宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第36話  アンビリーバボー

宍戸丈 LP4000 手札四枚

場 The SUN、黒焔トークン×2

魔法 冥界の宝札×2

 

レベッカ LP3000 手札二枚

場 アレキサンドライドラゴン

伏せカード3枚

 

 

 

「俺のターン」

 

 三枚の伏せカードは気になるが、レベッカの場には攻撃力でThe SUNに劣るアレキサンドライドラゴンが一体だけだ。対する自分の場には最上級モンスターであるThe SUNばかりではなく、二体の生贄要因であるトークンもいる。

 

(最上級モンスターの連続攻撃で一気に決着をつける!)

 

 万が一にも場のモンスター達が破壊されたとしても、The SUNには自己再生能力がある。最悪の事態にはならない筈だ。

 

「俺は二体の黒焔トークンを生贄に捧げる。そして――――――――」

 

 生贄に捧げられた二体の黒焔トークンが消えて……いくことはなかった。

 

「?」

 

 黒焔トークンは何でもないようにフィールドに留まりつづけている。まさかデュエルディスクの故障かと思いコンコンとディスクを小突いて調子を確認するが、どうにも問題はなさそうだ。

 

「一体なにがどうなって…………って、そのトラップカードは!?」

 

 丈の目線がレベッカの場で何時の間にかオープンされていたカードに釘づけになる。

 

「ふふふ気付いたようね。貴方のターンのスタンバイフェイズ時、私はこの永続罠カードを発動させていたのよ。生贄封じの仮面をね」

 

 

 

【生贄封じの仮面】

永続罠カード

いかなる場合による生贄もできなくなる。

 

 

 

 紫色の額縁の仮面カードは不気味なオーラを漂わせながら、その存在を誇示していた。生贄封じ、その名に偽りはなく生贄召喚、儀式召喚、特殊召喚、効果の発動、あらゆる場合における"生贄"を問答無用で封じるメタカードである。

 こと生贄召喚を主軸とする丈のデッキにとっては最悪のアンチカードともいえた。

 

「ってアレキサンドライドラゴンも何時の間にやら消えている!?」

 

 レベッカのフィールドでキラキラと光り輝く四肢を見せつけていたドラゴンの姿は何処にも見当たらない。如何したものかと思っていると、レベッカがその答えを教えてくれた。

 

「生贄封じの仮面に更にチェーンして神秘の中華なべを発動したのよ。アレキサンドライドラゴンを生贄に私はライフを2000回復したってわけ」

 

 

 

【神秘の中華なべ】

速攻魔法カード

自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる。

生け贄に捧げたモンスターの攻撃力か守備力を選択し、

その数値だけ自分のライフポイントを回復する。

 

レベッカ LP3000→5000

 

 

「くそっ。なら俺は神獣王バルバロスを妥協召喚!」

 

 

 

【神獣王バルバロス】

地属性 ☆8 獣戦士族

攻撃力3000

守備力1200

このカードは生贄なしで通常召喚する事ができる。

この方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。

また、このカードはモンスター3体を生贄して召喚する事ができる。

この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

 

 

「大層なモンスターね。でもバルバロスは生贄なしで召喚した場合、その攻撃力は1900になる」

 

「だが火力は十分だ。俺はThe SUNで攻撃ッ!」

 

「させないわっ! 永続罠、グラヴィティ・バインド-超重力網-!」

 

 

 

【グラヴィティ・バインド-超重力網-】

永続罠カード

フィールド上のレベル4以上のモンスターは攻撃できない。

 

 

 

「げげっ!」

 

「これでお互いに☆4以上のモンスターは攻撃出来ないわ。バルバロスは☆8、The SUNは☆10。言うまでもなくこのカードの効果対象内」

 

「……そんな、ここまで」

 

 最初の生贄封じにしてもグラビティバインドにしても、丈のデッキとは相性が悪いカードばかりよくもまぁ出るものだ。漸くツキが巡ってきたと思ったのは単なる勘違いだったらしい。つくづく自分の不運を呪いたくなる。

 

(……いや、不運? それにしては―――――――ちょっと)

 

 幾ら何でもピンポイント過ぎやしないだろうか。生贄封じの仮面だけならまだ良い。DVDの映像を見た限りだとレベッカは最上級モンスターを揃えるのに特殊召喚を多用していた。生贄召喚を必要とせずに回るデッキならば、相手への対策としてこのカードを入れる価値はある。

