宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第5話   トレードはデュエリストの魂の会話ナリ

「お、おジャマトリオー。じゃなくてお邪魔しまーす」

 

 未来でカイザーとか呼ばれる男の家。きっと家も色々カイザーちっくなのだろうと勝手に想像していたが、そんな丈の予想は良い意味で裏切られた。

 一言で言えば普通である。

 広大な庭付きの大豪邸でも河川敷のプレハブ小屋でもなく、普通の一軒家だ。強いて言えば多少他の家よりも立派だがそれだけだ。

 幾らカイザーだ何だと言われようと亮は普通の"丸藤亮"という人間でしかない。そのことをこんなことで思い知った。

 

「どうした、上がらないのか?」

 

「と、悪い悪い」

 

 靴を抜いて上がる。

 両親がいないというのは本当らしく、他に人の気配はなかった。何気なく玄関へ目を落とすと、サイズ的に亮のものとは思えない子供の靴に目が留まる。

 

「亮、これ?」

 

「それは弟の靴だよ。この時間だから……たぶん近所の友達の家にでも行ってるんだろう」

 

 亮の弟といえば一人しかいない。

 GX時代には主人公遊城十代の弟分になる丸藤翔だ。

 

「ここが俺の部屋だ。多少散らかってるが」

 

「いや、これが散らかってるなら俺の部屋なんてゴミ山だって」

 

 亮の部屋は本人がマメな性格なのか綺麗に整理整頓されていた。床にはゴミ屑一つとしてなく、本は乱れなく整然と並んでいる。ただ本人が質素なせいか飾り気のようなものはなく、多少寂しいものだった。 丈は自分の部屋を思い出す。自分の部屋は年がら年中教科書やら漫画本やらが散らばっていて歩く隙間もないほどである。亮の部屋と比べれば月とスッポンだ。

 丈は勉強机にある「算数6」という教科書を見て、亮が自分と同じ学年であることを察した。

 

「ところでカードは何処にあるんだ?」

 

 丈は早速本題を切り出す。

 見た限りこの部屋にカードのようなものはない。亮ほどのデュエリストがまさかデッキの40枚分しかカードを持ってないなんて事はないだろう。どんなデュエリストでもちょくちょくパックを買っていれば軽くカード枚数が1000枚は突破しているものだ。だがこの部屋にカードの影はない。

 

「それならこっちの部屋だ。着いてきてくれ」

 

「?」

 

 亮の先導に従い本棚の横にあるドアを潜る。

 するとそこは別世界だった。

 

「―――――――――っ」

 

 丈は余りの光景に驚き、あんぐりと大きく口が開いて呆然とする。言葉も上手く出ないとはこのことだ。部屋の中にある部屋。そこはデュエルモンスターズのデュエルモンスターズによるデュエルモンスターズのためだけの部屋だった。

 部屋中に所狭しと並んでいるカードの数々。全て亮のカードなのだろう。

 サイバー流後継者の証明のためか、壁の真ん中にはサイバー・エンド・ドラゴンが描かれた掛け軸があった。

 丈は自分の認識が甘かったことを自覚する。やはり原作キャラは部屋も常識外れだ。

 

「す、凄いなコレ」

 

「数は大したものじゃない。俺以上にカードを持ってるデュエリストなんて幾らでもいる」

 

「それはそうだけど……俺のカードなんて輪ゴムで止めて引き出しに放置したままだし。レアカードとかデッキは流石にしっかり閉まってるけど。ってコレかなりのレアカードじゃん!」

 

 丈の目がある一枚のカードに釘づけになる。

 そのカードは混沌の黒魔術師。元の世界ではその強力さから禁止カードにまでなったレアカードであり、この世界では武藤遊戯のデッキに入っているということもあり超高級品だ。

 

「どうしたんだよ、こんなカード?」

 

「偶然当たったんだ。といっても俺のデッキには入れられないから宝の持ち腐れになってしまってるが。そうだ、俺のデッキを見てくれないか?」

 

