お願い、死なないでカイザー! あんたが今ここで倒れたら、吹雪さんや丈との約束はどうなっちゃうの?
ライフはまだ残ってる。これを耐えれば、キースに勝てるんだから!
今回、「カイザー死す」。デュエルスタンバイ!
キース LP3200 手札2枚
場 THE DEVILS DREAD-ROOT、THE DEVILS ERASER、THE DEVILS AVATAR
罠 血の代償
吹雪 LP0 脱落
伏せ 二枚
丸藤亮 LP4000 手札2枚
場 なし
伏せ なし
宍戸丈 LP4000 手札3枚
場 ディウストークン
目の前で起きてしまった現実が信じられなかった。
デュエルアカデミア中等部に入ってからずっと一緒に日々を過ごしてきた友人。テスト勉強を一緒にしたことがあった。カードをトレードしたこともあった。毎日のようにデュエルをして互いの腕を高めあった。
そんな掛け替えのない友人だった吹雪が……まるでそこにいたことが幻想だったかのように忽然と消えてしまったのだ。
亮は自分の手が震えていることにも気づかないまま、恐る恐るキースを見る。
「クククククッ……」
キースは両手を広げて嗤っていた。三体の邪神を従えたキースはまるで古の暴君のように悠然と残された二人を見下ろしながら、紛れもない勝利者の笑みを浮かべてみせた。
その笑みに隠れているのは嘲笑か呆れか。
「なにを、した」
邪悪なオーラを纏ったキースに白いエネルギーのようなものが取り込まれていく。雪解けの水を思わせる白い
白い魔力が一体誰のものなのか、直感的に亮は理解した。
「吹雪に、なにをしたぁぁぁぁぁぁッ!」
「ククッハーハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
狂ったように天に向かって笑うだけでキースは答えようとはしない。ただ最高の娯楽を見つけた死神のように天上院吹雪という男の消滅を喜んでいた。
「……闇の、ゲーム」
唇を震わせながら丈は呟いた。現実を受け入れつつも、本心では受け入れたくない。丈の表情がそう言っていた。
それでもこれが紛れもない現実だと認識することができたのは闇のゲームがどういうものかを知っていたからだろう。
ピタリとキースが動きを止める。ぎぎっと首を人形のように丈たちの方へ向けた。
「そうさ」
漸く笑うことを止めたキースがポツリと言う。
「……三千年前、古代エジプトにおいて名も無きファラオと神官共の間で執り行われていた闇のゲーム。そン時はこんなカードじゃなく石版に封じられた魔物や自分の精霊を召喚して戦りあってたんだけどな。
闇のゲームはテメエ等が遊びでやってるようなデュエルとは一味違うぜぇ。なんてったって死ねば即DEAD ENDなんだからなァ。お友達が逝っちまった感想はどうだい? 自分じゃなくて良かったか、それとも自分も死ぬことになるのが恐いか? クククッ」
「ふざけるな! 吹雪を……吹雪を返せ!」
「友達を返して欲しけりゃオレ様に勝つんだな。天上院吹雪の
つまりこのデュエルでオレ様を殺せば、オレ様は死に取り込まれていたお友達は助かるってわけだ。まぁそれはオレ様の場にいる三体の邪神を倒せればの話だがねぇ」
「三体の、邪神……!」
吹雪を取り戻さなければならない。そう分かっているのに改めて三体の邪神を前にすると膝を降りそうになる。
消滅する直前、吹雪は自分には邪神を倒す術がないから後を託すと言った。吹雪は強かな男だ。ふざけているように見えて決して無駄なことはしない。その吹雪が後を託すといった以上、亮……もしくは丈には邪神を倒す術があるということなのだ。
けれど亮には三体並んだ邪神を倒す方法など皆目検討もつかない。
「さて。オレ様にはまだ邪神アバターの攻撃が残っている。丸藤亮だったか。確かお前には手札誘発があるんだったっけな」
「……俺は速攻のかかしを墓地へ送る事でバトルフェイズを終了させる」
【速攻のかかし】
地属性 ☆1 機械族
攻撃力0
守備力0
相手モンスターの直接攻撃宣言時、このカードを手札から捨てて発動する。
その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。
バトルフェイズを終了させる効果は邪神でも無力化はできない。
この効果を吹雪への直接攻撃の段階で発動できていれば、吹雪は負けることはなかっただろうに。どうして勝負を放棄するようなことをしたのか。
「これでまたこのターンは生き長らえたってわけか。オレ様はこれでターンエンド」
吹雪が脱落した為、次にターンが回ってくるのは亮だ。
だが自分のターンになったというのに亮はカードをドローすることが出来ないでいた。
