ここからが本番。私はカードを三枚伏せてターンエンド」
「エンドフェイズ時、速攻魔法発動。終焉の焔。俺の場に二体の黒焔トークンを特殊召喚する」
【終焉の焔】
速攻魔法カード
このカードを発動するターン、
自分は召喚・反転召喚・特殊召喚する事はできない。
自分フィールド上に「黒焔トークン」
(悪魔族・闇・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。
このトークンは闇属性モンスター以外の生贄召喚のためには生贄にできない。
「生贄要因確保再び、ね。私の言った事は変わらないわ。ターンエンド」
レベッカの余裕が不気味だった。
先程伏せた二枚のカード。一体どんなたちの悪いカードなのか検討もつかない。しかし形勢は有利な筈だ。そう信じ丈はデッキからカードをドローした。