宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第55話  VS レアハンター 前編

 吹雪の前に立っているのはモヒカンと同じようにウジャド眼が描かれたグールズの紫色のローブを着た男だ。

 しかしモヒカンと明らかに異なるのは目の前にいるグールズにはどことなく他者を圧倒するオーラがあることだろう。

 

(いや)

 

 吹雪の視線はレアハンターではなく、レアハンターがデュエルディスクにセットしているデッキに注がれた。

 プレッシャーの出所はレアハンターではない。あのデッキだ。レアハンターのデッキからは途方もないエネルギーを感じる。攻撃力60000オーバーしたキメラテック・オーバー・ドラゴンをも超える無限のエネルギーがあのデッキには存在するのだ。

 

「フフフ、天上院吹雪だな。お前の相手は私だ――――お前に伝説を倒した男の力というものを披露してやろう」

 

 尋常ならざるオーラをもったレアハンターが自尊心に満ちた声で言う。

 レアハンターは吹雪以外の二人にも刺客が差し向けられているような物言いだった。もしかしたら今頃、亮や丈も自分と同じようにグールズのデュエリストと相対しているのかもしれない。

 

「デュエリストの間じゃ悪い意味で伝説のグールズに名前を知られているなんて――――光栄と、言っていいのかな? だけど僕はここで時間をつぶしている余裕はない。単刀直入に聞こう。君は屋上のドアを開くカードキーは持っているのかい?」

 

「カードキー? フフフフフフ。我等がボスがおられるのが屋上であると察したことは誉めてやろう。だが意味のないことだ。お前はここで私に倒されるのだから」

 

「君と僕がデュエルをしなきゃいけない理由はないはずだ」

 

「フフフフフ。私のデュエルディスクが屋上へのドアをロックするキーになっていると聞いても同じ台詞を言えるかな」

 

「なんだって?」

 

「屋上のドアのロックは私達のライフポイントと連動している。お前のお友達のところにも私の仲間が向かっている筈。つまりお前達は私達全員を倒さない限りボスのところへは行けないということだ」

 

 レアハンターのデュエルディスクに4000の数字が浮かび上がる。電源がONになったのだ。

 やはりグールズは亮と丈の二人にも襲撃をかけていたらしい。レアハンターはなにやら自分の仲間が二人を倒すことに疑いなど持っていないようだが、それは吹雪も同じだった。

 相手が嘗て世界を震撼させた秘密結社の構成員だろうとあの二人なら絶対に勝てるだろう。ならば今自分がすべきことは、レアハンターを倒しロックの一つを解除することだ。

 

「分かった。デュエルをしようじゃないか。そして三邪神のカードは返して貰うよ!」

 

 三幻神と対を為す三邪神。そんなものがグールズの手に渡れば、デュエルモンスターズ界は再び暗黒の時代になるだろう。

 一人のデュエリストとして、それはなんとしても阻止しなければならない。

 

「威勢のいいことだ。フフフフフフ、んんっ~ん。確かお前のエースモンスターは真紅眼の黒竜(レッドアイズ)だったか? 懐かしい。実に懐かしい。あれは我等グールズが終焉を迎えたバトルシティトーナメントのことだ。私はお前と同じ真紅眼の黒竜を使うデュエリストと戦ったことがあるぞ」

 

「!」

 

 真紅眼の黒竜は世界に四枚しかないブルーアイズや、世界に三枚しかない開闢の使者とは異なり、数十万の価値はするものの世界に一定の数があるカードだ。 

 故に別に吹雪だけがレッドアイズの使い手というわけでもなく、世界中やプロリーグを見渡してもレッドアイズを愛用するデュエリストというのは何人か存在している。

 しかしバトルシティトーナメントに参加したレッドアイズ使いともなれば思い当たる人間は唯一人。

 

「城之内、克也」

 

 武藤遊戯、海馬瀬人に並び称される伝説のデュエリストにしてキング・オブ・デュエリスト武藤遊戯の最も信頼したという親友(トモ)

 そんな伝説とこのレアハンターは戦ったというのだ。純粋な驚きが吹雪にはある。

 

