宍戸丈 LP4000 手札2枚
場 エアーマン、オーシャン、メタモルポット
パンドラ LP900 手札5枚
場 ブラック・マジシャン
「私のターン、ドロー」
パンドラの手札が六枚になる。
丈のフィールドには三体のHEROがいるものの、攻撃力においてパンドラの場にいるブラック・マジシャンに及ばない。更に手札が六枚ともなれば、このターンで仕掛けてくるだろう。
ある種の覚悟を決めて丈は自分の手札を見た。……この局面を乗り越えることが出来るか否か、それが一つの峠となりそうだ。
「私は魔法カード、カップ・オブ・エースを発動します。コイントスを行い表になれば私は二枚ドローし、裏になれば貴方が二枚ドローする……」
「!」
ここにきての手札補強の可能性に丈の目に希望の光が灯る。
確率二分の一での手札消費なしの二枚ドロー。これを獲得できればデュエルを巻き返すことも出来る筈だ。
降ってわいたラッキーチャンス。しかしチャンスはあくまでもチャンス。失敗すれば唯でさえ手札の多く優位な位置にいるパンドラを更に優位にすることとなる。
(待てよ)
そういえばパンドラの中の人は、確か……。そしてカップ・オブ・エースを使った人物というのは、
「普通ならここでコイントスをするところですが、ちょっと変わった趣向を致しましょう。廻れ! 運命!」
パンドラが合図をするとカップ・オブ・エースが鉄の音を奏でて回り始める。もしかしなくてもこれは、正位置か逆位置かを決める運命の回転。
「さぁ。ストップを宣言しなさい。宍戸丈、運命は貴方の決断に委ねられる」
「くっ……。止まれ!」
カップ・オブ・エースの回転が止まる。緑色のカードは逆さま――――ではなく正しく起立している。
丈の中の希望が泡となり消えた。
「出たのは当然! 正位置ィ! 私はデッキから二枚ドロー。更に魔法カード、古のルール! 手札のレベル5以上の通常モンスターを特殊召喚する!」
【古のルール】
通常魔法カード
手札からレベル5以上の通常モンスター1体を特殊召喚する。
年季の入った古文書のようなものが描かれたカードがパンドラの場に現れると、古い風がフィールドに吹きすさぶ。
レベル5以上の通常モンスターで最も攻撃力が高いのはブルーアイズだが世界に四枚しかないカードをパンドラがもっているわけがない。
ブラック・マジシャン使いであるパンドラが呼び出す上級以上の通常モンスターだ。恐らくは考えるまでもないことだが、
「レベル5以上……。まさか三枚目のブラック・マジシャンが」
「ふっ。魔法カード、古のルールによりフィールドは嘗ての掟に支配されている。ここにあるのは現在ではなく過去のルール。手札よりブラック・マジシャンを特殊召喚する!」
デュエルモンスターズでも最上級であり最高峰のレアカードが二枚も並ぶと壮観な光景だった。
二体のブラック・マジシャンは腕を組み悠然と構えている。
「絶望はまだ早い。私のブラック・マジシャンデッキはまだこれからなんですよ。私は二体の最上級魔術師ブラック・マジシャンを生贄に捧げる!」
「上級魔術師二体の生贄だって!?」
最上級魔術師を二体コストにすることで召喚される最上位魔術師。そのカードに丈は心当たりがあった。
パンドラは手札から力強く一枚のカードを抜くとデュエルディスクに叩きつける。
黒い旋風がフィールドに舞い狂った。
「降臨せよ! ブラック・マジシャンがその奥義を極めし到達点! 黒の魔法神官!」
【黒の魔法神官】
闇属性 ☆9 魔法使い族
攻撃力3200
守備力2800
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上のレベル6以上の魔法使い族モンスター2体を
リリースした場合のみ特殊召喚できる。
また、このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
罠カードが発動した時、その罠カードの発動を無効にし破壊できる。
姿恰好はブラック・マジシャンと変わりない。だが違う。外装は同じでも中の総量が桁違いなまでに跳ね上がっている。
これが黒き魔術師が魔道を完全に極めた究極の姿。あらゆる罠を無効にする黒の魔法神官なのだろう。
「私にはまだ通常召喚が残っている。魔道戦士ブレイカーを攻撃表示で召喚! 召喚した際ブレイカーに魔力カウンターが一つのり攻撃力は1900ポイントにアップ。
バトルフェイズ! 魔道戦士ブレイカーでE・HEROオーシャンを攻撃!」
魔道戦士ブレイカーの剣がオーシャンを両断した。残るはE・HEROエアーマンかメタモルポット。
メタモルポットが守備表示でエアーマンが攻撃表示とくらべ狙ってくるのは間違いなくエアーマン。
