宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第43話  I2カップ決勝戦開始

              ┏━  宍戸丈

          ┏━┫

          ┃  └─  羽蛾

      ┏━┫

      ┃  │  ┌─  本田

      ┃  └━┫

      ┃      ┗━  マナ

  ┌━┫

  │  │      ┌─  三沢

  │  │  ┌━┫

  │  │  │  ┗━  御伽

  │  └━┫

  │      ┃  ┏━  レベッカ

  │      ┗━┫

  │          └─  トム

─┤

  │          ┌─  牛尾

  │      ┌━┫

  │      │  ┗━  不動

  │  ┌━┫

  │  │  ┃  ┏━  天上院

  │  │  ┗━┫

  │  │      └─  竜崎

  └━┫

      ┃      ┌─  骨塚

      ┃  ┌━┫

      ┃  │  ┗━  十六夜

      ┗━┫

          ┃  ┏━  丸藤亮

          ┗━┫

              └─  猪爪誠

 

 

 

 

 

 

 準決勝第二試合。

 決死の攻防。熾烈な戦い。互角の真剣勝負。天上院吹雪と丸藤亮。一流のデュエリスト養成するためのエリート校たるデュエルアカデミアの中でも更に尖った二人の天才たち。その戦いは丸藤亮の勝利に終わった。

 とはいえ亮の方も無傷ではない。自分の出し切れる力を全て出し切った上での辛勝であった。

 紙一重の差。

 もしもその一重がなければ、敗者となっていたのは丸藤亮だっただろう。

 

(サンキュー吹雪)

 

 敗者となってしまった友人に、宍戸丈は静かにお礼を述べる。

 たしかに吹雪は負けた。しかし亮の手札を存分に曝け出してくれたのだ。

 このI2カップで亮は殆ど自身の手の内を晒してはいない。第一回戦でこそサイコ・ショッカーやキメラテック・フォートレス・ドラゴンを出したが、以後の試合では全て融合やパワー・ボンドを使わず融合サイバー無しで勝利を収めている。

 しかし準決勝だけはそうはいかなかった。

 天上院吹雪はアカデミア最強と名高い丸藤亮をもってしても全てを尽して挑まなければ負け得る強敵だったのである。結果、次の対戦相手である宍戸丈が見ている会場でその全ての力を見せつけてしまった。

 

(今回の大会、俺は持ってる全部を晒して勝利してきた)

 

 第一回戦ではHERO。

 第二回戦では暗黒界。

 第三回戦では超重量級デッキ。

 吹雪や亮と違い、丈はそれなりの数のデッキを使い分けるタイプであるが、実戦レベルで使える三つのデッキの全てはこのI2大会で見せてしまった。三つ使わねば勝てない対戦者ばかりだった。

 実は丈には亮に見せていない四番目のデッキ――――――剣闘獣デッキもあるのだが、最近剣闘獣デッキの根幹を為していたモンスター。剣闘獣ベストロウリィが制限カード指定されてからデッキを調整していなかったので、今回の大会では使用できない。

 

(しかしこれで条件は互角だ。俺はお前のデッキを知り尽くしたし、お前も俺のデッキを知り尽くした)

 

 世の中には知識は疎かであっても、天性の感覚やプレイングセンスを武器にし勝利を収めるデュエリストが多くいる。後に勇名を馳せる事と鳴る遊城十代などはその最たるものだろう。

 しかし丈も吹雪もそういったタイプのデュエリストではなかった。

 天性の引きの強さやプレイングセンスが皆無なのではない。寧ろそこいらの一般人と比べれば遥かに上だろう。しかし二人は天性のものと知識、二つを両立するタイプのデュエリストだ。

 知識をもって相手のデッキを研究し、実戦がどうなるかを頭の中でシミュレートする。そして実戦であるデュエルをシミュレートでの戦いと研究結果を組み合わせ、展開によって手をかえ戦術を変え、臨機応変に対応していく。

 相手の情報を知っているというのは二人にとって間違いなく大きな武器となるっことなのである。

 

(条件は互角だ亮。……これまでの総合戦績は64勝81敗。俺の負け越しだが…………今度は勝つ)

 

 ふとデュエル場から退場する亮と目が合った。

 数瞬にも満たぬ那由多の交差。

 

――――――今度も勝つ。

 

 亮がそう言っている気がしたので、丈もまた挑発気に腕を組んだ。

 こちらこそ負けない。負けてたまらない。負けてやらない。そう伝わるように。

 亮は苦笑したように一瞥すると、そのまま退場していった。

 

(さてと)

 

 丈もまた席を立ちあがる。

 決勝戦は一度30分ほどの休憩を挟んでから始まる。この三十分がただ観客の興奮を一時クールダウンさせるためだけのものではないと丈は理解していた。この時間は最後の調整タイム。今まで見た相手の情報を鑑み、どのようなデッキを使うか。どういう戦術でいくのかを決定するための時間。

 戦いは既に始まっているのだ。

 観客のいない無言で無音で胸の熱くなるようなぶつかり合いもない、ただ相手の思考を読み合う静かなる戦い。

 

(…………俺も、流石にあれを解禁しないと不味いだろうな)

 

 今まで丈は元の世界で禁止カード指定された天使の施しや強欲な壺などのカードを努めて使わないようにしてきた。入試の時は万が一にも不合格になる訳にいかないので投入していたが、アカデミアの実技などでも使った事は一度もない。

 それは丈なりのスポーツマンシップ、亮の言葉に肖ればリスペクトデュエルのような考え方からくるものであったが今回ばかりはそうもいかないだろう。

 相手は使う。途轍もない性能の宝札系カードや強欲な壺などを平然と使う。この世界では禁止カードではないから躊躇わずに使ってくる。

 それに対抗するには自分も本当の意味で全力を尽くすしかない。形振りなど構わずに、己が全てをもって戦うしかないのだ。

 