「だが戦うだけなら、運さえ巡れば誰だって出来る」

 

 最強のデュエリストと戦ったからといって、そのデュエリストまで最強になるわけではない。

 伝説と言われる三人とはいえ同じデュエリストであることに違いはない。戦った経験がある人間というのならそれこそ幾らでもいるだろう。

 だが吹雪の考えをレアハンターは一刀のもとに切り捨てる。

 

「戦っただけ? なにを勘違いしている。この私は城之内克也と戦い勝利した男なのだよ」

 

「そんな、馬鹿な……?」

 

「嘘ではないぞ本当だ。城之内はこの私の前に大したこともできずに叩きのめされた。私の完膚なきまでの圧勝だった。奴のエースであるレッドアイズもアンティルールによって私のものとなった。尤もその後で憎っき武藤遊戯によって奪い返されてしまったがな」

 

 レアハンターの話を嘘ではないとするのならば、この男は明らかな下っ端面に見えて武藤遊戯未満、城之内勝也以上の実力をもつということだ。

 伝説の一角を倒し、伝説の頂点と戦った事のあるデュエリスト。これはかなりの大物だ。

 

「もう一つ冥土の土産に教えよう。当時我が組織のナンバーツーと目されていたリシドという男は城之内に敗北して決勝トーナメントで敗北した。そして嘗てのボス、マリク様は第二位。理解したかな? 城之内に勝った私はリシドよりも格上! 予選敗退した他のグールズなど雑魚! インセクター羽蛾やダイナソー竜崎、エスパーなんとか、カジキマグロも全員私より格下なのだッ!」

 

 両手を広げて堂々と宣言するレアハンター。その声量の大きさに思わず耳を塞ぎたくなった。

 それに後半にいくごとに名前が適当になっている。最後のなんてもはやデュエリストではなく魚の名前になっていた。きっとレアハンターが名前を忘れたのだろう。

 

「どうだ恐れ入ったか? 今なら降伏を許してやろう。大人しくレアハンターを置いて立ち去るというのであれば、懐の広い私はお前を見逃してやろうじゃないか」

 

「冗談言わないでくれ。僕はね、あんな決勝戦を目の前で見せつけられて気持ちが高ぶっていたんだ……」

 

 逆転に次ぐ逆転。壮絶としか言いようがない亮と丈が繰り広げたI2カップ決勝戦。自分がもはや観客席にいるしかない観客であることをあれほど呪った事は事はない。

 自分はベストを尽くしたし、やれるだけをやった。ベストを尽くした果ての勝利と敗北であるのならば後悔などあるはずがない。だが後悔はなくても決勝戦に出れなかった事に対する未練は吹雪の中に残っている。

 

「相手が伝説に打ち勝ったことのあるデュエリストなら望む所だよ。相手にとって不足はない。このまま熱く滾ったマグマのような感情を残しておくと、僕の吹雪って名前が溶けちゃうからね。溶ける前に溶かしてあげるよ! 僕と僕のレッドアイズが!」

 

「フフフフフフ、井の中の蛙大海を知らずだな。いいだろう、お前を倒しお前のレアカードは全て私が頂いていく」

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 

 

吹雪 LP4000 手札5枚

場 無し

 

レアハンター LP4000 手札5枚

場 無し

 

 

 

 真っ直ぐにレアハンターを睨み返すとデッキから初期手札の五枚を引く。

 レアハンターのデッキから漂う異様なオーラは依然として健在だ。勝負を急ぎ過ぎてミスをするのは愚の骨頂だが、短期決戦を挑むのが妥当だろう。

 あのデッキを長く回転させてはいけないと直感が警鐘を鳴らしていた。

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 とはいえ短期決戦とはいっても、この初期手札では先行ワンターンキルは不可能だ。

 このターンでワンターンキルが出来ないのならば、次か次のターンでワンショットキルをするための土台を作る。

 

「モンスターとカードを一枚セット、ターンエンドだ」

 