「そして黒の魔法神官でエアーマンに攻撃! セレスティアル・ブラック・バーニング!」
最上位魔術師による砲撃だ。エアーマンも風を操り申し訳程度の抵抗を試みるものの勝てる道理はなく。
エアーマンは戦闘破壊され、その攻撃力の差分のダメージが丈に降りかかった。
宍戸丈LP4000→2600
「バトルフェイズを終了してのメインフェイズ。シールドクラッシュでメタモルポットを破壊! これで貴方の場はがら空きとなります。カードを一枚伏せターンエンド」
「……っ! 俺のターン。ドロー」
カウンター罠以外のあらゆる罠を完全無効する力をもった黒の魔法神官。しかもその効果はサイコ・ショッカーのようなお互いのプレイヤーが、ではなく相手だけの一方的ときた。
召喚難易度の高さに見合う強力なモンスターだ。だが罠が通用せずとも、攻撃力が3000をオーバーしてようとやりようはある。
亮と戦った時の事を思い出せばいい。亮とのデュエルは攻撃力8000のサイバー・エンド・ドラゴンと5600のサイバー・ツイン・ドラゴンにマジック・キャンセラーが並び、おまけに王宮のお触れが発動中なんていう絶望のどん底のような状況もあったのだ。
それに比べれば全然マシだ。
(墓地にいるカードは十分。これで)
ドローしたミラクル・フュージョン。これさえあればなんとでもなる。
今、丈が使っているこのHEROデッキは大会用に融合デッキの枚数を15枚に抑えていたのでフリーデュエルほどの変幻自在な融合は出来ない。
しかし御守りと隠し味の要素として一枚だけ投入しておいたHEROが役立つ時がきたようだ。
「魔法カード発動、ミラクル・フュージョン! 墓地のモンスターを融合素材として除外し、融合デッキよりE・HEROを融合召喚することができる! 俺は墓地のE・HEROスパークマンと融合素材代用モンスター沼地の魔神王を融合!
融合召喚! 現れろ! E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン!」
融合デッキより白亜のHEROが颯爽と登場し――――
「あっ。奈落の落とし穴発動します」
「……………………………………………」
あっさりとフィールドにぽっかり空いた落とし穴に落ちて行った。
断末魔の叫び声すらなく格好よく登場したはずのHEROが落とし穴に吸い込まれて消えていく。
「……ターンエンド」
「私のターン、魔導戦士ブレイカーで相手プレイヤーを直接攻撃!」
「うぐっ!」
宍戸丈LP2600→700
ここにきて1900ものダメージは痛い。しかしパンドラがモンスターを召喚しなかったこと、それがどうにか薄皮一枚で丈の命運を繋いでくれた。
魔道戦士ブレイカーの次に黒の魔法神官が飛び上がる。止めを刺す気なのだろう。その一挙一足を見咎めながら丈は一枚のカードを抜く。
「ファイナルアタックです。黒の魔法神官の攻撃、セレスティアル・ブラック・バーニング!」
「この瞬間、手札からクリボーのカードを捨てることで戦闘ダメージを0にする!」
【クリボー】
闇属性 ☆1 悪魔族
攻撃力300
守備力200
相手ターンの戦闘ダメージ計算時、このカードを手札から捨てて発動する。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。
手札から飛び出してきたクリボーが魔法神官の攻撃を丈のかわりに受けてくれる。
ワンキル対策として前世の昔から愛用してきたクリボーが今度も助けてくれた。やはりクリボーは頼りになる。
「クリボー? そんな雑魚モンスターで魔法神官の攻撃を防ぐなどと……。どこまで。ターンエンドです……」
「クリボーは雑魚じゃない。俺のターン、ドロー!」
クリボーのお蔭で繋いだライフ。無駄にはしない。
パンドラの場には強力なモンスターがいるがリバースカードはゼロ枚。ここで勝負をかけるしかない。
「魔法カード、平行世界融合!」
【平行世界融合】
通常魔法カード
ゲームから除外されている、融合モンスターカードによって決められた
自分の融合素材モンスターをデッキに戻し、「E・HERO」と名のついた
融合モンスター1体を融合召喚扱いとして融合デッキから特殊召喚する。
このカードを発動するターン、自分はモンスターを特殊召喚する事はできない。
「また新たな融合カード!?」
「HEROを舐めちゃいけない。HEROはピンチになればどこからだって駆けつける。手札だろうと墓地だろうと除外ゾーンだろうと。平行世界融合、このカードは除外ゾーンにおかれた融合素材モンスターをデッキに戻すことで融合召喚ができる。
除外されたE・HEROノヴァマスターと沼地の魔神王をデッキに戻し、召喚しろ! 水のHERO! E・HEROアブソルートZero!」