(俺は今まで躊躇していた)

 

 元の世界、嘗ての自分。この世界に来る前の平穏なる人生。

 この世界でのデュエルは楽しい。デュエルディスクという装置を使ったリアリティーなデュエル。通常授業に組み込まれたデュエルの授業。なにもかもが新鮮で楽しかった。

 だが同時に未練もあった。元の世界の普通の生活、デュエルが日常ではなくただの遊びの範疇であって世界に郷愁にも似た感情を覚えていた。元の世界のルールを律儀にも気にしていたのは、元の世界との繋がりを失いたくないがためだったのだろう。しかしもう迷わない。普通の世界がなんだというのだ。もはやこの世界での常識こそが自分の中の普通だ。

 

「最後は最初と同じように、でいこうか亮」

 

 

 

 

 

『皆さんお任せしまシタ』

 

 準決勝第二試合から三十分が経過した会場に、I2カップの主催者であるI2社名誉会長ペガサス・J・クロフォードの声が響いた。

 いつものMCではなく主催者自らがこうしてマイクで話すのはこれがラストだからだろう。

 

『長かったI2カップもこれでフィニッシュ。エキサイトな時間も遂にエンディングを迎える事となりました。これまでの各試合。本心を暴露してしまえば――――――ワンダフル! 私もこれほど高レベルのデュエルが見えるとは思ってはいませんでした。特にデュエルアカデミアからの参加者である三人のデュエルには思わずデュエリストキングダムにおける遊戯ボーイや城之内ボーイの姿を思い起こしました』

 

 ペガサスの言葉に会場がざわつく。

 デュエルモンスターズの生みの親であり自身も卓越したデュエリストであるペガサスが、アカデミア参加者の三人のことを伝説のデュエリストに例える。これはもう三人のことを認めたといったこととほぼ同義であった。それを知るだけに観客たちの驚きは当然である。

 

『私はこれまで――――――いえ、よしまショウ。この会場に集った全員が望んでいるのは、この私のつまらない長話ではありまセーンッ! 若き新鋭デュエリスト二人における死闘ッ! このI2カップのフィナーレを飾るベリーエキサイトなデュエルなのデース!!』 

 

 ペガサスが語彙を強めると会場もそれに倣う様に盛り上がりを増した。

 選手入場に際して会場内の照明が消える。そして、

 

『紹介しましょう! 無敗の帝王ッ! サイバー流の後継者! 二回戦までのデュエルを危なげなく勝ち進み、準決勝では友であり好敵手でもあった天上院吹雪ボーイを打ち倒してでの決勝戦進出! カイザー、丸藤亮ッ!』

 

 ライトが会場の天井に集まる。観客の視線が一斉にそこへ向くと、そこから一つの影が飛び降りた。影は真っ直ぐに地面へと落下しながらも、衝突の寸前に何らかの装置を使ったのかふわりと体を浮かし、ひたりと華麗に着地してみせた。

 

帝王伝説(レジェント・オブ・カイザー)を打ち立てるべくカイザー亮、天空より降臨デース!!』 

 亮の服装は準決勝までの学校の制服ではなかった。

 上下を黒に統一して、更にそこから真っ黒なコートを羽織っている。コートには節々に赤いラインが入っており、それが黒という地味にも見える色を帝王たるオーラへと変えていた。正史においてプライドを捨てヘルカイザーと堕ちた丸藤亮が纏ったものとほぼ同一のデザインである。

 そして、

 

『天空より帝王が来たらば、地下よりは古の魔王が蘇る。第一回戦から準決勝までを全て異なるデッキで勝利を収めてきた無限のデッキ使い。恐怖神話の体現者、魔王! 宍戸丈ッ!』

 

 会場の床の一部が開くと、そこから一人の人間が現れた。身を包むのは亮と同じ黒を基調した服。されど亮のそれが高貴さと力強さを絶妙に演出したものなのに対し、こちらは殺戮と暴虐を演出したようなものだった。コートに入るラインは赤ではなく対怪物に効果があるとされるシルバー。更にはジャラジャラと銀色の鎖が装飾として上着にはあった。

 魔王と、正にそう称するが相応強い恐怖の戦化粧。

 

「……どうしたんだ、その服装は?」

 

 やや目を白黒させながら亮が尋ねる。

 

「なんだかI2カップ実行委員の人が今の服装じゃ盛り上がりにかけるから着替えろって。抵抗したんだが……相手が黒服黒眼鏡の男十四人だったから、断るに断れなくて」

 

 服装に似合わぬションボリした表情でガクリと丈は肩を落とした。

 亮は同情するように愛想笑いをする。

 

「俺も似たようなものだ。気づけばこの服を押し付けられていた。なんでもペガサス会長の指示らしい。変わった人とは聞いていたが……成程、実感したよ。将来I2社に就職すれば苦労するだろうな」

 

「ま、服装なんて今は気にしても仕方ないか。やることは変わらないんだから」

 

 二人はほぼ同時にデュエルディスクを起動させた。

 そう。服装が普段と違うからといってやることは何一つ変更されていない。目の前の相手に打ち勝つ。打倒する。やるべきことはそれだけだ。

 

『帝王VS魔王! 勝つのは機械の龍と電脳の魔人を従えし無敵の帝王(カイザー)か、暗黒界の住人を従え英雄(HERO)と従属神をも屈服させ配下とした最凶の魔王(サタン)か! I2カップファイナル! 開始デースッ!!』

 

 

 

「「デュエル!」」 


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