 最初はこれでいい。リバースしたカードは発動条件はあるものの強力な罠カードだ。

 相手ターンで直ぐに発動しようかとも考えたが今は様子をみるべきだろう。

 

「消極的なターンだな。フフフフフ、私に恐れをなしてモンスターを攻撃表示で召喚することも出来ないのかな。まぁいい。私のターン、ドロー」

 

 不気味に笑いながらレアハンターがカードを引くと、良いカードをドローしたのだろう。口元が釣りあがった。

 

「私は天使の施しを発動、三枚ドローして二枚捨てる。私は千年の盾と千年原人を墓地へ捨てる」

 

 

 

【千年の盾】

地属性 ☆5 戦士族

攻撃力0

守備力3000

古代エジプト王家より伝わるといわれている伝説の盾。

どんなに強い攻撃でも防げるという。

 

 

【千年原人】

地属性 ☆8 獣戦士族

攻撃力2750

守備力2500

どんな時でも力で押し通す、千年アイテムを持つ原始人。

 

 

 

 天使の施しでレアハンターが墓地に捨てたのは共に『千年』という名前をもった通常モンスターだ。

 ただ『千年』というカテゴリーがあるわけではないので、これだけではレアハンターがどういうデッキの使い手なのかを推測することはできない。

 

「更に私は魔法カード、苦渋の選択を発動する」

 

 決勝戦で丈が使用した魔法カードが発動した。

 

 

【苦渋の選択】

通常魔法カード

自分のデッキからカードを5枚選択して相手に見せる。

相手はその中から1枚を選択する。

相手が選択したカード1枚を自分の手札に加え、

残りのカードを墓地へ捨てる。

 

 

「フフフフフ、このカードはデッキより五枚のカードを選択し相手に見せ。相手はその中から一枚選び、残りは墓地に捨てるカード。だが本当に苦渋なのはどちらかな」

 

「くっ……」

 

 このカード、一見すると五枚の中から一枚を選択するのは相手で残りのカードは墓地送りにしなければならない為、大した強さではないカードに見える。

 だがこのカードの真骨頂は『手札に加える』ことよりも『墓地へ送る』というところにあるのだ。

 デュエルモンスターズのカードには一度だけ相手の攻撃を防ぐネクロ・ガードナーを始めとして墓地にあってこそ効果を発揮するカードも多い。

 また墓地からカードを再利用するカードも相当の数がある。墓地に五枚中四枚もの好きなカードを墓地に送るというのは非常に強力なのだ。

 吹雪が『未来融合』のカードを愛用しているのもF・G・Dを召喚する為という以上に墓地にドラゴン族を効率よく送ることが出来るからである。

 しかしこれは好機でもある。

 多少の差はあれ殆どのデュエリストのデッキは40枚だ。40枚中五枚が見る事が出来ればデッキの傾向も大まかに把握することができるだろう。

 

「私が選ぶのはこの五枚だ。さぁ、選べ」

 

「そ、そのカードはっ!」

 

 苦渋の選択に提示された五枚のカードを確認した途端、吹雪はレアハンターのデッキがなんなのかを悟った。

 レアハンターが選んだ五枚、それは幻の召喚神『エクゾディア』の全パーツだったのだ。

 

「成程ね。道理で君のデッキから只ならぬプレッシャーを感じるわけだよ。まさかエクゾディアとはね」

 

 武藤遊戯が召喚するまで誰一人として召喚することが出来なかったという幻のモンスター。

 デュエルモンスターズを知っている人間なら誰でも知っている有名なカードだ。

 

(しかもエクゾディアを敢えて墓地へ送ってきたということは……)

 

 墓地からの回収手段も豊富なのだろう。セットカードを温存していて助かった。

 

「僕は……左腕を選択する」

 

 エクゾディアの両手両足は通常モンスターだ。効果モンスターよりも回収手段は豊富にある。

 故に効果モンスターである封印されしエクゾディアを選ぶのだけは論外だった。左腕を選んだのはなんとなくである。

 

「フフフフフ、困った困った。左腕を手中にしたのはいいが残りの全パーツが墓地へいってしまった。これではエクゾディアを揃えることが出来ない。――――――などとは言わないぞ。