「えっ、デッキを?」

 

「実はまだサイバー流道場から帰ったばかりでな。まだデッキ構築が十全じゃないんだ。俺なりに考えて作ったデッキだが、他の誰かの意見も聞きたい」

 

「あっ、それじゃあ俺のデッキも」

 

 丈も自分のデッキを取り出す。

 これはついさっきカードショップで補強したカードを投入し、完成したばかりのデッキだ。しかし亮には負けてしまったので、まだまだ改良の余地がある。

 お互いのデッキを交換すると、丈は亮のデッキをじっくりと見る。サイバー流というだけあり、サイバーと名がつく機械族モンスターを多く投入したデッキだ。サイバー・ドラゴンとプロト・サイバー・ドラゴンは当然のように三積み。パワー・ボンドの三積みだ。

 融合デッキには切り札であるサイバー・エンド・ドラゴンを始めサイバー・ツイン・ドラゴン、キメラテック・オーバー・ドラゴン、キメラテック・フォートレス・ドラゴンなどなど。

 

「どうだ俺のデッキは?」

 

「いいと思うよ。だけどパワー・ボンド三積みはまだしも、融合まで三積みしてるのはやり過ぎじゃないか。確かにこのデッキのメインはサイバー・ドラゴンの融合体だけど、オーバー・ロード・フュージョンやサイバネティック・フュージョン・サポートも入ってるし、融合カードは一枚か二枚にしておいたらどうかな」

 

「フム、一理あるな。しかしそれだと火力が下がらないか? 俺のデッキは如何に素早く融合モンスターを召喚するかにある。融合が減る分、融合モンスターを召喚できる機会が落ちるかもしれない」

 

「幸い亮のデッキは機械族ばかりだから、一族の結束を使って攻撃力を上昇させ……あ、でもキメラテック・オーバー・ドラゴンとは相性が悪いな。機械族は優秀なモンスターも多いし、サイバー・ドラゴン系列以外の機械族上級モンスターを入れるとかどうだろ。最上級モンスターは重すぎるけど、上級モンスターくらいなら入れる余地はあるし。逆に火力を捨てて三色ガジェットの投入で安定率を上げるとか」

 

「上級モンスターか。機械族上級モンスターとなるとサイバティック・ワイバーンが通常モンスターでは最高値か」

 

「他にも罠封じのサイコショッカーや魔法封じのマジックキャンセラーもあるぞ。でもマジック・キャンセラーは☆5で攻撃力が1800しかないからな。でもサイコ・ショッカー辺りは結構良いと思うけど」

 

 シンクロ召喚やエクシーズが跋扈した丈の世界はまだしも、この世界のこの時代にはまだシンクロのシの字もない世界だ。攻撃力2400で罠を封じれる効果はかなり強力だ。特にカウンター罠を多用する丈のデッキだとサイコ・ショッカーは天敵といえる。防ぐ方法が神の宣告くらいしかない。

 

「サイコ・ショッカーはいいカードだが……俺はそのカードを持ってない」

 

 

「俺、持ってるから交換しないか? カイザー……じゃなくて亮、バルバロス持ってない? 俺二枚しかないんだよ」

 

「バルバロスか。たしか前に当てた記憶がある」

 

「決まりだな。今デッキしか持ってきてないから、一走り家からカード取って来るよ」

 

「……頼む」

 

 丈はそう言うと、自宅に置いてきたカードを取りに急ぎ足で戻る。

 もし自分の脳味噌が腐ってなければサイコ・ショッカーのカードがある筈だ。前にパックを買って当てた記憶がある。

 十数分後。

 亮の家に戻ってくると、大きなバックの中に入ったカードを床に置いた。

 

「お前もかなりのカードを持ってるじゃないか。……ふむふむ、珍しいカードもあるようだ」

 

 亮が持ってきたカードを見ながら時には頷き、時には真剣な目でカードを眺める。

 デュエルモンスターズの醍醐味はデュエルだが、こうしてデッキを作る為に頭を捻らせたりするのも楽しいものだ。誰かと一緒にああでもないこうでもないと議論するのは更に良い。

