デュエル場で二人のデュエリストが手に汗握るデュエルをする中、彼等の共通の友人である丈の姿は観客席にあった。この会場でちょっとした有名人になってしまったこともあり、変装用のサングラスをかけ服装も学生服から上にコートを羽織っている。一見したら誰も彼が「宍戸丈」であると分からないだろう。
丈は観客席に予想通りの人物がいることを確認すると、その人物に後ろから声をかけた。
「お兄さんの応援に学校をサボりか?」
「きゃっ!」
驚いたように振り返ったのは茶色がかったロングヘアの少女。中学一年生のため背丈は低くまだ幼さが色濃く残っているが、胸元は将来が十二分に期待できるほどに膨らんでいた。高校にもなれば恐らく男子生徒から告白のハリケーンでも喰らうことになるだろう。
彼女の名は天上院明日香。丈の友人の一人である天上院吹雪が溺愛するたった一人の妹である。
「だ、誰かと思えば宍戸先輩。こんなところでなにを……」
「しー。俺だってばれたら騒がしくなる」
人差し指を唇に当てて注意を促す。
MCの宣伝もあり丈としては非常に遺憾なことであるが、自身の名は「魔王ジョー」として会場中の知るところとなっている。今でこそ変装で隠し通しているものの、もしも「宍戸丈」が直ぐ近くにいると周りにばれればいらぬ騒ぎを作る事となるであろうことは想像に難しくない。自分自身の精神衛生上及びデュエルをする友人たちのためにも下手なハプニングは起こしたくなかった。
明日香も聡明な少女。その辺りの事情は説明せずとも理解したのだろう。コクリと小さく頷いてくれた。
「でも、どうしてここに?」
「一つ目の目的は……観戦だよ。控室のモニターで見るよりも、やっぱりデュエルは生で見る方が良いしね。特にこの戦いは見逃せない」
戦略的には二人のデュエルを見て、次の試合に向けての対策を練るという意味がある。コレは決勝前に吹雪と亮の生デュエルを見ることが出来る最後のチャンス。逃す手はない。
個人的にも友人同士の戦い、果たしてどちらが自分と決勝戦で戦うことになるのか見届けておきたかったというのもある。
「宍戸さんはどっちが勝つと思いますか? 兄さんと亮と」
「さぁね」
明日香の問いを曖昧にはぐらかす。
もしかしたら「吹雪が勝つ」と言ってやれば明日香は安心するのかもしれないが、丈としてはそんな本当でもないことは言えなかった。無責任に過ぎる。
丈が見る限り吹雪と亮、二人のタクティクスはほぼ互角。後はどちらが運命の女神を魅了して自分の女に出来るかどうかで勝敗が分かれるだろう。要するに丈にはなにも分からないということだ。
「強いて言うなら爆発力ならパワー・ボンドっていう専用融合カードをもつ亮が、安定性ならドラゴン族の展開に優れる吹雪が勝っているかな。単純なパワーということなら亮が上だろうけど、吹雪のデッキにも火力はある」
ドラゴン族はブルーアイズやレッドアイズに始まり非常に多くの最上級モンスターを有する種族だ。そして吹雪のエースモンスター、レッドアイズの最強体であるレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンは1ターンに一度、ドラゴン族をノーコストで特殊召喚する事が出来るモンスター。ほぼ火力をサイバー・ドラゴンに依存する亮と違い、柔軟性のある戦術を駆使できるはずだ。
といっても亮の方もサイバー・ドラゴンを最高のコンディションで最大級のパワーを引き出せるようにするギミックが大量に仕込んである筈。
故に二人の力量は正真正銘の互角。
勝利の行方は神のみぞ知るということか。
「まぁ……兎も角、観客の俺達に出来るのは応援するか見守るかするだけだ。デュエルをするのはあそこにいる二人だけなんだしね。折角学校をサボってまで来たんだ。愛しのお兄さんの応援をしなきゃ来ただけ損だよ」
「い、愛しって!?」
「ははははははは。兄がシスコンなら妹はブラコン。いい兄妹じゃないか。兄妹円満でなにより」
「……なんだか兄さんと宍戸先輩が友人な理由が分かったような気がします」
「え? なにが?」
「先輩はどっちの応援をしてるんですか、亮と兄さんと」
「そんなの決まってるじゃないか」
丈は目を細め、互いのカードとカードをぶつけ合う友人たちを見る。次は自分があの二人のうち一人と決戦することになるのだ。
そして丈は笑って言う。
「どっちもだよ」
天上院 LP4000 手札3枚
場 真紅眼の黒竜
魔法 未来融合
