第52話 邪神イレイザー
渡されたペガサスのメモには大会終了後、大会実行委員特別VIPルームに来て欲しいという旨が記されていた。
特徴的な口調で書かれたそのメモは恐らくペガサス会長直筆のものだろう。
丈も亮達もどうしてペガサス会長が自分達を呼んでいるかは検討はつかなかったが相手はデュエルモンスターズ界のドンだ。ペガサス会長と実際に話す機会だって今後もあるかどうか分からないのだ。
半信半疑ながらメモに従うことにした。
「失礼します。宍戸丈とその他二人入ります」
「誰がその他だ」
「僕をその他扱いなんて酷いねぇ」
二人の文句をさらりと受け流しつつVIPルームに入室した。
VIPルームというのは伊達ではなく部屋の内装は非常に良いものだった。特に豪華というわけではないが、ひっそり飾られた花の一つをとってもどことなく気品のようなものが漂っている。
窓際には本人の趣味を現しているかのようにアメコミヒーローのフィギアが飾られていた。もしこれが海馬社長の部屋だったならばブルーアイズの石造でも飾られていただろう。
「ようこそ宍戸ボーイ、丸藤ボーイ、吹雪ボーイ。わざわざ来て貰ってベリーソーリー。表彰式でも言いましたがエキサイティングなデュエルをどーもデース」
「いえいえ。こちらこそ、こうしてペガサス会長に呼ばれるなんて光栄です」
一番他人とのコミニュケーションの匠な吹雪がにこやかにそう返しつつペガサス会長と握手をする。丈たちも慌ててそれに倣った。
丈にしろ亮にしろデュエルばっかでこういった方面では吹雪には及ばないことを痛感する。流石はデュエルアカデミア中等部が誇る合コンのエースだ。
「ペガサス会長。どうして俺達をここに呼んだのか教えてくれませんか。閉会式の最中には出来ない様な話のようですし」
丁寧に亮が質問した。
ペガサスの顔が強張る。先程まであった陽気なキャラは消え失せ、嘗て千年アイテムを担いデュエルモンスターズを生み出したデュエリストの表情を覗かせた。
三人は息をのむ。どれだけ普段は陽気でコミカルな人間でいようとペガサス・J・クロフォードは間違いなく伝説のデュエリストの一人なのだ。
カードそのものを創造した彼のデュエリストとしての器は確実に三人より高みにあるだろう。
「三人とも。……私がこれからするのは今後の世界を左右しかねない話デース。なのでユー達には『聞かない』という選択肢を選ぶ権利があります。無論、話を聞いたからといって選択を強制はしません。が、話を聞いたその時から『運命』というブラックホールは貴方達の運命をも飲みこむ……そういう覚悟をもって下さい」
つばを飲み込む。片方だけのペガサスの瞳は至って真剣そのものだ。世界を左右する。彼がこう言うのだ。決して嘘でもジョークでもないだろう。
唾を飲み込む。恐れがないといえば嘘になるだろう。だが、
「聞かせて下さい」
三人を代表して亮が真っ直ぐに目を見返していった。ペガサスはふっと微笑むとソファに座るよう三人を促す。
「念のための確認デース。ユー達は神のカードというのはご存知ですね?」
「はい。当然です」
「デュエリストとしての常識ですよ」
「テストにも出ました」
古代エジプトで選ばれたファラオのみが操るとされる三体の神。デュエルモンスターズの神そのものというべきモンスター、それが三幻神だ。
神のカードはラーの翼神竜を最高神にその後にオシリスの天空竜とオベリスクの巨神兵が続く形だ。デュエルアカデミア高等部の寮にも三幻神の名が充てられており、トップ寮から順にオベリスク・ブルー、ラー・イエロー、オシリス・レッドとなっている。
最高神のラーよりオベリスクの方が上の寮に設定されているのは、デュエルアカデミアオーナーの海馬社長が使役した神のカードがオベリスクだからだろう。相変わらず自分のカードを依怙贔屓する人だ。
その力は正に神そのもの。通常のモンスターとは一線を画す最強のカードだ。
現在の所有者はデュエルキングである武藤遊戯。現在武藤遊戯は旅に出ているそうなのでここ数年で神のカードの実物を見た人はいないという話だ。ただ丈は前世での記憶と亮から貸して貰ったDVDで神のカードがデュエルで使われる光景を見た事がある。
ちなみに余談だが現実世界では何故かラーのみOCG化されていない。え? とっくにされてる? いやあれはラーじゃなくてオーですから。ライフちゅうちゅうギガントですから。