 

「ほい、サイコ・ショッカー」

 

「俺も、バルバロスを」

 

 持ってきたカードの中から人造人間サイコ・ショッカーのカードを亮に渡す。すると亮も神獣王バルバロスのカードを渡してきた。

 

「トレード成立っと。そういや、俺のデッキはどうだった?」

 

「冥界の宝札を最大限活かすために最上級モンスターを多用するのは分かるが、流石にデッキに最上級モンスターだけしか入れないのはやり過ぎだ」

 

「やっぱ、そう思う?」

 

 丈は今まで安上がりで仕上がる低級モンスター中心デッキばかり使っていたので、その鬱憤を晴らすため純最上級モンスターデッキというエキスパートルールに喧嘩を売るようなデッキを構築してみたのだが、流石に下級モンスターゼロだとバランスが悪かったようだ。当たり前である。

 

「別に普通のデッキのように十枚以上もの下級モンスターを採用する必要はないが、三枚か四枚ほどは要れた方が良いだろう。トークンだけでは限界がある」

 

「むむむ……下級モンスターか。安かったから使えそうな奴は集めたんだけど……。蘇生能力がある黄泉ガエルなんかは魔法・罠ゾーンにカードがない状態じゃないと蘇生できないから採用できないからな」

 

「そこで、このカードだ」

 

「あぁ、それってレベル・スティーラー?」

 

 

 

【レベル・スティーラー】

闇属性 ☆1 昆虫族

攻撃力600

守備力0

このカードが墓地に存在する場合、自分フィールド上に表側表示で存在する

レベル5以上のモンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターのレベルを1つ下げ、このカードを墓地から特殊召喚する。

このカードはアドバンス召喚以外のためにはリリースできない。

 

 

 

「こいつを墓地へ送っておけば、レベル5以上のモンスターがフィールドにいる限り、何体でも蘇生できる。更にはこのカードだ」

 

 

 

【メタル・リフレクト・スライム】

永続罠カード

このカードは発動後モンスターカード(水族・水・星10・攻0/守3000)となり、

自分のモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。

このカードは攻撃する事ができない。(このカードは罠カードとしても扱う)

 

 

 

「レベル10の罠モンスター、メタル・リフレクト・スライムか」

 

 原作ではマリクの使用していたカードだ。

 その時はOCG効果と違っていたのだが、この時代にはもうOCG効果になったらしい。

 亮はメタル・リフレクト・スライムのカードを見せながら言葉を続ける。

 

「レベル10だから単純計算でレベル・スティーラーを六回蘇生させることが可能だ。しかも墓地に三体のレベル・スティーラーがいて場にメタル・リフレクト・スライムが伏せられいた場合、即座に三体の生贄要因を確保しバルバロスの全体破壊能力へ繋げることが出来る」

 

「おおっ! 良し、入れよう!」

 

 レベル・スティーラーなら前にカードショップで売られていたので購入済みだ。あの時は何気なく買っただけだったが、まさかこうして役立つ日がくるとは。 

 丈はカードの束から三枚のレベル・スティーラーを抜きデッキへ入れる。これでデッキ枚数は新しく貰ったバルバロスも合わせて44枚。今度、きっかり40枚になるよう調整しなければいけないだろう。

 

「だけどメタル・リフレクト・スライムは一枚しかないな。亮、何枚持ってる? 交換してくれない」

 

「四枚だ。……特に俺は使う予定はないし、トレードは構わないぞ」

 

「サンキュー。ええとじゃあ」

 

 こちらがデッキに必要なカードを貰うのだ。ならこっちも亮のデッキに必要そうなカードを交換するべきだろう。

 カードの束から亮のデッキに合いそうなカードを探し、交換には超絶好のカードを見つけた。

 

「これなんか、どうだ? サイバー・ドラゴン・ツヴァイ、俺は三枚持ってるけどサイバー・ドラゴンの方は一枚もないし、サイバー・ドラゴンの融合モンスターも一枚もないから意味ないけど、お前のデッキなら必須だろ」

