「「「「デュエル!」」」」
キース LP12000 手札5枚
場 無し
吹雪 LP4000 手札5枚
場 無し
丸藤亮 LP4000 手札5枚
場 無し
宍戸丈 LP4000 手札5枚
場 無し
「んじゃ。最初の取り決め通り……俺の先行だ。ドロー」
一人で三人を相手にしているキースは余裕の表情だ。それは全米でナンバーワンの地位についたという実績に依る自信か、それともネオ・グールズという組織を率いているという自負か。
デュエルモンスターズというカードゲームにおいて優先されるべきはライフポイントよりも手札。三対一である以上、変則デュエルであるが故の制限があるとはいえ丈たちは初期手札十五枚でデュエルを行うことができるようなもの。
対して手札五枚からのスタートであるキースは圧倒的に不利だ。そんなことをキースほどのデュエリストが知らない筈がないだろう。
だがそれを承知で敢えてハンデとして三倍の手札ではなく三倍のライフを要求してきた。
(もしかしたらライフ消費が激しいデッキなのか……?)
心の中で丈はそう予測をたてる。
ライフコストを多用するデッキだと当然ライフは多ければ多い程いい。デッキによってはライフが4000だと心許なくなることもある。
だとすれば三倍のライフを要求したことにも説明がつく。
「俺は魔法カード、封印の黄金櫃を発動するぜ」
【封印の黄金櫃】
通常魔法カード
自分のデッキからカードを1枚選択し、ゲームから除外する。
発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時にそのカードを手札に加える。
千年アイテムの一つ、千年パズルが納められていた箱に酷似した黄金櫃が現れる。
以前はこの中に入れたカードは互いのプレイヤーが使用できなくなるという『禁止令』に似た効果のカードで、三千年前のファラオの魂を冥界へ帰すキーカードにもなった魔法カードであるが、最近効果がエラッタされた。
2ターンのタイムラグがあるものの、デッキの中にあるカードならどんなものでも手札に加えられる為、制限カードを用いるコンボデッキでは必須カードになることも多い。
丈のデッキにも二枚ほど投入されている。
「このカードの効果で俺はデッキより一枚カードを黄金櫃に収める。そして黄金櫃に収めたカードは2ターン後、手札に加えられる。俺が黄金櫃に封印するカードは……これだ! 邪神イレイザーッ!」
「いきなり邪神を!?」
キースがデッキより取り出した邪神を見て亮が叫ぶ。
丈がペガサス会長より渡されるはずだった邪神イレイザーのカードは、丈の手から離れるように黄金櫃の中に封じられた。邪神イレイザーが再び現世に戻るのは2ターン後である。
「ククククッ。これで次の次のスタンバイフェイズ、俺の手札に邪神が加わるわけだ。そして邪神のカードは一枚でゲームを決定させるほどのポテンシャルをもったパワーカード! 出せば最後、テメエ等に抗う術はねえ!
俺は更にグリーン・ガジェットを召喚するぜ! 攻撃表示だ! 更にグリーン・ガジェットのモンスター効果により、俺はデッキからレッド・ガジェットを手札に加えるぜ」
【グリーン・ガジェット】
地属性 ☆4 機械族
攻撃力1400
守備力600
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、
デッキから「レッド・ガジェット」1体を手札に加える事ができる。
緑色の歯車型モンスター、グリーン・ガジェット。その効果から手札消費ゼロでモンスターを召喚できるという強みをもったジャンル。
どれだけ時代が移り変わろうと必ず環境の中堅以上に食い込んでくることからも、手札からモンスターが途切れることがないというのが優秀な要素であることが窺い知れるというものだ。
「ガジェットか。珍しくはないカードだけど、そんなカードを使ってくるなんて」
過去現在に至るまで多くのプロデュエリストのデュエル映像を見てきている吹雪はポツリと呟く。
キースは海馬瀬人や武藤遊戯とは異なり、数多くのデッキを使いこなし場合に応じてデッキを変えるタイプのデュエリストだ。
中でも機械族デッキを多用する傾向があったが、ガジェットシリーズを使う所は一度も見たことがなかった。
けれど吹雪が知るのはバンデット・キースのデッキ。ネオ・グールズ総帥キースのデッキは吹雪はおろか、丈や亮すらも知りえないことだ。