「OK。ユーたちも知っての通り三幻神はゲームバランスを崩壊させかねないほどの強力なカード。また所有者を選び、相応しくない者が使役しようとすれば天罰を下すと言われていマース」
「カードが天罰を?」
やや信じ難そうに吹雪が眉をひそめる。
大切にしているカードに精霊が宿る、というのはデュエリストなら誰もが知るお伽噺だ。だからというわけではないが吹雪も亮もカードのことはなによりも大切にしている。もしかしたら自分以上に。
そんな二人でもカードが天罰を下すなどというのは信じ難いのだろう。
だが亮はふっとなにかを思い出したかのように目を見開くと。
「……そういえば、鮫島師範から聞いた事があります。デュエルモンスターズ界には強力な魔力を秘めたカードが存在すると」
「Yes。インダストリアル・イリュージョン社会長として、デュエルモンスターズを生み出した者として断言しましょう。そういうカードは実在しマース。そして神のカードはそういったカードの中でも頂点に位置するカードです。
私が今日皆さんをここへ呼んだのは神のカードにまつわることで、重大なアクシデントが発生したからなのデース」
「アクシデント?」
神のカードを管理しているのは他ならぬ武藤遊戯だ。この世界でも史上最強とすらいっていいデュエリストである。
そんなデュエリストが管理している神のカードに問題など発生するのだろうか。
「三枚の神のカードは謂わば光の存在。しかし光があれば影が出来るもの。嘗て私はこの世に神のカードを生み出しましたが、その余りの強力さに恐怖し、神のカードに対抗するため神に対応した闇の神を新たに創造したのデース。
我ながら愚かなものデース。力に対して力で抑えようとしても意味のないことだというのに。私はなにかに憑りつかれたかのように三幻神に対する闇の神、三邪神を創ろうとした」
「創ろうとした? というと実際には創らなかったと」
静かに尋ねる亮だが三幻神に匹敵する『三邪神』の存在などを聞かされ汗が滲んでいた。
「はい。創る途中で三幻神をも超える禍々しさをもった神の誕生に恐怖し、私は三邪神の創造を取りやめ。邪神のイメージは私の邸宅にある金庫に封印したのデース。もはや二度と日の下に出ることがないよう。
しかしその封印が破られてしまったのデース。新しいリーダーのもと新たに再結集し復活したネオ・グールズによって」
「っ!?」
今度こそ驚愕する。ネオ・グールズ、それは丈たちが大会参加前に戦った事もある組織だ。そして武藤遊戯などの活躍により滅んだはずのデュエルマフィア。
レアカードの強奪、偽装、コピー、賞金稼ぎ、闇デュエルの主催。全盛期はそれらデュエルモンスターズ界のあらゆる悪行に影で関わっていたという。
「ネオ・グールズは私の邸宅から強奪した邪神のデータを使い、インダストリアル・イリュージョン社の社員を脅して三邪神を創造させてしまったのデース。
幸い追跡の最中一枚だけ……邪神イレイザーのカードだけは奪還することができましたが、残り二枚はネオ・グールズの手に」
「三枚中二枚がグールズって」
奇しくもその構図はバトルシティトーナメントと同じだ。あの時も最初にグールズは二枚のカードをもっていて、残る一枚のオベリスクが海馬瀬人の手にあった。
そうして戦いの中、神のカードは持ち主をかえながら武藤遊戯――――名もなきファラオのもとに集まったのである。
「お見せしましょう、これが邪神イレイザーのカードデース」
ペガサスが銀色のスーツケースをもってくる。厳重そうなロックとなにか良からぬ力を感じる鎖で封印が施されていた。
鍵を回しスーツケースを開くと納められていたのは英語でかかれた邪神のカード。
「私がこうしてI2カップを開催した真の目的をお話ししましょう。邪神は生み出すべきではなかったカード。しかし生まれてしまったのならば相応しいデュエリストが担わなければなりません。
最初、私は残った一枚の邪神を遊戯ボーイに渡そうとしました。しかし遊戯ボーイは連絡がつかず、海馬ボーイは取り合って貰えませんでした。
しかしある意味でそれは必然だったのデース。カードとデュエリストは互いに惹かれあうもの。邪神を担うべきは嘗ての伝説ではなく、今羽ばたこうとするデュエリストではないか。邪神を見た私はそう思ったのデース。