 だがグラビティバインドはどうだ。

 レベッカのデッキは竜魔人キングドラグーンなどを使って強力なドラゴン族モンスターを召喚していくデッキ。☆4以上のモンスターの攻撃を封じるグラビティバインドとはシナジーしていないどころか、互いが互いの足を引っ張り合っている。入れる意味は皆無だ。

 なによりも――――――宍戸丈のデッキの対策として"生贄封じの仮面"を使った事から妙ではないか。今回の大会で丈は一度も今使っているデッキを披露したことはない。一回戦は融合召喚中心のHEROデッキ、二回戦は墓地からの蘇生効果をもつ龍神グラファを中心とした暗黒界。この二つに共通するのは"特殊召喚"を一番よく使うということだ。生贄召喚よりも遥かに特殊召喚によってモンスターを場に出す。

 ならばこそ丈の対策としてレベッカが用意すべきは"特殊召喚メタ"であり"生贄メタ"ではないのだ。しかし何故かレベッカは敢えて生贄召喚をメタしてきた。このことが意味することはつまり。

 

「レベッカ、まさか――――――!」

 

「戦いっていうのは何時の世も情報を制した者が勝利する。デュエルもそう。中には相手の情報を収集せず持ち前のプレイングセンスだけで勝つような天才もいるけど、私はそういう"天才"とはタイプが違う……頭脳派なのよ」

 

「やっぱり」

 

 レベッカが対策してきたのは暗黒界でもHEROでもなかった。

 丈が現在使っている「大会で一度も見せなかった」デッキなのだ。

 

「貴方のデュエルは見せて貰ったわ。I2カップでの試合は勿論、デュエルアカデミアの入試説明会での模範デュエル、文化祭でのデュエル、その他諸々を全部ね。集めた情報によれば貴方の使うデッキは全部で三つ。HEROと暗黒界……そして最後が貴方が今使ってるデッキ。大方対策されないように複数のデッキを使いまわしていく算段だったんでしょうけど、それが裏目に出たわね」

 

 全てはレベッカの掌の上のことだった。その頭脳を使いレベッカは自分との対戦で丈が使うであろうデッキを予測し、そのデッキへの対策を用意してきたのである。

 だからこその生贄封じの仮面。だからこそのグラビティバインド。

 全米チャンプ、その名の意味を真に思い知った。

 

「くそ。……俺はターンエンドだ」

 

 どうにかしてグラビティバインドを破壊したかったが、破壊できるカードがなかった。相手フィールドを焼野原にする事が出来るバルバロスにしても生贄召喚が出来なければ何の意味もない。

 

「私のターンよ。強欲な壺、デッキからカードを二枚ドロー。一気に行くわよ、私はビッグバンガールを攻撃表示で召喚!」

 

 

 

【ビッグバンガール】

炎属性 ☆4 炎族

攻撃力1300

守備力1500

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

自分のライフポイントが回復する度に、

相手ライフに500ポイントダメージを与える。

 

 

 

 ビッグバンガール、そのカードとロックカードの組み合わせから導き出されるデッキタイプはバーンデッキ一択。しかもライフの回復を主体としたキュアバーンと呼ばれるものだ。

 

(里ロックの次はロックバーン……いやキュアバーン。どうして俺の対戦相手はドイツもコイツもロックだとかバーンだとかばっかなんだ。…………偶には普通のビートダウン同士でデュエルしたい)

 

 ロックバーンや里ロックなどの戦術を否定しているのではない。ただ丈にとって図書館エクゾだとかのソリティア並みに相手をしたくないデッキタイプであることは事実だった。

 泣き言を言いたい丈だったが、対戦者は待ってくれない。

 どんどんとデュエルを進行していってしまう。

 

「続けていくわよ、魔法カード、二重召喚! このカードの効果で私は通常召喚を二回まで行う事ができる!」

 

 

 

【二重召喚】

通常魔法カード

このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。

 

 

 

「この効果により私は手札の白魔導士ピケルを守備表示で召喚!」

 

 

 

【白魔導士ピケル】

光属性 ☆2 魔法使い族

攻撃力1200

守備力0

 

 

 

 レベッカのフィールドにターンごとにライフを回復させるギミックが完成してしまった。このまま手を拱いていれば丈はターンごとにレベッカとのライフが放されてしまう。

 

「ふふふ私はこれでターン終了よ。さぁどうぞシシドジョウ。あなたのターンよ!」


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