宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

54 / 200
第54話  ネオ・グールズの牙城

 交通事故の現場を目の当たりにするのは初めての事ではない。これまでの人生でも何度か丈は交通事故を目にすることがあった。ただ自分の乗っていたバイクが事故の原因になるのは初めての経験である。

 道路では67200、実に16度は死ねるオーバーキルを喰らったネオ・グールズのメンバーのバイクが転倒して転がっていた。

 転倒の原因は確実に亮のやらかしたオーバーキルだろう。ソリッドビジョンはどれだけリアリティがあっても所詮はただの立体映像。海馬コーポレーションの技術力で多少の痛みを感じるようにはなっているが、ソリッドビジョンが爆発を起こそうと実際に爆発するわけではない。それこそ闇のゲームでもなければ。

 ただソリッドビジョンの痛みというのはダメージに比例する。67200ものダメージだ。闇のゲームではないとはいえ衝撃は大きいだろう。バイクから転倒するには十分なほどに。

 

「……グールズの人、生きてるかな」

 

 グールズが逃走用に使ったバイクは完全にスクラップとなっていて、事故の規模の派手さを思わせる。

 

「亮。もしもの時は面会には行くから、安心してね。例え君が犯罪者になろうと僕達は友達さ」

 

 ポンと吹雪が亮の肩に手を置く。

 亮はパチパチと煙をあげるバイクを見ながら腕を組み口を開く。

 

「少しやり過ぎただろうか」

 

「大いにやり過ぎだよ!」

 

 義務として丈はツッコミを入れた。最近、丸藤亮という人間がクールなのか天然なのかデュエル脳なのか分からなくなってきた。或いはその全部を内包しているのかもしれない。

 しかしもしグールズが本当に死んでいたらどうすればいいのだろうか。

 無免許運転、暴走運転、ライディングデュエル。実刑になるのはほぼ確実だろう。運転したのもデュエルしたのも亮だが、こういう場合は自分も共犯者ということになるのだろうか。

 もしもの時はペガサス会長に泣きつくしかないかもしれない。

 しかし丈の心配とは裏腹にグールズの男は無事だった。 

 

「やって、くれやがったなテメエ……」

 

 盛大にバイクから転倒しながらもグールズはよろよろと立ちあがった。しかし流石に無傷では済まなかったようでローブのあちこちが破けている。

 そして剥がれたローブの奥にあった素顔はモヒカンという如何にもな世紀末スタイルだった。

 

「お前のバイクはあの様子だ。もう逃げられないぞ。大人しく邪神のカードを返すんだ」

 

 モヒカンには何もツッコまず亮がグールズを説得する。グールズの男は六万オーバーのダメージが効いているのか、多少の脅えをみせたものの、それでも意地なのかニヤリと笑ってみせた。

 

「クックククククッ。邪神を返す、だぁ? 笑わせんじゃねえ! たかがデュエルに勝ったくらいでいい気になってんじゃねえよ!」

 

 そういってモヒカンは懐からあるものを取り出した。

 思わず言葉を失う。グールズの男が取り出した黒いパイナップルのような形状のソレを、丈は何度か映画などで目にしたことがある。

 

「に、逃げるんだ亮! 手榴弾だ!」

 

「へんっ! 遅ぇんだよ!」

 

 モヒカンは信管を抜くと、三人目掛けて手榴弾を放り投げる。四階から着地できるだけの身体能力のある三人だが人間であることには変わりない。

 手榴弾の爆発なんてものを喰らえば体は木端微塵となり死ぬ。

 慌てて逃げようとするが、人間の足と物体を投げる速度では後者の方が上。間に合わない。

 自分は死ぬのだろうか。そんなイメージが過ぎった。

 

「二人はやらせないよ!」

 

「吹雪!?」

 

 しかし手榴弾が爆発する前に吹雪が手榴弾に覆いかぶさった。

 訊いた事がある。手榴弾が爆発する直前、人間が覆いかぶされば爆発の威力を減衰させることができると。だがそれは覆いかぶさった人間に絶対の『死』を約束する悪魔の数学に他ならない。

 

「や、やめろぉぉぉぉぉおぉぉおお!」

 

 こちらを振り返った吹雪が悲しそうに笑う。その笑顔には自分を犠牲にして二人を助けた事の嬉しさが、そして自分一人妹や友人を残して逝ってしまう寂しさがあった。

 手榴弾から離れようとしていた二人は一転して吹雪を連れ戻すために手榴弾に向かっていく。

 けれど無情にも手榴弾は破裂して。

 