 私は嘗て武藤遊戯に全てのエクゾディアを墓地へ送られて敗北した。その轍は踏まないよう、墓地や除外ゾーンからの回収手段をこのデッキは備えている。そのうちの一枚を見せてやろう」

 

 レアハンターが一枚の魔法カードをデュエルディスクに叩きつけた。

 

「私が発動するのは死者転生! 手札を一枚捨て墓地のモンスターを手札に戻す。私が選択するのは当然エクゾディアだ!」

 

 

 

 

【死者転生】

通常魔法カード

手札を1枚捨て、自分の墓地のモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターを手札に加える。

 

 

【封印されしエクゾディア】

闇属性 ☆3 魔法使い族

攻撃力1000

守備力1000

このカードと「封印されし者の右足」「封印されし者の左足」

「封印されし者の右腕」「封印されし者の左腕」

が手札に全て揃った時、自分はデュエルに勝利する。

 

 

 

 封印されしエクゾディアのカードがレアハンターの手札に加わる。これで残るは三枚のパーツだけだ。

 しかしレアハンターが死者転生を使うことは読んでいた。

 

「今だ。僕はこの瞬間セットしていたリバースカードをオープン! ダスト・シュート!」

 

「な、なにぃ!?」

 

 

 

【ダスト・シュート】

通常罠カード

相手の手札が4枚以上の場合に発動する事ができる。

相手の手札を確認してモンスターカード1枚を選択し、

そのカードを持ち主のデッキに戻す。

 

 

 このカードをターンの始めで使わなくて正解だった。このカードがなければ自分話す術もなく負けていたかもしれない。

 

「ダスト・シュートは相手の手札が四枚以上の時のみ発動できる罠カード。相手の手札を確認してモンスターカードを一枚デッキに戻す。さぁ。手札を見せてもらうよ」

 

「お、おのれ……小癪な真似を」

 

 レアハンターの手札にあるのは左腕と封印されしエクゾディア。残りの二枚はクリッターと補充要因だった。

 

「僕は封印されしエクゾディアを選択、そのカードをデッキに戻す」

 

「おのれ。あと一歩のところで。だがこのままでは済まさない。直ぐにエクゾディアを揃えてみせる」

 

「なら僕は君がエクゾディアを揃える前に倒すよ」

 

 憎々しげに吹雪を一瞥すると『封印されしエクゾディア』をデッキに戻した。

 残る手札は三枚。これからレアハンターのとる行動もなんとなく分かっていた。

 

「私はモンスターをセット、カードをセット。ターン終了だ」




レアハンター「フフフフ、今日の最強カードは封印されしエクゾディア。このカードと左腕、左足、右腕、右足を揃えばその時点で勝利が確定するするぞ」

吹雪「原作遊戯王では遊戯さんが未だ嘗て誰一人として揃えた事のなかったって伝えられるこのカードを始めて召喚して、海馬社長を倒したことで有名だね。あとHA☆GAさんのエクゾディア攻略法=海に捨てるもそこそこ有名だよ」

カイザー「遊戯王最初期からある最も古くから存在する特殊勝利カードだ。現実でもこのカードを使用した図書館エクゾなどのワンキルコンボが生み出されている。もし必須カードを持っているなら一度組んでみるのも面白いぞ。成功率は低いがな」

レアハンター「まてよ。エクゾディアは三千年前にファラオに仕えたという側近中の側近シモン・ムーランが使役したという守護神。ということは現代におけるエクゾディア使いのデュエリストたる私はシモン・ムーランの生まれ変わりだというのかっ!」

丈「なん……だと……?」

レアハンター「なんということだ。まさかこんな衝撃の真実が隠されていてなんて。つまり私を倒した武藤遊戯は三千年前の主っ! なんという悲劇だ!」

吹雪「いや違うからね」




 一度やりたかったネタをやりました。原作が遠いのでせめて今日の最強カードくらいやりました。
 その記念すべき第一回はレアハンターでした。……うーん、配役が微妙です。

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