宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第49話  牙剥く友情

宍戸丈 LP100 手札5枚

場  

 

丸藤亮 LP1300 手札1枚

場 サイバー・エンド・ドラゴン、人造人間サイコ・ショッカー

 

 

 

 

「俺のターン!」

 

 亮のフィールドにはサイコ・ショッカーとサイバー・エンド。もしもこのターンで何か出来なければ、次のターンで総攻撃を受け丈の敗北が決定するだろう。

 しかし、そうはさせない。

 こんな楽しいデュエルをこんな中途半端で終わらせてやるものか。

 丈は爛々と闘志で瞳を輝かせながら手札のカードを吟味する。

 

「魔法カード、トレード・イン。手札の星8モンスターを墓地に捨てデッキから二枚ドローする」

 

 

 

【トレード・イン】

通常魔法カード

手札からレベル8のモンスターカードを1枚捨てる。

自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

 

 

 一枚捨て二枚ドローするという中々に優秀な効果をもつ手札交換カードであるが、事故要因で余りデッキに大した数が入らない☆8モンスターをコストとされるため採用率の低いカードである。しかし最上級モンスターが山の様に入った丈のデッキは数少ない例外といえた。

 

「俺は堕天使アスモディウスを捨てて二枚ドロー。そして更に貪欲な壺、墓地のモンスター五体をデッキに戻しシャッフル。その後、二枚のカードをドローする」

 

 

 

【貪欲な壺】

通常魔法カード

自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、

デッキに加えてシャッフルする。

その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

 

「……亮、このデュエルは―――――――貰った」

 

「なに!?」

 

『おぉぉぉッと! なんとぉなんとぉなんとぉぉぉぉ! 意外ッ! それは勝利宣言ッ! ここで超劣勢のはずの魔王からまさかの勝利宣言だぁぁぁあ!!』

 

「このカードは通常のドロー以外の方法で手札に加わった時、手札から特殊召喚できる。俺はワタポンを守備表示で召喚」

 

 

【ワタポン】

光属性 ☆1 天使族

攻撃力200

守備力300

このカードが魔法・罠・効果モンスターの効果によって

自分のデッキから手札に加わった場合、

このカードを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 

 

「ワタポン――――――見ないモンスターだな。いや、そういえばキング・オブ・デュエリストの武藤遊戯がデッキに入れてあった事もあったか」

 

 嘗ての大会や試合での記録を欠かさずチェックしている亮はワタポンに見覚えがあったようだ。亮の言う通りワタポンは武藤遊戯のデッキに何度か入り、大活躍とは言わないまでもかなりの数、彼を助けたモンスターである。とはいえクリボーやブラック・マジシャンのようにメインで入っているカードではないのでステータスの低さも相まって値段は抑え目だ。

 丈のデッキも普段ならこのカードを採用する余地はそれほどでもないのだが、自身に課していた制限を解き放ち宝札系カードや強欲な壺などを投入し通常ドロー以外でドローする機会が格段に増えるだろうと予測したからこそ投入をしてみたのだが、上手くかみ合ったようだ。

 

「その通りだ亮。そしてワタポンは俺に勝利の栄光をくれるために召喚されたんだよ。魔法カード、デビルズ・サンチュクアリ、そして冥界の宝札を発動! 更に手札の最上級モンスターを一枚捨てハードアームドラゴンを召喚!」

 

 

 

【ハードアームドラゴン】

地属性 ☆4 ドラゴン族

攻撃力1500

守備力800

このカードは手札のレベル8以上のモンスター1体を墓地へ送り、

手札から特殊召喚する事ができる。

このカードを生贄にして召喚に成功したレベル7以上のモンスターは、

カードの効果では破壊されない。

 

 

 

「召喚しやすい弱小モンスターを使って一度に三体の生贄要因を揃えてきたか!?」

 

「分かるか亮。……だがそれだけじゃない。ハードアームドラゴン、こいつの攻撃力は1500。ギリギリでガジェットを殴り殺せる程度の弱小攻撃力だ。しかし……こいつの真骨頂は生贄にある! こいつは生贄になって初めて真価を発揮する最高の自己犠牲精神に溢れたモンスターだッ!」