「吹雪ぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 天まで震わす轟音と白い爆風が拡散した。

 衝撃は殆ど感じなかった。吹雪が自分達の盾となってくれたのだろう。しかし丈には吹雪に対する感謝など欠片もなかった。どうして一人で勝手に死んでしまったんだという怒りがある。

 こんなことなら三人一緒に手榴弾に吹き飛ばされた方がマシだった。

 

「……馬鹿、野郎。お前には妹がいるだろう。なんで逝ってしまったんだ」

 

 血が滲むほど拳を握りしめながら亮は震える唇で呟く。帝王(カイザー)とまで呼ばれたデュエリストの背中はいつになく小さく頼りないものに見えた。

 だがどれだけ吹雪に語りかけようと、もう彼から言葉が返ってくることはない。彼は死んだのだ。二人を守って。

 宍戸丈の心臓が脈打つ。そう自分も亮もまだ生きていた。この命は吹雪が与えてくれた命も同然である。ならばせめて、

 

「あいつは絶対に捕まえる。お前の為にも。行くぞ亮!」

 

「ああっ!」

 

 吹雪の犠牲を無駄にはしない。意を決して逃げたモヒカンを追おうと足を踏み出す。

 

「ごめんごめん。僕、生きてるよ」

 

「って、吹雪ぃぃぃいいいい!!」

 

 白い煙からむっと姿を現したのは手榴弾に覆いかぶさって二階級特進コースになったはずの吹雪だった。

 爆発で木端微塵どころか服が多少汚れているだけで傷一つなくピンピンしている。

 

「まさか幽霊なのか?」

 

「亮がそんな非科学的なことを言うのは意外だけど、僕はしっかり生きてるよ。ほら、足だってある。あははははははっ。悲劇のプリンスに成り損ねちゃったようだね」

 

「……悲劇のプリンスなんて、吹雪には似合わないよ」

 

 吹雪はお調子者でお気楽で、そして友人思いのデュエリスト。友達を守るために自分は死んでしまうヒーローなどではない。なって欲しくもない。

 

「丈の言う通りだ。お前には悲劇より喜劇の方がお似合いだ。勝手に死のうとなんてするんじゃない。肝が冷える」

 

「ごめん。でも、身体が勝手に動いちゃってね。亮へのリベンジマッチだってしてないし、あすりんを残すわけにもいかないから自分のことだけど本当に生きてて良かったよ。ところで、なんで僕生きてるんだろう?」

 

 そういえばそうだ。吹雪が生きていたというインパクトで忘れていたが、吹雪は手榴弾に覆いかぶさったのだ。

 鋼の肉体をもったサイボーグならまだしも、手榴弾を間近から受けては生きているはずがない。それに幾ら吹雪が覆いかぶさったにしても爆風がまるでなかったのは不自然だ。

 答えは直ぐに出た。

 

「ヒャッハー! まんまと引っ掛かりやがったな! 本物の手榴弾なわけねえだろうが! ありゃ単なる煙幕だよ! バーカバーカ!」

 

 あたふたする三人を馬鹿にしながらモヒカンは逃げていった。

 

「……………」

 

 三人は顔を見合わせ一瞬でアイコンタクトを済ます。

 

「逃がさない!!」

 

 ここまでコケにされて泣き寝入りはできない。全力でモヒカンを追った。

 モヒカンは三人が追ってくるのを確認すると、街角にある高層ビルに逃げ込んだ。

 

「あそこのビルに入ったぞ……!」

 

 丈はここぞとばかりに体力を振り絞って走る。モヒカンが逃げたビルは看板を見る限り警備会社のようだ。

 どういう意図でこのビルに逃げ込んだかは知らないが虎穴に入らずんば虎子を得ずともいう。

 三人は迷わずにビルの中に入った。それに反応してか入口のシャッターが下りた。

 

「閉じ込められた!?」

 

 亮がどんどんとシャッターを殴りつけるが、警備会社のシャッターだけあってびくともしない。かなり頑丈な造りになっているようだ。

 今は平日でまだ夕方だというのにビルの中には人気がまるでない。無言が延々と続く雰囲気は廃墟のそれだ。

 

「見失ったな。モヒカンはどこだ?」

 