「これは変則マッチ。全員にターンが行渡るまで攻撃はできねえ。……まぁ変則マッチじゃなくても先行1ターン目は攻撃できねえんだがな。俺はカードを一枚セットしてターン終了だ」
キースがエンド宣言すると次にターンが回ってくるのは吹雪。
「いくよ。僕のターンだ! ドロー!」
キースの場にはグリーン・ガジェットが一体だけ。セットカードは一枚。
三邪神がデッキに投入されていることは分かっているが、今の段階ではキースのデッキタイプを読み切るのは不可能だ。
万全を期すならここでセットカードを破壊しておきたい吹雪だが、生憎と吹雪の手札にサイクロンなどの除去カードはない。
「僕は黒竜の雛を攻撃表示で召喚、更に黒竜の雛を墓地へ送って真紅眼の黒竜を攻撃表示で召喚するよ!」
【黒竜の雛】
闇属性 ☆1 ドラゴン族
攻撃力800
守備力500
自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地へ送って発動できる。
手札から「真紅眼の黒竜」1体を特殊召喚する。
【真紅眼の黒竜】
闇属性 ☆7 ドラゴン族
攻撃力2400
守備力2000
真紅の眼を持つ黒竜。怒りの黒き炎はその眼に映る者全てを焼き尽くす。
1ターン目から現れる吹雪のエースモンスター。レッドアイズ。
その姿を視界に収めたキースは苦々しく舌打ちした。
「チッ。レッドアイズか。忌々しいモンスターを出しやがる。天上院吹雪だったか……ムカつく野郎だ」
「……ああ、そうか成程ね」
吹雪は合点がいったように頷く。
ペガサスに負けたキースが参加したデュエリストキングダム。そこでキースを負かしたのが吹雪と同じくレッドアイズをエースモンスターとする城之内克也だ。
キースからしたらペガサスほどではないが因縁のあるカードといえる。
だが理由が分かったからといって容赦する理由はない。否、相手は容赦して勝てるほど甘い敵ではない。少しの油断が敗北に直結する。
「ここは憶さず攻める! 僕は魔法カード、黒炎弾を発動! このターン、レッドアイズの攻撃を封じるかわりにレッドアイズの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」
「くそっ。バーンカードかよ……」
「やれ! 黒炎弾!」
レッドアイズが吐き出した黒い炎がキースのライフを焼いた。
だが吹雪の攻撃はこれだけに留まらない。
「まだまだ! 僕はもう一枚の黒炎弾を発動、レッドアイズの元々の攻撃力2400のダメージを相手に与える!」
「二連続だと!?」
黒炎弾はフィールドにレッドアイズがいることを条件とするバーンカードであるため、バーンカードが軒並み禁止カード指定される環境にあっても無制限。
そして1ターンでの使用制限もない。二発目の黒炎弾はテキスト通りキースのライフを削った。
キースLP12000→7200
「え、えげつない事するなぁ。吹雪」
これには味方である丈も苦笑いを浮かべるしかない。二枚の黒炎弾での合計4800ダメージ。
もしもキースがハンデにライフではなく手札を選択していれば、この時点で敗北が決定していただろう。やはり元全米チャンピオンだけあって先見の明はあるということか。
「……今度お前とデュエルする時はハネワタを入れておかなければな」
亮も腕を組みながら頷く。心なしか眉間に皴がよっていた。
「ハッ。いきなり4800もダメージを与えるたぁな。だがこの程度、屁でもねぇよ。それと天上院吹雪だったな。俺は借りは返すことが信条だ。
よく覚えておくんだな。テメエが刃向ってる相手が誰なのかってことを。さっさとデュエルを進めな」
4800ダメージを受けたキースは僅かながら怒気を込めた目を吹雪へ向ける。それでも野獣の如き闘争心はまるで衰える様子がないのは流石という他ない。
並みのデュエリストならライフが半分以上残っていようと、いきなり4800ものダメージを受ければ心が打ちひしがれるというのに。
「僕は魔法カード、天よりの宝札を発動! 互いのプレイヤーは手札が六枚になるようカードをドローする。これは三対一の変則マッチ。ドローするのは四人全員だ」
「……………」
吹雪は四枚、キースは二枚、そして亮と丈は一枚ドローする。相手にもドローを許してしまったがこちら側は合計六枚のドロー。
手札の上ではやはり圧倒的に吹雪たちが有利だ。