丸藤亮 LP1600 手札5枚
場 無し
魔法
先行1ターン目にして半分以上のライフを削られながらも、亮には焦燥の色はなかった。寧ろ亮の中にあるのは喜び。最高の舞台で最高の友人の一人と戦っているという喜びだけだ。闘争心という三文字を亮は改めて思い知っていた。
この戦いをもっとしていたい。
次もこの戦いをしたい。
グツグツと地球の中心、マントルのように滾った激情が亮のクールな心を熱くさせている。このような気分になるのは亮としても本当に久々のことだった。
「いきなり黒炎弾とは驚いたが……この程度のバーン効果では俺は倒せん! 俺のターン、ドロー! 強欲な壺を発動し更に二枚追加ドロー」
吹雪のフィールドにいるのは真紅眼の黒竜。そして亮のフィールドにはモンスターがゼロ。先行1ターン目なので当然といえば当然である状況。これこそが亮にとって最上の後攻であった。
「相手フィールドにモンスターがいて自分の場にモンスターがいない時、このカードは手札より特殊召喚できる」
観客もこのパターンは見慣れたものだったのだろう。
エースモンスターの予感に熱が高まる。
「サイバー・ドラゴンを攻撃表示で特殊召喚!」
【サイバー・ドラゴン】
光属性 ☆5 機械族
攻撃力2100
守備力1600
相手フィールド上にモンスターが存在し、
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
このカードは手札から特殊召喚できる。
『カイザー亮! キング吹雪の真紅眼の黒竜に対抗し、自身のエースモンスターであるサイバー・ドラゴンを召喚したぁぁぁぁッ!』
「来たね亮、サイバー・ドラゴンが」
「あぁ、このカードがお前の真紅眼の黒竜を倒す。魔法カード、エヴォリューション・バーストを発動。フィールドにサイバー・ドラゴンがいる時、相手フィールドのカードを一枚破壊する」
【エヴォリューション・バースト】
通常魔法カード
自分フィールド上に「サイバー・ドラゴン」が表側表示で存在する場合のみ
発動する事ができる。相手フィールド上のカード1枚を破壊する。
このカードを発動するターン「サイバー・ドラゴン」は攻撃する事ができない。
サイバー・ドラゴンが口からブレスを吐きだし真紅眼の黒竜を破壊した。
今度は吹雪のフィールドがゼロになる。そして後攻側は先行側と違い1ターン目でも攻撃することが出来る。
「このまま攻撃してもお前のライフを削る事は出来る。だがそれでも与えられるダメージは2100止まり。俺のライフとお前のライフは覆らない。……いやエヴォリューション・バーストの効果でこのターン、サイバー・ドラゴンは攻撃できなかったな。しかし俺にはまだ通常召喚の権利が残っている。俺はサイバー・ドラゴンを生贄に人造人間サイコ・ショッカーを召喚、そしてサイコ・ショッカーを墓地へ送り手札よりサイコ流最高のしもべ、人造人間サイコ・ロードを攻撃表示で召喚!」
【人造人間サイコ・ロード】
闇属性 ☆8 機械族
攻撃力2600
守備力1600
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に表側表示で存在する「人造人間-サイコ・ショッカー」
1体を墓地へ送った場合のみ特殊召喚できる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
お互いに罠カードの効果は発動できず、
フィールド上の全ての罠カードの効果は無効される。
1ターンに1度、フィールド上に表側表示で存在する罠カードを全て破壊できる。
この効果で破壊したカード1枚につき300ポイントダメージを相手ライフに与える。
人造人間サイコ・ショッカーの進化系。この大会で丸藤亮が猪爪誠により受け継いだモンスター。亮に牙をむいたサイコ流最強モンスターは今度は丸藤亮の味方として天上院吹雪の前に立ち塞がった。
「サイコ・ロードで吹雪へ直接攻撃、
「うわぁぁぁあ!」
吹雪 LP4000→1400
亮と吹雪のライフポイントが逆転する。
「ターンエンド前に俺は魔法カード、悪夢の蜃気楼を発動」
【悪夢の蜃気楼】
永続魔法カード
相手のスタンバイフェイズ時に1度、
自分の手札が4枚になるまでデッキからカードをドローする。
この効果でドローした場合、次の自分のスタンバイフェイズ時に1度、
ドローした枚数分だけ自分の手札をランダムに捨てる。
「カードを2枚セットしターンエンドだ」