宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第51話  サティスファクション

第51話  サティスファクション

 

 

 

 

「ふぅん、宍戸丈か」

 

 デュエルモンスターズ界においてはI2社に次ぐほどの権威をもつ企業、海馬コーポレーションの社長である青年。海馬瀬人はロシアでの会議の合間に、日本で開催されたデュエル大会の実況中継を見ていた。

 デュエルモンスターズを生み出した大本であるインダストリアル・イリュージョン社とデュエルディスクを開発した海馬コーポレーションの縁は深い。実は嘗てペガサスが開催したデュエリスト王国では海馬の弟である木馬を巡って、簡単には言いつくせないほどの事があったのだが、今は海馬も過去のことと水に流している。

 憎しみだけでは、憎悪だけでは勝てない。

 彼はそのことを永劫忘れ得ることのできぬ好敵手とのデュエルを通じて学んでいた。ペガサスを憎むのは容易い。しかしペガサスを憎んでI2社と敵対して、一体どんなメリットがあるというのか。個人的感情を抜きにして考えれば、海馬コーポレーションにとってI2社というのは倒すべき敵ではなく、寧ろ肩を並べるべき相手だ。ならば海馬コーポレーション総帥である海馬がすべきことは、ペガサスへの個人的恨みを叩きつけるのではなく、ペガサスの自分に対する負い目を最大限利用して自社の利益にすることである。

 そんなペガサスが今度は日本で中々に規模のデカいデュエル大会を開催するというのが耳に入ったのはつい数か月前のことだ。I2社の本社があるアメリカは兎も角、日本においてはI2社よりも海馬コーポレーションの方が力が強い。そのため幾らデュエルモンスターズの生みの親であったとしても、日本で大会を開く以上、海馬コーポレーションに一度話を通さなければいけないのだ。ペガサスの方はどうやら社長である海馬にも大会に出場して欲しかったようだが、海馬には絶対に外せない会議があったので出資者として名を連ねることを確約してから『丁重』に断った。

 インダストリアル・イリュージョン・カップ。略してI2カップ。

 世界各地の名だたるデュエリストを招いての一大デュエル大会。そこに自分がオーナーを務めるデュエルアカデミア、しかも中等部から三人もの生徒が参加すると聞いた時は流石に海馬瀬人をもってしても流石に驚いた。

 情報によるとその三人は中等部の中でも最優秀、特待生に類する生徒であり成績も非常に優秀ということらしい。しかしそれは中学生レベルでの話である。確かにデュエリスト養成名門校であるデュエルアカデミア中等部で特待生とくれば同年代相手なら負けなしだろう。だが中学生レベルで世界レベルに勝てる筈もない。

 I2カップに参加するのは元日本チャンプ、元全米チャンプなど。名だたる物が勢ぞろいしている。ランキングトップ3に入るプロでも一勝あげるのが難しいような大会、それを中学生が勝ちぬけるものかと思っていた。

 その予想は良い意味で覆せる。

 I2カップに参加した三人は次々に対戦者を撃破。仕舞いにはベスト4のうち三人が中学生という前代未聞の事態まで引き起こしてしまった。

 最終的に優勝したのは宍戸丈という少年。こんな結果は誰も予想しなかったであろう。いや或いはこの大会を開催した張本人であるペガサスはもしかしたら。

 海馬はTV画面で勝利の余韻に震える少年をニヤリと見ながらフッと笑った。

 

「先ずは褒めてやろう。だが貴様のデュエル道は未だ始まったばかり。一度大会で優勝するくらいなら、どこぞの凡骨デュエリストにでも出来る。もしも貴様が違うというのなら上がってくる事だ」

 

 やや棘があるものの、それは紛れもない賞賛の言葉だった。

 プライドが高い孤高の男、海馬瀬人が他者を褒めるというのは滅多にない。その滅多にない賞賛を引き出したことは、TVの向こうで無邪気に笑う宍戸丈にとって幸運なのか不幸なのか。

 それを知る者は誰もいなかった。

 

 

 

 

「凄ぇ」

 

 自宅のTVの前で、少年は呆然と呟いた。ただ凄い。それ以外に上手い言葉が見つからない。生粋のデュエル馬鹿である彼は今までプロのデュエルは山ほど見てきたが、このI2カップはなにもかもが別格だった。

 次々に召喚される最上級モンスター。それを次々と最上級モンスターを召喚して撃破していく対戦者。そしてなによりぶつかり合う魂。

 見ているだけで胸が熱くなり、自宅観戦だというのに声をあげて応援してしまった。

 

(ホントに凄ぇ! 俺もああやってあんな場所でデュエルしてみてぇ!)