「おい、オレ様はエンド宣言をしたぜ。それともあれか? オレ様お仲間の死にビビっちまったかな……だったらデッキの上に手を置いてサレンダーしな。そうすれば苦しみもなにもない闇の世界へ旅立てるぜぇ~。苦しみもなくな」
いつもならそんな挑発に狼狽えることなどなかった。ただ今回ばかりはそうもいかない。
(どんなに無敵にみえるコンボや、どれほどの厚いロックでも必ず弱点はある。カードを信じ、相手をリスペクトし、勝負を諦めなければ突破口は見つかる。俺は今までそう思ってきた。だが)
果たして邪神を倒す方法などあるのか。あれは完全に無敵そのものではないか。
その時、亮の肩に手が置かれる。丈は邪神のプレッシャーで肩で息をしながらも、寸でのところで闘志を失わないでいた。
「デュエルは、まだ終わってない。……兎に角、戦うしかないんだ。……そうしないと吹雪を取り返す事も出来ない。俺達も……死ぬ事になる」
「そうだな」
丈の言う通りだ。迷うことすら亮には許されない。
闇のゲームに負ければ死ぬ。それは吹雪だけではない。このデュエルに参加している自分達もまた吹雪と同じ条件に身を置いているのだ。
ならば戦うしかない。全てを取戻し、全てを守るためにも。
(吹雪……お前は直ぐにでも俺へターンへ回す為に敢えて邪神の攻撃を受けた。俺が知らないだけで俺のデッキには邪神を倒す為のカードがあるのか。それに吹雪が遺した二枚のリバースカード。
お前の意志は無駄にはしない。俺のデッキよ……もしもお前達もまた俺を仲間と思い、吹雪を友と思ってくれるのなら……頼む、応えてくれ!)
デッキトップに手を掛ける。
「っ! 俺のターン、ドロー!」
ドローしたカードは……駄目だ。キーカードの一つには違いないかもしれないが、これだけで邪神を倒すことはできない。
引いたカードが駄目ならば、残る頼みの綱は最初からあったもう一枚だけだ。
「魔法カード、強欲で謙虚な壺を発動。デッキからカードを三枚めくり、その中から一枚を選び手札に加える。その後、残りのカードをデッキに戻す。もっともこのカードを使用したターン、俺は特殊召喚は出来ないがな」
【強欲で謙虚な壺】
通常魔法カード
自分のデッキの上からカードを3枚めくり、
その中から1枚を選んで手札に加え、
その後残りのカードをデッキに戻す。
「強欲で謙虚な壺」は1ターンに1枚しか発動できず、
このカードを発動するターン自分はモンスターを特殊召喚できない。
めくった一枚目のカードはサイバー・ドラゴン・ツヴァイ。このカードでは駄目だ。手札に加えたとしても壁モンスターにしかならない。
二枚目のカードは次元幽閉。炸裂装甲の上位互換ともいうべきカードであるが邪神の前には無力だ。
三枚目のカードは流転の宝札。強欲な壺の下位互換たるドローソースだ。
「俺は流転の宝札をサーチする。二枚のカードをデッキに加えシャッフルし、流転の宝札を発動! デッキよりカードを二枚ドローする!」
【流転の宝札】
通常魔法カード
デッキからカードを2枚ドローする。
ターン終了時にカードを1枚墓地へ送る。
送らない場合3000ポイントのダメージを受ける。
(そうか……。だから吹雪、お前は)
カードを二枚ドローした瞬間、亮には分かってしまった。三体の邪神を倒す唯一の方法が。どうして吹雪が一刻も早く自分にターンを回そうとしたのかを。
この方法なら確かに邪神を倒せるだろう。これは推測だが吹雪の手札にはあの時点であのモンスターを召喚する術がなかった。速攻のかかしをあの時点で使っていれば吹雪は助かるが、それは結果的に亮の命数を縮めることになる。
だからこそ――――いや、それすら虚飾。吹雪という男のことを、亮は良く知っているつもりだ。吹雪は優しい男だ。きっとただ亮と丈を守るために自分を犠牲にする選択をとったのだろう。
吹雪ならキーカードがなくとも例のモンスターを次の1ターンで召喚できたかもしれないというのに。
(俺はお前の意志を継ぐと『覚悟』した。ならば吹雪よ、俺もまたその『覚悟』に殉じよう。俺は罰当たりな男だ。お前の意志に直ぐに答えてやることはできない。それでもお前から託されたバトンは繋ぐぞ)
恐怖はなかった。例えこれから自分が光りの入らぬ闇の世界にいくのだとしても、必ず傍らにたつ友が自分を救い出してくれる。
だから怖れる必要など、どこにもないのだ。安心して後を任せればいい。
「俺はカードを三枚セットする、ターンエンドだ!」
「三枚だって……!?」
丈が驚きの声をあげる。流転の宝札のデメリットはターン終了時にカードを捨てなければ3000のダメージを受けること。
亮が伏せた三枚のカードは亮の全手札。よってデメリットを受けることは確定的となった。