【E・HEROアブソルートZero】
水属性 ☆8 戦士族
攻撃力2500
守備力2000
「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する
「E・HERO アブソルートZero」以外の
水属性モンスターの数×500ポイントアップする。
このカードがフィールド上から離れた時、
相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。
融合HEROでも最強とまで謳われる水のなをもちしHERO。最強のHEROは伊達ではなく丈のデッキの切り札の一つといっていい。
「そうポンポンと融合召喚を使いこなす手前には感嘆の一つもしましょう。けれどアブソルートZeroの攻撃力では黒の魔法神官には届かない。仮にブレイカーを攻撃したとしても私のライフをゼロにすることはできませんよ」
「それはどうかな。平行世界融合を使ったターン、俺は特殊召喚ができなくなるけれど。通常召喚なら出来る。俺はアブソルートZeroを生贄に偉大魔獣ガーゼットを召喚!」
【偉大魔獣ガーゼット】
闇属性 ☆6 悪魔族
攻撃力0
守備力0
このカードの攻撃力は、生け贄召喚時に生け贄に捧げた
モンスター1体の元々の攻撃力を倍にした数値になる。
腕を組んだ魔獣が丈の前に召喚される。アブソルートZeroほどのHEROを供物として現れただけあり、その威容は上級モンスターでありながら最上位魔術師である黒の魔法神官に劣らないものがあった。
「ガーゼットの攻撃力は生贄に捧げたモンスターの倍となる……。いや、それよりもアブソルートZeroの効果は!」
Zeroの効果に気付いたパンドラの目が見開かれるがもう遅い。
アブソルートZeroが最強と呼ばれる所以となったモンスター効果はZeroがフィールドから離れることをトリガーにして発動する。
「アブソルートZeroのモンスター効果。このカードがフィールドを離れた時、相手のモンスターを全滅させる!」
冷たい吹雪がパンドラの場を吹き荒れ、黒の魔法神官と魔道戦士ブレイカーを氷像に変えた。
氷像は風が少し吹いたかと思うと粉々に砕け散ってしまう。
「バトル! 攻撃力5000のガーゼットでダイレクトアタック!」
「ええぃ。まだですよ! ダイレクトアタックの瞬間、手札よりバトルフェーダーを召喚! バトルフェイズを強制終了させます!」
【バトルフェーダー】
闇属性 ☆1 悪魔族
攻撃力0
守備力0
相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。
このカードを手札から特殊召喚し、バトルフェイズを終了する。
この効果で特殊召喚したこのカードは、
フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。
パンドラの手札から飛び出してきた十字架がバトルを停止させた。
ここにきてのバトルフェーダー。思わず舌打ちしたくなるのを堪える。千載一遇の好機を逃してしまった。
「ターンエンドだ……」
戦闘はまだ終わりはしない。ブラック・マジシャンが三枚墓地におかれて尚も、否、置かれたからこそパンドラには余力が遺されていた。
パンドラ「今日の最強カードは黒の魔法神官! レベル6以上の魔法使い族を二体生贄にすることで特殊召喚できます」
カイザー「召喚条件はやや難しいがそのモンスター効果はサイコ・ショッカーの上位互換ともいえる罠を無効化する効果だ。罠を無効する効果は任意効果のため相手の罠だけを一方的に封じることができるぞ」
パンドラ「魔法族の里と同時に運用すれば相手の罠・魔法の両方を封じることも可能です」
吹雪「ただ誘発即自効果だからカウンター罠には対応してないのがサイコ・ショッカーより劣っているね。カウンター罠には要注意だ」
宍戸丈「…………………俺のクリボーについても紹介を……」
カイザー「なにか言ったか?」
宍戸丈「いや、なんでも」
最近、メッセージや感想などで『丈のデッキレシピを教えて欲しい』『似たようなデッキをssで使いたい』『丈の容姿について知りたい』などというコメントが寄せられています。
なので今後の展開……目安としてはネオ・グールズが終わるかアカデミア中等部を卒業するか原作に突入するかの前で設定集的なものをやるかもしれません。
それと別に丈の使っているのと同じデッキをssで採用するのも、I2カップ的な大会をやるのも、いつかのショタコン出すのも基本的に何でも自由です。そもそもこの作品も二次創作ssですしね。
流石にssの内容を丸写しにして別の場所で無断で掲載する、なんてことは止めて貰いたいですが、それ以外は何をどうしようと構いません。