ユーたちもお気づきでしょう。あの大会にはレベッカガールや羽蛾ボーイなど以前にチャンピオンにまでなったデュエリストと、デュエリストとしてそれほど有名ではないながら実力があるルーキーの二パターンが参加していたことを。それは未来に躍進しようとする次世代を担うデュエリストを探すためだったのデース」
「俺達が次世代を担うデュエリスト……?」
三人して顔を見合わせる。確かに丈たち三人はデュエルアカデミアにおいて頂点に君臨している。
成績だって常に上位三人は動かずこの三人だ。しかしそれはあくまでデュエルアカデミアの中での話。
デュエルアカデミアでの頂点を世界の頂点と混同するほど馬鹿ではない。
「その決断はベリーグッド。大正解でした。私は感じました。封印されている邪神イレイザーが大会でのデュエル中に脈動していた鼓動を。邪神は自分を担うべきデュエリストの存在を感じ喜びを抱いていたのデース。
分かりますか? ユーのことですよ、宍戸ボーイ」
「お、俺ですか!? け、けどペガサス会長。俺は今回の大会では優勝しました。そのことは事実ですしその通りです。ですがこれまでの勝率なら亮の方が俺よりも……」
「単純な勝ち負けだけではないのデース。では丸藤ボーイ、吹雪ボーイ。仮に貴方達二人が邪神イレイザーを手にしたとして、それを十全に扱えると断言できますか?」
「難しいでしょう。俺のデッキはサイバードラゴンを軸とした融合召喚をメインとしたデッキ。三体の生贄を必要とする神のカードを入れるとなればデッキの再構築が必要となる」
「僕も亮と似たようなものですね。僕も丈と同じで最上級モンスターはかなり召喚するデッキですけど、それはレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンを中心とした特殊召喚を多用するデッキ。三体の生贄を用意するのは中々難しいですね」
亮と吹雪が測ったように邪神を満足に扱えないと理由つきで説明した。
これが単なる否定であれば丈もその穴をつけたのだが、なまじ合理的な理由故に否定ができない。
「アンダースタンド? 宍戸ボーイ。二人のデッキとユーのデッキは違いマース。ユーのデッキは素早く生贄を確保し最上級モンスターを次々と召喚することに特化したデッキデース。
邪神の力を最大限発揮するとしたら丸藤ボーイでも吹雪ボーイでもなく、貴方のデッキがイッツァナンバーワンなのデース」
「し、しかし」
「根拠はそれだけではありまセーン。ユーの使う神獣王バルバロス、神禽王アレクトール、この二枚の従属神カードは邪神とセットで活用する事を念頭に私が同時期に開発したカードたちなのデース。実際ユーは三体の生贄で初めてその真価を発揮するバルバロスを難なく使いこなしていました。
デュエリストとカードは惹かれあう。それは先程言った通り。邪神は宍戸丈、貴方を担い手に選んだ。貴方は知らず知らずのうちに、運命に導かれるように邪神を運用するに最も適したデッキを作っていたのデース」
思わず丈はケースに収められた自分のデッキを凝視してしまう。自分が邪神の担い手であるなど信じられたことではないが……自分のデッキなら三体の生贄を必要とする邪神を問題なく扱うことができるだろう。
なにせ丈のデッキは元々最上級モンスターを通常召喚することに特化されているのだから。それこそ運が良ければ一ターンで生贄を確保して邪神を召喚することだって出来る。
「百聞は一見にしかずという諺がこのジャパンにはあるそうですね。それに倣いましょう。宍戸ボーイ、この邪神イレイザーのカードに触れるのデース。そうすればおのずと答えは出るでしょう」
差し出される邪神イレイザー。
自分が邪神を使えるなどは疑問しかない。だがこれ以上の問答よりも触れてみる方が確実だ。覚悟を決めて丈は邪神に触れようとする。
だがそれを邪魔するように突如として部屋の壁が爆破した。
「ホワッツ!? これはなんなのですか!」
ペガサスの声に答えるかのように巨大なバイクが部屋に突入してきた。バイクに乗っているのは大柄な黒いフードを被った男。
フードには千年アイテムと同じ目のマークが描かれている。ネオ・グールズだ。
「ふんっ! ヒャッハー! 邪神は頂いていくぜーッ!」
男は邪神イレイザーのカードを引っ手繰ると、そのままバイクで逃走してしまった。
後には突然のことに反応できない四人が残された。
ある意味、一年ぶりくらいの最新話です。