 

「生贄になることが真骨頂?」

 

「ハードアームドラゴンを生贄にして召喚された最上級モンスターはカード効果では破壊されなくなる。つまり聖なるバリアも落とし穴も無意味に落ちる訳だ! そして亮なら知ってるだろう。俺のデッキに三体眠る三体を生贄にしてこそ最強効果を発揮するモンスターを! 補足すると俺はまだ通常召喚をしていないッ!」

 

「来るか!」

 

「ああ来る。俺は三体のモンスターを生贄に神獣王バルバロスを召喚ッ!」

 

 

 

【神獣王バルバロス】

地属性 ☆8 獣戦士族

攻撃力3000

守備力1200

このカードは生贄なしで通常召喚する事ができる。

この方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。

また、このカードはモンスター3体を生贄して召喚する事ができる。

この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

 

 

 

 今日何度目かになるか分からないバルバロスの召喚。しかし今回のバルバロスは三体を生贄として召喚されたバルバロス。よってその究極能力が発動する。

 

「冥界の宝札の効果で二枚ドローしバルバロスのモンスター効果、三体を生贄にしてこのモンスターが召喚された時、相手フィールド上のモンスターを全滅させるッ!」

 

 バルバロスの槍が高速回転を始めると、そこに大気中の風が集まりだした。ポォと槍が段々と赤く発光していく。丈はそれを見てゆっくりと手を振り落とし宣言した。

 

「やれ!」

 

 主の命令を受けるとバルバロスが槍に溜めた力を開放し、亮のフィールドに存在する何もかもを問答無用に殲滅した。

 サイバー・エンド・ドラゴンもサイコ・ショッカーも人知を超えた嵐の前には為す術もなく撃破される運命にあった。

 

「これでフィールドはがら空き。バルバロスで相手プレイヤーへ直接攻撃、トルネード・シェイパー!」

 

『丸藤亮、絶体絶命!? モンスターもリバースカードも破壊され彼には為す術がないッ! 長かったI2カップも遂に幕を閉じる! 決勝を制したのは常勝のカイザーではなく無敵の魔王だぁぁぁぁぁぁぁぁぁああッ!』

 

 亮はどこか達観したように小さく笑う。そしてバルバロスの槍が亮の胸を穿つ――――――――その時であった。亮の手がデュエルディスクのスイッチを押す。

 

「この瞬間、俺は墓地のネクロ・ガードナーのモンスター効果を発動。このカードを除外する事でモンスター一体の攻撃を無効化する」

 

「な、なに!?」

 

「残念だったな。こんなこともあろうかと天使の施しで墓地に送っていたのさ」

 

 そう言い亮は墓地に置いてあったネクロ・ガードナーを確認のため見せてから除外ゾーンに置いた。

 

『こ、これは! な、なんという……なんという高次元な戦い! 不詳このMC、丸藤亮が敗北したと早合点しまったようだ。まだ終わらないぞ。まだ熱いデュエルは終わらないぞぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉおぉ! ヒャッハー!!』

 

「本当に一筋縄ではいかない奴だな。俺はカードを二枚セットしターンエンド」

 

 だが、このターンで決着をつける事こそ出来なかったが遂に追い風というものをこちらに持ってくる事の成功した。

 ライフはそのままだが、それ以外はまるっきり最初と逆。追い詰めているのは丈で追い詰められているのが亮だ。

 

「…………俺のターン」

 

 そのことは亮も分かっているので、どこか緊張した面持ちでカードをドローする。そして、

 

「魔法カード発動、二重魔法!」

 

 

 

【二重魔法】

通常魔法カード

手札の魔法カードを1枚捨てる。

相手の墓地から魔法カードを1枚選択し、

自分のカードとして使用する。

 

 

 

「これは賭けだな。俺は融合を墓地に捨て丈の墓地より運命の宝札を自分のカードとして使用する。さて、サイコロの時間だ」

 