「僕はカードを二枚伏せてターンエンド」
吹雪がターンを終了させると再びのキースのターンとなる。
「俺のターン、ドロー! 俺は打ち出の小槌を発動。任意の枚数手札からデッキに戻しシャッフル。その後、戻した手札と同じ枚数分ドローする。
クククッ。俺が手札に戻すのは四枚。デッキをシャッフルし四枚ドローするぜ。……俺は手札断殺を発動。互いのプレイヤーは手札を二枚墓地へ捨て、二枚ドローする」
キースと同じように三人とも手札のカードを二枚捨てて二枚ドローする。
度重なる手札交換。これだけの手札交換をしたのだ。もしかしなくてもキースの手札には既に、
「ふんっ。いい手札だ……。俺はセットしておいた永続罠、血の代償を発動!」
「血の代償だって!?」
【血の代償】
永続罠カード
500ライフポイントを払う事で、モンスター1体を通常召喚する。
この効果は自分のメインフェイズ時及び
相手のバトルフェイズ時にのみ発動する事ができる。
血の代償とガジェット。この二つが投入されたデッキ。丈には嫌な予感しかしなかった。
そしてもしキースの手札に邪神があるとすれば、恐らくこのターンで。
「血の代償は500ライフを支払うことでモンスターを通常召喚できるカードだ。そして俺のガジェットは召喚すれば新しいガジェットを手札に加えることができる」
そう。ガジェットと血の代償の組み合わせが恐ろしいのは正にこれだ。
血の代償はライフを支払うことにより1ターンで何度でも通常召喚を可能にするカード。しかし普通のデッキだと手札にあるモンスターカードは手札が六枚だったとしても平均三枚。使用する機会は限られたカードだ。
だがガジェットのギミックがあるのならばその限りではない。ガジェットは召喚する度に後続のモンスターをサーチする効果をもっている。血の代償と組み合わせて使用することにより最大でガジェットのみで九連続の通常召喚が可能となるのだ。
「俺はレッド・ガジェットを召喚。そしてレッド・ガジェットの効果でイエロー・ガジェットをサーチ。仕舞いだ。ライフを500支払いイエロー・ガジェットを通常召喚! イエローの効果でグリーンを手札に加えるぜ」
【レッド・ガジェット】
地属性 ☆4 機械族
攻撃力1300
守備力1500
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、
デッキから「イエロー・ガジェット」1体を手札に加える事ができる。
【イエロー・ガジェット】
地属性 ☆4 機械族
攻撃力1200
守備力1200
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、
デッキから「グリーン・ガジェット」1体を手札に加える事ができる。
キースLP7200→6700
場に並ぶ三体のガジェット。これで三体のモンスターがキースのフィールドに揃った。
三幻神と三邪神はその類まれなる強力さから三体の生贄を必要とする超大型モンスター。そして血の代償がある限りキースは何度でも通常召喚を行える。
このことが導き出す答えは一つだ。
「お前達に神を見せてやる。血の代償のコスト500を支払い――――俺はグリーン・ガジェット、レッド・ガジェット、イエロー・ガジェットを生贄に捧げ。降臨しろ破壊の神! 恐怖を奴等に拝ませてやれ! 邪神ドレッド・ルートッ!」
カードが叩きつけられたデュエルディスクがスパークする。魂を凍てつかせる凶つ風が吹き荒れ、天空が割れた。
空に黒い雲がたちこめてゆく。空間が有り余るエネルギーにより歪んでいく。
雷と共に大地に降臨するのは天を突かんばかりの巨体をもった神。力強く筋肉隆々とした緑色の四肢。悪魔すら霞む凶悪性をもった面貌。
それは正に邪神と称するに相応強い神の姿であった。
「クククッ。フハハハハハハハハハハハハハハハハッ! これが邪神だ、これがドレッド・ルートだ! さぁて。テメエ等がどれだけこっから足掻いてくれるか見せてもらおうじゃねえか。俺はターンエンドだぜ」
【THE DEVILS DREAD-ROOT】
DIVINE ☆10 GOD
ATK/4000
DEF/4000
Fear dominates the whole field.
Both attack and defense points of all the monsters will halve.