 

 想像してみる。I2カップのような規模の大きいデュエル大会に出場する自分。立ち塞がる強敵。繰り広げられる熱いデュエル。

 そして決勝戦。顔のない好敵手が少年の中にイメージされる。

 

『ここまで勝ち上がって来た事は褒めてやろう。だが優勝するのはこの俺だ! お前では俺に勝てない』

 

『へへへへっ。それはどうかな。デュエルっていうのは最後の最後、敗北が決まるまで勝負は分からないものだろ。俺の仲間たちの力、お前にも見せてやるぜ!』

 

 会場中から降り注ぐ歓声と熱狂。世界の中心のようなその場所で強敵とデュエルする自分。

 

「くぅー! 滅茶苦茶楽しそうじゃんか! やりてぇー! デュエルしてぇー! ああもうこうしちゃいられねえ!」

 

 思い立ったが吉日。少年は自分のデッキをデュエルディスクに装着する。この時間ならまだ公園には人がいるだろう。そこでデュエルディスクをつけている人に声を掛ければデュエルできるはずだ。

 

(そういや、デュエルアカデミアの生徒とかいったよな……決勝で戦ってた二人)

 

 記憶が正しければデュエルアカデミアというのは海馬コーポレーションがオーナーを務めるデュエリスト養成の名門校であったはずだ。

 もしもあそこに入れば、今まで戦った事のないような強いデュエリストと戦うことが出来るのだろうか。

 少年は最後にTVの向こうにいる優勝者に、右手の指を二本だけ立ててバシッと指さす。

 

「ガッチャ! 俺は見てただけだけど楽しいデュエルだったぜ!」

 

 少年――――遊城十代は使い古されたデュエルディスクを装着して公園に行く。

 彼はまだ知らない。自分がこれから様々な強敵と命懸けのデュエルを繰り広げることになることを。未来において伝説のHERO使いとまで称された遊城十代はこの時まだ中学一年生であった。

 

 

 

 

 つい先ほどまでデュエルが繰り広げられた会場は、一転して表彰式の場となっていた。その真ん中にある表彰台の上で優勝者である丈は、気恥ずかしさでほんのり赤面しながら、こちらに向いているカメラにむけて精一杯の笑顔を浮かべてみせた。

 

(俺……勝ったんだよな)

 

 丈は心の中で自問する。

 こうして表彰台の上にたっていながら、未だに自分がここでこうしていることが信じられない。出来の良い夢なのではないかと、一瞬そう思うことすらある。しかし抓った頬の痛みがこれが紛れもないリアルであることを教えてくれていた。

 

『熱いデュエルを、そして感動をありがとうッッ! 参加したデュエリストの諸君ッ! 私は今、猛烈に感動しているーッ! 三位、天上院吹雪! 二位、丸藤亮。そして栄えある第一回I2カップの優勝者は魔王宍戸丈ォ!!』

 

 吹雪と同じでベスト4になったレベッカの姿はここにはない。なんでも優勝カップ以外に興味はないと言って、丈に負けるや否やアメリカに帰国してしまったらしい。そのため決勝戦の前に予定されていた三位決定戦は中止。吹雪が三位になることとなった。これには本人も少しばかり不満そうで「出来ればあの子とデュエルしてみたかった」と漏らしていた。

 一応丈から紆余曲折あってメルアドを交換していたレベッカにその旨を伝えておいたのだが、大学の研究を無理いって休んでの来日だったため、冗談抜きで時間がないようだった。天才も天才で色々と大変なのだろう。

 

『それではインダストリアル・イリュージョン社名誉会長! ペガサス・J・クロフォードから優勝者に優勝カップが手渡されます!』

 