 キョロキョロと辺りを見渡すがやはりモヒカンの姿はない。

 このままでは埒が明かないので、これからどうしようか、丈が提案しようとしたその時だった。軽快な音と共にエレベーターが自動で降りてきて開く。

 

「……シャッターが閉まったことといい、このエレベーターといい誘ってるみたいだね」

 

 これまで得た情報から吹雪がそう推理する。

 確かにただ適当なビルに逃げ込んだだけというのなら、ビルの中に誰もいないのは奇妙だし三人が中に侵入した途端、シャッターが下りたことに説明がつかない。

 予めモヒカンはここに逃げ込むつもりだった、と考えるのが妥当だろう。

 

「行こう」

 

 このままここでじっとしている訳にも行かない。最初に亮がエレベーターに足を踏み出す。

 三人がエレベーターに乗り込むと、やはり自動でエレベーターが閉まっていく。そして13階で止まった。このビルは十三階建てなので屋上を抜かせば最上階ということになる。

 エレベーターから降りるとそこにも無言の空間が広がっていた。ここまで静かだと逆に不気味である。

 

「ん? 二人とも、あれ」

 

 ある物を見つけた丈は屋上へ続く階段に走っていった。階段の床に付着しているのは真っ赤な血だった。しかも固まっておらず新しい。

 ビルに逃げ込んだグールズはバイクの転倒のせいで怪我をしていた。とすればあのモヒカンがいるのは、

 

「屋上か。だがロックされているぞ」

 

 亮が屋上に続くドアを引っ張るがシャッターと同じように頑丈な造りになっていてビクともしない。

 思いっきり蹴り破ろうとしても同じだった。丈も試に近くにあった机をぶつけてみたのだが傷一つつかない。

 

「このドアを開けるにはカードキーが必要みたいだね」

 

 ドアの構造を観察していた吹雪がそう断じる。ドアの隣にはカードキーを読み取るための機械があった。

 

「カードキーか? 何処にあるんだそれは」

 

「そこまでは知らないけど、どこかにあるかもしれない。手分けして探そう」

 

 思い立ったが吉日。何も見つからなくても五分後にはここに戻ってきて落ち合おうという約束をしてから、三人は手分けしてカードキーを探して走った。

 このビルは見た目以上に広い。それに内部も複雑な構造をしていて廊下が多くまるでちょっとしたラビリンスだった。

 北の方向に走っていた丈は少しすると開けた場所に到着する。ここが管理人室とかであればカードキーの一つでもあるかもしれない。そういう淡い期待を抱いていたのだが違った。

 

「ここって……」

 

 開けた場所にあった嫌に慣れ親しんだ空間。それもそのはず。ここはデュエルスペースだ。恐らくここは警備員がデュエルの腕を磨くための訓練スペースなのだろう。

 デュエルアカデミアと比べても見劣りしないだけのスペースと設備があった。

 

「待ってましたよ」

 

 そこで一人の男が待っていた。

 赤いシルクハットと緑と薄緑の縞々模様をした仮面。全体的に奇術師を思わせる要望。

 

「宍戸丈ですね。私はパンドラ、ブラック・マジシャン使いのパンドラ。暫しお相手させて頂きますよ」

 

 同時刻。亮と吹雪の二人も其々の敵と相対していた。

 

「フフフ、天上院吹雪だな。お前の相手は私だ――――お前に伝説を倒した男の力というものを披露してやろう」

 

 伝説を打ち破ったと自称するレアハンターは吹雪の前に立ち塞がり、

 

「……デュエル」

 

 意志なき人形として使役された少年は亮の前に立ち塞がった。

 三者三様のデュエルが始まる。




Q,どうして警備会社にデュエルスペースがあるの?
A,デュエルで護衛対象を守るためです。

Q,なんで護衛対象を守るのにデュエルなの?
A,知らん、そんな事は俺の管轄外だ




……というわけで、対戦表としては。

カイザーVS人形
フブキングVSエクゾディア使いのレアハンター
魔王になった主人公VSパンドラ


 この作品、主要キャラはGXですが正直、初代キャラの方が多く出演しているような気がします。
 ああ、原作が遠い……。まだ中学すら卒業していない上に高等部にあがれば我等の藤原のイベントが……。

 ところで藤原といえばTFに藤原雪乃というキャラがいますが、まさか二人は兄妹だったりするのだろうか。もしくは親戚? 生き別れの双子? 謎が尽きませんね。
 


――――たぶんただ苗字が同じなだけでしょうけど。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。