 

「サイバー・ドラゴン・ツヴァイ!? 見せてくれ!」

 

 亮は驚いたようにサイバー・ドラゴン・ツヴァイを凝視する。目はメラメラと燃えていて真剣そのものだ。やはりサイバー・ドラゴン系列のカードには目が無いのだろう。

 

「墓地ではサイバー・ドラゴンとして扱い、相手に手札の魔法カードを見せることでサイバー・ドラゴンとして扱うカードか。これがあればサイバー・エンドへ繋げるのが更に楽になる。是非、交換してくれ!」

 

「交渉成立だな、ほいツヴァイ三体」

 

「ありがとう」

 

 笑いながらお礼を言う亮。

 ここまで喜ばれると丈としても交換した甲斐があったというものだ。サイバー・ドラゴン・ツヴァイも丈の下で他のカードと共に埋もれているよりも、サイバー流の継承者である亮のデッキにいた方が幸せだろう。

 

「それと丈、一つ気になったんだが」

 

「ん?」

 

「どうして強欲な壺が入ってないんだ。お前のデッキには冥界の宝札というドローソースはあるが、それでも強欲な壺の汎用性は捨て難いだろう。強欲な壺が入っていないデッキはデッキではない、という格言もある」

 

「あぁー」

 

 そういえばこの世界ではドローカードの代名詞ともいえる強欲な壺は禁止カードではなく制限カードだった。つい元の世界でのカードプールが抜けきってないのか、ついつい天使の施しや強欲な壺なんていうカードを無意識に抜いていてしまっていたが、この際入れてみるのも良いかもしれない。

 亮の言う通り冥界の宝札というドローソースがあるとはいえ、ほぼ確実に手札に+1できる強欲な壺はかなり魅力的だ。天使の施しは強欲な壺と違って手札が+1される訳ではないが、三枚ドローによるデッキ圧縮と二枚捨てる墓地肥やしを行えるのは強力だ。

 

(うーん、強欲な壺はまだしも苦渋の選択とかはなぁ。かなりの壊れカードだし、入れると色々アレだし。だけど原作キャラのチートドローは凄いわけで……)

 

 壺と天使を入れるくらいは元の世界のOCGファンも許してくれるだろう。そう願いたい。他にも強力なドローソースと鳴りうるメタモルポットでも入れようと密かに決意してから、カードの束から強欲な壺と天使の施しを取り出してデッキに入れる。

 と、その時。唐突にドアが開いた。

 

「お兄さん、帰ってたんスか。……あれ、そっちの人は?」

 

 亮よりも年下の、眼鏡をかけた少年が丈のことを見て首をかしげる。

 お兄さん、という第一声からして間違いなく彼が亮の弟の丸藤翔だろう。

 

「彼は宍戸丈、俺の友人だよ。カードについて話をしていたんだ。丈、紹介しよう。俺の弟の翔だ」

 

「宜しく、あー翔くん」

 

「こ、こっちこそ丸藤翔っス! お兄さんの弟やってるっス!」

 

 知らない人間と会った緊張からか、ややしどろもどろに翔が挨拶をしてきた。 

 うん。口調といい髪形といい確実に自分の知る丸藤翔だ。使用デッキはビークロイドを中心としたものだったはず。

 

「弟さんが帰ってきたみたいだし、俺ももう帰るよ」

 

 良く見ればもう五時だった。

 中高生ならまだしも今の自分は小学六年生。暗くなったら帰らなければならない。

 

「そうか。また今度デュエルをしよう。お互いに調整し直したデッキで」

 

「喜んで。次は勝つからな」

 

「フ、次も勝ってみせるさ」

 

 最初は原作キャラだと思って馬鹿みたいに身構えてしまったが、実際に話してみると自分と何も変わらないただの人間で安心した。

 丈は亮と次のデュエルの約束をしてから自宅へと戻っていった。


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