 長い銀髪の青年、ペガサスが柔和な笑みを浮かべながら黄金色に輝く優勝カップを丈に差し出してくる。丈はしっかりとそのカップを受け取った。ずっしりとくる重さが腕と心に響く。これが優勝の重みなのかと実感した。

 

「素晴らしいデュエルでした。ベリーベリーマッチ。私もまるで童心に帰った様にハラハラと観戦していましたよ。宍戸ボーイ、そして丸藤ボーイや吹雪ボーイも。君達三人のこれからに期待しマース」

 

 ペガサスが左手をすっと差し出してくる

 

「有難うございます、ペガサス会長」

 

 丈はがっしりとその手を握り返す。

 強くは握られなかったが、力強い手だ。この手で一体どれほどのデュエルモンスターズのカードを生み出してきたのだろうか、この人は。そして、どれだけの夢を人々の与えてきたのだろうか。デュエリストとしてではなく人間として、ペガサス・J・クロフォードという人間を凄いと思った。

 

「大会規定通りI2カップ優勝者には賞金500万円と大会オリジナルパック300パックを贈呈しマース。二位の丸藤ボーイには賞金100万円と100パック。吹雪ボーイには賞金30万円と50パック。残念ながらここにはいませんが、四位のレベッカガールには賞金1万円と9パックをプレゼントデース! 大会オリジナルパックの中にはまだ一般には出回っていないカードが一足……いえ三足くらい早く入ってマース! それらのカードを使ってよりエキサイティングなデュエルをレッツプレイデース!」

 

 そういえば丈はすっかり賞金の事を忘れていた。

 500万円と大会オリジナルパック300パック。余り裕福とはいえない学生の身からしたら有り難すぎる賞品だ。I2カップに参加して本当に良かった。

 そんな丈を見て亮が苦笑する。

 

「なんだよ?」

 

「いや。お前らしいと思ってな。それよりまだ出回っていないカードか。パックの封を切るのが楽しみだ」

 

 出回っていない=強力なカードということはないだろうが、それでも珍しいカードというのは間違いないだろう。丈も亮と同じで一体どんなカードが入っているのか楽しみでならなかった。

 

「それと最後に私から優勝者である宍戸ボーイにサプライズプレゼントデース。チラシの優勝賞金の欄に一つだけ???とあったのを覚えているでしょうか。そのシークレットを今こそ明かします。私から宍戸ボーイにプレゼントするカードはこれデース!」

 

 会場中の観客やカメラにも見えるようペガサスがそのカードを頭上に翳す。ライトに照らされてそのカードの絵柄が丈の視界に飛び込んでくる。

 全体的に青を基調とした甲冑。やや歪に曲がった剣。 

 そのカードの名を丈は知っていた。この世界において、そして前の世界においても超が三つはつくレアカードであったそれ。

 

「か、カオス・ソルジャー -開闢の使者-」

 

 恐る恐る呟く。

 テキストは英語で記されているが間違いない。それはデュエルモンスターズ界でも最強と名高き剣士。カオス・ソルジャーであった。

 

「Yes! 余りにも強すぎる性能だったためブルーアイズと同じく4枚しか生産されなかったベリー・ウルトラ・レアカードです。いえ正確なレアリティはアルティメットレアですが。私も持っている事を実際に確認できたのは遊戯ボーイともう一人だけデース。そして準優勝者の丸藤ボーイにはカオス・ソルジャーと対を為す混沌帝龍 -終焉の使者-をプレゼントでーす。こちらは既に禁止カード指定されているので友人との私的なデュエル以外では使わないで下さい。そして吹雪ボーイにはカオス・ソーサラーです」

 

 丈達にペガサスが一枚づつカオスモンスターを手渡してくる。しかし最高の喜びと共にカードを受け取った丈と違い、禁止カードやそれほど高価でもないカードを受け取った亮と吹雪は難しい顔をしていた。

 

「…………ん?」

 

 ふと受け取った開闢の使者の裏にメモのようなものが張り付けられているのを見つける。どうやらそれは吹雪や亮も同じようで、驚きから目をぱちくりしていた。

 確認をとるためにペガサスの顔を見ると、彼は片方の目をぱちっとウィンクしただけだった。ここでは答える気はないと言う意思表示だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――大祭が終わり、大災が開闢する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、俺達の満足はこれからだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued……


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