「強いカードには代償がつきものだ。俺は3000ポイントのダメージを受ける。――――ぐっ!」
丸藤亮LP4000→1000
全身から力を抜ける。これで残りライフは1000。闇のゲーム故、全身をむしばむ苦痛があったがドレッド・ルートの一撃に比べればどうということはない。
吹けば飛ぶライフとなったが、どうでもいいことだ。三邪神の前では4000だろうと1000だろうと同じことである。
それに亮はもう直ぐ一度死を迎えることになるだろう。
「壁モンスターを召喚しねえ……か。なんだ、もう覚悟を決めたってことか?」
「好きに解釈すればいい。お前のターンだ、早くしろ」
「いい覚悟だ。それに免じて、お仲間と同じ方法であの世へ送ってやるよ。オレ様のターン! バトルだ。邪神ドレッド・ルートの攻撃!」
「亮!」
丈が叫ぶが、亮はなにもしない。攻撃を防ぐ術がないわけではないが、このカードはここで使うべきものではないだろう。
「……任せたぞ」
最後にそう言い残し亮は甘んじてドレッド・ルートの攻撃を受けた。
4000ポイントのダメージが亮の命を消し飛ばす。痛みはあったが、亮は意地で笑いすら浮かべて見せた。
丈が駆け寄り、倒れる亮の体を受け止めるのと体が消滅するのは同時だった。
「……そんな、亮まで」
丈の腕に残ったのは、ほんの僅かな感触だけ。吹雪に続いて丸藤亮という掛け替えのない友人がこの世から消え去ってしまった。
サイバー・ドラゴンと同じ白銀の魔力がキースの下へ流れていく。
「―――――クッ」
ドクンッと心臓の鼓動が鳴り響く。まるでドラゴンの臓腑が震えた様な巨音だった。
キースが全身に纏っていた黒いオーラが白銀の魔力を取り込んだことで一層強さを増していく。命を容易く消し飛ばす悪しき魂の脈動が地面を震わせた。
「ヒャーハハハハハハッハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
堰を切ったような狂笑。黒いオーラが霧のように周囲に充満する。黒い霧に触れると想像を絶するほどの悪意と殺意とが丈の体に流れ込んできた。
やがて黒い霧がキースの前に集まりだし、一つの人型を作り上げだした。
「クッハハハハハハ」
体が出来上がるにつれて、その笑い声も小さくなっていく。
先ず最初に見えたのは色素というものを全て排除してしまったかのような病的なまでの白。触れればそれだけで汚れて壊れてしまいそうなほど脆いのに、どれだけ傷つけても壊れない強靭さを持ち合わせているようにも見える――――二つの矛盾した印象を抱かせる肌。
次にこの世全てへの憎悪に染まった悪魔の如き眼光。そして鋭利な刃物を思わせる白髪。
その男は悪の権化だった。纏う服装はラフなシャツに水色の上着を羽織っただけという簡単なものなのに、それに身を包む男が凡百の衣装を悪漢の着る仕事着にかえてしまっている。
男は悪そのものだった。恐らく彼はこの世を呪う為だけに今という時間を生きているのだろう。場に並ぶ三体の邪神よりも黒い悪。彼は悪というものを担う邪神そのものだった。
そして彼は――――蘇った。蘇ってしまった。死んだはずだったのに、この世にいていいはずがないのに。
「いつだったかな、オレ様がある男に言った事がある。『オレは必ず蘇り……貴様を殺す。オレは元々闇そのものなんだからよ』って」
男が地面に足をつけると、足音が鳴る。
それが絶望だった。足音が鳴るということは、その男には肉体が出来上がりつつあるという証左だからだ。
「王様よぉ。テメエはオレ様と闇の大神官を消滅させてミレニアム・バトルに決着をつけたつもりだったろうが……少しツメが甘かったな。お高く留まってたテメエと違ってオレ様は泥を舐めることには慣れてんだよ」
もっと早くに疑問にもつべきだったのだ。
キースはそもそもどうやってペガサスが千年眼の所有者であることを知ったというのか。ペガサスが千年アイテムの担い手だったことは本当に一部の者しか知らぬことだというのに。
丈にはそこに至るまでの道程を想像することしか出来ない。ただ恐らくキースは『彼』と出会い、彼より聞いたのだ。
名も無きファラオと千年アイテムのことを。
「地獄から蘇ったぜ、王様」
三千年前ファラオと戦いを繰り広げた
カイザー「今日の最強カードは速攻のかかし。このカードを手札から捨てることにより直接攻撃を防ぎ、バトルフェイズを終了させることができるぞ」
吹雪「ところで僕は前回死にました」
カイザー「俺は今回死にました」
キース「なんか精神乗っ取られました」
バクラ「まさにDEATH☆GAME!」
宍戸丈「大丈夫。ドラゴンボールで生き返らせればいい」
バクラ「ンなもんねぇよ!」