 亮がパチンと指を鳴らすとソリッドビジョンのサイコロがクルクルと廻り始める。"運命"の宝札という名が示す通り、このサイコロの出た目が今後の運命をも作用することになるだろう。

 果たして出た目は――――――4。

 

「カードを四枚ドローする」

 

 一枚目、亮の顔は何の反応もない。

 二枚目、亮の顔は鉄仮面のままだ。

 三枚目、亮の顔には無表情があった。

 そして四枚目――――――――丸藤亮は口角を釣り上げて笑った。

 

「やはり運命は俺に微笑をくれているようだ。俺は未来融合-フューチャーフュージョンを発動ッ!」

 

 

 

【未来融合-フューチャーフュージョン】

永続魔法カード

自分の融合デッキに存在する融合モンスター1体をお互いに確認し、

決められた融合素材モンスターを自分のデッキから墓地へ送る。

発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に、確認した融合モンスター1体を

融合召喚扱いとして融合デッキから特殊召喚する。

このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。

そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

 

 

 

「俺は融合デッキに眠るキメラテック・オーバー・ドラゴンを選択ッ! デッキよりサイバー・ドラゴン・ツヴァイ三体、プロト・サイバー・ドラゴン二体、サイバー・ドラゴン一体を墓地へ送る!」

 

「そうきたかッ!」

 

 キメラテック・オーバー・ドラゴンは融合素材としたモンスターの数×800の攻撃力となる上に、融合素材の枚数文だけフィールドのモンスターに攻撃できるという極悪効果をもつモンスターだが、同時に召喚された際に自分フィールドのキメラテック・オーバー・ドラゴンを除く全てのカードを墓地送りにするというデメリットがある。そして未来融合の効果の一節にこのカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する……というものがある。つまり幾ら未来融合でキメラテック・オーバー・ドラゴンを召喚できたとしても、キメラテック・オーバー・ドラゴン自身の効果で自滅してしまうのだ。だがしかしキメラテック・オーバー・ドラゴンはサイバー・ドラゴン+機械族何枚でも、という緩い召喚条件をもつモンスター。未来融合と組み合わせれば墓地に一気に送ることができるのだ。

 

「このカードで雌雄を決することになるのも運命か。俺は墓地の光属性機械族モンスターを全て除外するッ!」

 

「ま、まさかその召喚方法は!?」

 

「俺が除外したのはサイバー・エンド・ドラゴンとサイバー・ドラゴン三体、プロト・サイバー・ドラゴン三体とサイバー・ドラゴン・ツヴァイ三体。そしてサイバー・ジラフだ! その合計は十一! よってその攻撃力は5500ポイントッ! 出でよ、サイバー・エルタニンッ!」

 

 

 

【サイバー・エルタニン】

光属性 ☆10 機械族

攻撃力?

守備力?

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上及び自分の墓地に存在する

機械族・光属性モンスターを全てゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。

このカードの攻撃力・守備力は、このカードの特殊召喚時に

ゲームから除外したモンスターの数×500ポイントになる。

このカードが特殊召喚に成功した時、

このカード以外のフィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て墓地へ送る。

 

 

 

 これが運命だとすれば出来過ぎた運命もあったものだ。 

 よもや宍戸丈が渡したカードが宍戸丈本人を倒すためのカードになるとは。なんとも世界は皮肉に満ち溢れている。

 しかも最悪な事にサイバー・エルタニンは召喚された時、フィールドで表側表示で存在するモンスターを全て墓地に送る効果をもっている。墓地に送る、だ。破壊するではない。ハードアームドラゴンの効果は意味をなさない。バルバロスは墓地に送られた。

 

「サイバー・エルタニンの攻撃、ドラコニス・アセンション!」

 

「トラップ発動、ガード・ブロック! 戦闘ダメージを無効にしカードをドローする」

 

 

 

【ガード・ブロック】

通常罠カード

相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。

その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、

自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

 

「お互い往生際が悪いな。俺はカードを二枚セット、ターンエンドだ」

 

 その時、全ての者が感じた。

 次のターン、次のターンこそが恐らくこの大会で最後のターンであろうことを。

 決着の時は近い。


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